Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報 > 感染対策学術情報 > 感染対策情報レター(Y’s Letter) > 2007 > 医療器具における再生処理のポイント
Y's Letter
感染対策情報レター
2007/04/02

医療器具における再生処理のポイント


Download
(84kb)

Y’s Letter Vol.2 No.23
Published online 2007.04.02

はじめに

医療現場では様々な種類の医療器具が用いられており、器具の種類によっては単回使用が原則であるディスポーザブルまたはシングルユースと呼ばれる器具も多く使用されています。ディスポーザブルでない器具は洗浄後、主に滅菌または消毒という再生処理がなされて再利用されますが、その再生処理が不適切な場合には感染リスクが消失していない非常に危険な器具となります。
E.H.Spauldingは器具の再生処理の指針として、器具が関与する感染リスクの程度に応じて3つのカテゴリーに分類すること、また消毒薬を微生物の本質的な消毒薬抵抗性に基づいて3つの水準に分類することを提唱しました1)2)3)。この提唱された体系が明解かつ合理的であるため現在でも多くのガイドラインがそれに準拠しており、日本国内においても本提唱に準じた方法により器具の再生処理が行われています。
以下、医療器具の再生処理について器具分類における3つのカテゴリーごとに、選択される消毒水準も含めて示します。

滅菌・消毒前の洗浄

使用後の器具・器材等は体液や病原体による汚染を受けている可能性があるため、再利用される器具はまず十分な洗浄をしてから滅菌または消毒を行うことが求められます4)5)。血液や体液など有機物が付着した状態で消毒薬を適用しても、有機物中に存在する微生物まで消毒薬が到達せず、また有機物と消毒薬が反応することにより消毒成分が沈殿を生じる場合もあり、十分な消毒効果は期待できません。洗浄は専門スタッフによる中央処理システムが処理の効率化・確実性、コスト削減効果、作業者の微生物及び消毒薬への暴露防止などの面でメリットがあるとされています。そのため一部特殊な場合を除いて、各部署で行なわれる器具類の洗浄や消毒などのいわゆる一次処理はせずに、そのまま中央処理部門に搬送するシステムが推奨されます3)4)6)。搬送までに汚れが乾燥して固着する可能性がある場合には、これを防ぐために洗浄スプレーの使用や酵素洗浄剤への浸漬などを考慮します6)

器具の洗浄について詳しくはY’s Letter Vol.2 No.12「消毒・滅菌前の洗浄について」を参照ください。

Spauldingによる器具分類

1. クリティカル器具
(Critical Instruments or Devices)

クリティカル器具は人体の無菌の組織や血管系に使用する器具で、芽胞を含む、いずれの微生物によって汚染されていても感染リスクが高い器具を指します。具体的な器具として手術器具、血管カテーテルや尿道カテーテル、インプラントなどが挙げられます2)5)。これらの器具は滅菌済みの製品を購入するか、再生処理する場合には、可能であれば高圧蒸気滅菌で処理すべきとされています2)5)。耐熱性でない器具の場合には第二選択として、エチレンオキサイドガスや過酸化水素ガスプラズマなどによる滅菌処理を選択し、これらいずれの滅菌方法も適当でない場合には消毒薬による化学的滅菌が選択されます。このように通常クリティカル器具の再生処理には化学的滅菌は推奨されませんが、やむを得ず化学的滅菌剤を使用する場合には、その使用濃度及び浸漬時間に留意することが必要です。日本国内で化学的滅菌剤として使用できる消毒薬にはグルタラール、過酢酸があり、化学的滅菌を行う場合には高水準消毒の場合よりも長時間接触させる必要があります2)5)。この際、どちらの消毒薬を選択する場合にも手袋、マスク、ゴーグルなどの個人防護具(Personal Protective Equipment;PPE)の着用が必要です7)

2. セミクリティカル器具
(Semicritical Instruments or Devices)

セミクリティカル器具は粘膜面または健常ではない皮膚に接触するが体内の無菌的部分には侵入しない器具で、消毒薬に対する抵抗性が高い芽胞が多数存在する場合を除きすべての微生物が殺滅または除去される高水準消毒が求められます。通例、正常な粘膜面は一般的な芽胞による感染に対して抵抗性がありますが、その他の細菌、ウイルスなどに対しては感受性があるため、セミクリティカル器具には高水準消毒が必要です。国内では高水準消毒薬としてグルタラール、フタラール、過酢酸が販売されており、化学的滅菌を行う時と同様、これらいずれの消毒薬を選択する場合にもPPEの着用が必要です7)
セミクリティカル器具の具体的な例としてネブライザーの蛇管(ジャバラ)などの呼吸器療法器具、麻酔装置、消化器内視鏡などのある種の内視鏡などが挙げられます5)。特殊な例としてネブライザー関連器具など呼吸器療法器具ではセミクリティカル器具に分類されるものの安全に高水準消毒することが困難な場合が多いため、残留毒性の少ない次亜塩素酸ナトリウムなどによる中水準消毒を適用することが多くあります8)。中水準消毒は必ずしも芽胞は殺滅しませんが、医療施設において問題となっているMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)やMDRP(多剤耐性緑膿菌)などの抗菌薬耐性菌を含む栄養型細菌をはじめ、ほとんどのウイルス、結核菌などの抗酸菌(次亜塩素酸ナトリウムは1,000ppm(0.1%)以上の高濃度で有効)、ほとんどの真菌に対して有効です。国内で使用されている中水準消毒薬の主なものにポビドンヨードや次亜塩素酸ナトリウム、アルコール類が挙げられますが、ポビドンヨードは生体消毒薬であること、また着色の問題や金属腐食性もあるため一般的に器具消毒には適用しません。次亜塩素酸ナトリウムにも強い金属腐食性があるため特別な場合を除いて金属への適用は避けるべきです。

