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Y’s English
感染管理担当者のための英文読解ガイド
Article 3

Guideline for Hand Hygiene in Health-Care Settings
MMWR October 25, 2002 / Vol. 51 / No. RR-16, extract*
医療現場における手指衛生のためのガイドライン
MMWR、2002年10月25日発行51巻RR-16号、抜粋**

英文

1. Indications for handwashing and hand antisepsis
 
A. When hands are visibly dirty or contaminated with proteinaceous material or are visibly soiled with blood or other body fluids, wash hands with either a nonantimicrobial soap and water or an antimicrobial soap and water.
 
B. If hands are not visibly soiled, use an alcohol-based hand rub for routinely decontaminating hands in all other clinical situations described in items 1C–J. Alternatively, wash hands with an antimicrobial soap and water in all clinical situations described in items 1C–J.
 
C. Decontaminate hands before having direct contact with patients.

邦訳と解説

この英文は米国CDCの手指衛生ガイドラインから、勧告の冒頭部分(P32)を抜粋したものです。

Sentence 1
1. Indications for handwashing and hand antisepsis
A. When hands are visibly dirty or contaminated with proteinaceous material or are visibly soiled with blood or other body fluids, wash hands with either a nonantimicrobial soap and water or an antimicrobial soap and water.
 
1.手洗いと手指消毒のための指示事項
A.手指が目に見えて汚れている、または蛋白質性物質で汚染されている場合、または血液やその他の体液で目に見えて汚れている場合には、非抗菌性石けんと水、または抗菌性石けんと水で手を洗う 。

handwashing:手洗い

hand antisepsis:手指消毒

(non-)antimicrobial soap:(非)抗菌性石けん

Article2で触れたようにantimicrobial soapはもっぱら消毒薬配合スクラブの ことを指します。non-antimicrobial soapはもっぱら普通の石けんのことを指します

ところで手洗いと手指消毒の区別というのはガイドラインや文献により様々です。このガイドラインでは流水を用いる手洗いをhandwashing、消毒薬配合スクラブを用いる手洗いまたは速乾性手指消毒薬の適用をhand antisepsisと定義しています。流水と非抗菌性石けんによる十分な手洗いをhand antisepsisに含める場合や、速乾性手指消毒薬の適用をhandwashingに含める場合もありますので、それぞれのガイドラインや文献における定義に注意が必要です。

Sentence 2
B. If hands are not visibly soiled, use an alcohol-based hand rub for routinely decontaminating hands in all other clinical situations described in items 1C–J.
 
B.手が目に見えて汚れていない場合には、1C~J項に述べられたすべての臨床場面での日常的な手指消毒に、速乾性手指消毒薬を用いる。

alcohol-based hand rub:速乾性手指消毒薬

decontaminate:清浄化する

このガイドラインではdecontaminate handをhand antisepsisとほぼ同一の意味に定義していますので、手指消毒と訳しました。decontaminateは器具や環境の清浄化という意味で用いられることも多く、その場合には、血液などによる汚染を物理的に除去すると共に、熱や消毒薬により血中ウイルスなどの感染性をほとんど消滅させることを指します。

Sentence 3
Alternatively, wash hands with an antimicrobial soap and water in all clinical situations described in items 1C–J.
 
その代わりに、1C~J項に記述されたすべての臨床場面において、抗菌性石けんを用いて手洗いを行っても良い。
# 文法アドバイス
さて、Sentence 2とSentence 3において少しわかりにくい部分があります。Sentence 2の中のotherは何を意味するのでしょうか?Sentence 3にはotherがありません。
 
このotherはvisibly soiledの内容を受け、目に見える汚染があるとき以外の場合、すなわち、目に見える汚染のない場合にのみ速乾性手指消毒薬を用いるという点を強調するための表現です。抗菌性石けんによって手洗いを行う場合には、目に見える汚染があってもそれで良いため、Sentence 3にはotherがありません。
 
alternativelyという語は「代替法として」という意味です。ケースBの場合に第一法でも第二法でも良いという意味であり、ケースBの場合は第一法だが、それ以外の場合は第二法であるという意味ではありません。このことから、otherが1C~J項以外という意味ではないことが解ります。また仮にそういう意味であればother than those described in 1C-Jなどと表現するはずです。
Sentence 4
C. Decontaminate hands before having direct contact with patients.
 
C.患者に直接接触する前に手指消毒する。

この部分はC~Jの8項目における最初の項目です。D~J項については、紹介記事と原文を参照下さい。

この部分について、ガイドライン草案*と正式版の間に大きな違いがあります。草案では以下のように記述されていました。

“Decontaminate hands before caring for patients with severe neutropenia or other forms of severe immune suppression.”

「 重篤な好中球減少症、またはその他の重篤な免疫抑制状態にある患者のためのケアを行う前に手指消毒する」

* Boyce JM, et al: Draft Guideline for Hand Hygiene in Healthcare Settings. 2001.

☆ステップアップのためのヒント☆
すべての患者に接触する前に手指消毒すると定めるのか、極めて易感染状態にある患者に接触する前に手指消毒すると定めるのかは、臨床現場に対して大きな影響を与える事項と思われます。草案から正式版が作成される経緯においてどのような議論があったのか興味深いところですが、ガイドライン前半の解説にはこの点についての背景が説明されていません。
 
このC項勧告において引用された文献はふたつしかなく、その題名を見ると、ひとつは新生児におけるブドウ球菌伝播に関する1962年の文献であり、もうひとつは産褥熱の予防に関する19世紀の古典的文献です。つまり、何か新しい知見があって草案に変更が加えられたのではなく、 また慢性疾患病棟での具体的な知見を基に制定された項目では無いことがわかります。
 
一般に集中治療室、新生児室、移植病棟などではすべての患者に接触する前に手指消毒することが必須であると広く認識されています。 急性疾患病棟において接触伝播による病院感染が蔓延しているような場合、つまり残念ながら多くの場合には、すべての患者に接触する前に手指消毒することが適切と思われます。しかし、例えばリハビリテーション病棟ですべての患者に接触する前に手指消毒が必要と規定することはあまり現実的とは思われません。このガイドライ ンもそのような意味でこの勧告を行っているのではないと思われます。
 
このように、ガイドライン勧告が引用している文献の範囲や内容を調べることは、その勧告の範囲や背景を知るための方法となります。公的なガイドラインを参考に各病院でマニュアルを作成する際には、ガイドラインの文面のみでなくその背景を考えることが重要と思われます。

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