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病院感染対策のポイント

第4章 処置部位別の予防策

Summary (4) 生体消毒薬の役割と選択のまとめ

米国では消毒薬を、人体に適用する生体消毒薬(Antiseptics)と、人体には適用しない非生体消毒薬(Disinfectants)に区別しています。生体消毒薬には、患者の処置に用いる消毒薬と医療従事者の手指に用いるものがあります。日本においては同一の消毒薬が生体、非生体をまたがる複数の効能・効果、つまり適用部位について承認されている場合が多くあります。したがって複数の効能・効果が表示された消毒薬を効果的かつ安全に使い分けるために、各医療機関がさまざまな勧告に基づいて考慮の上、その種類と用途を選択する必要があります。

もっぱら生体消毒薬として使用するべき消毒薬として、クロルヘキシジン、ポビドンヨードなどがあります(表16)。またもっぱら非生体消毒薬として使用するべき消毒薬としては、生体に適用できないグルタラール、過酢酸、フタラールはもちろん、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、次亜塩素酸ナトリウム、クレゾール石ケンなどがあります。生体、非生体の両方において繁用するものとしては、アルコールがあります。また生体でない被消毒物の消毒においては熱水(80℃10分など)の使用をまず考慮します。このような分類をはずれて消毒薬を選択する場合には、欧米の臨床試験成績などを文献で知ることがあまりできないため、消毒薬選択の科学的な根拠を示すことが比較的困難となります。

表16 生体消毒薬と非生体消毒薬

消毒薬の分類 消毒薬の主な成分
主に生体に用いる消毒薬 クロルヘキシジン
ポビドンヨード
生体、非生体の両方に繁用する消毒薬 エタノール
イソプロパノール
主に非生体に用いる消毒薬 塩化ベンザルコニウム
塩化ベンゼトニウム
塩酸アルキルジアミノエチルグリシン
次亜塩素酸ナトリウム
クレゾール石ケン
非生体にのみ用いる消毒薬 グルタラール
過酢酸
フタラール
(熱水)

手術部位感染、血管内留置カテーテル関連感染、呼吸器系装置関連感染、尿路カテーテル関連尿路感染などの病院感染においては、他の患者、医療従事者、環境に由来する微生物による外因性感染のみならず、患者自身の常在菌が侵襲的処置に伴う部分的な感染防御機能の低下により感染起因菌となる内因性感染が大きな問題となります2)。したがってこれらの予防のために用いられる生体消毒薬には、皮膚上の通過菌のみならず皮脂腺などに存在する常在菌も可能な限り死滅させ、また生体消毒薬の抗菌作用が持続的に常在菌の再増殖を抑制することが期待されます。消毒に必要な接触時間(試験管内での殺菌時間)や有効な微生物の範囲の広さ(抗菌スペクトル)のみで選択することは早計な場合があり、ヒトの皮膚における微生物コロニー数の減少効果や持続効果および臨床的研究における感染率の減少を考慮して選択することが望まれます。また同時に過敏症などの副作用、刺激性などにも十分留意する必要があります。

生体消毒薬の効果に関する臨床的研究の成果はいまだ限られています。生体消毒薬の適用と選択について明確な根拠のある場合はそれほど多くありません。臨床に問題があると判明した場合にはその適用を取りやめるべきですが、適用してもしなくても感染率に変化は観察されていないが微生物コロニー数の減少効果が確認されているというような場合の判断は総合的に行う必要があります。新しい臨床的研究の成果や各ガイドラインの改訂を参照しつつ、各医療機関においてマニュアルの見直しを随時検討していく必要があります。

病院感染は主に病院内における外因性感染として論じられますが、他の患者や環境に由来する多剤耐性菌がいったん患者の鼻腔や腸管に定着してから内因的に感染を起因する場面も考慮する必要があります136)。また、患者が入院前から保菌していた常在菌による内因性感染の多くも医療処置や抗菌薬の投与に関連しますので、これも医療機関における感染制御上の大きな課題であるといえます。

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