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Y's Letter
感染対策情報レター
2004/10/05

レンサ球菌・髄膜炎菌・百日咳菌


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Y’s Letter No.33
Published online 2004.10.05

はじめに

化膿レンサ球菌、髄膜炎菌、百日咳菌は、典型的には小児において特に問題となる市井感染症の起因菌です。気道分泌物の飛沫を介して伝播することが多く、病院内における集団感染も数多く報告されており、また敗血症や髄膜炎などを起因して死因となることもあるため、病院感染対策上の注意が必要です。今回はレンサ球菌、髄膜炎菌、百日咳菌について、病院感染対策の観点から述べます。

レンサ球菌

レンサ球菌(Streptococcus属)はグラム陽性球菌であり連鎖を形成します。血液寒天培地上での溶血性によりα溶血、β溶血、非(γ)溶血に分類され、また群抗原(Lancefield抗原)によりA~V抗原(I、Jは除く)および群抗原なしに分類されます1)

Streptococcus pyogenes (化膿レンサ球菌)

Streptococcus pyogenes(化膿レンサ球菌)はβ溶血性を示し、A抗原を有するため、A群レンサ球菌(Group A streptococci)とも呼ばれます。咽頭炎、丹素、膿痂疹、蜂巣炎、壊死性筋膜炎、また毒素を産生することによりしょう紅熱を起因し、糸球体腎炎、リウマチ熱に関連すると考えられています。また、化膿レンサ球菌は敗血症性ショックと多臓器不全を伴う劇症型A群レンサ球菌感染症(Streptococcal Toxic Shock Syndrome)を起因して死因となることもあります。この劇症型における激しい侵襲性と致死性から「人食いバクテリア」と俗称されることもありますが、典型的には小児における咽頭炎やしょう紅熱の原因であり、健常人の咽頭や皮膚などから検出される場合もあります1)2)3)。無症候性保菌者である医療従事者が手術部位集団感染を起因したという報告もあります4)

化膿レンサ球菌は咽喉や皮膚などに定着しますが、伝播予防策は標準予防策を基本に行い、咽頭炎、しょう紅熱、肺炎については飛沫予防策を考慮し、特に小児においては飛沫予防策を積極的に追加します。また被覆できない、あるいは滲出液の多い皮膚感染については接触予防策を追加します5)6)。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は感染症予防法における五類感染症の定点把握に、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は五類感染症の全数把握に指定されています。

Streptococcus agalactiae(B群レンサ球菌)

Streptococcus agalactiaeはβ溶血性を示し、B抗原を有するため、B群レンサ球菌(Group B streptococci)と呼ばれます。多くの健常人が胃腸管、生殖器に無症候性に保菌しますが、出産時に産婦から新生児に伝播して、時に敗血症、髄膜炎を起因します。また成人においても、尿路感染症や髄膜炎を起因することがあります1)2)7)。伝播予防策は標準予防策を基本に行います6)

Streptococcus pneumoniae (肺炎球菌)

Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)はα溶血性を示し、群抗原(Lancefield抗原)を有しない菌で、連鎖が短く双球菌状を形成します。しばしば健常人の上気道に常在しますが、高齢者において肺炎や小児において髄膜炎を起因します。詳しくはY’s Letter No. 12「肺炎球菌とインフルエンザ菌」を参照ください。

髄膜炎菌

髄膜炎菌(Neisseria meningitides)はグラム陰性の双球菌で、健常人が鼻咽腔に保菌する場合もあり、くしゃみなどの飛沫により伝播します。小児や易感染患者においては髄膜炎や敗血症などを起因し、時に死因となることがあります1)2)8)。また、病院内においても伝播し、病院感染としての肺炎や髄膜炎を発症させることもあります9)10)

伝播予防策は標準予防策に飛沫予防策を追加して行います5)6)。髄膜炎菌性髄膜炎は感染症予防法における五類感染症の全数把握に指定されています。日本においては、1970年以降年間届出が50例以下と少数ですが、海外、とくにアフリカにおいて罹患率が高く、ヨーロッパにおいても集団感染が発生しています11)

百日咳菌

百日咳菌(Bordetella pertussis)はグラム陰性桿菌で感染力が強く、飛沫により気道粘膜に伝播します。母体からの抗体を失った生後3ヶ月以降の乳幼児が特に感染しやすく、反復性咳嗽や急吸性笛声を伴う百日咳を発症し、体力を著しく消耗して肺炎を合併することもあります。なお、成人における診断されない百日咳菌感染やワクチン接種歴のある無症候の小児保菌者の存在が感染源として指摘されています1)2)12)。また、病院における集団感染も報告されています13)

伝播予防策は標準予防策に飛沫予防策を追加して行います5)6)。百日咳は感染症予防法における五類感染症の定点把握に指定されています。日本においては予防接種法の一類疾病として、小児に対する百日咳・ジフテリア・破傷風混合ワクチン(DaPTワクチン)の制度的接種が行われています。

病院感染予防策

化膿レンサ球菌、髄膜炎菌、百日咳菌は飛沫により伝播するため、伝播予防策として標準予防策に追加して飛沫予防策を行います。感染者が咳をした際などの飛沫は、最大で1m程度の範囲で落下しますので、これらの菌に感染あるいは感染の疑いのある症例には、個室隔離または集団隔離を行うか、ベッド間にパーティションを設置する、または2m以上ベッド間隔をとるなどの患者配置を行います。患者の1m以内に近づく場合はサージカルマスクを着用します5)6)

消毒薬感受性

レンサ球菌、髄膜炎菌、百日咳菌における消毒薬抵抗性については特に報告がありません。したがって、これらの細菌による感染症例が用いたノンクリティカル器具や環境表面を消毒する場合には、通常どおり、0.1~0.2%塩化ベンザルコニウム液、0.1~0.2%塩化ベンゼトニウム液、0.1~0.2%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン液などの低水準消毒薬、アルコール、200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液などの中水準消毒薬、熱水(80℃10分)などを用います。手指衛生やセミクリティカル器具の消毒についても、通常どおり行います。

おわりに

市井と同様、病院内においても、健常人である医療従事者や来院している患者が、化膿レンサ球菌、髄膜炎菌、百日咳菌などを無症候に保菌あるいは強い症状を伴わずに感染している場合があると考えられます1)3)12)。感染が判明している症例に対する飛沫予防策の実施は重要ですが、より広く日常的に、咳やくしゃみによる気道分泌物の飛沫について、それらの飛散による伝播をなるべく抑制するような配慮をすることも望ましいと思われます。特に小児や易感染患者に対しては、咳やくしゃみに直接曝露される可能性を減少するための配慮が望まれます。

<参考>

  1. 山西弘一、平松啓一編.
    標準微生物学,第8版.
    医学書院,東京,2002.
  2. 吉田眞一,柳雄介編.
    戸田新細菌学,改訂32版.
    南山堂,東京,2002.
  3. Cunningham MW:
    Pathogenesis of group A streptococcal infections.
    Clin Microbiol Rev 2000;13:470-511.
    http://cmr.asm.org/cgi/reprint/13/3/470.pdf
  4. Sherertz RJ, Bassetti S, Bassetti-Wyss B:
    “Cloud” health-care workers.
    Emerg Infect Dis 2001;7:241-244.
    http://www.cdc.gov/ncidod/eid/vol7no2/pdfs/sherertz.pdf
  5. 小林寬伊,吉倉廣,荒川宜親編集.
    エビデンスに基づいた感染制御(改訂2版)-第1集-基礎編.
    メヂカルフレンド社,東京,2003.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline/evidence.html
  6. 向野賢治訳, 小林寛伊監訳.
    病院における隔離予防策のためのCDC最新ガイドライン.
    メディカ出版,大阪,1996.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_kaigai/cdc/guideline/iso.html
  7. Berner R:
    Group B streptococci during pregnancy and infancy.
    Curr Opin Infect Dis 2002;15:307-313.

    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12015467&dopt=Abstract

  8. Balmer P, Miller E:
    Meningococcal disease: how to prevent and how to manage.
    Curr Opin Infect Dis 2002;15:275-281.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12015462&dopt=Abstract
  9. Rose HD, Lenz IE, Sheth NK:
    Meningococcal pneumonia – A source of nosocomial infection.
    Arch Intern Med 1981;141:575-577.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=6784686&dopt=Abstract
  10. Gehanno JF, Kohen-Couderc L, Lemeland JF, Leroy J:
    Nosocomial meningococcemia in a physician.
    Infect Control Hosp Epidemiol 1999;20:564-565.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=10466560&dopt=Abstract
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    東京都感染症マニュアル改訂版.
    東京都政策報道室都民の声部情報公開課,東京,2000.
  12. Heininger U:
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  13. 狩野孝之,大崎幸七,中野英二,沖本二郎:
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    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=10466560&dopt=Abstract
2004.10.05 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト