Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報 > 感染対策学術情報 > 感染対策情報レター(Y’s Letter) > 2002 > バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)について
Y's Letter
感染対策情報レター
2002/09/02

バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)について


Download
(120kb)

Y’s Letter No.6
2002.09.02

国内においてバンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci: VRE)が1996年に分離されて以来、散発的にVRE感染が報告されています。VREの病院感染により患者の死亡した可能性がまだ明確に否定されていない事例も報じられており、現在注目すべき病院感染起因菌であると思われます。以下、VREとVREに対する感染予防策について述べます。

1)VRE

腸球菌はヒトや動物の腸管などに常在している細菌であり、バンコマイシンに耐性を示すVREも含め、個々の健常人である保菌者に対して特に問題となる細菌ではありません。しかし、重症な基礎疾患を有する症例、免疫不全を有する症例、胸腹部などの外科手術後の症例、カテーテルを留置している症例などにおいては、尿路感染、手術部位感染、血流感染などを起因する危険性があり、腹膜炎、心内膜炎、髄膜炎、敗血症など重大な感染症に発展して死因となることもあります。VREはバンコマイシンのみならず、同じグリコペプチド系抗菌薬であるテイコプラニンや、その他各種の抗菌薬にも耐性を示す場合が多いため、病院感染対策上の重大な細菌のひとつと言えます1)2)

耐性遺伝子vanAを持つVREはバンコマイシンとテイコプラニンに対して高度な耐性(バンコマイシンMIC 64~1000以上μg/mL、テイコプラニンMIC 16~512μg/mL)を示すため特に注意が必要です。vanBを持つVREはある程度バンコマイシンに耐性を示し、テイコプラニンにはほとんど耐性を示しません(バンコマイシンMIC 4~1000以上μg/mL、テイコプラニンMIC 0.5~32以上μg/mL)。腸球菌の一部は本来的にvanCを持ちバンコマイシンに多少低感受性示します(バンコマイシンMIC 2~32μg/mL、テイコプラニンMIC 0.5~1μg/mL)1)。一般にvanAを持つVREはEnterococcus faecalisよりもEnterococcus faeciumにおいて高い頻度で検出されます。

vanA型のVREが初めて臨床分離されたのはフランス3)と英国4)においてですが、1997年の欧州内調査によると欧州では臨床分離株においてEnterococcus faecalisの0.06%、Enterococcus faeciumの3.80%がVREであったと報告されています5)。欧州ではバンコマイシンに化学構造が類似しているアボパルシンを鶏などの家畜飼料に広く添加していた時期があるため、家畜の腸管内でバンコマイシンに耐性を得た腸球菌が選択的に増加し、それが人の生活圏に入り込んで市井に拡散し、さらにその一部が病院内に伝播したと推測されています6)

一方、米国ではVREが1989年以降1990年代にかけて病院内で急速に拡散し病院感染上の重大な問題となりました1)2)。米国ではMRSAなどブドウ球菌感染症の治療や予防的投与にバンコマイシンが繁用されていたと同時に、Clostridium difficileによる偽膜性大腸炎の経口薬としてもバンコマイシンが繁用されていました。1995-1998年における病院血流感染の米国内調査によるとEnterococcus faecalisの3%、Enterococcus faeciumの50%がVREであったと報告されています7)。米国では家畜にアボパルシンが使用された経緯はなく、市井におけるVREの拡散は認められていません8)

日本においては1996年にvanBを持つEnterococcus gallinarum9)vanAを持つEnterococcus faeciumが臨床分離されました10)。その後も散発的にVREの臨床分離が報告され、VREによる病院内の集団感染11)なども発生していますが、その頻度は欧米に比較して低いレベルに留まっています12)。日本においてバンコマイシンは1980年代にクロストリジウム・ディフィシル偽膜性大腸炎などの経口薬として認可されましたが、1991年にMRSA感染症に有効な注射薬として認可されるまで、米国ほどには繁用されていなかったと思われます。その後も米国における教訓を基に比較的慎重な投与が行われてきたと思われますが、国内においてVREやその他のバンコマイシン耐性菌が病院内に拡散する危険性を考慮して、VREに対する伝播予防策やバンコマイシンの適正使用が国内でも望まれています13)。日本においてもアボパルシンが家畜に使用された時期があり、また外国産食肉の流通もあり、患者のみならず市井の鶏肉14)や健常人の糞便15)などからVREの検出が報告されています。しかし欧州におけるほどの蔓延は見られていません。

