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病院感染対策のポイント

第2章 感染起因微生物と予防策

No. 6 MRSA集団感染時の対策

消化器外科において手術部位のMRSA感染が多発しています。どのような対策を行うべきでしょうか?

手術部位感染に関与する事項として患者の基礎疾患、手術の手技分類、抗菌薬の予防的投与などの要素がありますが、ここでは主に術前術後の病棟における予防策について述べます。

厳密なMRSA対策の必要性は感染リスクの度合いに応じて変化しますが、病棟内でMRSAの保菌のみならず感染が集団発生している場合、つまり感染伝播の予防と同時に感染症の制圧が必要な場合には1)、MRSA保菌患者・感染症例に対して接触予防策を行い、その他の患者についても通常より厳密な標準予防策を行うことを考慮します29、35)(表6)。またMRSA感染集団発生時には、まず医療従事者自身の保菌が感染源になっていないかチェックすることも重要です。英国のガイドラインは29)、集団発生が継続している場合に医療従事者の鼻咽喉のみならず会陰・鼠径部も含めた徹底的なスクリーニングを行うという厳密な対策を勧告しています。スクリーニングを行っても、保菌医療従事者を業務からはずすことは現実的に困難であり合理的とも思われませんが、必要に応じて除菌を試みることや、処置前の手洗いをした後、処置が終わるまで自らの顔などに手を触れないよう改めて注意を喚起することが有益と思われます。

表6 厳密な標準予防策(追加事項)

予防策の種類 手洗い ノンクリティカル器具の清拭・洗浄 頻繁に接触する周辺物品・環境の清拭・清掃
標準予防策(易感染患者の多い病棟、MRSA蔓延時など病院毎に定める場合において追加) 処置の種類を問わず処置を行う前 複数の患者に直接接触する聴診器の先端部などはアルコールで清拭する 場合により、ドアノブなど多人数が頻繁に接触する部分をアルコール清拭することもある

必要な場合にはMRSA保菌患者・感染症例を個室隔離または集団隔離しますが、手術部位のMRSA感染においては患者本人の保菌するMRSAが何らかの経路で手術創に伝播して感染の起因となる可能性もあり、また特定のMRSA保菌患者・感染症例が排菌したMRSAにより直接的に手術部位感染が集団発生したとする明確な根拠はまだ示されていません。したがって病室隔離によって患者間におけるMRSAの直接伝播を防止するという考え方ではなく、接触予防策としての的確なバリアプリコーションにより医療従事者の手指や器具などを介したMRSAの伝播を防止することが肝要です(No.4No.5を参照)。また同一患者における処置においても、汚染の恐れがある部位を処置した後に手術創など感染しやすい部位の処置を行う場合には、手洗いと手袋の着用・交換が日常的に必要です。

MRSA感染の集団発生時には、MRSA保菌患者・感染症例とその周辺環境において接触予防策を実施するのみならず、病棟全体においても手洗いの励行について改めて徹底を行い、処置の種類を問わず処置前の手洗いを行うこととします。歩行できる患者や面会者には入退室時の手洗いを依頼します。また、複数の患者に直接接触する聴診器の先端部などは保菌者に使用していない場合でもその都度アルコールで清拭します。多人数が頻繁に接触する病棟内のドアノブなどをアルコールで清拭することもあり、水道の栓に非接触式の自動活栓を導入できれば理想的です。また病棟内の清掃がマニュアルどおり行われているか、何か特定の感染源が見落とされていないか点検を行います。

これらの比較的厳密な対策を広く日常的に実施している医療機関も存在しますが、個々の対策については明確な必要性を示す臨床的研究があるわけでなく、ガイドラインや文献によりその必要性についてのニュアンスが異なります。したがってMRSA感染率がどの程度である場合に、どの程度厳密な対策を行うかは病院毎の判断にゆだねられています。しかしいずれの場合においても、感染対策が効果をあげているか確認するためにMRSA感染の発生率を継続的に監視する必要があります。できれば日頃からJNIS(CDCのNNISシステムの日本版)などの方式に準拠して手術部位感染サーベイランスを行い、病棟内の感染率の経時的推移を把握するのみならず、リスクインデックスを考慮した平均的な感染率との客観的な比較を実施することが望まれます36)。サーベイランス結果をフィードバックすることが術者を含めたスタッフの意識を高めるのみならず、新たに改善された感染対策を実施するための契機となることで感染対策全般が良好に機能し、感染率を低めるという例も観察されています37)

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