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Y's Letter
感染対策情報レター
2007/03/05

広範囲薬剤耐性結核(Extensively drug-resistant tuberculosis:XDR-TB)


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Y’s Letter Vol.2 No.22
Published online 2007.03.05

はじめに

結核は現在も国内で年間3万人ほどの罹患者が報告されており、抗結核薬であるイソニアジドおよびリファンピシンに耐性をもつ多剤耐性結核も問題となっています。さらに近年、この多剤耐性結核よりも広範囲な薬剤に耐性を持つ結核が報告されています。今回はこの広範囲薬剤耐性結核(Extensively drug-resistant tuberculosis:XDR-TB)について述べます。

定義1)2)

多剤耐性結核(Multidrug-resistant tuberculosis:MDR-TB)
少なくともイソニアジドとリファンピシンに耐性を持つ結核菌による感染症。

広範囲薬剤耐性結核(Extensively drug-resistant tuberculosis:XDR-TB)
イソニアジド、リファンピシンおよびフルオロキノロン系抗菌薬に耐性であり、かつアミカシン、カナマイシン、カプレオマイシン*の3つの注射剤のうち少なくとも1つに耐性を持つ結核菌による感染症。
現在カプレオマイシンは国内で販売されていません。

疫学

CDCとWHOが世界49カ国における薬剤耐性結核菌の調査を行った結果、17,690例分離された結核菌のうち多剤耐性(MDR)の割合は20%であり、そのうちの10%が広範囲耐性(XDR)でした(表13))。つまりXDR-TBの割合は全結核症例のうち2%です。米国における1993-2004年の症例3)では結核患者169,654症例のうち2,689症例(1.6%)のMDR-TBが確認されました。そのうちの1,814検体の薬剤感受性試験を行った結果、XDR-TBは74症例(4.1%)に確認されました。ラトビアにおける2000-2002年の症例では605例のMDR-TB症例のうちXDR- TBは115例(19%)に確認されています3)。イランにおける2003-2005年の症例調査ではb4)、1284例の薬剤感受性試験を行った結果、MDR-TB は113例(8.8%)であり、そのうちの12例(10.9%)がXDR-TBであったと報告されています。

表1:世界におけるMDR-TBおよびXDR-TBの分離数(2000-2004)
‐文献6より一部改変して引用‐
結核の分離数合計 分離数合計中のMDR-TBの割合 MDR-TB 中のXDR-TBの割合
工業国 2,499 821
(33%)
53
(6%)
中央および南アメリカ 985 543
(55%)
32
(6%)
東ヨーロッパおよび西アジア 1,153 406
(35%)
55
(14%)
アフリカおよび中東 665 156
(23%)
1
(1%)
アジア(韓国を除く) 391 274
(70%)
4
(1%)
合計(韓国を除く) 5,751 2,222
(39%)
147
(7%)
韓国(2004年のデータのみ) 11,939 1,298
(11%)
200
(15%)
合計(韓国を含む) 17,690 3,520
(20%)
347
(10%)

またHIVとXDR-TBの同時感染により致死率がさらに高まることが問題となっています。南アフリカにおける53例のXDR-TB症例のうち44例のHIV検査を行った結果、すべて陽性を示し、53例中52例が死亡したと報告されています5)。このXDR-TB症例の55%は結核治療歴が無く、遺伝子タイピング結果も類似していることから、2次感染によってXDR-TBが生じたと考えられています。

なお、日本国内においてもXDR-TBが分離され、2007年3月現在のWHOの報告によると日本を含めた28カ国にてXDR-TB症例が確認されています6)。結核症例におけるXDR-TBの割合は地域差があるものの世界的にみて増加傾向を示しています。

XDR-TBの管理

結核には複数の抗結核薬による治療が推奨されています。結核治療における患者の抗結核薬ノンコンプライアンスなど、不適切な治療によりMDR-TBが生じ、さらにはXDR-TBを生じると言われています。広範囲な薬剤耐性を示すXDR-TBの治療は難治化します。ラトビアおよび米国におけるXDR-TB の治療成績はMDR-TBに比べて治療失敗率または死亡率が高いと報告されています(表23))。したがってXDR-TBを含む薬剤耐性結核の対策においては、まず適切な薬物療法を行うことによって耐性菌を作らないことが肝要であり、結核症例について迅速な薬剤感受性試験を行い、多くの薬剤に感受性のある段階で適切な治療を行うことが必要とされています。このような事からプライマリケアにおける結核の診断・治療が重要と言えます7)