高水準消毒薬について詳しくはY’s Letter Vol.2 No.2「高水準消毒薬の安全な適正使用について」を参照ください。

3. ノンクリティカル器具
(Noncritical Instruments or Devices)

ノンクリティカル器具は通常使用下において粘膜や健常でない皮膚には接触せず健常な皮膚にのみ接触するため、感染伝播のリスクは通常ほとんどありません1)2)5)。そのため高度な汚染を受けない限り、日常的な洗浄・清拭のみで特別な消毒は必要ありません。ただし器具に接触する医療従事者の手指または器具表面を介して二次的伝播する可能性があるため、接触伝播する微生物が問題となる場合には消毒を行います。通常ノンクリティカル器具の消毒には、80℃10分間の熱水または低水準消毒薬(0.1~0.2%ベンザルコニウム塩化物や0.1~0.2%ベンゼトニウム塩化物、0.1~0.2%塩酸アルキルジアミノエチルグリシンなど)を用いた消毒が行われますが、湿潤環境に存在する緑膿菌など一部のグラム陰性菌では低水準消毒薬に対し抵抗性を示す場合があります9)。そのため湿潤なノンクリティカル器具・物品・環境を消毒する必要がある場合には熱水(80℃10分)やアルコール、場合により200~1,000ppm (0.02~0.1%)次亜塩素酸ナトリウムなどを用います。また体液や血液などで汚染された場合にはよく洗浄後、1,000ppm(0.1%)次亜塩素酸ナトリウム、場合によりアルコールで消毒します9)
ノンクリティカル器具の具体的な例としてベッドパンや血圧計のマンシェット、松葉杖、聴診器などがあります。接触予防策が適用される患者の場合には、できればこれら器具は該当する患者専用とすることが望まれますが、共用する場合には患者間ごとに消毒が必要です10)

終わりに

再利用される医療器具は適切に再生処理しなければ感染性が除去されず極めてリスクの高いものとなってしまいます。
医療器具の再生処理は基本的にSpauldingの分類に従って滅菌または消毒することが推奨されますが、今冬流行したノロウイルスなど消毒薬に抵抗性のある微生物を対象にした場合には、対象となる微生物の消毒薬抵抗性を考慮する必要があります。
器具の再生処理は、まず洗浄工程が必須であり、熱処理が同時に行えるウォッシャーディスインフェクターやフラッシングディスインフェクターなどの利用が有効です。また用手洗浄でも作業者による洗浄効果のバラツキを抑え、洗浄剤などの適切な使用により十分な清浄化が可能です。洗浄後は再生器具の分類に見合った水準の処理方法を選択し、消毒薬による処理の場合には消毒薬の持つ金属腐食性などを考慮します。消毒薬本来の殺菌力を発揮させるためには使用する濃度、接触時間、使用する温度を適切に管理することが重要です。また消毒後はすすぎを十分に行い、器具に消毒薬が残存しないよう留意します。すすぎの後は再汚染を避ける方法で十分乾燥させることが肝要です。

<参考文献>

  1. Favero MS, Bond WW:
    Chemical disinfection of medical and surgical materials. In:Block SS, ed.
    Disinfection, Sterilization, and Preservation, 5th ed.
    Philadelphia:Lippincott Williams & Wilkins 2001;881-917.
  2. Rutala WA:
    APIC guideline for selection and use of disinfectants.
    Am J Infect Control 1996;24:313-342.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_kaigai/apic/guideline/disinfectant.html
  3. 小林寬伊,大久保憲,尾家重治:
    消毒・滅菌の実際.小林寬伊編集.[改訂]消毒と滅菌のガイドライン.
    へるす出版,東京,2004;8-35.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_japan/guideline/syoguide.html
  4. 矢野邦夫編集.
    感染対策に必ず役立つエビデンス集.
    メディカ出版,大阪,2005:168-172.
  5. Rutala WA, Weber D:
    Disinfection and Sterilization in Heath Care Facilities:What Clinicians Need to Know.
    Clin Infect Dis 2004;39:702-709.
    http://www.journals.uchicago.edu/CID/journal/issues/v39n5/33590/33590.web.pdf
  6. 小林寬伊,永井勲,大久保憲他:
    鋼製小物の洗浄ガイドライン2004.
    病院サプライ 2004;9:32-45.
  7. 厚生労働省基準局長基発第0224008号.
    医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康障害防止について(平成17年2月2日).2005.
    http://www.hospital.or.jp/pdf/20_20050224_01.pdf
  8. 尾家重治:
    在宅医療の感染対策.小林寬伊,吉倉廣,荒川宜親他編集.エビデンスに基づいた感染制御‐第2集‐実践編.
    メヂカルフレンド社,東京,2003:97-114.
  9. 小林寬伊,大久保憲,吉田俊介.
    病院感染対策のポイント.
    協和企画,東京,2005.
    http://www.yoshida-pharm.com/point/index.html
  10. 向野賢治訳,小林寬伊監訳.
    病院における隔離予防策のためのCDC最新ガイドライン.
    メディカ出版,大阪,1996.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_kaigai/cdc/guideline/iso.html
2007.04.02 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト