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Y's Letter
感染対策情報レター
2003/03/17

アルコール系消毒薬について


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Y’s Letter No.16
2003.03.17
Revised on 2003.05.29

はじめに

2001年4月に日本においてアルコール事業法が施行され、旧アルコール専売法における規制が一部緩和されたことに伴い、エタノールを主成分とする消毒薬の開発と市販化の可能性がそれ以前よりも拡大しました。その後、薬事上必要な期間が経過した2003年、新しいタイプの医療用エタノール系消毒薬がいくつか市販されるようになります。このような進展を説明すると共に、これらを含めたエタノール系消毒薬とイソプロパノール系消毒薬など各種アルコール系消毒薬の特性を比較します。

エタノール系消毒薬への課税的措置

日本においてアルコール系消毒薬の代表的な存在である消毒用エタノール(日局、76.9~81.4v/v%エタノールと精製水のみ配合)と、その調剤原料である95v/v%、99v/v%エタノール(日局エタノール、日局無水エタノール)の価格には、酒税に相当する価格が政府により加算されています。このことはアルコール事業法施行後であっても変わりなく、現在でも消毒用エタノールなどの医療機関向け市販価格(薬価)には酒税加算額が含まれています。この酒税加算額は高額で薬価のおよそ半分に相当します。なお、酒税加算額は平成15年5月からさらに増額されています。

ただし、添加物の配合により飲用または違法な酒類製造原料に流用される恐れがないと政府が認めた場合には、酒税加算額が免除される場合があります。この免税的措置はアルコール事業法施行前であっても、一部のエタノール系消毒薬について古くから認可されていましたが、アルコール事業法施行後は免税的措置のための基準が実質的に緩和されました。そのため、医療機関における医学的な必要と経済的な要請の双方を反映したエタノール系消毒薬の開発と市販化が以前よりも容易となりました。

繁用されるアルコール系消毒薬の種類

医療機関において使用されているアルコール系消毒薬の主なものとして、消毒用エタノール(免税的措置なし)、70v/v%イソプロパノール液(酒税加算額なし)、イソプロパノール添加エタノール液(多くの場合、免税的措置あり)がありますが、これらに加えて最近、香料を添加した消毒用エタノールへの免税的措置と薬事承認の両方が整い、5月に市販されました(薬価収載は7月予定)。また、既に免税的措置を受けているイソプロパノール添加エタノール液の多くには、その措置を受けるために2%弱のメタノールも添加されていますが、これらの一部の銘柄について最近、メタノール添加を廃止したものに対する免税的措置の拡大適用と薬事承認の両方が整いました。ただし、メタノール添加の廃止は薬事および薬価制度上2003年7月以降に実施可能となります。イソプロパノール添加エタノール液のアルコール総濃度、イソプロパノール添加比率、メタノール添加の有無は銘柄によって異なります。

これらのアルコール系消毒薬は、もっぱら注射・採血部位の皮膚の消毒、医療器具の消毒、物品・環境の消毒に繁用されます。その他にクロルヘキシジンエタノール液、塩化ベンザルコニウムエタノール液、ポビドンヨードエタノール液、エモリエント剤配合エタノール液などが市販されていますが、それらはもっぱら手指消毒や手術部位の皮膚の消毒などに持続効果ないし保湿効果も期待して使用されますので、ここでは説明を省略します。

有効性の比較

消毒用エタノール、20v/v%イソプロパノール添加63v/v%変性エタノール液、70v/v%イソプロパノール液の殺菌・ウイルス不活性化に必要な作用時間は表1に示したとおりです。

表1 各種アルコール系消毒薬の殺菌・ウイルス不活性化に必要な作用時間
微生物名 日局消毒用
エタノール
20v/v%イソプロ
パノール添加
63v/v%変性
エタノール液
70v/v%イソプロ
パノール液

グラム
陽性菌
Staphylococcus aureus IFO12732
Staphylococcus epidermidis JCM2414
Streptococcus pyogenes JCM5674
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
グラム
陰性菌
Pseudomonas aeruginosa IFO13736
Burkholderia cepacia IFO14595
Escherichia coli JCM1649
Serratia marcescens JCM1239
Proteus vulgaris IFO3851
Klebsiella pneumoniae IFO14940
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
抗酸菌 Mycobacterium smegmatis RIMD1332001 <15秒 <15秒 <15秒

酵母 Candida albicans IFO1385
Saccharomyces cerevisiae IFO10217
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
<15秒
糸状菌 Aspergillus niger IFO4414
Penicillium citrinum IFO7784
Aureobasidium pullulans IFO6353
2.5分
10分
<30秒
2.5分
10分
<30秒
30分
>60分*
<30秒



