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Y's Letter
感染対策情報レター
2006/02/07

病院感染対策への介入とその効果-手指衛生-


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Y’s Letter Vol.2 No.9
Published online 2006.02.07

はじめに

手指衛生は病院感染対策において重要な対策の一つです。手指衛生への介入により遵守率が向上し、感染率が低下したというPittetらの報告(2000)1)を代表とする多くの報告により、その重要性は証明されています。今回、手指衛生遵守率を向上するための戦略および手指衛生への介入が感染率の低下につながったとする最近の報告について述べます。

手指衛生遵守率向上のための戦略2,3)

手指衛生の遵守率は報告によって異なりますが必ずしも高いとはいえません。手指衛生を遵守する上で障害となる因子としては、手指衛生用薬剤が皮膚に刺激を生じる、手指衛生用品にアクセスできない、医療従事者と患者の関係に妨げとなる、治療を優先する、手袋を着用している、忘れた、ガイドラインを知らない、手指衛生にあてる時間がない、仕事量が多く職員不足、手指衛生のガイドラインを遵守する科学的情報が不足しているなどが挙げられています2,3)。このような事から、手指衛生の遵守率を高めるためにはこれら障害となる要因を改善することが必要です。

手指衛生へのアクセスが容易であることや手荒れ対策をすることは手指衛生の遵守率を向上するための手法として重要です2-4)。アルコール製剤の設置または携帯用のアルコール製剤の使用には、手指衛生用品へのアクセスが容易になること、流水と石けんによる手洗いより手指衛生に要する時間が短縮できること、皮膚刺激性の低減できることなどの利点があります4)

また、手指衛生を遵守することによって感染率が低下した事例などの情報提供や、手袋を外した後には必ず手指衛生が必要であることなど手指衛生が必要な場面の指導など、医療従事者への教育も遵守率の向上に必要な介入です。その他、職員の増員・業務の合理化などにより職員に過度の繁忙を生じさせないことなど、様々な介入が手指衛生遵守率の向上のために必要と思われます。

手指衛生のへ介入と効果(最近の報告)

Pittetらの報告1)以降、最近においても、手指衛生遵守率向上のための介入を実施したことに伴い感染率が低下したことを観察した報告がいくつもあります(表)5-12)

表:手指衛生への介入と感染率の変化に関する最近の報告*
報告者
(文献発行年)
結果の概要
Lam BC5)
(2005)
手指衛生の教育により、患者接触前の手指衛生遵守率が40%から53%に上昇、また患者接触後の手指衛生遵守率が39%から59%に上昇。その結果、医療関連感染率は1000患者日数あたり11.3から6.2に減少。
Gordin FM6)
(2005)
0.3%トリクロサン含有石けんを用いた手指衛生からアルコール製剤に変更することで感染率が21%減少。
Rosenthal VD7)
(2005)
手指衛生の教育をすることで手指衛生遵守率が23.1%から64.5%に上昇し、感染率が1000患者日数あたり47.55から27.93に減少。
Zerr DM8)
(2005)
看護師および患者の家族に対して手指衛生について教育し、手指衛生の遵守率が62%から82%に上昇。またアルコール製剤の使用が4%から29%に増加。その結果、ロタウイルスによる感染が1000退院患者あたり5.9から2.2に減少。
Johnson PD9)
(2005)
使用しやすい箇所にクロルヘキシジンアルコール製剤を設置することで手指衛生遵守率が21%から42%に増加し、アルコール製剤の使用量が1000入院患者日数あたり5.7Lから28.6Lに増加。その他、患者間で使用される器具のアルコール消毒など全般的なMRSA感染対策を実施することにより、MRSAによる菌血症が57%減少。
Swoboda SM10)
(2005)
音声の出るディスペンサーによる手指衛生促進や手指衛生の自動モニタリングの介入を行うことにより、手指衛生遵守率が37%改善し、感染率が22%減少。その効果は介入後においても継続して続いていた。
Won SP11)
(2004)
様々な方法の手指衛生キャンペーンを実施することにより手指衛生遵守率が43%から80%に上昇し、1000患者日数あたりの感染者数が15.13から10.69に減少。
Hilburn J12)
(2003)
アルコール製剤を使用することにより、アルコール製剤を使用していない期間と比較して感染率が36.1%減少。
*1977~2000年までの研究結果については「医療現場における手指衛生のためのCDCガイドライン2,3)」にその概要が記載されていますので、そちらをご参照下さい。

