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Y's Letter
感染対策情報レター
2005/02/17

スピロヘータとクラミジア


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Y’s Letter No.37
Published online 2005.02.17

はじめに

スピロヘータとクラミジアはどちらも寄生的な微生物で、一般細菌とは大きく異なる特徴を持ちます。感染症法においていくつかのスピロヘータ・クラミジア感染症が指定されています。通常これらの感染症は市井において発生しますが、感染症例からの伝播を予防することは医療施設においも必要です。以下これらの感染症について医療施設における感染予防対策の観点から述べます。

スピロヘータ

スピロヘータは繊細な螺旋状のグラム染色陰性の微生物ですが、生体外においては長時間生存しません。

1. 梅毒
梅毒はスピロヘータ科に属する梅毒トレポネーマ(Treponema Pallidum subspecies pallidum)が原因である感染症であり、感染症法において五類感染症の全数把握に指定されています。梅毒は性感染症(Sexually transmitted disease:STD)のひとつですが、透析や輸血などによる血液を介した感染やまれに器具や物品などからの感染もあるとされます1)2)3)。ただし針刺し事故による伝播の報告はなく、手術中において特別な血液曝露遮断策は不要です2)
一般に梅毒は性器に硬性下疳が見られる第 1 期、バラ疹が見られ血流により全身に移行する第 2 期、ゴム腫が見られる第 3 期、心血管系や中枢神経系に病変をきたす第 4 期に分類されますが、感染伝播性が高いのは第 1 期と第 2 期です4)。他の感染経路として梅毒トレポネーマに感染した妊婦の胎盤を介して胎児に感染する先天梅毒があり流産や死産を起こす原因となります5)。梅毒は発展途上国において多くの患者が発生していますが、先進国においても梅毒の集団発生により感染者数の上昇する場合があります4)6)。梅毒トレポネーマは生体外では1~2時間以上生存できず7)、感染症例に対しては標準予防策を適用します8)
2.回帰熱
回帰熱は一般にげっ歯類動物をリザーバー(保菌動物)としシラミやダニがベクター(媒介動物)となりヒトに感染するスピロヘータ感染症であり、感染症法の四類感染症に指定されています3)9)。回帰熱スピロヘータにはシラミがベクターとなるBorrelia recurrentisやその他ダニがベクターとなるBorrelia属16種以上があります9)10)11)。日本においては近年、患者発生報告はないものの、米国、アフリカなどで発生が報告されています10)11)12)。回帰熱は発熱期と無熱期を繰り返すことが臨床症状の特徴です2)3)10)。ヒトからヒトへの直接感染はありませんが、感染症例の血液には注意が必要であり、感染症例に対しては標準予防策を適用します2)8)。場合によりベクターとなるシラミやダニを駆除することも考慮します。
3.ライム病
ライム病はネズミやトリなどをリザーバーとし、ベクターであるマダニの咬着によってヒトに伝播される感染症で、感染症法の四類感染症に指定されています。ライム病を起因する主なスピロヘータはBorrelia burgdorferiB.gariniiB.afzeliであり13)、これらのBorrelia属は米国、欧州、アジアなどで見られます。ライム病は紅斑、発熱、髄膜炎、関節炎などを症状とします13)14)15)16)。ライム病はダニが咬着することで伝播するため、ヒトからヒトへの接触感染やリザーバーに直接接触することによる感染は成立しません17)。感染症例に対しては標準予防策を適用しますが8)、場合によりベクターとなるダニを駆除することも考慮します。
4.レプトスピラ症
レプトスピラ症は人畜共通のスピロヘータ感染症で、2003年に感染症法の四類感染症として指定されました。ヒトへの伝播は感染したネズミ、イヌ、ブタやウシなどの哺乳動物の尿に汚染された水や土壌に経皮的に接触すること、あるいは経口的に摂取することによって起こります3)18)。レプトスピラ症は発熱や頭痛、充血などの比較的軽い症状から黄疸と出血傾向を伴い、時に腎不全を起こす重症なものまで多様な症状を呈します18)。この重症型の黄疸出血性レプトスピラ症はWeil病とも呼ばれ、死亡率は5~15%になります18)。近年レプトスピラ症の集団発生はニカラグア、ブラジル、インド、アメリカなどで報告があり18)、日本においても散発的に発生が報告されています19)20)
レプトスピラ症を起因するスピロヘータにはLeptospira interrogansなどがあり、多数の血清型に分類され、日本においては秋季にみられるレプトスピラ症を地方病として秋疫(あきやみ)とも呼んでいます2)。レプトスピラ症スピロヘータは感染症例の尿や母乳から検出されますが、ヒトからヒトへの伝播はまれであり18)、感染症例に対しては標準予防策を適用します8)

クラミジア

クラミジアは宿主細胞内でしか増殖できないグラム染色陰性または不定の微生物で、特異な増殖環を持ちます。

1.オウム病
オウム病は人畜共通感染症であり、感染症法の四類感染症に指定されています。オウム病を起因するクラミジアは以前、Chlamydia psittaciと呼ばれていましたが、現在は再分類されChlamydophila psittaciと呼ばれるようになりました21)。オウム病は感染したトリの排泄物を吸入することやトリの呼吸器分泌物を介してヒトに伝播し、症状として肺炎、突然の発熱、悪寒、倦怠感などをもたらします22)。通常ヒトからヒトへの感染はないと言われ、感染症例には標準予防策を基本としますが、咳・喀痰の多い患者から医療従事者に伝播した可能性があるとの報告もあり注意が必要です23)
2.性器クラミジア感染症
性器クラミジア感染症は感染症法で五類感染症の定点把握に指定されている性感染症で、Chlamydia trachomatisを原因とします。性行為によって伝播し、排尿障害または頻尿、尿道炎、女性生殖器炎などを起こします24)25)。また産道感染によって新生児の眼や咽頭に感染し、間質性肺炎の原因ともなります25)。性行為によって伝播した多くの感染者が不顕性感染となるため24)、感染が拡大し公衆衛生上の重要な問題となっています。感染症例に対しては標準予防策を基本としますが、感染部位から手指やタオルを介して眼に伝播し角結膜炎をもたらすことにも注意が必要です。
3.クラミジア肺炎(オウム病を除く)
クラミジア肺炎は感染症法において五類感染症の定点把握に指定されています。感染症法ではクラミジアが起因する肺炎をクラミジア肺炎と分類しており(ただしオウム病を除く)、上述のChlamydia trachomatisによる肺炎も含まれますが、クラミジア肺炎の起因菌にはChlamydophila pneumoniae(以前はChlamydia pneumoniae)もあります21)Chlamydophila pneumoniaeは無徴候の不顕性感染から重篤な肺炎や気管支炎まで起因するクラミジアで、もっぱら抗体保有率の低い小児に感染しますが、多くの場合は無徴候または軽微な肺炎にとどまります26)27)28)。呼吸器を介してヒトからヒトへ飛沫伝播することに注意が必要ですが、成人の抗体保有率は高く、またChlamydia trachomatisのように眼や生殖器から感染する問題はありません。感染症例に対しては標準予防策を基本とします8)27)28)

消毒薬感受性

梅毒トレポネーマやChlamydia trachomatisの消毒薬や熱に対する感受性は高いと報告されているため2)7)30)31)32)33)、スピロヘータおよびクラミジアの消毒薬感受性は一般細菌と同様と考えられます。そのためこれらスピロヘータおよびクラミジアの感染症例が使用したノンクリティカル器具や環境表面を消毒する必要がある場合には通常通り、0.1~0.2%塩化ベンザルコニウム液、0.1~0.2%塩化ベンゼトニウム液、0.1~0.2%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン液などの低水準消毒薬、アルコールなどを使用します。リネン類は熱水(80℃10分間)や500ppm次亜塩素酸ナトリウム液に30分以上浸漬します2)。手指衛生やセミクリティカル器具の処置についても通常通りに行います。

おわりに

スピロヘータやクラミジアが、医療施設内の環境表面を介して接触伝播する機会はそれほど多くはないと考えられますが、これらの感染症例を含めて常に標準予防策を遵守することは肝要であり、またベクターとなり得るダニやシラミなどが存在しないよう環境・病室の行き届いた清掃を日常的に行うことも重要です。

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