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病院感染対策のポイント

第4章 処置部位別の予防策

No. 14 手術部位感染の予防策 -術前術後の手術部位処置-

術前術後の手術部位の処置はどのように行えばよいでしょうか? 

手術部位感染率は手術創の分類などさまざまなリスク要因によって大きく異なります。米国におけるデータによれば、1986~1996年の間にNNISに報告された593,344件の手術のうち15,523件で手術部位感染が発生し、手術患者における病院感染の38%を占め、その3分の2は切開創における感染であり、残りは臓器や体腔における感染であったとのことです11)。手術部位感染は重篤な場合手術患者の死因につながることもあり、重篤でない場合でも入院期間の延長と余計な医療費につながることは他の病院感染と同様です。手術部位感染の予防には抗菌薬の予防的投与、術中や術前、術後におけるさまざまな予防策などが関連しますが、ここでは主に除毛や手術野への生体消毒薬適用など手術部位の術前処置と切開創の術後ケアについて述べます。

米国のガイドラインは10、11)、剃毛の有無と方法、時期の違いによる手術部位感染率の変化に関する諸研究を参照し、手術部位あるいは周辺の体毛が手術の支障となる場合を除いて術前の除毛は行わず、除毛する場合には、手術直前に、なるべく電気クリッパを用いて除毛することが望ましいとしています。表15のとおり、(1)術前に剃毛を行うことは行わない場合より、(2)カミソリによる剃毛は電気クリッパによる除毛や脱毛剤による除毛より、(3)手術前日などの除毛は手術直前の除毛より、高い手術部位感染率と関連しています114)

表15 カミソリ、脱毛剤、クリッパ、電気クリッパによる剃毛、除毛、および剃毛しない場合の手術創感染率の比較

手術野剃毛方法 Seropian 115)*
(1971)
Cruse 116)*
(1980)
Alexander 117)*
(1983)
Olson 118)*
(1986)
カミソリ 5.6 2.5 5.8 2
 手術直前 3.1
 術前24時間以内 7.1
 術前24時間以前 20
脱毛剤 0.6
脱毛剤またはカミソリ 0.9
脱毛剤またはカミソリ 1.7** 2.9 1.0
電気クリッパ 1.4
剃毛せず 0.6 0.9

文献114より抜粋して引用
* 文献115は特殊な手術を除いた全症例、文献116、118は清潔手術、文献117は清潔および準清潔手術
** 恥毛のみクリッパにより除毛

米国のガイドライン10、11)は、術前のシャワー浴が手術部位感染率を低下させるという証拠はないが、手術部位の微生物コロニー数は減少するので、手術前夜に生体消毒薬を用いてシャワー浴または入浴をするよう患者に指示するとしています。日本においては、特に術前の全身洗浄に適用のある生体消毒薬は市販されていませんので、各医療機関の判断で術前の入浴に用いる洗浄剤を選択する必要があります。

手術直前の手術部位の皮膚には通常10%ポビドンヨード液、10%ポビドンヨードエタノール液、0.5%クロルヘキシジンエタノール液などの生体消毒薬を用います。手術部位の前処置や手術時手洗いにおいては一般に、皮膚上の通過菌のみならず皮脂腺などに存在する常在菌も可能な限り死滅させ、また生体消毒薬の抗菌作用が持続的に常在菌の再増殖を抑制することを期待しますが、生体消毒薬の選択により手術部位感染率が変化するという報告はまだ多くありません。生体消毒薬の選択においては微生物コロニー数の減少効果、持続効果などのほかに、過敏症などの副作用、刺激性なども考慮した判断が必要となります。

米国のガイドライン10、11)は、一時的に閉鎖した切開創は術後24~48時間の間は滅菌したドレッシングで被覆するとのみ勧告し、一時的に閉鎖した切開創を48時間以降も被覆するべきか否か、また手術創に被覆なしでシャワー浴または入浴する時期については勧告を定めないとしています。また術後の切開創をケアする場合には、手洗いを行い無菌的操作を行うとしています。日本では術後の手術部位周辺の皮膚はガーゼで被覆し10%ポビドンヨード液などの生体消毒薬を定期的に適用する方法と、サージカルフィルムにより抜糸まで被覆する方法が用いられています。

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