これらの事例で行われた介入の多くは、医療従事者に対する手指衛生の教育とアルコール製剤の積極的使用でした。また患者の家族に対しても手指衛生の教育を行ったとする報告もあります8)。これらの事例で行われた教育は手指衛生の重要性や正しい手指衛生の手順などの説明であり、洗面台に正しい手指衛生の手順を表示した事例もあります。

このように手指衛生の改善に伴い感染率が低下したとする報告の多くにおいては、一つの介入ではなく様々な方法の介入を同時並行して行っています。また、教育も繰り返し継続的に行うことが重要と思われます。さらには、実際に遵守率が改善しているかをモニターし、その結果をフィードバックすること、また同時に病院感染サーベイランスにおいて感染率に変化があるかの検証を行い、その結果をフィードバックすることができれば最善と思われます。

おわりに

手指衛生の遵守率を向上するためには様々な介入を行う必要があります。その中でも教育や手指衛生をしやすい環境を構築することは特に重要な介入と思われます。その他、各施設において手指衛生遵守の障害となっている要因を見つけだし、それらを改善することも遵守率を高めるための有効な介入と思われます。

<参考>

  1. Pittet D, Hugonnet S, Harbarth S, et al.:
    Effectiveness of a hospital-wide programme to improve compliance with hand hygiene.Infection Control Programme.
    Lancet 2000;356:1307-1312.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?
    cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=11073019
    &query_hl=1&itool=pubmed_docsum
  2. CDC:
    Guideline for Hand Hygiene in Health-Care Settings.
    MMWR 2002;51(RR-16):1-45.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_kaigai/
    cdc/guideline/newhand.html
  3. 大久保憲訳、小林寛伊監訳.:
    医療現場における手指衛生のためのCDCガイドライン.
    メディカ出版, 大阪, 2003.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_kaigai/
    cdc/guideline/newhand.html
  4. Pittet D.:
    Compliance with hand disinfection and its impact on hospital-acquired infections.
    J Hosp Infect 2001;48:S40-46.

    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?
    cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=2301439
    &query_hl=23&itool=pubmed_docsum

  5. Lam BC, Lee J, Lau YL.:
    Hand hygiene practices in a neonatal intensive care unit: a multimodal intervention and impact on nosocomial infection.
    Pediatrics 2004;114:565-571.
    http://pediatrics.aappublications.org/cgi/reprint/114/5/e565
  6. Gordin FM, Schultz ME, Huber RA, et al.:
    Reduction in nosocomial transmission of drug-resistant bacteria after introduction of an alcohol-based handrub.
    Infect Control Hosp Epidemiol 2005;26:650-653.

    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?
    cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=16092747
    &query_hl=7&itool=pubmed_docsum

  7. Rosenthal VD, Guzman S, Safdar N.:
    Reduction in nosocomial infection with improved hand hygiene in intensive care units of a tertiary care hospital in Argentina.
    Am J Infect Control 2005;33:392-397.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?
    cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=16153485
    &query_hl=7&itool=pubmed_docsum
  8. Zerr DM, Allpress AL, Heath J, et al.:
    Decreasing hospital-associated rotavirus infection: a multidisciplinary hand hygiene campaign in a children’s hospital.
    Pediatr Infect Dis J 2005;24:397-403.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?
    cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=15876937
    &query_hl=11&itool=pubmed_docsum
  9. Johnson PD, Martin R, Burrell LJ, et al.:
    Efficacy of an alcohol/chlorhexidine hand hygiene program in a hospital with high rates of nosocomial methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) infection.
    Med J Aust 2005;183:509-514.

    http://www.mja.com.au/public/issues/183_10_211105/joh10507_fm.pdf

  10. Swoboda SM, Earsing K, Strauss K, et al.:
    Electronic monitoring and voice prompts improve hand hygiene and decrease nosocomial infections in an intermediate care unit.
    Crit Care Med 2004;32:358-363.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?
    cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=14758148
    &query_hl=3&itool=pubmed_docsum
  11. Won SP, Chou HC, Hsieh WS, et al.:
    Handwashing program for the prevention of nosocomial infections in a neonatal intensive care unit.
    Infect Control Hosp Epidemiol 2004;25:742-746.

    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?
    cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=15484798
    &query_hl=15&itool=pubmed_docsum

  12. Hilburn J, Hammond BS, Fendler EJ, et al.:
    Use of alcohol hand sanitizer as an infection control strategy in an acute care facility.
    Am J Infect Control 2003;31:109-116.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?
    cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=12665745
    &query_hl=13&itool=pubmed_DocSum
2006.02.07 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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