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病院感染対策のポイント

第3章 診療科別の予防策

NOTE2 ワクチンによる免疫化などについて

1.インフルエンザワクチン

WHOは65歳以上の高齢者、心臓・血管・肺・代謝・腎・免疫不全の慢性疾患のある高齢者、老人施設・障害者施設入居者、心・肺・腎・代謝異常・ヘモグロビン症・免疫不全の慢性疾病のある6ヵ月以上の小児・成人、およびハイリスク者に常時接する家族・友人・医療または介護従事者など、その他インフルエンザ予防を希望する一般人などに対してインフルエンザワクチン接種を勧告または推奨しています96)

日本においても高齢者に対する予防接種の有効性・安全性が研究され、2001年11月より二類疾病の予防接種として法定化されました82、97)。正確には、定期の予防接種を行う対象者は、「(1)65歳以上の者、および、(2)60歳以上65歳未満であって、心臓、じん臓もしくは呼吸器の機能又はヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害を有するものとして厚生労働省令に定めるもの」とされ、「二類疾病の予防接種は、主に個人予防目的のために行うものであることから、二類疾病の予防接種の対象者には予防接種を受けるように努める義務は課されておらず、対象者が接種を希望する場合にのみ接種を行うこととする」とされています。この改正はすべての高齢者を対象としたものですが、老人施設入居者に対して積極的に予防接種の機会を提供し、希望者に接種を行うことが望まれています90)。ただし、重篤な急性疾患患者には接種をしてはならず、卵などでアナフィラキシーショックを呈した既往歴のある人などには接種しません。なお、費用については一部公費負担制度も存在しています。

日本においては1962年から学童に対するインフルエンザワクチンの集団接種が行われていましたが、1994年に廃止されました。しかしながらその後の研究で、学童に集団接種が行われていた時期は高齢者のインフルエンザ肺炎による超過死亡率(excess mortality)が低下していたことが疫学的に示され98)、また主に幼児におけるインフルエンザ脳炎・脳症99)の予防としての幼児接種の意義も議論となっています。

医療従事者は日常的に多くの患者と接するため、インフルエンザを罹患する可能性とインフルエンザをハイリスク患者に伝播する可能性が高いと思われ、毎年積極的に予防接種を受けることが望まれます。英国の長期療養老人病院12施設による臨床研究では、医療従事者の61%がインフルエンザワクチン接種を受けたワクチン接種施設群は、患者の全死亡数とインフルエンザ様疾病数においてどちらも17%から10%への減少と関連したと報告されています100)。米国の1997年CDCガイドラインにおいても医療従事者のインフルエンザワクチン接種が強く勧告されており101)、英国においても2000年に政府による同様の勧告が公表されています102)

インフルエンザワクチンは通常A(H1N1)型、A(H3N2)型、B型の3種が混合されており、毎年直前に流行している抗原性系統を調査してワクチン製造に用いるウイルス株が見直されています。国際的にはWHO103)、国内においては国立感染症研究所104)によって流行状況の調査とワクチン株の選定が行われています。したがってワクチン接種は毎年インフルエンザ流行シーズンの前に行います。近年はインフルエンザ治療薬として抗インフルエンザウイルス薬が開発され認可されていますが、その予防的な投与についてはワクチン接種のできない場合に検討するとされています90、105)

2.BCGワクチンとツベルクリン反応

WHOは結核リスクの高い国々において新生児に1回のBCG接種を行うことを支持しています106)。日本においても乳幼児における1回のBCG接種が制度化されており、学童における再接種制度は2003年に廃止されました52、107)

日本においては長年BCG接種が普及していたため、ツベルクリン反応により結核の早期発見を行うことは、特に1960年以前に生まれた世代において困難です53)。米国の結核病院伝播予防ガイドライン54、55)は広範な人口におけるBCG接種を前提としておらず、参照する上ではこの点に注意が必要です。BCG接種をしていてもその予防効果は完全ではなく、通常免疫を発揮する既感染者であっても免疫力の低下により発病することがあります。またツベルクリン反応が陰性であっても結核でないと断定することはできません53)。医療従事者には定期胸部X線検査を受けるのみならず、自らの発病を早期に発見するための自覚を持つことが望まれます。

日本のガイドラインは53)、医療従事者の新規採用時には2回にわたるツベルクリン反応検査(二段階法)を行い、その結果、特に2回目(1~3週間後)の判定結果をその後の感染判定における重要なデータとして記録するとしています。また2回目の判定が陰性でBCG接種歴がない新規職員には積極的にBCG接種を行うとしています。ただし、BCG接種歴がありツベルクリン反応が陰性の新規職員については医療機関毎に接種の必要性を判断するとしています。米国のガイドラインは101)、薬剤耐性結核菌による感染リスクの特に高い場合において医療従事者にBCG接種を考慮するとしています。感染伝播の成立した可能性が高いと判断される状況では、抗結核菌薬の予防的投与を考慮します53)

3.B型肝炎ワクチン、免疫グロブリン、抗HIV薬

WHOは一般人に対して小児期にB型肝炎ワクチンの接種を行うことを勧告しています108)。日本においては主に母子感染予防の観点から任意接種として推進されています52)。医療従事者に対するB型肝炎ワクチンの接種は米国のガイドラインにおいて強く勧告されており101、109)、日本の医療機関においてもそれぞれの内規により推進されています。HCV、HIVのワクチンはまだありません。

針刺し事故などが発生した場合の事後予防的措置もあります。HBe抗原陽性血による事故が発生した場合、医療従事者に十分なHBs抗体価がなくHBs抗原陰性であれば、なるべく24時間以内に抗HBs人免疫グロブリン(HBIG)とB型肝炎ワクチンの投与を受けることを勧めます57)。HBe抗原陰性血の場合でもHBs抗原陽性血の場合には同様の措置を考慮します。HBs抗原陽性血による針刺し事故の場合、1週間以内に投与開始されたHBIG多数回投与の有効性はおよそ75%と推定されています58、110)。HCV抗体陽性血の場合には明確な事後予防策がなく、経過を観察しつつ抗ウイルス療法の開始を考慮します。HIV陽性血の場合には、血中のHIV濃度と曝露量により感染リスクを勘案し、副作用に関する本人の同意を十分得た場合に、抗HIV薬の予防的投与を行うとするガイドラインもあります110、111)

日米における一般人の免疫化に関する制度と米国における医療従事者の免疫化に関する勧告の概略を表14に示します。

表14 日本と米国における免疫化制度と勧告

対象疾病 日本:一般人 米国:一般人 米国:医療従事者
ジフテリア 小児(一類疾病) 小児 一般人と同様に推薦
破傷風 小児(一類疾病) 小児 一般人と同様に推薦
百日咳 小児(一類疾病) 小児 場合により推薦
麻疹(measles) 小児(一類疾病) 小児 強く推薦
流行性耳下腺炎(mumps) 小児 強く推薦
風疹(rubella) 小児(一類疾病) 小児 強く推薦
ポリオ 小児(一類疾病) 小児
日本脳炎 小児(一類疾病)
B型インフルエンザ菌 小児
B型肝炎
(母子感染予防において任意接種)
小児 強く推薦
BCG 小児(結核予防法) 場合により推薦
インフルエンザウイルス 高齢者(二類疾病) 高齢者 強く推薦
肺炎球菌 高齢者・小児 一般人と同様に推薦
水痘 小児 強く推薦
A型肝炎、髄膜炎菌、腸チフス、牛痘疹 場合により推薦

日本の予防接種法82)・結核予防法52)(2002年10月現在)、文献61、101、112、113より作成。
小児、高齢者などの記載は主な対象者を例示するもので、それら以外の対象者もある。詳細については文献原文を参照。

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