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Y's Letter
感染対策情報レター
2003/05/06

皮膚常在菌について


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Y’s Letter No.17
2003.05.06
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はじめに

ヒトの健常皮膚にはグラム陽性球菌であるStaphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌)などcoagulase-negative staphylococci(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌:CNS)、グラム陽性桿菌であるCorynebacterium spp.(コリネバクテリウム属)などが常在し、グラム陰性桿菌であるAcinetobacter spp.(アシネトバクター属)が常在することもあります。これらの細菌は平素無害ですが、体内挿入人工物や血管カテーテルに関連する血流感染などを、特に易感染患者において起因することがあります1)。以下、皮膚常在菌について述べます。

coagulase-negative staphylococci(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌:CNS)

CNSはコアグラーゼ陰性でマンニットを分解しないブドウ球菌群であり、ヒトの皮膚・粘膜に常在し時に病原性を示すものとして、表皮ブドウ球菌、S. haemolyticus、S. saprophyticus、S. capitis、S. caprae、S. lugdunensis、S. saccharolyticus、S. warneri、S. homini、S. cohniiなどがあります。また、S. xylosus、S. simulans、S. schleiferiなどは動物に常在し時にヒトに病原性を示します1)。一般にCNSの病原性は黄色ブドウ球菌より低く、健常人において通常問題となりませんが、血管カテーテル、心臓の人工置換弁、中枢神経系シャントを挿入している場合やICUなどの易感染患者において感染起因菌となります2)。血管カテーテル関連感染においてCNSは主要な起因菌であり、時に心内膜炎や髄膜炎に進展することもあります。病原性を持つ株の多くはα溶血毒,DNA分解酵素、血清中のプラスミノーゲンを活性化させプラスミンを生じさせるスタフィロキナーゼを産生します。バイオフィルムの形成も病原性に関連しており、表皮ブドウ球菌はカテーテルなどのプラスチック表面にガラクトースとアラビノースのポリマーからなるpolysaccaride-adhesinで付着し、バイオフィルムを形成することがあり、菌血症の場合にはカテーテルの抜去が必要となります3)

1960年代にはmethicillin-resistant S. epidermidis(メチシリン耐性表皮ブドウ球菌: MRSE)の拡散が報告されるようになり4)、1980年代にはその病院感染上の重大性がさらに注目されるようになりました5)6)。最近の米国における耐性菌サーベーランス(ICARE/AUR)ではICU以外の入院病棟において臨床分離された表皮ブドウ球菌の64%がMRSEであり7)、日本においても臨床分離株の74%がメチシリン耐性と報告されています8)。これらMRSEを含むメチシリン耐性CNSのほとんどから耐性遺伝子mecAが検出されています9)

methicillin-resistant S. aureus(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌:MRSA)におけるバンコマイシン低感受性または中等度耐性(MIC=8~16 μg/mL)の臨床分離より約10年前の1986年に、テイコプラニンに耐性(MIC≧16 μg/mL)を示すS. haemolyticusの臨床分離が英国と米国から報告され10)11)、1987年にはバンコマイシンにも低感受性を示すS. haemolyticusの臨床分離が米国とイタリアから報告されました12)13)。その後表皮ブドウ球菌を含むCNSにおけるテイコプラニン耐性はしばしば報告されており、バンコマイシン低感受性または耐性(MIC≧32μg/mL)についてもそれより低頻度ながら欧米で報告されています14)15)16)。また、日本においてもほぼ同様の傾向が報告されています8)17)

Corynebacterium spp.(コリネバクテリウム属)

Corynebacterium spp.はグラム陽性桿菌で通常、人の皮膚、粘膜、腸内に常在します。C. diphtheriae(ジフテリア菌)を除くCorynebacterium spp.は病原性が弱く、感染症を起因することはまれです。しかし、C. jeikeium(以前はCorynebacterium group JK)については、1970年に重度の感染症例が報告され18)、1976年に敗血症が報告され19)、多くの抗菌薬に耐性を示す病院感染起因菌として注目されるようになりました20)。好中球減少症患者において敗血症、心内膜炎を起因する例が多く報告されており21)、また、腹膜透析患者において腹膜炎22)、血管カテーテルやペースメーカーなどの体内挿入人工物を有する患者において菌血症23)、時に手術部位感染24)や肺炎25)を起因することがあると報告されています。

C. jeikeiumは欧米においてヒトの皮膚、特に腋窩、鼠径・直腸周辺から頻繁に検出されており、グリコペプチド以外の抗菌薬において多剤耐性を示すと報告されています26)。日本においてもC. jeikeiumの検出27)28)や肺炎、敗血症の発生29)が報告されています。

Acinetobacter spp.(アシネトバクター属)

Acinetobacter spp.はブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌で、21種類に分類され、A. baumannii、A. johnsonii、A.calcoaceticus、A. hamolyticus、A. junii、A. Iwoffii、A. radioresitensなどがあります30)。臨床的に重要な菌はA. baumanniiで、Acinetobacter spp.臨床分離株のうち約72.9%がA.baumanniiであったとする報告もあります31)。Acinetobacter spp.は通常、環境や土壌に広く生息し病院のみならず家庭の洗面台など湿潤な室内環境から検出されますが、しばしば健常人の皮膚にも常在します。健常人に対しては病原性が弱い菌ですが、重い基礎疾患を有し人工呼吸器を使用している患者において肺炎、血管カテーテルを挿入している患者において菌血症を起因することがあり、外傷感染、手術部位感染、尿路感染、敗血症、髄膜炎、心内膜炎、腹膜炎などの起因菌ともなります32)。