表2:ラトビアおよび米国におけるMDR-TB・XDR-TBの治療成績
‐文献6より一部改変して引用‐
XDR-TB(%) MDR-TB(%)
ラトビア(2000-2002)
症例数合計
治療完了例
治療失敗・死亡例
115
70(61)
30(26)
490
339(69)
83(17)
米国(1993-2002)
症例数合計
治療完了例
死亡例
64
20(31)
21(33)
1513
828(55)
375(25)

国内では、結核症例に対する初回治療で抗結核薬のうち患者の結核菌が感受性を示す薬剤の中から原則3剤または4剤を併用投与することが推奨されています8)。またWHOのガイドライン9)のでは、結核治療には少なくとも4剤の有効性が確認された抗結核薬を使用することが推奨されています。結核に対する薬物療法は長期間にわたる薬剤の服用が必要なため、服薬コンプライアンスが低下する危険性があります。治療中に薬剤の服用を中断することは薬剤耐性菌を生み出す要因ともなるため、患者が処方された薬剤を確実に服用するための方法として直接観察療法(direct observation of therapy : DOT)の普及がWHOにより提唱されています。

またXDR-TBを拡散させないために、2次感染予防の対策を講じることも肝要です。感染対策は通常の結核と同様、標準予防策に加えて空気予防策を追加します。結核の病院感染対策の詳細については下記をご参照下さい。
Y’s Letter No.28:結核について

おわりに

XDR-TBは治療法が困難であるため、抗結核薬の適正使用など耐性化を予防するための管理が必要です。XDR-TBは世界的に増加しつつあり、日本国内においても検出されていることから、結核菌の薬剤耐性動向に関する調査の重要性が増しています。

<参考文献>

  1. CDC:
    Guidelines for Preventing the Transmission of Mycobacterium tuberculosis in Health-Care Settings, 2005.
    MMWR 2005;54(RR17):1-141.
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5417a1.htm
  2. CDC:
    Notice to Readers: Revised Definition of Extensively Drug-Resistant Tuberculosis.
    MMWR 2006;55:1176.
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5543a4.htm
  3. CDC:
    Emergence of Mycobacterium tuberculosis with Extensive Resistance to Second-Line Drugs — Worldwide, 2000-2004.
    MMWR 2006;55:301-305.
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5511a2.htm
  4. Masjedi MR, Farnia P, Sorooch S, et al:
    Extensively drug-resistant tuberculosis: 2 years of surveillance in Iran.
    Clin Infect Dis 2006;43:841-847.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=AbstractPlus&list_uids=16941364&query_hl=5&itool=pubmed_docsum
  5. Gandhi NR, Moll A, Sturm AW, et al:
    Extensively drug-resistant tuberculosis as a cause of death in patients co-infected with tuberculosis and HIV in a rural area of South Africa.
    Lancet 2006;368:1575-1580.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=AbstractPlus&list_uids=17084757&query_hl=5&itool=pubmed_docsum
  6. WHO:
    Global map and information on XDR-TB. WHO internet publication on March 2007 at
    http://www.who.int/tb/xdr/en/
  7. Raviglione MC, Smith IM.:
    XDR tuberculosis–implications for global public health.
    N Engl J Med 2007;356:656-659.
    http://content.nejm.org/cgi/content/full/356/7/656
  8. 厚生労働省告示第238号.
    官報, 第3866号(平成16年6月8日), 2004.
  9. WHO:
    Guidelines for the programmatic management of drug-resistant tuberculosis. Geneva, Switzerland: World Health Organization; 2006.
    (WHO/HTM/TB/2006.361).
    http://whqlibdoc.who.int/publications/2006/9241546956_eng.pdf#search=’Guidelines forthe programmatic management of drug-resistant tuberculosis’
2007.03.05 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト