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病院感染対策のポイント

第2章 感染起因微生物と予防策

No. 7 緑膿菌などに対する予防策

呼吸器外科において継続的に複数の患者の喀痰から緑膿菌が検出されています。どのような予防策を取ったらよいでしょうか。

緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)はブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌で自然界にも広く分布しますが、医療機関内での検出頻度も高く、もっぱら洗面台、浴室、花瓶、洗浄器などの湿潤環境から検出されます。緑膿菌は栄養の少ない精製水中でも増殖が可能で、加湿器、ネブライザー、保育器、人工呼吸器などに使用中の滅菌精製水から検出されることがあり、またメンテナンスの不適切な滅菌水生成装置からの精製水においても検出されます。消毒薬に対しても抵抗性を持つ株が存在し、低水準消毒薬を含む薬剤の汚染による感染の報告もあります38)。健常人からはあまり検出されませんが、抗菌薬や免疫抑制剤の投与を受けている入院患者には容易に菌が定着し常在細菌叢中から検出されるようになります。

健常人にはほとんど病原性がありませんが、易感染患者においては感染症を引き起こす場合があり、MRSAと同様に重大な病院感染起因菌です39)。慢性化した感染創によくみられ、気管切開症例において肺炎・気管支炎などの呼吸器感染症、尿路カテーテル留置症例において尿路感染症の発生頻度が高く、また、深部手術部位感染、熱傷など広範囲な創傷面での創傷感染も引き起こし、血中に侵入した場合には菌血症から重篤な敗血症に発展することもあります40)。喀痰から緑膿菌が検出されても直ちに感染を意味するものではありませんが、呼吸器系疾患のある症例や呼吸器系装置をつけた重症例においては肺炎に発展する可能性があり、また緑膿菌が創傷、炎症部位、粘膜などから血流内に侵入して菌血症にいたる場合があるため、注意して経過を観察し必要に応じて治療を行うとともに日常的に伝播予防策を行うことが必要です。緑膿菌は多くの抗菌薬に耐性を持つ場合があり、菌交代現象により内因性感染を起こし難治性となることがあるので、抗菌薬投与法にも注意が必要です。

緑膿菌感染症例に対しては標準予防策を適用すれば通常十分であり、聴診器などノンクリティカル器具の乾燥表面を経由した接触伝播はあまり問題となりません。ただし湿潤した器具を経由した伝播の可能性は高く注意が必要であり、接触予防策に準じた注意が必要な場合もあります。

緑膿菌は病院内の湿潤環境に広く分布していると思われ、日常的な場面において医療従事者の手指を介して湿潤環境から患者や薬剤に伝播する可能性があります。したがってすべての患者について侵襲的処置をする前に、特にカテーテルの挿入や輸液ルートの操作などを行う前に、医療従事者が手洗いを行いかつ手袋を着用することが常に重要です。洗面台で流水による手洗いをした場合にはペーパータオルでふき取り、水道の栓はそのタオルで閉めます。自動活栓を設置できれば理想的です(表7)。共用の布タオルを使用するべきではありません。

表7 標準予防策としての親水性のグラム陰性菌予防策

予防策の種類 手洗い 輸液、セミクリティカル器具、加湿水など 湿潤なノンクリティカル器具・物品・環境の清拭・洗浄・清掃
標準予防策(主に親水性のグラム陰性菌を考慮した部分) 流水による手洗いをした場合にはペーパータオルでふき取り、水道の栓はそのタオルで閉める ・輸液などの薬剤は衛生的に取り扱い、原則として単回使用とし患者間で共用しない
 
・ネブライザー、加湿器、人工呼吸器など呼吸器系装置の消毒・滅菌や加湿水の交換を頻繁に行う
 
・喀痰吸引カテーテルは原則としてその都度使い捨てとする
・病院毎に定める方法で清拭・洗浄・清掃する
 
・消毒する場合には熱水または中水準消毒薬を用いる

また同じく常に重要な事項として、輸液などの薬剤は衛生的に取り扱い、原則として単回使用とし、患者間での共用を避けます。気管支内視鏡は緑膿菌のみならず結核菌なども考慮した高水準消毒を行います。ネブライザー、加湿器、人工呼吸器など呼吸器系装置においては蛇管・配管・加湿水タンクなどの消毒・滅菌と加湿水の交換を頻繁に行います。ネブライザーや加湿器の湿気・水分が通過・貯留する部分は少なくとも、熱水(80℃10分)、次亜塩素酸ナトリウム(100ppm、1時間浸漬)、場合により消毒用エタノールを用いて頻繁に消毒し、患者間においては原則として高水準消毒または滅菌を行います7、41)。喀痰吸引カテーテルはその都度使い捨てとすることが原則であり、洗浄水も1日に2回以上交換します。やむなく同一患者において再利用する場合には洗浄水や消毒薬入り保存水を頻繁に交換します。食器、リネンなどは通常どおり熱水による洗浄・洗濯を行い乾燥させれば問題ありません。移植患者など極めて易感染状態にある症例の使用する洗面用具は定期的に消毒します。

床や患者周辺など乾燥環境を経由した緑膿菌の伝播はあまり問題となりませんが、日常的な清掃により洗面台や浴槽など湿潤環境の清潔を保つことが重要です。創傷やカテーテル挿入のある患者を入浴させる場合には浴槽の消毒薬を用いた洗浄を行うこともあります。ただし、緑膿菌は院内の湿潤環境に常在するので、これらをすべて除去しようとすることは不可能であり、また合理的な感染対策とはなりません。上述のような手洗いを中心とした予防策を標準予防策として確立し日常的に励行することが必要です。

湿潤環境に存在する病院感染起因菌としては、緑膿菌の他に、同じくブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌であるBurkholderia cepacia(セパシア)42)Stenotrophomonas maltophilia43)Acinetobacter baumannii44)Ralstonia pickettii45)Chryseobacterium meningosepticum46)Achromobacter xylosoxidans47)などがあります。また腸内細菌科に属するSerratia marcescens(セラチア)も同様に湿潤環境に存在し病院感染の原因となります。これらの細菌は感染源、感染経路、抗菌薬耐性などにおいて類似した性格を持っており、これらブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌とセラチアを総称して親水性のグラム陰性菌(hydrophilic gram-negative bacteria)と呼ぶこともあります48)。親水性のグラム陰性菌は低水準消毒薬に抵抗性を示す場合がある点で注意が必要であり2)、湿潤なノンクリティカル器具・物品・環境を消毒する必要がある場合には熱水(80℃10分)、アルコール、場合により200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液などを用います7)。

米国の消毒ガイドライン6)は、抗菌薬耐性菌の消毒薬感受性は抗菌薬感受性菌の消毒薬感受性と大きな差異はなく、特別な消毒法を適用する必要はないとしています。これは主にMRSAなどグラム陽性菌について述べられたもので、親水性グラム陰性菌がかなり強い消毒薬抵抗性を持つと同時に多剤耐性も示す場合があることについては補足して理解する必要があると思われます。

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