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病院感染対策のポイント

第2章 感染起因微生物と予防策

No. 4 一般病棟におけるMRSA予防策

呼吸器内科で患者の喀痰からMRSAが検出されました。どのような予防策を取ったらよいでしょうか?

一般病棟においては、病棟毎に患者の感染防御機能の状態、医療処置の内容、およびMRSA患者の排菌状態などMRSA感染の伝播リスクの度合いを考慮して、必要なMRSA対策を判断することとなります29)。また、患者からのMRSA検出状況を常時把握して日常的な対策が十分な効果を得ているか監視することも必要です。

MRSAが純培養的に、または優位に分離され臨床症状を有する場合をMRSA感染症とみなします。そうでない場合はMRSA保菌者と考えます。

高血圧や高脂血症など慢性疾患の非侵襲的治療を行う病棟においては患者にある程度の感染防御能があり、また手術創や挿管部位など感染しやすい要因を有する症例も少ないため、MRSA感染の伝播リスクは比較的小さいと考えられます。一方、同じ内科病棟でも比較的重度の糖尿病、呼吸器疾患、腎不全、肝疾患、心不全などの基礎疾患を持つ症例や外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、小児科などの患者においては、感染防御機能が低下している場合があり、手術創、血管内留置カテーテル、尿路カテーテル、気管内挿管など感染しやすい要因を有する症例も多いため、MRSA感染の伝播リスクは比較的大きいと考えられます。

MRSA感染の既往がある症例や入退院歴の多い症例については受け入れ時にMRSAの鼻腔保菌検査を行い、保菌患者の病室隔離(集団隔離も可)と除菌を行うとする厳しいガイドラインも英国に存在します29)。しかしながら、現実的には病室隔離を行うことは困難な場合が多く、また、そもそも接触予防策において病室隔離はそれ自体が多くの効果を持つ伝播予防策であるわけではなく、もっぱらバリアプリコーションを容易に実施するための患者配置上の方策であると考えられます。接触予防策においてはまずバリアプリコーションを的確に行うことが肝要であり、特に排菌が多い場合、気道感染がある場合など汚染を拡散する症例の場合を除き、病室隔離を必須とする必然性はないと思われます。

いずれの場合にもMRSA感染リスクのある患者が存在する病棟においては、MRSA保菌患者・感染症例からの排菌による汚染の疑われる範囲において必要に応じ、標準予防策に加えて接触予防策に準じたバリアプリコーションを行います。つまりMRSAの排菌が疑われる症例に直接接触する場合および寝衣、寝具、ベッド柵など汚染の疑われる範囲に接触する場合には手袋を着用し、処置後手袋をはずして手洗いを行います。また体位交換や全身清拭などで濃密に接触する場合にはガウンを着用します。ノンクリティカル器具はなるべく患者専用とし、他の患者と共用する場合には低~中水準消毒を行います。

喀痰検体からMRSAが検出されてもMRSA感染であるかどうかは慎重に診断する必要がありますが、臨床症状を有しMRSAが純培養的に、あるいは優位に分離された場合、咳に伴う飛沫によってMRSAを排菌する可能性に注意が必要です。MRSAによる呼吸器感染があり、かつ気管切開を受けている症例や広範囲で重度の熱傷・褥瘡にMRSA感染のある症例は特に排菌が多く汚染を拡散するので、積極的に病室隔離を行い標準予防策に加えて接触予防策を厳密に行います。つまり、前述の手袋着用と手洗いなどによるバリアプリコーションを患者周辺のさらに広い範囲に拡大して行います。気道吸引を行う場合には手袋に加えてマスクを着用します。また、ベッド柵、ベッドテーブル、床頭台、点滴支柱、松葉杖、車椅子など、また場合によりドアノブ、水道の栓、洗面台など患者が頻繁に接触する周辺物品・環境の表面は、日常的な清拭清掃において念のため1日1回程度低水準消毒薬入り洗浄剤またはアルコールを用いて清拭清掃します。なお、通常ノンクリティカル表面に用いる消毒薬(0.1~0.2%塩化ベンザルコニウム液、0.1~0.2%塩化ベンゼトニウム液、0.1~0.2%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン液、アルコール、場合により200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液)はMRSAを含む黄色ブドウ球菌に有効です7)

日本においてムピロシンによる鼻腔保菌の除菌は、易感染患者またはそれに関連する患者・医療従事者のみに適用が認可されています。ムピロシンの濫用はムピロシン耐性を招くおそれがあるため、その適用には配慮が必要といわれています31)。MRSA保菌者に対するバンコマイシンの予防的投与についてもバンコマイシン耐性の発現を防止するため行うべきではありません32、33)

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