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Y's Letter
感染対策情報レター
2002/09/24

レジオネラについて


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‘s Letter No.7
2002.09.24

Legionella pneumophilaなどのレジオネラ属による感染は多くの場合無症侯性ですが、しばしば健常人において、特に高齢者において肺炎、ポンティアック熱(風邪様症状)などのレジオネラ症を起因し、時に死因ともなります。レジオネラは水に生息する藻類、アメーバなどの細胞内に寄生するグラム陰性菌で、これらの水飛沫に含まれるレジオネラを呼吸器に吸入(inhale)するか吸引(aspirate)することにより接種されます1)。近年日本でも循環式家庭風呂2)や温泉浴場3)での感染や病院での集団感染などが問題となっています

1) レジオネラ症の伝播経路と発生頻度

1976年の米国で、7月1日から8月18日までにフィラデルフィアのホテルで行われた4つの在郷軍人会に参加した人々において当時未知の微生物による肺炎の大規模な集団発生(282人、内29人死亡)があり社会的にも広く注目されましたが4)5)、1979年になってその感染原因細菌はLegionella pneumophilaと命名されました6)7)。遡及的な調査により、1940年代には既にレジオネラが分離されており、1965年には病院における集団感染の原因となっていたことが判明しています8)。レジオネラは世界中の自然界に広く存在しますが、それらが直接感染を起因することはほとんど無いと言われています。レジオネラは25~42℃、特に35℃付近の温度条件下において増殖するため9)、主にビルディングなど大きな人工施設の上水供給設備(水道水を施設内の水道栓などへ分配・供給する配管や貯留槽)における微温水中で増殖し、配管内のバイオフィルム中にも生息します。レジオネラを数多く含むそれらの水が空調用冷却塔(クーリングタワー)や渦流・気泡浴槽(ジャグージー)などにおいて飛沫となり、ヒトの呼吸器に吸入されてレジオネラが感染性を発揮することが多いため、現代的な人工物に関連した病原微生物であると言えます。また、汚染された飲料水や浴用水を誤って呼吸器に吸引することによる感染も重要であると言われています10)

米国におけるCDCへの報告制度によって集計されるレジオネラ症例数は年間300~500例に過ぎない一方、米国内で発生しているレジオネラ症は年間8,000~18,000例と推測されています11)。米国におけるこの統計上の齟齬の背景には、(1) 症状からレジオネラ症と診断することは困難であり、喀痰培養検査または尿中抗原検査などによって初めて診断が可能となるが、経験的に選択される抗菌薬療法がレジオネラに有効な場合もあり、診断されないまま治癒する場合のあること、(2) 集団発生により表面化して調査・報告される症例数は全体の一部に過ぎず、総症例数の大部分は散発的に発生し報告されない場合が多いこと、(3) レジオネラ症は訴訟に発展しやすいこと、などがあると考えられています。従ってレジオネラ症は一般に認識されているよりも普遍的な感染症として捉えることが妥当と思われます1)

2) レジオネラによる病院感染の予防

レジオネラは新鮮水環境の40%から80%において検出されるとも言われ、そのような環境に生活または従業している人々の多くは抗体を獲得してまったく無症候性に感染するため1)、上水から少数のレジオネラが検出されることは一般的に許容されています12)。しかし、病院など感受性の高い人々が入院する医療機関、老人ホームなど高齢者の居住する施設、ホテルなど旅行者を受け入れる施設、温泉旅館や健康施設などのクーリングタワー、シャワー、入浴設備、特に渦流・気泡浴槽(ジャグージー)を常時稼動または展示している施設などにおいては、レジオネラを念頭に置いた日常的な給水・空調管理が重要と思われます。レジオネラ症のリスク因子には高齢の他、喫煙、男性、肺疾患、悪性血液疾患、腎不全、肺癌、免疫不全、糖尿病などがあり13)、これらハイリスク患者を収容する医療機関における給水・空調管理は特に重要であると言えます。

レジオネラを念頭に置いた給水・空調管理の方法については、問題が生じた際の上水の温度管理、上水の塩素その他による殺菌処理14)、空調用冷却塔の保守管理などがありますが、バイオフィルム内のレジオネラに対する殺菌処理には困難が伴い、またクーリングタワーは新設時でも感染源となる場合があり15)、常にレジオネラを検出しないレベルに管理することは容易では無いと思われます。米国の暖房・冷蔵・空調エンジニアリング学会(ASHRAE)16)、英国の政府当局17)、日本の公的な参考指針12)は上水をレジオネラが増殖しない温度に配管の末端まで管理すること、例えば20℃以下または50℃以上(温水貯留は60℃以上)に保つことを勧告していますが、温水供給においてこのような殺菌的レベルの温度設定を行う場合18)、利用者の熱傷事故のリスクを伴うため適切な混合栓の設置が必要となります。定期的な上水培養検査の必要性や頻度については議論があり、米国では医療機関毎に患者のリスク要因や給水設備・殺菌処理方式などを勘案して判断するとされています1)。日本における参考指針は12)、病院以外の様々な施設も含め、施設毎に伝播リスクを点数化する基準を示し、点数に応じた頻度で定期的な検査を行う方式を示していますが、それに従うとほとんどの病院において年に1~3回以上の上水培養検査を行うことになると思われます。