エンベ
ロープ有
単純ヘルペスウイルス1型 VR3
サイトメガロウイルス AD169
インフルエンザウイルス 臨床分離株
RSウイルス Long
1分
<10秒
1分
5分
<10秒
<10秒
<10秒
1分
<10秒
<10秒
<10秒
1分
エンベ
ロープ無
アデノウイルス37型 GW
コクサッキーウイルスA16型 G10
エコーウイルス7型 Wallace
10分
>10分**
10分
10分
>10分**
>10分**
10分
>10分**
>10分**

文献3)5)より作成。
*60分までの作用時間では殺菌効果が見られなかった。
**10分までの作用時間では不活化効果が見られなかった。

これらのアルコール系消毒薬はすべて、多くの一般細菌と酵母菌に対して優れた速効性を示します1)2)3)。ただし、揮発などにより濃度が低下した場合には、同じ濃度であれば、イソプロパノールの方がエタノールより短い時間で効力を発揮する場合があります2)。糸状菌に対しては、比較的長い作用時間が必要で、エタノールの方がイソプロパノールより短い時間で効力を発揮する場合があります3)。エンベロープを有するウイルスに対しては、どのアルコール系消毒薬も速効性を示しますが、イソプロパノールの方がエタノールより若干短い時間で効力を発揮する場合があります。エンベロープを有しないウイルスに対しては、どのアルコール系消毒薬も長い作用時間を必要とし、エタノールの方がイソプロパノールより若干短い時間で効力を発揮する場合があります4)5)。20v/v%イソプロパノール添加63v/v%変性エタノール液の速効性は消毒用エタノールと70v/v%イソプロパノール液のどちらにもほぼ匹敵します2)3)5)6)

なお、香料添加消毒用エタノール(消毒用エタノールに香料として日局ユーカリ油を微量添加)の殺菌作用は消毒用エタノールと同等です5)。20v/v%イソプロパノール添加63v/v%変性エタノール液からメタノールの添加(1.95v/v%)を廃止し、等重量のエタノールで置き換えた新処方、つまり20v/v%イソプロパノール添加60v/v%エタノール液の殺菌作用は旧処方と同等です5)

アルコール系消毒薬が繁用される目的は主に一般細菌の消毒であると思われます。このような観点からすると、これらアルコール系消毒薬のどれを選択しても、正しく用いれば十分な有効性を発揮すると考えられます。したがって、糸状菌など特定の微生物を対象として特別な消毒を行う場合を除けば、どの製剤を選択しても良いと思われます。

安全性の比較

消毒用エタノール、香料添加消毒用エタノール(ユーカリ油添加)、20v/v%イソプロパノール添加60v/v%エタノール液(メタノール無添加)、70v/v%イソプロパノール液のマウスにおける単回経口投与毒性とウサギにおける皮膚刺激性は表2の上段に示したとおりです。

表2 各種アルコール系消毒薬の単回経口投与毒性、皮膚刺激性、その他の特性

日局
消毒用エタノール
ユーカリ油添加
消毒用エタノール
20v/v%イソプロ
パノール添加60v/v%
エタノール液
70v/v%イソプロパノール液
単回経口投与毒性(マウス) LD50(g/kg) 10.41
(8.28~13.09)*
12.25
(計算不可)
9.60
(7.73~11.92)*
8.86
(7.34~10.68)*
12.25
(計算不可)
10~15** 11.29
(9.37~13.62)*
9.60
(7.64~12.07)*
皮膚刺激性
(ウサギ)PCI値***
0.67 0.22 0.28 0.33
経済性****
非経済的
免税的措置なし
13.20円/10mL
経済的
免税的措置あり
薬価未収載
経済的
免税的措置あり
4.80円/10mL
経済的
酒税加算額なし
5.50円/10mL
臭い エタノール臭 エタノール臭+ユーカリ臭 エタノール臭+イソプロパノール臭 イソプロパノール臭
脱脂作用 イソプロパノールより弱い イソプロパノールより弱い 中間 エタノールより強い
色素添加 なし なし あり(青色) 通常なし

文献5)より作成。 *95%信頼限界幅 **LD50近似値 ***皮膚1次刺激インデックス(OECD Guideline, 1992に準拠)****価格は2003年3月時点の薬価

おおむねエタノール系製剤の方がイソプロパノール系製剤よりもLD50値が高く、低毒性であると言えます。ただし、それほど大きな差異があるとは言えません。米国においては、イソプロパノールが全面的に採用されており、また日本においてもイソプロパノールを繁用している医療機関は多数存在します。イソプロパノール特有の毒性が臨床的な問題となり、エタノールへの変更により解決したという報告は特に見当たりません。

