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Y's Letter
感染対策情報レター
2004/07/12

ヘルペスウイルスについて


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Y’s Letter No.31
Published online 2004.07.12

はじめに

ヘルペスウイルスはヘルペスウイルス科に属するDNA型ウイルスの総称で、エンベロープを有します。その種類は約100種に及び、α、β、γの3つの亜科に分類されます。ヒトを宿主とするヘルペスウイルス(Human herpes viruses: HHV)としては8種類が知られており、それらをそれぞれHHV1~8と呼ぶ場合もあります1)2)。ヘルペスウイルス感染の多くは、不顕性感染として持続的に潜伏感染します。顕性感染となった場合でも多くの場合軽症ですが、様々な誘因により回帰発症することもあり、免疫不全患者などにおいては重大な日和見感染症をもたらすことがあります。ヘルペスウイルスについて病院感染対策の観点から述べます。

1. Herpes simplex virus 1/2(単純ヘルペスウイルス1/2型)
1型はもっぱら唾液を介して飛沫または接触により口腔粘膜や性器に伝播します。多くのヒトが乳幼児期に初感染し無症候感染者となりますが、衛生環境の整った先進国では思春期になってから初感染する場合も多いと言われています。口腔粘膜で顕性感染となった場合には口内炎を発症し、性器の場合には水疱やびらんを伴う性器ヘルペスとなります。未感染の母体から生まれ移行抗体の無い新生児が初感染した場合には脳炎など重大な感染症となることがあります。
2型は産道感染するほかは、もっぱら性器接触により伝播する典型的な性感染症起因微生物です。その性器ヘルペスの症状は1型による場合よりも重い傾向があると言われています。
1型、2型いずれの場合にも感染者は生涯持続感染し神経節にウイルスを保持します。その後、疲労やストレスなど何らかの要因により回帰感染し、口唇ヘルペス(1型)、角膜ヘルペス(1型)、性器ヘルペス(2型)を発症または再発します1)2)3)4)。多くの場合は発症しても軽症に留まりますが、造血幹細胞移植患者などにおいては初感染もしくは回帰感染が肺炎など重大な感染症をもたらすことがあります5)6)。また、新生児における重大な病院感染も報告されています7)
感染症例には標準予防策を基本とし、びらんが激しい場合、発症者である母体から生まれた新生児の場合など必要に応じて接触予防策を追加します8)
2. Varicella-Zoster virus(水痘・帯状疱疹ウイルス)
Varicella-Zoster virusはα-ヘルペスウイルス亜科に属し、HHV-3とも呼びます。抗体陰性のヒト、主に小児に初感染して水痘(水ぼうそう)を発症し、治癒後神経節に潜伏感染します。その後加齢や免疫力低下などの要因により回帰感染して帯状疱疹を発症しますが、白血病患者や移植患者などで細胞性免疫の低下が著しい場合にはウイルス血症を起こし重症化します。またヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者などにおいて水痘が肺炎にいたることもあります1)2)5)6)9)10)
Varicella-Zoster virusは伝播性が強く、発症者から他のヒトへ接触伝播し、また病院内における空気伝播もいくつか報告されているため11)12)13)、水痘症例には接触予防策を行い、さらに空気予防策またはそれに準じた対策を追加します。帯状疱疹症例には標準予防策を基本とし、播種性または免疫不全患者の場合には接触予防策を適用しますが、場合により水痘症例と同様に空気予防策も考慮します8)14)15)。白血病患者、移植患者、HIV感染者などハイリスク患者や妊婦、新生児が発症患者と同室しないよう注意を払うことは特に重要と思われます。医療従事者のワクチン接種や就業制限についてはY’s Letter No. 26 水痘と麻疹を参照ください。
3. Cytomegalovirus(サイトメガロウイルス)
Cytomegalovirusはβ-ヘルペスウイルス亜科に属し、HHV-5とも呼びます。感染は通常不顕性感染に終わりますが、未感染の妊婦が初感染した場合にはウイルス血症となり、胎盤経由胎児に感染して先天性巨細胞封入体病をもたらす場合があります。HIV感染者、移植患者などにおいては回帰感染して、間質性肺炎、網膜炎など重度の日和見感染をもたらします。また輸血や臓器移植により伝播してサイトメガロウイルス単核症をもたらします。主な伝播経路には唾液、尿、血液などによる伝播と胎盤、産道などを介した垂直伝播があります1)2)5)16)。感染症例には標準予防策を行います8)
4. Human herpesvirus 6/7(ヒトヘルペスウイルス6/7型)
Human herpesvirus 6/7はβ-ヘルペスウイルス亜科に属し、それぞれHHV-6/7と呼びます。
乳幼児における突発性発疹(6型)あるいはそれに類似した疾病(7型)の原因ウイルスで、主に既感染の健常成人の唾液を介して伝播すると考えられています。6型よりも7型の方が遅く感染し、6型抗体陽性の幼児でも7型に感染すると言われています。なお、移植患者などにおける脳炎や肺炎などとの関連が疑われています1)2)17)。感染症例には標準予防策を行います8)
5. Epstein-Barr virus (EBウイルス)
Epstein-Barr virusはγ-ヘルペスウイルス亜科に属し、HHV-4とも呼びます。既感染健常者の唾液を介して咽頭粘膜に伝播し、Bリンパ球に潜伏感染します。小児期の初感染はほとんど不顕性感染に終わりますが、思春期の初感染では伝染性単核症(キッス病)を起因し、発熱、咽頭痛、頸部リンパ節腫をもたらす場合があります。伝染性単核症は1~3週間で自然治癒すると言われています。また、アフリカで多発しているバーキットリンパ腫など癌との関連が判明しています1)2)18)。感染症例には標準予防策を行います8)
6. Kaposi’s sarcoma-associated herpesvirus(カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス)
Kaposi’s sarcoma-associated herpesvirusはγ-ヘルペスウイルス亜科に属し、HHV-8とも呼びます。カポジ肉腫は皮膚における多発性血管肉腫で、AIDS患者においてしばしば合併し、HHV-8との関連が指摘されています1)2)19)。HHV-8は精液中にも検出されることから性行為感染も伝播経路のひとつと推測されています20)
7. Herpes B virus(Bウイルス)
Herpes B virusはα-ヘルペスウイルス亜科に属し、サルを宿主とするヘルペスウイルスです。サルによる咬創から感染し、ヒトに致命的な脳炎(Bウイルス病)を起因します。サルの分泌液や培養細胞などとの接触による皮膚・粘膜からの伝播も成立します1)2)21)。感染症例には標準予防策を基本としますが8)、咬創部位、唾液、結膜からウイルスが検出されることもあるため、接触予防策の追加を考慮します22)。実験に用いるウイルス汚染材料にも厳密な注意を払います。
8. 消毒薬感受性
ヘルペスウイルスはエンベロープを有します。一般にエンベロープの有るウイルスに対して滅菌法、熱水消毒(80℃10分)、2%グルタラールなどによる高水準消毒はもちろん、200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノール、ポビドンヨードなども有効です。塩化ベンザルコニウムなど低水準消毒薬が不活性化効果を示す場合もありますが、十分な効果を示さない場合もあります。したがって、ノンクリティカル表面の消毒において、これらのウイルスを特に対象とする場合には、200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノールを用います23)24)
単純ヘルペスウイルス1型に対して、0.2%塩化ベンザルコニウム、0.2%塩化ベンゼトニウム、0.2%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、0.5%クロルヘキシジンが10分で3log程度の減少値(1,000分の1程度への減少率)を示したとの報告もあります25)

おわりに

様々なヘルペスウイルスが様々な真菌、植物、動物に広く存在しますが、病院感染対策において意識すべきものは上記9種類と考えて良いと思われます。多くのヒトがなんらかのヘルペスウイルスを無症候のまま唾液などに排出していると思われます。市井においては問題とならない伝播も、ハイリスク患者の多い病院においては重大な病院感染となる恐れがあるため、この意味からも標準予防策の徹底が必要と思われます。

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2004.07.12 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト