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感染対策情報レター
2004/03/01

高病原性トリインフルエンザについて


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Y’s Letter No.27
2004.03.01

最近の経緯

2003年12月中旬以来、高病原性トリインフルエンザ(highly pathogenic avian influenza) A(H5N1)型が、アジア諸国(カンボジア、中国、インドネシア、日本、ラオス、韓国、タイ、ベトナム)の家禽や野鳥に大流行しています(表1参照)。その規模は史上初のもので、大きな経済的打撃をもたらしていますが、ベトナムとタイにおいてはヒトにおける感染も発生し、公衆衛生上の問題となっています1)2)3)

表1:トリにおける最近のA(H5N1)型集団感染
発生時期
韓国 2003年12月12日
ベトナム 2004年1月8日
日本 2004年1月12日
タイ 2004年1月23日
カンボジア 2004年1月24日
中国 2004年1月27日
ラオス 2004年1月27日
インドネシア 2004年2月2日
その他 香港で1羽のみのH5N1感染が報告されている。
台湾、パキスタン、米国などでH5N1以外のトリインフルエンザ集団発生が報告されている。

はヒト感染の発生国。文献1)2)3)より作成

2月27日現在、ベトナムにおいては23例のヒト感染が検査確認されており、そのうち15例が死亡しています。タイにおいては10例が検査確認されており、その7例が死亡しています4)

注:(2005年5月14日付記)
2004年3月以降も東アジアにおいてトリにおける流行が継続しています。またベトナム・タイ・カンボジアにおいてはヒトにおける感染も継続的に発生しています。詳しくはWHOまたは国立感染症研究所感染症情報センターの関連サイトを参照ください。
WHO関連サイト
国立感染症研究所感染症情報センター関連サイト

臨床像

ベトナムとタイにおける23例のうち10例が女性で、年齢は中央値が13歳(平均16歳、レンジ4~58歳)、予後の確定した20例のうち18例が死亡しています。データのある12例において、発症から死亡までの期間は中央値が13日間(平均13.5日間、レンジ5~31日間)と報告されています1)

タイの5例(4例は6~7歳の男児)では、初期症状が咽喉痛、鼻漏、筋肉痛で、発症後1~5日で呼吸困難となり、胸部X線にて肺炎像がみられ、酸素供給が必要になったと報告されています。なお、これら5例の家庭や近隣では家禽が飼育されており、家禽に病変や死亡がみられ、感染症例はそれら家禽に近接または接触していたことが確認されています1)

ベトナムの10例においては、咽喉痛、鼻漏は無く、38℃を超える高熱、呼吸困難、咳が主な初期症状で、リンパ球減少症と胸部X線像の異常がみられ、半数が下痢を伴ったと報告されています。8例において家禽との接触歴があり、ヒトからヒトへ伝播した証拠はないとのことです5)

伝播様式

ウイルスは感染したトリの糞便に含まれ、それに汚染されたほこりや土壌を他のトリが吸入することにより伝播します6)。トリ間においては急速かつ広範に流行が拡散しており、多数の家禽が処分されていますが、これまでのところヒトにおける感染は、もっぱらトリに近接した人々において局地的にみられるだけで、ヒトへの感染性はそれほど高くないと思われます。ベトナムの2例においては、ヒトからヒトへ感染した可能性もあると報告されていますが、確認はされておらず、具体的な伝播様式も不明です2)。ヒトへの感染性を高めるような遺伝子変異が発生したとは報告されていません。

病院感染対策

ヒト感染症例における病院感染対策として、基本的にはヒトインフルエンザと同様に飛沫予防策を厳密に遵守することがもっとも重要であると思われます。厳密な飛沫予防策においては、個室隔離を行い、患者に接近するときはサージカルマスクを着用し、患者が移動する場合には患者自身にサージカルマスクを着用させます7)8)。また、結膜炎症状を伴うトリインフルエンザの場合は、接触予防策も必要です。

