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病院感染対策のポイント

第2章 感染起因微生物と予防策

No. 9 結核に対する予防策 -空気予防策-

入院患者のなかに肺結核の疑われる症例が発生しました。どのような予防策を取ったらよいでしょうか?

(2006.12.13追記)
*2006年12月8日、改正感染症法が公布されました。詳しくはこちらを参照ください。

結核は結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって世界的に流行を続けている市井感染です。また病院感染(職業感染を含む)としても問題になっています。抗結核菌薬の発達により死亡率は歴史的に激減しましたが、高齢者や易感染患者においては重症化しやすい重大な感染症であり、現在でも注目すべき死因のひとつです。高齢化の進展やホームレス、外国人居住者の増加などを背景に、長年低下を続けてきた結核罹患率が反転上昇する場合もあることが日本を含む先進国において近年観察され、再興感染症のひとつといわれています49、50)。発展途上国や都市貧困層においては不十分な抗結核菌薬療法により多剤耐性結核菌(MDR-TB)感染となって難治化する例が問題となっており、多剤併用と直接観察療法(DOTS)が提唱されています51)。結核菌は活動性肺結核や咽喉結核の患者が咳などに伴い排出する飛沫核により伝播し、集団施設、特に老人施設や病院において集団発生し重大な事態に発展することがあるため、施設内・病院内における伝播を予防する必要があります。結核の病院感染を予防するためには、排菌患者を早期に発見し日常的な標準予防策に加えて空気予防策を行うことが必要です。

結核菌は飛沫核として長時間空気中を浮遊し広範囲に及ぶ可能性があるので空気予防策が必要となります(表9)。一般病院において排菌が疑われる症例を見出した場合は陰圧管理された個室に隔離を行い3)、陰圧管理された病室がない場合には通常の個室に隔離し、扉を常に閉じて窓を開けておくようにします1)。また直ちに胸部X線検査や喀痰の結核菌検査により診断を行い、結核と診断されれば2日以内に保健所に届け(結核予防法52)を参照)、保健所と協議の上必要に応じて結核病棟などのある病院への転院措置をとります53)。患者が退室した直後は窓などを開放して外気を約1時間導入し、空気感染防御に配慮しつつ通常の退室時清掃を行います1)。空気を消毒する目的で消毒薬の噴霧を行ってはなりません7)。結核病室として陰圧管理された病室からはHEPAフィルターを経由して排気を行い、6~12回/時の換気回数を確保します1)。なお大気中に放出された空気は直ちに吸気口から還流しないかぎり拡散し周辺環境への影響はなくなります54、55)。隔離病室に入室する医療従事者と面会者はタイプN95微粒子用マスクを着用し、患者が室外に出る場合は外科用マスクなどろ過効率の高いマスクを着用させます1)。その他の点ではほとんど通常の標準予防策を行うことで十分であるといわれ、特別な環境消毒などの必要はありません。なお、入院患者が結核と診断された場合、その症例の排菌状況や入院期間などを考慮し保健所と協議の上、感染リスクに応じて病院内で一定期間近接した人々のツベルクリン反応検査と胸部X線検査を実施し、場合によっては抗結核薬の予防的投与を考慮することがあります53)。

表9 空気予防策のポイント

予防策の種類 病室隔離 マスクの着用
空気予防策 ・陰圧管理された個室に隔離を行い、陰圧管理された病室がない場合には通常の個室に隔離し扉を常に閉じ、窓を開放しておく
・場合により転院などの措置をとる
・隔離病室に入室する医療従事者と面会者はタイプN95微粒子用マスクを着用する
・患者が室外に出る場合は外科用マスクなどろ過効率の高いマスクを着用させる

気管支内視鏡や気道粘膜に接触する器具・薬剤を経由した結核菌の伝播も報告されています56、57)。これらセミクリティカル器具の高水準消毒や薬剤の衛生管理は結核症例に使用したかどうかにかかわらず日常的に重要な標準予防策です。気管支内視鏡など結核菌による汚染の潜在的可能性があるセミクリティカル器具の高水準消毒においては、結核菌に有効な接触時間(2%グルタラールで20分以上)が一般的な消毒時間(同10分)よりも長いことに対する留意が日常的に必要です7)。ネブライザーなど呼吸器系装置は他の患者に使用する前に滅菌または高水準消毒を行うことが原則ですが41)、結核症例の用いた呼吸器系装置については特に注意が必要です。ノンクリティカル器具や物品・環境表面を経由した結核菌の集団発生は報告されておらず特別な消毒の必要はありませんが、喀痰検査陽性症例の喀痰などで物品が高度に汚染された場合など消毒を行う場合には熱水(80℃10分)、アルコール、0.5~1%クレゾール石ケン液(排水中濃度規制があることに注意)、0.2~0.5%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、1,000ppm以上の次亜塩素酸ナトリウム(低濃度では無効)の中で消毒対象物に適したものを用い十分な接触時間をとります。結核菌は脂質に富む細胞壁に囲まれており消毒薬抵抗性が強いので、消毒が必要な場合には結核菌に対する有効性に注意して消毒薬とその濃度を選択します。

結核の予防方法としては、排菌患者に対する空気予防策のみならず、排菌者を早期に発見することが重要です。2週間以上に及ぶ咳や痰の症状がある場合には、胸部X線検査や喀痰の結核菌検査を行います。また日常的に多くの患者と接する医療従事者は一般人よりも相対的に結核罹患率が高く、職業感染の早期発見をするとともに医療従事者から患者への病院感染を予防するため定期的な胸部X線検査を受ける必要があります。ツベルクリン反応検査やBCG接種についてはNOTE 2を参照ください。

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