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Y's Letter
感染対策情報レター
2004/08/31

酵母と糸状菌


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Y’s Letter No.32
Published online 2004.08.31

はじめに

真菌は下等な真核生物で、真性菌糸を形成しない酵母と真性菌糸を形成する糸状菌に分類されます。酵母と糸状菌は自然界に広く分布しており、それらの多くは通常、健常人において病原性を発揮しませんが、易感染患者において日和見感染を起こすことがあり、病院感染対策上の注意が必要です。また、強い病原性を有する真菌も存在し、感染症法においてはコクシジオイデス症が四類感染症に指定されています。以下、酵母と糸状菌について病院感染対策の観点から述べます。

酵母

1. Candida
酵母であるCandida albicansおよびC. tropicalsC. glabrataC. parapsilosisC. kruseiC. lusitaniaeなどのCandida属は、ヒトの口腔内、消化管、膣、皮膚に常在しています。平素無害ですが、易感染患者における日和見感染や抗菌薬投与による菌交代症の原因として注意が必要です。Candida属により引き起こされるカンジダ症の感染部位はさまざまであり、皮膚カンジダ症、口腔カンジダ症、カンジダ性膣炎などの表在性と、腸管カンジダ症、肺カンジダ症、心内膜炎、敗血症、全身性カンジダ症などの深在性があります1)2)Candida属による感染は主に内因性感染といわれていますが、汚染された輸液や医療従事者の手指などを介した病院感染も報告されており、また乾燥表面から検出される場合があることから、それらの表面を介して伝播する可能性もあります3)4)。また、カテーテル感染に関与している場合も多いと言われています5)6)。感染症例に対しては標準予防策を行います7)
2.Cryptococcus neoformans
Cryptococcus neoformansは自然界に広く分布している酵母であり、鳥類の糞、特にハトの糞や土壌から検出され、これらが乾燥して空気中に浮遊したものを吸入することによりヒトに伝播すると言われています8)。健常人においては通常無害ですが、エイズ患者などの免疫不全患者においてはクリプトコッカス症をもたらすことがあり、肺炎や脳髄膜炎などを起因します9)10)。クリプトコッカス症の発生は病院周辺のハトなどの鳥類と関連した報告が多いことから、免疫不全患者の病室における空調対策のほか、病院周辺のハトの糞を減少させることが課題となる場合も考えられます8)11)12)13)。感染症例に対しては標準予防策を行います7)

