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Y's Letter
感染対策情報レター
2006/05/15

消毒・滅菌前の洗浄について


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Y’s Letter Vol.2 No.12
Published online 2006.05.15

はじめに

医療機関において医療器材を再生使用する際は、通常、その器材の感染リスクに応じて消毒や滅菌が行われています。消毒・滅菌処理を行う前には洗浄が行われますが、この洗浄が不十分である場合、消毒・滅菌の効果が十分得られない可能性があるため、消毒・滅菌処理前に適切な洗浄を行うことは重要な事項です。以下、医療器材の消毒・滅菌前の洗浄について述べます。

有機物などによる消毒・滅菌への影響

有機物などが付着した器材をそのまま消毒薬に浸漬すると、次亜塩素酸ナトリウムなど有機物に影響を受けやすい消毒薬において、殺菌効果が著しく低下する恐れがあります1)。また、消毒薬によっては、器材上の有機物などを凝固させてしまい、その後洗浄処理を行なっても十分に除去されない場合があります。特にグルタラールやフタラールなどの高水準消毒薬に、付着した有機物などを除去しないまま浸漬を行った場合には、後述のような機械洗浄を実施しても、凝固した有機物のほとんどが残存すると報告されています2)。滅菌処理を行う場合であっても同様に、有機物などが器材に凝固したままでは十分な滅菌が達成できない恐れがあります3)

いわゆる一次消毒は、主に病棟や処置室における医療従事者の感染の危険性を排除する目的で、使用した器材をそのまま、又は簡単な洗浄の後に消毒薬に浸漬してしまう方法です。しかし、この方法では器材に有機物などを凝固させてしまった上で、最終的な消毒・滅菌処理工程に送ることになる恐れがあります。また、高水準消毒薬ではなく凝固作用の弱い中~低水準消毒薬を使用した一次消毒の場合、十分な消毒効果が得られていない状態であるにもかかわらず、消毒されているという前提で器材が取り扱われることにつながり、かえって作業者を感染の危険にさらすことにもなります4)。したがって原則として一次消毒は避けるべきであり、現場での処理は汚染の飛散や職業感染の危険性もあることから、汚染された器材は、まず安全で適切な一時保管容器に入れ、洗浄・消毒・滅菌工程に送ることが合理的であると言えます3)5)。洗浄作業を中央化することにより、熟練した作業者による効率的な洗浄が実施され、器材の品質管理も有効におこなえます3)

有機物などによる器具への影響

器材への有機物などの凝固は、はさみが切れづらくなる、器材がスムーズに動かなくなるといった、器材の機能自体に不具合を生む原因ともなります。有機物などは乾燥すると落としづらくなり、また金属製の器材の場合、有機物との長時間の接触は錆発生の原因となります。そのため、付着した有機物などは乾燥する前に洗浄するか、すぐに洗浄できない場合は、有機物が乾燥しないよう予備洗浄用スプレーを使用することなどを考慮します3)

洗浄方法の種類

洗浄の方法には、浸漬洗浄、用手洗浄、機械洗浄があります。器材洗浄を行う際は、医療器材の材質や特徴などを考慮して、これらの洗浄方法から適切な方法を選択します。

1. 浸漬洗浄

酵素系洗浄剤などへ浸漬することで、血液や体液等の汚れを分解、除去する方法です。器材全体を洗浄剤に浸漬して行いますが、器材の一部が浮いて洗浄液から出ていないよう、管などの場合は中に空気が残っていないよう注意します。多くの場合、用手洗浄や機械洗浄前の予備洗浄として実施されています。十分な洗浄効果を得るためにも、使用する洗浄剤の濃度、温度、浸漬時間をきちんと守ることが大切です3)6)

