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Y's Letter
感染対策情報レター
2003/03/05

バイオテロリズムに対する病院感染対策(追補)


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Y’s Letter No.15
2003.03.05

Y’s Letter No.1314に引き続きバイオテロリズムへの備えという観点から、注目されているウイルス性出血熱と野兎病に対する病院感染対策について述べます。これらの診断と治療などについては、他書を参照下さい1)2)

Viral hemorrhagic fever(ウイルス性出血熱)の一部

1. Ebola virus(エボラウイルス)

エボラ出血熱の原因であるエボラウイルスはフィロウイルス科に属するRNA型ウイルスで、自然宿主である動物などは判明していません。1976年スーダン、ザイールでの発生以降、コートジボアール、ガボン、南アフリカ、ウガンダなどを含めて10回以上、それぞれ1名~400名以上の症例の発生・集団発生が報告されています。2003年2月25日現在、コンゴでは77名の死亡を含む95例(うち確定診断5例)の集団発生が調査されています3)。エボラ出血熱はインフルエンザ様症状、発熱、頭痛、筋肉痛、腹痛、下痢を伴い、吐血、消化器出血に至り、死亡率は50~90%に及びます。感染したヒトまたはチンパンジーの血液・体液などに接触することによりヒトへ伝播しますが、飛沫感染の可能性もあります。ただし空気感染の可能性は否定されています4)

2. Marburg disease virus(マールブルグウイルス)

マールブルグ病の原因であるマールブルグウイルスは、フィロウイルス科に属するRNA型ウイルスで、自然宿主である動物などは判明していません。1967年ウガンダからのアフリカミドリザルの腎培養を介して西ドイツとユーゴスラビアで31名の集団発生が起こり、その後ジンバブエ、ケニアでサルとの接触がない散発例がありました。症状はエボラ熱とほぼ同様で、死亡率は23~50%以上に及びます。ヒトからヒトへの感染は血液によると言われています4)

3. Crimian Congo hemorrhagic fever virus(クリミア・コンゴ出血熱ウイルス)

クリミア・コンゴ出血熱の原因であるクリミア・コンゴ出血熱ウイルスは、ブニヤウイルス科に属するRNA型ウイルスです。1944~45年旧ソ連のクリミア地方で集団発生があり、それは1956年コンゴで分離されたウイルスと同一と判明しました。ウイルスはアフリカ、中近東、中央アジア、南アジア、東欧、中国に、ヤギ・ヒツジなどを自然宿主としマダニをヒトへのベクターとして分布しています。症状はエボラ熱とほぼ同様で発熱、出血傾向を伴い、また黄疸を呈し、死亡率は10~50%に及びます。ヒトからヒトへの感染は血液によると言われています4)。なお、同じブニヤウイルス科に属するウイルスによる出血熱としてHantavirusによる感染症も問題となっています1)5)

4. Lassa virus(ラッサウイルス)

ラッサ熱の原因であるラッサウイルスは、アレナウイルス科に属するRNA型ウイルスです。1969年にナイジェリアで発生し、その後西アフリカ一帯に広がるチチネズミを自然宿主とし、その尿・唾液を介してヒトに伝播する風土病と判明しました。ラッサウイルス感染は不顕性感染の場合も多く、発症すると発熱、関節痛、咽頭痛、咳、嘔吐、下痢などの症状をもたらし、浮腫、胸膜炎、腹水もみられ、重症化すると呼吸困難、脳症、粘膜出血にいたりますが、死亡率は15%前後とも言われています。ヒトからヒトへの感染は血液、分泌物、排泄物、感染組織に直接濃厚に接触することによると言われ、空気感染はなく、通常の接触防護でも伝播を防げると言われています4)。なお、アルゼンチン(Junin virus)、ボリビア(Machupo virus)、ベネズエラ(Guanarito virus)、ブラジル(Sabia virus)など南米では、同じアレナウイルス科に属する各ウイルスによる出血熱が問題となっています6)

5. ウイルス性出血熱の病院感染対策

これらのウイルス性出血熱は、感染症例の血液の誤刺、感染症例の血液・尿・糞便・吐物・分泌物などへの接触、感染症例との濃厚接触などにより伝播すると言われ、感染症例には手袋、マスク、ガウンなどのバリアプリコーションを含めた厳密な接触予防策を行い、咳嗽などがあれば飛沫予防策を行います。また、感染症例に使用した器具のみならず物品や室内も消毒を行います。感染症例に使用した材料、感染症例の血液、分泌物、排泄物なども消毒または焼却した上で廃棄します7)8)9)10)11)。詳しくは文献11)を参照ください。

これらのウイルスはすべてエンベロープを有するウイルスであり、消毒薬に対してあまり強い抵抗性を示すとは推測されません。しかし、それぞれのウイルスの消毒薬感受性について多くの知見が存在するわけでなく、また致死率の高い感染症であるため、ノンクリティカル表面の消毒が必要な場合には500~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノール、煮沸15~20分、93℃10分ウォッシャーディスインフェンクター、80℃10分熱水洗濯などを適用します11)。詳しくは文献11)を参照ください。

出血熱ウイルスの消毒例
滅菌、焼却
2~3.5%グルタラール、0.55%フタラール、500~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウムに30分、0.3%過酢酸に10分浸漬
500ppm次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノールによる清拭
93℃10分ウォッシャーディスインフェンクター
90℃1分フラッシングディスインフェクター
80℃10分熱水洗濯
血液自体の消毒には5,000ppm次亜塩素酸ナトリウム

エボラ出血熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱は、感染予防法上の1類感染症であり、迅速な保健所への報告と特定ないし第一種感染症指定医療機関への転院が必要です。1999年4月の感染症予防法施行以降、これらの報告はまだありませんが、日本人が海外で罹患した事例は過去に存在します。

Tularemia(野兎病)

野兎病の原因であるFrancisella tularensis(野兎病菌)はフランシセラ属のグラム陰性球桿菌で、1907年に報告されました12)。野兎病菌はネズミ、リス、ウサギなどを自然宿主とし、ベクターとなる節足動物の刺咬、感染動物の組織・体液への接触、汚染された水・食物・土壌への接触または経口摂取、エアロゾルの吸入によりヒトへ伝播します13)。北米、欧州、アジアに広く分布しており、日本でも発生しています2)。悪寒、発熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐などの一般症状のほかに、感染経路・部位により局所壊死、リンパ節腫脹などを呈し、また肺炎症状、チフス様症状、敗血症症状を呈することもあります。致死率は米国において2%以下と言われていますが、抗菌薬療法が行われなかった過去においては、北米にのみ自然存在する病原性の高いA型亜種(biovar tularensis)による感染例、肺炎症状例において高い致死率が報告されています。なお、欧州、日本を含むアジア、北米に自然存在するB型亜種(biovar palaearctica)の病原性はA型亜種よりも低いとされています。

ヒトからヒトへの感染は報告されておらず、感染症例には標準予防策を適用します8)13)

野兎病菌の消毒に5,000ppm次亜塩素酸ナトリウムが有効との記述がありますが13)、野兎病菌は芽胞を形成しない栄養型細菌であり、消毒薬抵抗性は特に報告されていないため、消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノール、1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム、80℃10分による消毒を行えば十分と思われます14)。また、野兎病菌について特に接触予防策を行う必要は無いので、他の目的で塩化ベンザルコニウムなどの低水準消毒薬をノンクリティカル表面に使用している場合でも、消毒薬の変更を行う必要は特に無いと思われます

野兎病菌の消毒例
1,000ppm次亜塩素酸ナトリウムに30分浸漬
消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノールによる清拭
80℃10分熱水

2003年2月現在、野兎病は感染症予防法の対象として特に明記されていませんが、異常な発生を認めた場合には、直ちに保健所などへ報告するべきです15)

以上Y’s Letter No.13~15では、バイオテロリズム対策の観点から、CDCが危険度カテゴリー最高位に分類している微生物のうち、特に注目されているものについて述べました6)16)

<参考>

  1. 日本医師会感染症危機管理対策室・厚生省保健医療局結核感染症課監修,感染症の診断・治療研究会編集.感染症の診断・治療ガイドライン.医学書院,東京,1999
  2. 厚生労働省健康局結核感染症課管理係長.感染症の診断・治療ガイドラインの追補改訂版の送付について 事務連絡 平成14年5月22日.2002.
    http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/05/tp0522-1.html
  3. WHO: Ebola haemorrhagic fever, Congo – update. WER 2003;78:57.
    http://www.who.int/wer/pdf/2003/wer7809.pdf
  4. Isaacson M: Viral hemorrhagic fever hazards for travelers in Africa. Clin Infect Dis 2001;33:1707-1712.
    http://www.journals.uchicago.edu/cgi-bin/resolve?CID001386PDF
  5. Simmons JH, Riley LK: Hantaviruses: an overview. Comp Med 2002;52:97-110.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12022401&dopt=Abstract
  6. CDC: Biological Diseases/Agents. Available online (last reviewed on February 26, 2003)
    http://www.bt.cdc.gov/agent/agentlist.asp
  7. 小林寛伊,吉倉廣,荒川宜親編集.エビデンスに基づいた感染制御.メヂカルフレンド社,東京,2002.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline/evidence.html
  8. 向野賢治訳,小林寛伊監訳.病院における隔離予防策のためのCDC最新ガイドライン.メディカ出版,大阪,1996.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_kaigai/cdc/guideline/iso.html
  9. WHO, CDC: Infection Control for Viral Haemorrhagic Fevers in the African Health Care Setting. December 1998. 1998.
    http://www.cdc.gov/ncidod/dvrd/spb/mnpages/vhfmanual/entire.pdf
  10. Weber DJ, Rutala WA: Risks and prevention of nosocomial transmission of rare zoonotic diseases. Clin Infect Dis 2001;32:446-456.
    http://www.journals.uchicago.edu/CID/journal/issues/v32n3/000858/000858.web.pdf
  11. 厚生省保健医療局結核感染症課監修,小林寛伊編集.消毒と滅菌のガイドライン(増補).へるす出版,東京,2002.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline/syoguide.html
  12. Wong JD, Shapiro DS. Francisella. In: Murray PR, et al, eds. Manual of Clinical Microbiology 7th ed. Washington DC:ASM Press 1999;647-651.
  13. Dennis DT, Inglesby TV, Henderson DA, et al: Tularemia as a biological weapon: medical and public health management. JAMA 2001;285:2763-2773.
    http://jama.ama-assn.org/issues/v285n21/fpdf/jst10001.pdf
  14. 小林寛伊、大久保憲、吉田俊介.病院感染対策のポイント.協和企画,東京,2002.
    http://www.yoshida-pharm.com/point/index.html
  15. 厚生労働省各課長.「米国の同時多発テロ」を契機とする国内におけるテロ事件発生に関する対応について 平成13年10月4日通知.2001.
    http://www.mhlw.go.jp/houdou/0110/h1005-1.html
  16. 厚生科学審議会感染症分科会感染症部会.大規模感染症事前対応専門委員会報告書-生物テロに対する厚生労働省の対応について-平成14年3月.2002.
    http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/05/tp0531-2.html
2003.03.05 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト