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病院感染対策のポイント

第2章 感染起因微生物と予防策

No. 10 血中ウイルスに対する予防策 -血液に対する標準予防策-

ある患者がHBe抗原陽性と判明しました。職業感染予防を含めどのような予防策を取ったらよいでしょうか?

B型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus:HBV)は、C型肝炎ウイルス(Hepatitis C Virus:HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immuno-deficiency Virus:HIV)などと同様、主に血液を介して伝播する血中ウイルスであり、職業感染を含む重大な病院感染の起因微生物として重要なウイルスです。特にHBe抗原陽性の血液は感染性が高く、針刺し事故など経皮的曝露の場合の感染危険率は少なくとも30%といわれています。HBe抗原陰性血でもHBs抗原陽性血の場合には感染性の潜在的な危険が存在します。HBVに比べHCVとHIVの感染力は弱く、針刺し事故など経皮的曝露の場合、感染危険率はHCVで平均1.7~1.8%、HIVで平均0.3%などといわれています58)。血中ウイルスは針刺しのみならず粘膜への曝露によっても伝播することがあります。血中ウイルスによる病院感染を予防するためには、血液・体液などに対する標準予防策を常に遵守することと、針刺しなど曝露事故防止のための諸施策を日常的に行うことが必要です。

血液などに対する標準予防策は、当初ユニバーサルプリコーションと呼ばれましたが、これは血中ウイルスキャリアであるかどうかにかかわらず、すべての患者についてキャリアであるとみなして予防策を行うという普遍的原則であり、キャリア入院の有無などにかかわらず日常的に実施する必要があります1、3、59、60)。日本にはHBVキャリアが120~140万人、HCVキャリアが100~200万人いると推定されており61)、HIVキャリアの累積報告数は2002年3月末現在全国で1万人に及びませんが増加を続けています62)。また、血中ウイルス感染においては感染成立から免疫学的検査などの結果が陽性となるまでのウインドウ期間があり、その期間中のキャリアは検査を行っても識別することができないため、全例検査が行われている場合でも標準予防策は必要です。

内視鏡または注射針と麻酔薬の再利用を介した血中ウイルスの伝播が報告されています63、64)。内視鏡検査の前に血中ウイルス検査を行い陽性症例に使用した器具には特別な消毒方法をとるケースも見られますが、これは血液などに対する普遍的な予防策の原則に反した二重基準(Double Standard)となります6)。セミクリティカル器具をすべての患者について高水準消毒または滅菌することは医療の質を高めるための重要な課題です。使用した手術器械などクリティカル器具は、穿刺事故を防ぐため敢えて一次消毒作業を行わず、専用コンテナにいれて滅菌部門に搬送する方式とすることが望まれます。滅菌部門ではできれば超音波洗浄を組み込んだウォッシャーディスインフェクターで93℃10分間の洗浄を行い、感染性をほとんど除去してから滅菌作業を行います。なお英国においてはウォッシャーディスインフェクターによる90℃12秒の清浄化も標準的な清浄化法のひとつとされています65)

ノンクリティカル器具・物品・環境が血液などで汚染された場合には、HCV、HIVよりも抵抗性が強いと思われるHBVを念頭に、熱水(98℃ 6分、多くの場合は80℃での10分洗浄でも可)、念入りな清拭・洗浄後1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液(清拭法はごく小範囲にのみ適用、食器・リネンは浸漬法、血液自体の消毒は5,000~10,000ppm)またはアルコールを用いて清浄化します。血中ウイルスはエンベロープのあるウイルスであり、以前考えられていたほどには消毒薬抵抗性が強くない可能性が高いと推測されています。いずれにせよこれらノンクリティカル表面に高水準消毒薬や滅菌法を用いることは、血液汚染があった場合でも原則として不要であり、また刺激性や毒性の強い消毒薬の環境への適用はなるべく避けなければなりません。

手指が血液などで汚染された場合には、流水による手洗いを行い速乾性手指消毒薬は仕上げとして用います。血液などへの接触が予測される場合には手袋を着用し、手袋をはずした後に手洗いを行います。また気管切開をICUや病棟で行う場合、血液などの飛沫を浴びる可能性のある処置を行う時にはマスクとゴーグルを着用します3)

 

針刺し事故防止については、いくつかのリキャップ方法が考案されましたが、リキャップを行わずそのまま注射筒ごと専用容器に廃棄することが最善の方法といわれています。専用廃棄容器を配置し、その感染性廃棄物としての適切な廃棄処理設備または処理業者を手配する必要があります。また針刺し事故については労働衛生上の観点から病院内での事故報告制度を確立し、統計的なデータによる裏づけのある事故防止管理を病院経営の一環として行うことが望まれます66)

血中ウイルス感染の予防方法としてはこのほかに、医療従事者に対するB型肝炎ワクチンの接種や曝露事故後の免疫グロブリンや抗ウイルス薬の予防的投与などがあります。NOTE 2を参照ください。

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