病院感染としてのレジオネラ症が発見された場合には直ちに感染源の調査を行い必要な対策を講じます。特に、易感染患者に使用する上水に汚染が無いか注意を払います。なお、造血幹細胞移植患者など極めて易感染状態にある患者には、飲料水やうがい水として日常的に滅菌水を供することも勧告されています19)

レジオネラで汚染された上水を使用した呼吸器系治療機器やネブライザーを介したと思われるレジオネラの伝播も報告されています20)21)22)。医療機関では塩素処理かつ温度管理された上水であっても、緑膿菌、非定型抗酸菌、レジオネラなどを含む場合があることを考慮して処置に使用する水を選択する必要があります。通常、呼吸器系装置の加湿水には原則として滅菌精製水を用い、かつ頻繁に交換することが必要です。またこれらの洗浄におけるすすぎ水にもなるべく滅菌精製水を用い、上水ですすぐ場合にはアルコールなどでリンスし、強制的な乾燥を行います23)。病院内でレジオネラ症が発生した場合には、これらの日常的に必要とされる予防策が確実に実施されているかを再調査することも重要です。レジオネラ症のヒトからヒトへ感染は報告されておらず、感染症例については通常の標準予防策を行うことで十分と思われます24)

湿潤な器具・環境に消毒薬を用いる場合には、熱水、次亜塩素酸ナトリウム、アルコールなどを通常選択しますが、レジオネラはこれらの消毒法に対して感受性があると報告されています18)。レジオネラは乾燥環境では生存しないため9)、乾燥表面を経由した伝播はほとんど問題となりませんが、感染症例の気道分泌物などが付着した器具や手指は、その用途と場合に応じた標準的な方法を用いて洗浄・消毒します。

以上のように、レジオネラによる病院内での集団感染を予防するためには、レジオネラを念頭に置いた給水管理などを日常的に行うことが必要です。残念なことに、見逃されがちな病院感染としてのレジオネラ症の早期診断や予防に努力した医療機関が評価を受けるどころか、かえって怠慢による不祥事の事例として報道に取り上げられたことがあり、この点がレジオネラ対策を病院経営上のますます複雑な問題としている側面もあります10)。病院感染を減少させるための努力が、客観的な観点から社会的に評価されるようになることも望まれます。

<参考>

  1. Fields BS, Benson RF, Besser RE: Legionella and Legionnaires’ disease: 25 years of investigation. Clin Microbiol Rev 2002;15:506-526.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12097254&dopt=Abstract
  2. 李娜,青山透,堀弘,他:24時間循環風呂のレジオネラ汚染とその感染防止対策.感染症学雑誌 1997;71:763-769.
  3. 塩田量子,武下公子,山本公,他:温泉浴槽内溺水後の肺炎患者から検出されたLegionella pneumophila SG3について.感染症学雑誌 1995;69:1356-1364.
  4. Fraser DW, Tsai TR, Orenstein W, Parkin WE, Beecham HJ, Sharrar RG, Harris J, Mallison GF, Martin SM, McDade JE, Shepard CC, Brachman PS: Legionnaires’ disease: description of an epidemic of pneumonia. N Engl J Med 1977;297:1189-1197.
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  5. Finegold SM, Meyer RD. Lesionnaires’ disease. In: Remington J, Swartz MN Eds. Current clinical topics in infectious diseases. New York: McGraw-Hill Book 1980;208-239.
  6. Brenner DJ, Steigerwalt AG, McDade JE: Classification of the Legionnaires’ disease bacterium: Legionella pneumophila, genus novum, species nova, of the family Legionellaceae, familia nova. Ann Intern Med 1979;90:656-658.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=434652&dopt=Abstract
  7. Brenner DJ. Classification of Legionallae. In: Thornsberry C, et al: Eds. Legionella. Proceedings of the 2nd International Symposium. Washington DC: ASM 1984; 55-60.
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  9. Katz SM, Hammel JM: The effect of drying, heat, and pH on the survival of Legionella pneumophila. Ann Clin Lab Sci 1987;17:150-156.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=3606021&dopt=Abstract
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    http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1111/h1126-2_13.html
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  23. 大久保憲監修.消毒薬テキスト.吉田製薬株式会社
    III-2-1)-(2) セミクリティカル器具
    IV-2-2) グラム陰性菌
  24. 向野賢治訳, 小林寛伊監訳.病院における隔離予防策のためのCDC最新ガイドライン.メディカ出版,東京,1996.
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2002.09.24 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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