2. 用手洗浄

用手洗浄は人手によるブラッシングでの物理的作用により器材を洗浄する方法です。用手洗浄を行う際は、流水下で、流水を桶などに溜め、貯水した水面下でブラッシングを行います。流水下で直接器材を洗浄すると、汚染した水滴が飛散し、作業者や環境を汚染するおそれがあります。使用するブラシやスポンジなどを、器材の大きさや形状などに合わせて複数の種類を用意すると、効果的に洗浄できます。洗浄に使用したブラシなどは、濡れたままの状態では微生物が繁殖しやすいため、使用後に洗浄・消毒などを行い、乾燥させます。用手洗浄は機械洗浄と比べ、洗浄効果において作業者による個人差が出やすいので、各施設毎に統一した洗浄マニュアルを作成し、洗浄効果に個人差が出ないよう管理することが必要です4)7)

3. 機械洗浄

機械洗浄には、噴射式洗浄(ウォッシャーディスインフェクター)や超音波洗浄などがあります。噴射式洗浄(ウォッシャーディスインフェクター)は、噴射口からの水圧と洗浄剤により器材を洗浄します。洗浄、消毒、乾燥を自動で行うことができるため、医療従事者の安全性の向上、作業性の効率化などが期待できます。超音波洗浄は、超音波による物理的作用により汚れを剥し、器材を洗浄します。ブラッシングなどできない細かい部分の汚れを取り除くことが可能です。機械洗浄においては、常に十分な洗浄効果を得るために、洗浄機の日常的なメンテナンスや、試薬・インジケータなどを用いた洗浄性能確認の実施が大切です3)5)6)

洗浄作業者の感染防止対策

洗浄作業者は、洗浄液の跳ね返りや汚染を防止するために、洗浄作業を行う際は必ず防護具(手袋、マスク、ガウン、ゴーグル、シューカバーなど)を着用します4)5)8)。洗浄作業中に、手袋が破れるなど防護具が破損した場合は、すぐに交換する必要があります。また、防護具に覆われずに露出している部分がある場合は、その部分が汚染を受けている可能性が考えられるため、作業終了後に防護具を脱いだあとは、手指衛生だけでなく露出していた皮膚も十分洗うようにします。

終わりに

医療器材を再生使用する場合は、適切な消毒・滅菌処理を行うことが重要ですが、その処理のみを重要視して洗浄処理が不十分では、適切な処理を行ったことになりません。洗浄により器材表面の微生物が平均4log(99.99%)減少したとする報告もあることから、洗浄は医療器材の表面の微生物を除去し、消毒・滅菌の妨げとなる有機物も除去する手段として、とても効果的な方法であると言えます1)3)9)。病院感染対策として消毒・滅菌を行う上では、前処理としての洗浄の重要性を認識することが必要です。

<参考文献>

  1. 小林寬伊 編集:
    改訂 消毒と滅菌のガイドライン.
    へるす出版.2004.

    http://www.yoshida-pharm.com/information/
    guideline_japan/guideline/syoguide.html

  2. 伏見 了、花村 亮、中田精三 他:
    一次消毒された汚染物の洗浄障害について.
    医器学.2003;73(6):281-289.
  3. 小林寬伊、永井 勲、大久保 憲 他:
    鋼製小物の洗浄ガイドライン 2004.
    病院サプライ.2004;9(1):32-45.
  4. 山口茂美:
    医療器材の洗浄処理と感染予防.
    感染防止.2003;13(5):35-46.
  5. 小林寬伊、大久保 憲、永井 勲 他:
    医療現場における滅菌保証のガイドライン2005.
    医器学.2005;75(9):491-573.
  6. 伏見 了:清浄度確認方法と効果的な洗浄方法の構築.Clinical Engineering.2003;14(12):1243-1250.
  7. 長谷川悦子、小谷美由紀、松村愛都:
    使用後の器材洗浄による洗い場の細菌汚染拡大を防ぐ予備洗浄方法の検討.
    医材と滅菌.1995;52:18-23.
  8. 森兼啓太 監訳、小林寬伊 総監訳:
    日本語版 APIC TEXT 感染制御と疫学 臨床・サポートサービス部門編.
    メディカ出版.2006.
  9. Rutala WA:
    APIC guideline for selection and use of disinfectants.
    Am J Infect Control.1996;24(4):313-342.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/
    guideline_kaigai/apic/guideline/disinfectant.html
2006.05.15 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト