Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報 > 感染対策ガイドライン > CDC ガイドライン > 感染部位別対策 > 手術部位感染予防のためのガイドライン(1999)
Overseas
Guideline
CDC ガイドライン
1999/11/20

手術部位感染予防のためのガイドライン(1999)

CDC: Guideline for the Prevention of Surgical Site Infection, 1999. Infect Cont Hosp Epidemiol 1999;20:247-278.
http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/guidelines/SSI.pdf
小林寛伊、大久保憲:手術部位感染防止ガイドライン、1999、II.手術部位感染防止に関する勧告.日本手術医学会誌 1999;20(2):209-213.
<注釈>

本ガイドラインは1985年の手術創感染防止ガイドラインに代わるもので、入浴脱毛などの術前処置・手術野消毒・術前手洗い・抗菌薬予防的投与・手袋手術衣などの保護具・手術室空調・環境整備・器具滅菌・術式・術後創ケア・サーベーランスなどについて勧告しています。

手術部位感染(SSI: Surgical Site Infection)サーベーランスの重要性が述べられており、「全国院内感染サーベーランスシステム」(NNIS: National Nosocominal Infections Surveylance system)の方式で行うことを勧告しています。また米国における外来患者手術増加に伴い外来患者におけるSSIサーベーランスの重要性が増したと指摘しています。

本ガイドラインの第1部、「概論」 の内、術前生体消毒に関連する部分の全訳を以下に掲載します。


術前全身シャワー消毒

術前の消毒薬を用いたシャワーや入浴は皮膚の微生物コロニー数を減少させる。術前に2回消毒薬を用いたシャワー浴を受けた700人以上の患者を対象とした研究によると、クロルヘキシジンは9分の1(2.8×100→0.3×100)、ポビドンヨードまたはトリクロカルバンを含有した石けんはそれぞれ1.3 分の1と1.9分の1にコロニー数を減少させた。その他の研究もこれらと同様の結果を示している。クロルヘキシジン含有製品の最大の抗微生物効果を発揮させるためには、数回使用する必要があり、従って繰り返しシャワーに用いることが通常望ましい。なお、術前のシャワー浴が皮膚の微生物コロニー数を減少させることは確かだが、それが手術部位感染率を減少させるということが明白に示されている訳ではない。

術前の除毛

手術前夜の手術部位の術前剃毛は、脱毛剤を使用した場合や、除毛しなかった場合に較べ、かなり高い手術部位感染リスクと関連する。ある研究では、手術部位感染率はカミソリで剃毛した患者で5.6%、脱毛剤で脱毛したまたは除毛しなかった患者で0.6%であった。剃毛に関連する手術部位感染リスクの増加は、皮膚の微細な傷が後に細菌増殖の巣となることによるものと考えられている。手術直前の剃毛は、術前24時間以内の場合と比べ手術部位感染率の減少と関連する。(それぞれ3.1%、7.1%)術前24時間以上に剃毛した場合では手術部位感染率が20%を越えた。手術直前にクリッピングすることは手術前夜に剃毛またはクリッピングした場合より手術部位感染リスクが低くなることに関連している。(手術部位感染率は直前で1.8%、前夜で4.0%)脱毛剤を使うことは剃毛やクリッピングより手術部位感染リスクが低いことと関連するが、脱毛剤は過敏症を引き起こすことがある。ほかの研究においては、いかなる方法による術前の除毛も手術部位感染率が増加することに関連しており、除毛するべきでないと示唆されている。

手術室での患者皮膚の前処置

数種類の消毒薬が切開部位の皮膚の術前前処置に利用できる。ヨードホール(ポビドンヨードなど)、アルコール含有製品、クロルヘキシジンは最も一般的に使われている薬剤である。これらの術前皮膚消毒薬の手術部位感染リスクに対する効果を、充分に管理され、かつ消毒方法に特定した方法によって適切に比較評価した研究は未だない。

アルコールはFDAにより以下の有効成分のどれかひとつを含有するものとして定義されている。エタノール60~95vol%水溶液イソプロパノール 50.3~91.3vol%水溶液アルコールはたやすく手に入り、安価で、そして現在でも最も有効で即効的な皮膚消毒薬である。70~92%水溶液は細菌、真菌、ウイルスに対して殺菌力をもつが、芽胞は耐性を持つ場合がある。アルコールを手術室で使用する上では、可燃性が欠点となりえる。

クロルヘキシジンとヨードホールは共に広い抗微生物スペクトルをもつ。この二つの消毒薬を術前の手洗いに用いる場合、クロルヘキシジンはポビドンヨードよりも皮膚の細菌を減少させ、単回使用後の残存効果も優れているとする比較研究がある。また、クロルヘキシジンは血液または血清タンパクによって不活化されにくいが、ヨードホールは血液や血清タンパクによって不活化されやすい。ヨードホールは皮膚上に存在する間だけ静菌的な作用を発揮する。

患者の皮膚の前処置をはじめる前に、皮膚から汚れ(ほこり、土、その他の汚れ)を取り除くべきである。患者の皮膚は切開予定部位から始まる同心円状に消毒薬を適用することによって前処置する。前処置する広さは、切開部を広げたり、新しい切開部やドレイン部位を作ることが必要な場合を考えて、十分に広くしておかなければならない。

皮膚前処置の適用法は、皮膚の状態(やけど等)や、手術部位(顔等)によって変更が必要な場合がある。術前の皮膚前処置の手順を変更する場合としては以下の報告がある。(1)皮膚前処置消毒薬を適用後、皮膚から消毒薬を除去、または、拭き取る場合(2)消毒薬を含有する粘着ドレープを使用する場合(3)上述の皮膚前処置手順と異なり、ただ単に消毒薬を皮膚に塗る場合(4)“清潔(clean)”(“無菌(sterile)”に対する意)手術部位前処置キットを使用する場合。これらの変更した方法はいずれも、より優れた方法としてここに示されたのではない。

術前の手・前腕の消毒

手術チームの構成員で無菌の術野、無菌の器具、術野に使用される材料に直接接触する者はすべて、無菌のガウンや手袋をつける直前に、スクラブ(または手術用スクラブ)として知られている以前からの方法で、手と前腕を洗う。理想的には、このスクラブに使用する最適な消毒薬は、広い抗菌スペクトルをもち、即効性で、持続効果があるべきである。

この用途のため合衆国で販売されている消毒薬はアルコール、クロルヘキシジン、ヨウ素・ヨードホール、パラクロロメタキシレノール、またはトリクロサンを含んでいる。アルコールはヨーロッパ諸国で術前手洗いの“定番(gold standard)”だと考えられている。アルコール含有剤はヨーロッパよりもアメリカで使用頻度が低い。多分それは可燃性とヒフ刺激に対する配慮によるものである。ポビドンヨードとクロルヘキシジンが合衆国のほとんどの手術チームで現在選択されている。しかしながら、7.5%ポビドンヨードまたは4%クロルヘキシジンをクロルヘキシジンアルコール(0.5%クロルヘキシジン70%イソプロパノール溶液)と比べると、クロルヘキシジンアルコールの方が残存抗微生物効果が高いことが知られている。

すべての状況において理想的な消毒薬はない。殺菌効果以外の面において、繰り返しつかった後に手術室のメンバーに受け入れられるものであるかどうかということも大切な要素である。残念ながら、手術用消毒薬を評価した多くの研究は、手指の微生物コロニー数を測定することのみに焦点を合わせている。消毒薬の選択によって手術部位感染のリスク防止にどのような効果が出るか評価した臨床試験は未だひとつもない。

消毒薬の選択以外にも術前スクラブの有効性に影響を与える要因がある。手洗いテクニック、手洗い時間、手の状態、または手の乾燥や手袋の仕方などが例として挙げられる。最近の研究では少なくとも2分間の手洗いで従前の10分間の手洗いと同程度、手の細菌コロニー数を減らす効果があることが示唆されたが、最適なスクラブ時間は判明していない。一日の最初のスクラブは(通常ブラシを用いた)爪の下までの徹底的な洗浄を伴わなければならない。このような洗浄がその後のスクラブにおいても必要であるかどうかは明白でない。手術スクラブを行ったあと両手を上方に体から離して(肘を曲げた状態で)保持し、水が指先から肘に向けて流れるようにしなければならない。無菌のガウンと手袋をつける前に、手と前腕を乾かす時に、無菌タオルを用いなければならない。

付け爪をつけていた手術チームメンバーにおいては適切な手洗いスクラブをした後でも手の細菌や真菌の保菌数が増加していたかもしれないと知られている。手のグラム陰性菌の保菌数は付け爪をつけていない人よりつけている人のほうが多いことが示されている。循環器外科の患者においてセラチアによる手術部位感染の集団発生が起きた例においては、付け爪をつけた外科看護婦が関連していることが判明している。爪の長さと手術部位感染リスクとの関連は知られていないが、付け爪であれ本物であれ長い爪は手術用手袋を破いてしまうことに関連するかもしれない。手術チームメンバーがマニキュアやアクセサリーをつけたりすることと手術部位感染リスクとの関連については、未だ適切な研究がされていない。

Yoshida Pharmaceutical Co., Ltd. 2002.05.30

関連サイト