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病院感染対策のポイント

第3章 診療科別の予防策

No. 13 老人施設・在宅医療における感染対策

老人施設や在宅医療ではどのような感染対策が必要でしょうか?

老人保健施設や特別養護老人ホームなどにおいては、主にインフルエンザ、結核の施設内感染や食中毒、ノルウェー疥癬などが問題となっています。米国のガイドラインは89)、長期療養施設(long-term-care facility)においては、感染管理プログラム・感染管理体制・感染管理担当者・サーベイランスが必要であること、感染多発時の対応、ある一定の衛生設備、個室隔離、ユニバーサルプリコーション、手洗いの励行、居住者の衛生管理と結核検診・ワクチン接種、職員の結核検診・ワクチン接種と教育などが必要であると勧告しています。日本のガイドラインにおいても53、90)、これらとほぼ同様の観点からいくつかの事項が勧告されています。ここでは主に老人施設や在宅医療における標準予防策に準じた感染対策について述べますので、ワクチン接種などについてはNOTE 2を参照ください。

老人施設入居者の多くは病院の入院患者に比べて感染防御機能があり、MRSAや緑膿菌などが感染予防上の問題となる場合は病院と比較して少ないと思われます30)。また通常在宅医療に関与する家族などは健常人であり、MRSAや緑膿菌の健常人への伝播はほとんど問題となりません。しかしながら、患者の自宅や老人施設において行われる訪問診療や訪問看護、患者本人や家族などが行う在宅医療処置においては、その処置の種類により感染リスクに応じた予防策を病院におけるのと同等の厳密さで行う必要があります。特に、輸液、透析、呼吸器系装置、経管栄養、人工肛門、尿路カテーテル、褥瘡などが関連する医療処置においては感染リスクが高く注意が必要です。

老人施設においては血液、体液、分泌物、排泄物などはすべての入居者について感染性ありとして取り扱います。職員が医療処置を介助する場合の前後の手洗いはもちろん、排泄や入浴の介助などを行った後の手洗いも重要で、この意味で標準予防策に準じた感染対策を日常的に行うことが必要と思われます。また患者本人や家族が行う医療処置の場合も処置前の手洗いが重要です。ただし、老人施設や患者の自宅においては、複数の感染リスクの高い老人などが入居・生活している場合を除けば、病院のように近接して易感染者が存在するわけではなく、常に病院と同等の厳密さで予防策を行うと規定することは合理的と思われません。老人施設においても標準予防策に準じて手洗いを行うと規定する際には、軽微な接触による介助や握手など社交的な接触を行った場合にも常にただちに手を洗わなければならないという意味ではないと考えられます。ただし、訪問医師や訪問看護師などは複数の訪問先において医療処置を行いますので訪問毎に前後の手洗いを行う必要があります。複数の感染リスクの高い在宅医療受療者が入居・生活している場合には、これらの患者間で職員や家族の手指などを経由した感染伝播が発生しないようその範囲で病院に準じた対策が必要と思われます。欧米と同様日本においても侵襲的な在宅医療処置の普及が老人施設においても進みつつあり、感染対策において病院と老人施設の境界が不明確になりつつある側面もあります。

老人施設や患者の自宅においては、特別な病原微生物が問題となる場合を除き、日常的に居室環境を消毒する必要はなく、清掃を適切に行うことで通常十分であると思われます。ただし、老人施設においては給食による食中毒の予防に注意が必要であり、浴槽・トイレ・洗面台などの十分な清掃、定期的なリネンの洗濯、汚物の分別処理など日常的な衛生管理について施設毎に適切なマニュアルを定め実施する必要があります89)。なお、訪問診療、訪問看護などで多くの患者に共用される器具・物品は、その種類により病院におけるのと同等の厳密さでその都度消毒・清拭・洗浄を行います。

老人施設において入居者や職員に結核が発生した場合には、ただちに保健所と連携をとり居室隔離、入院、関係者の検診など必要な措置をとります53)。入居者にインフルエンザが発生した場合には、なるべく病院での方法を参考に居室隔離を行い、重症化する可能性のある場合などは病院への入院を手配します90)。また疥癬についてはノルウェー疥癬の場合に居室隔離が必要といわれています。疥癬はヒゼンダニの寄生によるもので、衰弱した高齢者などにおいては異常に増殖しノルウェー疥癬と呼ばれる重症で健常人への伝播力も持つ寄生虫症となるので、病院における感染対策の対象としても重要です91、92)。疥癬に対する感染対策は通常の予防策と重点の異なる部分がありますので、その詳細は他書93)を参照ください。

老人施設や患者の自宅においてどれほど厳密な予防策が必要であるかについては、未だ明確な根拠となるような研究はあまり行われておらず、各施設や在宅医療を指導する各医療機関の判断にゆだねられている事項が多く存在します。米国においては、在宅医療の普及により医療に関連する感染(Health-care-associated Infection)の総体が把握しにくくなっていることに関して、各地域の病院感染関係者も注意を払うべきであると指摘されています94)

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