A. baumanniiは、染色体性のセファロスポリナーゼを産生して多くのセファロスポリンに本来的な耐性を示し、薬剤修飾酵素の産生や薬剤透過性の低下によりアミノグリコシド、フルオロキノロンなどに多剤耐性を示すこともあります32)。また1985年にはスコットランドでプラスミド性のβ-ラクタマーゼを産生してカルバペネムに耐性を示すA. baumanniiが検出され33)、有効な抗菌薬がほとんどないA. baumanniiの拡散が欧米で問題となっています34)。日本においてもAcinetobacter spp.による新生児の敗血症集団発生などが報告されており35)、またカルバペネムに耐性を示す多剤耐性のAcinetobacter spp.もたびたび検出されています8)36)

病院感染予防策

皮膚常在菌による病院感染には、患者自身の保菌する菌による内因的な感染の場合と他の患者や医療従事者が保菌する菌による外因的な感染の場合があります。

CNS、Corynebacterium spp.、あるいはAcinetobacter spp.の多剤耐性株が病棟内で伝播して集団感染を起因した場合も報告されています37)38)39)。このような場合、特定の患者もしくは医療従事者の皮膚常在菌が医療従事者の手指、器具、環境を経由して感染部位へ直接、または一旦患者の健常皮膚などに保菌されてから感染部位に伝播したものと考えられます40)41)42)43)

皮膚常在菌による内因的な感染の予防には、血管カテーテルなど人工物を患者に挿入する際の挿入部位への消毒薬の適用、挿入後の挿入部位のケア方法、挿入物の材質と抗菌性などが関与すると思われます44)。また、術前の除毛方法により手術部位感染率が大きく変化することが示されています45)46)

皮膚常在菌による外因的な感染の予防には、カテーテル挿入など侵襲的な処置を行う前の手指衛生と手袋・ガウンなどバリアプリコーションの適用、易感染患者に接触する前の手洗いなどが重要であると思われます。術中における術者からのMRSEの飛散による伝播を防ぐ試みもなされていますが47)、まだ有効な方策は確立していないと思われます。

なおAcinetobacter spp.は皮膚に常在して感染源となる場合の他に、緑膿菌と同様、呼吸器系器具など湿潤な器具・環境や水に存在して感染源となる場合があり48)49)、親水性のグラム陰性菌としての注意も必要です46)

消毒薬感受性

表皮ブドウ球菌の消毒薬感受性は黄色ブドウ球菌とほぼ同様です。黄色ブドウ球菌と同様に表皮ブドウ球菌においても、消毒薬・抗菌薬の排出機構をもたらすqacA、qacCなどの遺伝子が広く検出されていますが50)、その消毒薬感受性に対する影響の臨床的な意義はまだ認められていません。

Corynebacterium spp.の消毒薬感受性については、まだあまり報告がありません。

Acinetobacter spp.の消毒薬感受性についても、あまり報告は多くありませんが、石けんによる手洗いとクロルヘキシジンによる手洗いにおいて差が認められなかったとする報告があり51)、他の親水性のグラム陰性菌と同様に低水準消毒薬に対する抵抗性を示す場合があると考えて注意することが必要と思われます46)

一般に皮膚など生体に適用する生体消毒薬の評価は、試験管内試験によるデータのみならず、ヒトの皮膚におけるデータを参考とし、最終的には比較臨床試験における感染率の変化によって行うべきと思われます。その際には殺菌作用の他に、静菌作用や持続効果など生体消毒薬の様々な側面も関与すると思われます。

採血部位の皮膚においてはポビドンヨードよりもヨードチンキ52)、クロルヘキシジンアルコール53)が低い偽陽性率と関連し、血管カテーテル挿入部位の皮膚においてはポビドンヨードよりもクロルヘキシジンが低い感染率とおおむね関連していることが示されています54)。手術部位に用いる消毒薬の選択により感染率が変化することを示した報告はまだありませんが、念入りな消毒薬の適用が必要と思われます。

手術時手洗いにおいてはポビドンヨードスクラブよりもクロルヘキシジンスクラブが、またクロルヘキシジンスクラブよりもクロルヘキシジンアルコールが持続効果において優れていることが示されています45)55)56)。手術時手洗いにおいてクロルヘキシジンスクラブを用いた場合とアルコール製剤を用いた場合で手術部位感染率に差が無いことも報告されています57)。ICUでの衛生的手洗いにおいては、クロルヘキシジンスクラブとアルコール製剤を比較し、どちらの場合も手指からの検出細菌数に相違はないが、アルコール製剤の方が手あれが少なく、かつ短い時間で使用できると米国で報告されています58)

なお、MRSAなど黄色ブドウ球菌が患者や医療従事者の鼻腔などから継続的に検出され、半ば常在菌となっている場合もあります。その除菌が必要な場合には、部位によりムピロシンやポビドンヨードなどの適用を行いますが、ムピロシン濫用は耐性を招くおそれがあることに注意が必要です59)

おわりに

皮膚常在菌は通常は病原性の弱い菌ですが、病院においては侵襲的な処置が頻繁に行われ、感染防御機能の低下した患者が多く存在するため、重要な感染起因菌となる可能性が高いことに注意が必要です。手指衛生や手袋の着用など基本的な病院予防対策を確立することが肝要です。

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2003.05.06 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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