消毒用エタノールであっても毒性があることは明白なことであり、医療においては患者や医療従事者が吸収するような使用法はなるべく避けなければなりません。またアルコールには引火性があるため取り扱いには注意が必要です。したがってアルコール系消毒薬を広範囲な環境に使用することや、噴霧や散布をすることは避けるべきです。また、輸液ルート接合部などに用いる場合には乾燥させる時間をとり、接合操作によって消毒薬が輸液内に混入することがないように注意が必要です。このような意味でイソプロパノールの毒性が問題となるような適正でない使用が行われる場合には、それがエタノールであったとしても、やはりほぼ同様に問題であると言えます。

アルコールによる皮膚刺激や過敏反応に対する注意も必要ですが、表2のデータはどの製剤も皮膚刺激性にあまり差異が無いことを示しています。また、ヒトのボランティア試験(n=27)も、消毒用エタノールと20v/v%イソプロパノール添加63v/v%変性エタノール液の間に特に差異を認めなかったと報告しています6)。アルコール系消毒薬を安全に使用することは重要ですが、上述のアルコール系消毒薬のどれを選択しても、必要な注意事項は同様です。

その他の特性の比較

以上のように有効性・安全性の観点において通常は、消毒用エタノール、香料添加消毒用エタノール、20v/v%イソプロパノール添加60v/v%エタノール液、70v/v%イソプロパノール液のうち、どれを選択しても良いと思われます。表2の下段に挙げたようなその他の特性を考慮して、医療機関毎に実務的な選択を行うことができます。

酒税加算額が課せられた消毒用エタノールを選択することは、経済的な観点から見て不利と思われます。漫然と消毒用エタノールを使用している場合には、どのような臨床的問題を回避するために敢えて高額な消毒薬を選択しているのか再検討することが有益な場合もあると思われます。相対的に低毒性である薬剤を選択することよりも、無用な吸収を防ぐための基本的な対策を講じることの方が重要な場合も多いと思われます。

イソプロパノールを選択する上で実務的な問題となる事項としては、エタノールからの切り替え時における異臭感があると思われます。しかし、この異臭感は時間的経過とともに解消され、おのずと問題が解決される場合も多いと思われます。また、イソプロパノールの脱脂作用はエタノールよりも強いと言われているため、手指消毒に使用する場合には手荒れの問題が増大する可能性もあります。市販されている速乾性手指消毒薬のほとんどはエタノールを基剤としており、またエモリエント剤も配合されているため、手指消毒にはそれらの製剤を繁用することが妥当と思われます。

70v/v%イソプロパノール液以外にも、香料添加消毒用エタノールや20v/v%イソプロパノール添加60v/v%エタノール液などが選択肢となりますが、どれが最も有用であるかは医療機関によって判断が異なると思われます。

おわりに

消毒用エタノール、香料添加消毒用エタノール、20v/v%イソプロパノール添加60v/v%エタノール液、70v/v%イソプロパノール液の有効性、安全性に大きな差異はなく、どれを選択するべきである、あるいは選択するべきでないと一概に判断することはできません。特別な医学的理由がある場合を除いては、経済性、使用感、利便性などを考慮して、個々の医療機関の状況に応じた実務な選択をすることが妥当と思われます。

<参考>

  1. Ali Y, Dolan MJ, Fendler EJ, Larson EL: Alcohols. In: Block SS, ed. Disinfection, Sterilization, and Preservation, 5th ed. Philadelphia:Lippincott Williams & Wilkins, 2001;229-253.
  2. 白石正,丘龍祥,仲川義人:エタノール、イソプロパノール、メタノール変性アルコール製剤に関する殺菌効力の検討. 環境感染 1998;13:108-112.
    文献請求先:info@yoshida-pharm.co.jp
  3. 梶浦工,青木孝夫,福武勝彦:低級アルコール製剤の消毒作用に関する検討(第1報). 基礎と臨床 1997;31:23-29.
    文献請求先:info@yoshida-pharm.co.jp
  4. 野田伸司,渡辺実,山田不二造,藤本進:アルコール類のウイルス不活化作用に関する研究-ウイルスに対する各種アルコールの不活化効果について. 感染症学雑誌 1981;55:355-366.
  5. 佐藤隆一,和田英己,滝沢真紀 横田勝弘:各種アルコール系消毒薬の評価.
    医薬と薬学 2003;49:713-724.
    文献請求先:info@yoshida-pharm.co.jp
  6. 吉成昌郎,中井益代,清金公裕:市販消毒薬の有用性-ネオ消アル「ヨシダ」と日局消毒用エタノールの比較-.医薬ジャーナル 1994;30:107-110.
    文献請求先:info@yoshida-pharm.co.jp
2005.06 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト