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Y's Letter
感染対策情報レター
2005/08/29

新しい手術時手洗い方法について


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Y’s Letter Vol.2 No.3
Published online 2005.08.29

はじめに

手術時手洗いは、手指に付着する皮膚通過菌を極力除去し、さらに皮膚常在菌をも減少させ、できれば再増殖も抑えることを目的とし、手術中に手袋が破損した場合などの術野汚染リスクを軽減するための手洗いです1)。手術時手洗いの際のブラシの使用や手洗い時間などについては、近年さまざまな検討がされています。また、2005年2月に医療法の一部が改訂され2)、手術時手洗い設備について見直しが行われました。以下、手術時手洗いについて述べます。

手洗い方法について

以前は硬いブラシを用いた長時間の手術時手洗いが行われていましたが、硬いブラシにより皮膚が傷付き、そこに細菌が定着、増殖することで感染の危険が増すことから、現在では毛先のやわらかいブラシが多く使用されています3)。また、ブラシを使用しない揉み洗いでも十分な手洗い効果が得られるとの報告もあり4)5)、ブラシの使用は洗いにくいとされている指先のみに使用することで皮膚の損傷を最小限にする配慮を行っている施設もあります5)6)。手術時手洗いにかける時間も短くなる傾向にあり、米国外科学会(American College of Surgeons;ACS)では指先のみのブラッシングを併用した最低120秒間の手洗い法を推奨しています7)。具体的な最適手洗い時間については特に詳細な合意はありませんが、過度な手洗いによる手荒れを防ぐため、一般に2~6分間前後の手洗いが推奨されています3)8)9)10)11)

手術時手洗いに使用する消毒薬は、日本においては、4%クロルヘキシジンスクラブや7.5%ポビドンヨードスクラブなどが主に使用されていますが、クロルヘキシジンを配合した擦式アルコール製剤を併用することでさらに強い除菌効果や持続効果が望めることから、近年これらの消毒薬で十分な揉み洗いを行った後に擦式アルコール製剤を使用する手洗いが普及してきました8)9)12)13)14)

欧州では以前より擦式アルコール製剤が頻用され、石けんと流水による予備洗浄の後に擦式アルコール製剤による手指消毒が行われていました7)15)16)。近年、石けんと擦式アルコール製剤を用いた手術時手洗いの効果について、消毒薬を用いた従来のスクラブ式手洗いと手術部位感染率を比較したところ、両者の感染率に差が認められなかったとの報告がありました17)。このようなエビデンスに基づき、最近は日本においても、石けんと流水による予備洗浄の後に擦式アルコール製剤による手指消毒を行う方法が採用されつつあります18)

水道水の使用について

平成17年2日1日に医療法施行規則が改正され、第二十条第三号中の「滅菌手洗い」が「清潔な手洗い」へ改められ2)、この改正により、手術時手洗いにおける水道水の使用が認められるようになりました。手術時手洗いに使用する水は、諸外国においては昔から水道水を用いるのが一般的ですが、日本においては多くの施設で滅菌水が使用されています。これは医療法施行規則の手術室設備に関する記載に「滅菌手洗いの設備を付属して有しなければならない」と定められていたことによります19)。手洗い用滅菌水は塩素を含まないため、きちんとした設備管理を実施していないと微生物汚染を受けやすいことが指摘されており、実際に病院で使用されている滅菌水の検査において103~104cfu/mLの微生物が検出されたとの報告があります20)

手術時手洗いにおける滅菌水使用の必然性が無いことについては、近年いくつもの報告がされており、手術時手洗いにおいて水道水と滅菌水では手指の除菌効果に差はないとの結果が示されていました21)22)23)。これらのエビデンスから今回の医療法施行規則の改正が行われ、これにより国際的な標準と整合性のある手術時手洗いの体系が整備できるようになったといえます。また、滅菌水に関する管理費用が不要となることから、手術時手洗いに水道水を用いることはコスト削減効果をもたらすとも考えられます。

ただし、水道水を手術時手洗いに安全に使用する上では、水道法における水質検査基準に基づいて遊離残留塩素濃度や細菌汚染の定期的な検査を実施し、蛇口の清掃などを各施設の状況に応じて確実に行うことが前提となります24)25)。また、既存の滅菌水製造装置を十分適切に管理しながら手術時手洗いに滅菌水を使用し続けることも可能です。

おわりに

手術時手洗いは手術部位感染を防ぐための重要な要素のひとつです。各施設において、最新のエビデンスに基づいた手洗い方法、手洗い時間などのマニュアルを設定し、それを全員が的確に実行することが必要です。また、手術時手洗いに使用する水についても、各施設の状況に応じて管理マニュアルなどを作成し、的確な管理を行うことが必要です。

<参考>

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    改訂 消毒と滅菌のガイドライン.
    へるす出版,東京,2004.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_japan/guideline/syoguide.html
  2. 医療法施行規則の一部を改正する省令の施行について.
    医政発第0201004号厚生労働省医政局通知.
    平成17年2月1日
    http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/170221-n.pdf
  3. 小林寛伊、都築正和:
    ディスポ-ザブルブラシを用いた手術時手洗い方法.
    日本手術部医学会誌 1989;10(3):446-448.
  4. 情野弘子、安達 誠、遠藤みどり、ほか:
    ブラシを用いない術前手指消毒法の手技の確立とその評価―消毒効果と皮膚障害に関する検討―.
    三友堂病院医学雑誌 2004;4(1);17-24.
  5. 小林由美江、岩下ゆう子、寺内幸子:
    爪周囲にソフトブラシ使用と全面手揉み洗いとの細菌検出率の比較.
    成人看護Ⅰ 2001;32:166-168.
  6. 宇野彰子、秋葉由美、景山順子:
    手術時手洗いの検討―もみ洗い法を導入して―.
    日本手術医学会誌 2004;25(2):135-137.
  7. Larson EL:
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    Am J Infect Control 1995;23:251-269.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=7503437
  8. 小林寬伊編集:
    手術時手洗いのすべて.へるす出版,東京,2000.
  9. 小林寬伊、吉倉 廣、荒川宜親ほか編集:
    エビデンスに基づいた感染制御 第2集-実践編.
    メヂカルフレンド社,東京,2003.
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    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5116.pdf
  11. 小林寛伊、大久保憲、樋口道雄、ほか:
    短時間サージカルスクラッブの検討.
    日本手術医学会誌 13(3)458-463:1992.
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    Programme & Abstracts of 2nd International Congress of the Asia Pacific Society of Infection Control, March, 2004:103.
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  22. 高尾佳保里、山岸善文、根ヶ山清ほか:
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  23. 白石 正、仲川義人、長岡栄子:
    術前の手洗い水に関する細菌学的研究―滅菌水と水道水の比較―日本病院薬剤師会雑誌 2004;40(9):1133-1135.
  24. 水質基準に関する省令.
    厚生労働省令第101号.平成15年5月30日.
    http://wwwhourei.mhlw.go.jp/cgi-bin/t_docframe.cgi?MODE=hourei&DMODE=CONTENTS&SMODE=NORMAL&KEYWORD=&EFSNO=460
  25. 粕田晴之、堀田訓久、村石 修ほか:
    手術用手洗いは水道で.日本手術医学会誌 2003;24(3):195-196.
2005.08.29 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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