ただし、今回のトリインフルエンザにおいては、ヒトにおいてもきわめて高い致死率が報告されているため、WHOは飛沫予防策に加えて接触予防策を追加すると共に、可能な限り空気予防策、つまりN95マスクの着用と病室の陰圧管理を行うことを勧告しています。また、12歳を超える成人においては発症後7日間予防策を行うが、12歳以下の小児においてはウイルス排泄期間が長いため発症後21日間予防策を行うべきとしています9)

消毒

ノンクリティカル器具や環境表面がトリインフルエンザ症例の気道分泌物で汚染された可能性がある場合には、熱水洗浄を行うか、アルコールまたは200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液を用いて消毒します。クリティカル器具・セミクリティカル器具に適用する高水準消毒または滅菌は、通常通り患者毎に行います。

解説

インフルエンザウイルスはオルトミクソウイルス科のRNA型ウイルスでエンベロープを有します。核蛋白質の違いからA型・B型・C型の3属に分類され(A型・B型・C型ウイルス)、A型ウイルスはさらにウイルスの表面に存在する糖蛋白質であるヘムアグルチニン(H:赤血球凝集素)とノイラミニダーゼ(N)における抗原性の種類、つまり15種類のH抗原、9種類のN抗原により様々な亜型(subtype)に分類されます10)。A型ウイルスはヒト以外にトリやブタなどの哺乳動物にも感染しますが、通常ヒトに感染しうるA型ウイルスの亜型はH1~3、N1~2のみです。なおB型・C型ウイルスは、もっぱらヒトに感染します。

A型ウイルスのなかで、トリに感染するが通常ヒトには感染しない亜型を、エビアンウイルスと呼びますが、1997年香港において局地的に、エビアンウイルスであるA(H5N1)型によるヒトの集団感染(死亡6例を含む18例)が報告されました11)12)。また1999年に同じ香港でエビアンウイルスであるA(H9N2)型ウイルスが2人の小児に感染しました13)。このほかエビアンウイルスであるA(H7N7)型によるヒトの感染が欧州で報告されています14)15)。これまでに報告されているエビアンウイルスによる主なヒト感染例を表2に示します。

表2:エビアンウイルスによる主なヒト感染例
年・地域 規模
A(H5N1) 1997年香港11)12) 18例
うち死亡6例
2003年香港16) 2例
うち死亡1例
2003~4年ベトナム1)4) 23例*
うち死亡15例*)
2004年タイ1)4) 10例*
うち死亡7例*
A(H9N2) 1999年香港13) 2例(軽症)
2003年香港17) 1例(軽症)
A(H7N7) 1996年英国18) 1例**
2003年オランダ14)15) 89例***
うち死亡1例

* 2004年2月27日現在** 結膜炎症状のみ。*** 結膜炎症状83例、インフルエンザ様症状7例。文献1, 4,11)~18)より作成。

ヒトが、ヒトインフルエンザウイルスとエビアンインフルエンザウイルスの両方に同時感染した場合、ヒト型とトリ型のウイルスで遺伝子交雑が起こり、ヒトにも高い感染性を持つ新型ウイルスが発生する可能性があります。このようにして発生した新型ウイルスに対してはヒトの感染防御能が通用しない恐れがあるため、1918~20年の「スペインかぜ」のように全世界に多数の死亡者をもたらす大流行が発生する危険性があると考えられています19)

おわりに

このような同時感染を予防するという趣旨で、流行地域の養禽従事者・家禽処分従事者やトリインフルエンザ症例をケアする可能性のある医療従事者がヒトインフルエンザワクチンの接種を受けることがWHOにより勧告されています20)。感染家禽処分時におけるトリからの感染予防策については厚生労働省の関連通知をご覧ください21)

<参考>

  1. WHO: Avian influenza A(H5N1). WER 2004;79:65-70.
    http://www.who.int/wer/2004/en/wer7907.pdf
  2. WHO: Avian influenza A(H5N1). WER 2004;79:65-70.
    http://www.who.int/wer/2004/en/wer7906.pdf
  3. WHO: Avian influenza A(H5N1) – update 26. WHO internet publication on February 18, 2004 at http://www.who.int/csr/don/2004_02_18/en/
  4. WHO: Confirmed Human Cases of Avian Influenza A(H5N1) – 27 February 2004. WHO internet publication on February 27, 2004 at
    http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/country/cases_table_2004_02_27/en/
  5. WHO: Preliminary clinical and epidemiological description of influenza A (H5N1) in Viet Nam. WHO internet publication on February 12, 2004 at
    http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/guidelines/vietnamclinical/en/
  6. WHO: Avian influenza frequently asked questions. WHO internet publication on January 29, 2004 at
    http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/avian_faqs/en/
  7. 向野賢治訳,小林寬伊監訳.病院における隔離予防策のためのCDC最新ガイドライン.メディカ出版,大阪,1996.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_kaigai/cdc/guideline/iso.html
  8. 小林寬伊,吉倉廣,荒川宜親編集.エビデンスに基づいた感染制御(改訂2版)-第1集-基礎編.メヂカルフレンド社,東京,2003.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline/evidence.html
  9. WHO: Highly pathogenic avian influenza (HPAI): interim infection control guidelines for health care facilities. WHO internet publication on February 18, 2004 at
    http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/guidelinesenGuidelines_infectioncontrol_19Feb.pdf
  10. WHO: A revision of the system of nomenclature for influenza viruses: a WHO memorandum. Bull World Health Organ 1980;58:585-591.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=6969132&dopt=Abstract
  11. CDC: Isolation of avian influenza A(H5N1) viruses from humans – Hong Kong, May-December 1997. MMWR 1997;46:1204-1207.
    http://www.yoshida-pharm.com/us/1997/971219.html
  12. Tam JS: Influenza A (H5N1) in Hong Kong: an overview. Vaccine 2002;20 Suppl 2:S77-81.

    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12110265&dopt=Abstract

  13. Peiris M, Yuen KY, Leung CW, et al: Human infection with influenza H9N2. Lancet 1999;354:916-917.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=10489954&dopt=Abstract
  14. Eurosurveillance Weekly: Avian influenza human death reported in the Netherlands. Eurosurveillance Weekly 2003;Issue 17.
    http://www.yoshida-pharm.com/euro/2003/030424.htm
  15. Fouchier RA, Schneeberger PM, Rozendaal FW, et al: Avian influenza A virus (H7N7) associated with human conjunctivitis and a fatal case of acute respiratory distress syndrome. Proc Natl Acad Sci USA 2004;101:1356-1361.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?
    cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=14745020&dopt=Abstract
  16. WHO: Influenza A(H5N1), Hong Kong, Special Administrative Region of China-update. WER 2003;78:57-58.
    http://www.yoshida-pharm.com/who/2003/030303a.htm
  17. WHO: Influenza A(H9N2) in Hong Kong Special Administrative Region of China (SAR). WHO internet publication on October 10, 2003 at
    http://www.who.int/csr/don/2003_12_10/en/
  18. Banks J, Speidel E, Alexander DJ: Characterization of an avian influenza A virus isolated from a human – is an intermediate host necessary for the emergence of pandemic influenza viruses? Arch Virol 1998;143:781-787.
    http://www.yoshida-pharm.com/who/2003/030303a.htm
  19. WHO: Control of avian influenza A(H5N1): public health concerns. WHO internet publication on February 10, 2004 at
    http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/guidelines/publichealth/en/
  20. WHO: Guidelines for the use of seasonal influenza vaccine in humans at risk of H5N1 infection. WHO internet publication on January 30, 2004 at
    http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/guidelines/seasonal_vaccine/en/
  21. 厚生労働省医政局経済課長、厚生労働省健康局結核感染症課長.高病原性鳥インフルエンザ対策における留意点について(通知:第2報) 平成16年1月29日.2004.
    http://www.mhlw.go.jp/houdou/0111/h1112-1f5.html

国立感染症研究所感染症情報センターのホームページには、WHOのトリインフルエンザ関連文書の翻訳が数多く掲載されています。
http://idsc.nih.go.jp/others/topics/flu/toriinf.html

2004.03.01 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト