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Point
病院感染対策のポイント

第2章 感染起因微生物と予防策

No. 3 療養型病棟におけるMRSA予防策

療養型病棟にMRSA保菌患者が入院しました。どのような予防策を取ったらよいでしょうか?

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)はグラム陽性の球菌でヒトの皮膚、鼻腔、消化管などの常在菌であり、通常は健常人に害を及ぼさない弱毒菌です。ただし感染が成立した場合、皮膚化膿性疾患、肺炎、骨髄炎、慢性中耳炎、慢性副鼻腔炎などの化膿性感染の起因菌となり、また毒素を産生した場合には食中毒や毒素性ショック症候群を招くこともあります。病院内では患者・医療従事者・器具などとの接触を経由した伝播が問題となり、主に易感染患者において手術部位感染、血流感染、呼吸器感染、尿路感染など病院感染の起因菌となります。特にメチシリンやオキサシリンに耐性を持つMRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)の多くはバンコマイシンなど抗MRSA薬以外の抗菌薬に対して耐性を示すため、重度の基礎疾患を持つ症例において重篤な病院感染症に発展する場合があり、感染伝播の予防が必要です。

しかしながら易感染患者以外の多くの患者においては、鼻腔などにMRSAが定着してもただちに治療上の問題が発生するわけではありません。黄色ブドウ球菌がヒトの常在菌であること、MRSAの病原性は通常の黄色ブドウ球菌と同様であること、また市井においてもMRSAは散在することなどを考慮すると28)、MRSA保菌者に対してあまりにも過剰な隔離対策を行うことは合理的な医療といえず、保菌者に対して無用の苦痛を与えることにもなります。患者のクオリティーオブライフも考慮しつつ感染リスクの程度に応じた適切な対策を行うことが必要です。

療養型病棟や精神科病棟などにおいては患者に比較的良好な感染防御機能があり、また侵襲的な処置が行われる頻度も少ないため、MRSA感染の伝播リスクは小さいと考えられます。MRSAの鼻腔保菌者が判明しても、通常病室隔離を行う必要はありません29)。保菌者に対して特別な感染予防策を講ずる必要もなく、他の患者と同様、標準予防策を行えば通常十分と思われます。

なお、老人保健施設や特別養護老人ホームなどにおいてはMRSA感染の伝播リスクはさらに小さいと考えられます。通常特別な措置をとる必要はなく、保菌者に対して入居を制限したり隔離対策を行ったりする必要はないといわれています30)。ただしこれらの老人施設においても、血液、体液、分泌物、排泄物などはすべての入居者について感染性ありとして取り扱い、排泄や入浴の介助、褥瘡のケアなどを行う場合には手洗いが重要で、この意味で標準予防策に準じた感染対策を日常的に行うことが必要と思われます。

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