糸状菌

1.Aspergillus
Aspergillus属は広く自然界に分布している糸状菌であり、Aspergillus fumigatusA. flavusA. terreusなどの胞子は空気中に長時間浮遊することから、病院においても室内空気から頻繁に検出されます。Aspergillus属は平素無害ですが、好中球減少症患者や造血幹細胞移植患者などの易感染患者においては、アスペルギルス症をもたらすことが多く、皮膚炎、副鼻腔炎、気管支炎、肺炎、脳炎などを起因します。また、空気中に大量の胞子が存在する場合には、その他の様々な易感染患者においても感染症を引き起こす場合があります14)。適切にメンテナンス・清掃されていない空調設備、病院内外での建築改修工事などによる胞子を大量に含む空気流などが原因となった病院でのアスペルギルス症の発生が報告されています15)16)。一般的な感染対策として、病院内の空調設備を定期的にメンテナンスすること、湿式清掃を基本とすること、改修工事における空気流の遮断対策などを行うことが必要であり14)17)18)、造血幹細胞移植病棟においてはHEPAフィルターを用いた空調管理を行うことが勧告されています19)。感染症例に対しては標準予防策を行います7)
2. Rhizopus属、Absidia属、Rhizomucor属、Mucor
Rhizopus属、Absidia属、Rhizomucor属、Mucor属などのムーコル目の糸状菌は自然界に広く分布し、平素無害です。しかし、好中球減少症患者などの易感染患者においては、空気中に浮遊している胞子を吸入することで鼻腔や肺などに感染し、ムーコル症を引き起こすことがあります。血流、中枢神経系、眼窩、胃腸管、皮膚における感染もあり死因となることもあります20)。また、汚染された器具を介した感染の報告もあります21)。感染症例に対しては標準予防策を行います7)
3. Trichophyton属、Microsporum属、Epidermophyton
糸状菌であるTrichophyton属、Microsporum属、Epidermophyton属は、皮膚糸状菌症の原因で、小児から高齢者まで幅広い年齢層において頭部、体部、陰股部、足、手、爪における白癬をもたらします22)23)24)25)。接触によりヒトからヒトへ伝播する可能性があることに注意が必要です。
4. Coccidioides immitis
Coccidioides immitisは米国西南部と南米の乾燥地域の土壌に存在し、それらの地域の風土病であるコクシジオイデス症を起因する糸状菌です。土壌で菌糸状に発育して分節胞子を形成し、これが含まれる塵埃を吸入することによりヒトに感染します。ヒトに感染した場合の多くは無症候ですが、発症した場合はインフルエンザ様症状と紅斑を生じ、また肺に空洞を生じることもあります。さらに全身に広がると致死率の高い進行性全身性コクシジオイデス症に移行するため、危険性の高い真菌症と考えられています26)27)。日本にも輸入される可能性があるため、感染症法において四類感染症に指定されています。感染症例には標準予防策を行います7)
5. Pneumocystis jiroveci
Pneumocystis jiroveci(以前はPneumocystis carinii f. sp.hominis)はヒトにニューモシスティス・カリニ肺炎を起因する微生物で、AIDS患者や移植患者など易感染患者においては重篤な肺炎を引き起こすことがあります。形態学的に原虫であると考えられていましたが、現在では遺伝子研究により真菌に属すると分類されています。伝播様式について、多くのヒトが小児期に潜在感染し免疫力の低下により発症するという従来からの説と、成人感染症例は新規感染によるものであるとする最近の説があります。また伝播経路についても、環境が感染源であり環境からヒトへ伝播するのか、ヒトが感染源でありヒトからヒトへ伝播するのか、まだ明確となっていません28)29)

消毒薬感受性

酵母と糸状菌はともに真菌ですが、消毒薬に対する感受性が大きく異なります。

酵母の消毒薬感受性は、一般細菌とほぼ同様な場合が多く30)31)32)33)、通常、特別な消毒薬の選択を行う必要はありません。ノンクリティカル器具・表面の酵母を対象とした消毒には、熱水(80℃10分)、200~1000ppm次亜塩素酸ナトリウム、アルコール、0.1~0.2%塩化ベンザルコニウム、0.1~0.2%塩化ベンゼトニウム、0.1~0.2%塩酸アルキルジアミノエチルグリシンなどを用います。

糸状菌の消毒薬感受性は、菌種により様々ですが、その胞子が比較的強い消毒薬抵抗性を示す場合があります。滅菌法、グルタラールなどの高水準消毒薬は有効ですが34)、糸状菌を対象としたノンクリティカル器具・表面の消毒を行う場合には、熱水(80℃10分)、500~1000ppm次亜塩素酸ナトリウム、アルコールなどを選択します32)35)。低水準消毒薬は、糸状菌の種類や適用濃度により効力を示さない場合があり、アルコール、クレゾール石けん液やフェノールも糸状菌の種類や適用濃度によって長時間の接触を必要とする場合があります30)31)32)33)36)。ポビドンヨードはおおむね良好な効力を示します30)31)

おわりに

多くの酵母と糸状菌が自然界に広く分布しているため、病院においては免疫力の低下した患者などにおける真菌感染の予防に注意を払う必要があります。造血幹細胞移植病棟などにおいて特別な空調管理を行うことのみならず、一般病棟においても日常的に標準予防策を徹底することや空調設備の定期的なメンテナンス、環境表面の湿式清掃を行うことなどの基本的な対策も重要と思われます。

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