なおアボパルシンの家畜への使用は日本において1997年に正式に禁止されており、欧州でも1997年にEC加盟国で禁止が合意されています。その他報道によるとタイなどの国々でも既に禁止されています。米国、カナダではもともと使用が許可されていません8)。ドイツにおいては、アボパルシンの使用禁止に伴い、鶏肉中のVRE検体の陽性率は1994年の100%から1997年の25%に、地域住民の糞便検査による保菌者率は1994年の12%から1997年の3%に減少したと報告されています6)。食肉にVREが存在しても通常の十分な加熱調理により死滅すると思われます。また、VREの付着した生肉や間接的に汚染された飲食物を摂取しても健常人においてはただちに健康上の問題が発生するとは思われません。

2) VRE病院感染の予防

VREによる病院感染としてICUなどにおける集団発生が数多く報告されています16)17)。病院内におけるVREの伝播予防策はMRSAと同様、標準予防策とそれに加えてVRE保菌患者・感染症例に行う接触予防策です。接触予防策においては、患者とその排菌による汚染が疑われる周辺に接触する場合に手袋を着用し、処置後手袋をはずして手洗いを行います。患者に失禁などがある場合や濃密に接触する場合には処置時にガウンを着用します。患者に使用するノンクリティカル器具はなるべく専用とし他の患者に使用する場合には消毒を行います。VREは乾燥環境表面で比較的長く生存するため、患者周辺の頻繁に接触する環境表面の日常的な清拭清掃も重要で、必要に応じて消毒薬を用いて清拭清掃します。また排菌の状況により個室隔離または集団隔離することも考慮します18)19)20)

CDCの「バンコマイシン耐性菌の拡散防止のためのガイドライン」2)は、VREの検出頻度に応じたVRE伝播予防策を示し、すべての病院においてVRE検出時には接触予防策を行うこと、VREの検出が多発しているかVREの院内伝播が継続している病院においては、ICUなどVRE伝播リスクの高い病棟に対策の重点を置くこと、VRE症例担当者の専任制を考慮すること、関連する医療従事者におけるVRE保菌調査、環境清掃の徹底など厳重な体制を敷くことを勧告しています。日本においてはまだVREの検出がまれですが、むしろその段階でVREの拡散を封じ込めるべく、病院においてVREが検出された場合には通常のMRSA対策よりも厳重な対策を講じることが適切と思われます。

腸球菌の臨床分離株が熱と消毒薬に対して標準株よりも比較的抵抗性を持つ場合も報告されていますが21)、VREとその他の腸球菌臨床分離株を比較して差があるわけではなく21)22)23)24)、通常ノンクリティカル表面に用いる消毒薬である塩化ベンザルコニウムや塩酸アルキルジアミノエチルグリシンなどの低水準消毒薬やアルコール、次亜塩素酸ナトリウムなどや熱水消毒が有効です。ただし、主に生体に用いる消毒薬であるグルコン酸クロルヘキシジンとポビドンヨードは腸球菌に対して、前述の消毒薬より長い接触時間が必要であることを示唆する報告もあります24)25)

VREが問題となる場合においても、通常と同様、手洗いは速乾性消毒薬(アルコールを含有)を繁用することが良いと思われます26)。ただし目に見える汚れのある場合には、流水と石けんによる手洗い、または流水と消毒薬含有スクラブによる手洗いを入念に行います。場合によりこれらの流水による手洗いの後に速乾性消毒薬を適用することも方法のひとつと思われます。

<参考>

  1. Murray BE: Vancomycin-Resistant Enterococcal Infections. N Engl J Med 2000;342:710-721.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=10706902&dopt=Abstract
  2. 佐竹幸子, 源河いくみ訳.バンコマイシン耐性菌の伝播防止のためのCDCガイドライン.メディカ出版,大阪,1997.
    http://www.yoshida-pharm.com/library/cdc/guideline/vre.html
  3. Leclercq R, Derlot E, Duval J, et al: Plasmid-mediated resistance to vancomycin and teicoplanin in Enterococcus faecium. N Engl J Med 1988; 319:157-161.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=2968517&dopt=Abstract
  4. Uttley AH, Collins CH, Naidoo J, George RC: Vancomycin-resistant enterococci. Lancet 1988;1:57-58.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=2891921&dopt=Abstract
  5. Schouten MA, Voss A, Hoogkamp-Korstanje JA: Antimicrobial susceptibility patterns of enterococci causing infections in Europe. The European VRE Study Group. Antimicrob Agents Chemother 1999;43:2542-2546.
    http://aac.asm.org/cgi/reprint/43/10/2542.pdf
  6. Wegener HC, et al: Use of Antimicrobial Growth Promoters in Food Animals and Enterococcus faecium Resistance to Therapeutic Antimicrobial Drugs in Europe. Emerging Infectious Diseases 1999;5:329-335.
    http://www.cdc.gov/ncidod/EID/vol5no3/pdf/wegener.pdf
  7. Edmond MB, et al: Nosocomial bloodstream infections in United States hospitals: a three-year analysis. Clin Infect Dis 1999;29:239-244.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=10476719&dopt=Abstract
  8. McDonald LC, et al: Vancomycin-Resistant Enterococci Outside the Health-Care Setting: Prevalence, Sources, and Public Health Implications. Emerging Infectious Diseases 1997;3:311-317.
    ftp://ftp.cdc.gov/pub/EID/vol3no3/adobe/mcdonald.pdf
  9. Ishii Y, Ohno A, Kashitani S, et al: Identification of VanB-type vancomycin resistance in Enterococcus gallinarum from japan. J Infect Chemother 1996;2:102-105
  10. Fujita N, Yoshimura M, Komori T, et al: First report of the isolation of high-level vancomycin-resistant Enterococcus faecium from a patient in Japan. Antimicrob Agents Chemother 1998;42:2150.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=9722470&dopt=Abstract
  11. 小栗豊子、三澤成毅、中村文子ほか:東日本における患者糞便内のバンコマイシン耐性Enterococcus (VRE)の検出状況 45施設の成績.感染症学雑誌2001;75:541-550.
  12. Oana K, Kawakami Y, Ohnishi M, et al: Molecular and Epidemiological Study of the First Outbreak of vanB Type Vancomycin-Resistant Enterococcus faecalis in Japan. Japanese Journal of Infectious Diseases 2001;54:17-22.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=11326124&dopt=Abstract
  13. 厚生科学特別研究事業 バンコマイシン耐性腸球菌等対策に関する研究班. 薬剤耐性菌対策に関する専門家会議報告書 平成9年3月.1997.
  14. 厚生省生活衛生局乳肉衛生課.鶏肉より分離されたバンコマイシン耐性腸球菌について(事務連絡).平成10年7月3日.1998.
    http://www.jfha.or.jp/tsuchi/990402-2.html
  15. 科学技術庁:平成11年度科学技術振興調整費「院内感染の防止に関する緊急研究」の研究結果について 平成12年8月30日報道発表.2000.
    http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/12/08/000851.htm
  16. Handwerger S, Raucher B, Altarac D, et al: Nosocomial outbreak due to Enterococcus faecium highly resistant to vancomycin, penicillin, and gentamicin. Clin Infect Dis 1993;16:750-755.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=8329505&dopt=Abstract
  17. Falk PS, Winnike J, Woodmansee C, et al: Outbreak of vancomycin-resistant enterococci in a burn unit. Infect Control Hosp Epidemiol 2000; 21:575-582.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=11001260&dopt=Abstract
  18. 小林寛伊,吉倉 廣,荒川宜親編集.エビデンスに基づいた感染制御.メヂカルフレンド社,東京,2002.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline/evidence.html
  19. 厚生省保健医療局結核感染症課監修,小林寛伊編集.消毒と滅菌のガイドライン.へるす出版,東京,1999.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline/syoguide.html
  20. 大久保憲監修.消毒薬テキスト.吉田製薬株式会社
    III-2-1)-(3)ノンクリティカル器具
    III-2-2)物品
    III-2-2)環境
    IV-2-1)-(2)その他のグラム陽性菌
  21. Bradley CR, Fraise AP: Heat and chemical resistance of enterococci. J Hosp Infect 1996;34:191-196.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=8923273&dopt=Abstract
  22. Anderson RL, Carr JH, Bond WW, Favero MS: Susceptibility of vancomycin-resistant enterococci to environmental disinfectants. Infect Control Hosp Epidemiol 1997;18:195-199.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=9090548&dopt=Abstract
  23. Suller MTE, Russell AD: Antibiotic and biocide resistance in methicillin-resistant Staphylococcus aureus and vancomycin-resistant enterococcus. J Hosp Infect 1999;43:281-291.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=10658804&dopt=Abstract
  24. 梶浦工, 和田英己, 高橋敦子他:臨床分離腸球菌に対する消毒薬の効果.日本防菌防黴学会第29回年次大会要旨集 2002:119.
    文献のご請求はこちらまで
  25. G. Kampf, M. Hofer, C. Wendt: Efficacy of hand disinfectants against vancomycin-resistant enterococci in vitro. J Hosp Infect 1999;42:143-150.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=10389064&dopt=Abstract
  26. Wade JJ, Desai N, Casewell MW: Hygienic hand disinfection for the removal of epidemic vancomycin-resistant Enterococcus faecium and gentamicin-resistant Enterobacter cloacae. J Hosp Infect 1991;18:211-218.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=1680903&dopt=Abstract
2002.09.02 revised 2002.09.16 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト