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Y's Letter
感染対策情報レター
2007/11/30

インフルエンザの感染予防


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Y’s Letter Vol.2 No.31
Published online 2007.11.30

はじめに

近年、トリインフルエンザの発生報告などから新型インフルエンザの発生によるパンデミック(世界的流行)が懸念されており、また2003年にSARSが発生した際には外来を受診した患者やその家族によりSARSウイルスが伝播しています1)。そのため医療施設内における呼吸器感染症の伝播を予防するために医療施設に入る患者、見舞い者なども咳や鼻水など呼吸器症状が見られる場合には、伝染性があるとの診断を受けていない場合でも、呼吸器衛生/咳エチケットを遵守することが新たに求められるようになりました1)
一方、厚生労働省は11月9日を今年度のインフルエンザ総合対策のキックオフデーとし、「ひろげるなインフルエンザ ひろげよう咳エチケット」と咳エチケットをキャッチコピーに掲げ、今冬のインフルエンザ対策に取り組んでいくとしています2)
インフルエンザの感染予防は上記の咳エチケットのような感染経路の遮断策の他にワクチン接種が有効であり、厚生労働省やACIP(Advisory Committee on Immunization Practices)/CDC(Centers for disease control and prevention)は特に高齢者などを中心にワクチン接種を推奨しています2)3)
以下、インフルエンザの感染予防対策についてワクチン接種および感染経路の遮断策を中心に述べます。

ワクチン接種

インフルエンザ感染予防で最も重要な対策はワクチン接種であるとされ、医療従事者、ハイリスク患者、小児などを中心にワクチンを接種することが強く推奨されています3)4)。ワクチン接種の効果は感染予防のみならず、特に高齢者において重症化や入院回数、死亡の減少効果が報告されているため4)5)、ACIP/CDCは現在、ワクチン接種が推奨されるターゲットグループの一つとして年齢50歳以上を挙げています3)。また同様に「インフルエンザの流行シーズンに妊娠する可能性のある女性」を感染した場合の合併症のハイリスク群として挙げ、妊婦および妊娠する可能性のある女性にはワクチン接種が推奨されています3)。ワクチン接種の時期は過去の流行の発生状況および効果維持期間を勘案すると、10月下旬から12月中旬までに接種することが望まれています6)7)

ワクチン接種による感染、重症化および死亡の予防効果について詳しくはY’s Letter No.9「インフルエンザについて」を参照ください。

感染経路とその遮断

インフルエンザは主に飛沫によって感染するため感染経路遮断策として標準予防策と飛沫予防策を遵守することが最も重要です1)。ただし飛沫感染は感染者の気道から出た呼吸器由来の飛沫が通常は短い距離で飛散し、感受性のある人の顔の粘膜表面に付着した場合に感染症が伝播するため、理論的には接触感染の一形態であるとされています1)。そのため呼吸器分泌物で汚染された環境に接触することにより伝播する可能性が指摘されています3)7)。また新たに提案されたエアロゾル(空気)感染の新分類により、インフルエンザが日和見的経路(通常は他の経路により感染症が生じるが、特殊な状況下で微粒子エアロゾルを介して伝播すること)により伝播する可能性も指摘されています1)7)

呼吸器衛生/咳エチケット1)

本対策は2003年に世界各地で発生したSARSのアウトブレイクの際に提唱された感染予防策であり、本年6月に公表された「CDC隔離予防策のためのガイドライン2007」では標準予防策の新たな要素として追加されています。医療施設に入る伝染性の呼吸器感染症の診断を受けていない患者・同伴家族・友人などがターゲットであり、咳や呼吸器分泌物の増加など呼吸器感染徴候のあるすべての人に遵守が求められます。咳をする時は口と鼻をティッシュで覆い、使用後のティッシュはすぐに捨てること、また咳のある場合は可能であればマスクを装着し、感染性のある呼吸器分泌物が空気中に撒かれることを予防します。またウイルス伝播の予防および医療施設の内外における呼吸器感染症の発生率の低下に手指衛生が有効であると報告されており、呼吸器分泌物に触った後は確実に手指衛生を実施します。呼吸器感染症の徴候のある患者との空間的距離(約1m)が保たれない場合は飛沫感染の危険性が増加するため一般の待合室では感染徴候のある患者から他の者を引き離すことが勧告されています。

「呼吸器衛生/咳エチケット」について詳しくはY’s Letter No.2 Vol.6 「医療機関における呼吸器衛生/咳エチケット」およびY’s Letter No.2 Vol.28「CDC隔離予防策のためのガイドライン2007について」を参照ください。

消毒方法

インフルエンザウイルスはエンベロープのあるウイルスのため熱や消毒薬に対する抵抗性が比較的弱いとされます8)9)
インフルエンザ症例に使用したノンクリティカル器具が気道分泌物で汚染された場合には、ウォッシャーディスインフェクターなどによる消毒を兼ねた洗浄を行うか、よく洗浄後アルコールまたは200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液などの中水準消毒薬を適用します。粘膜や健常でない皮膚に接触する器具であるセミクリティカル器具は通常、滅菌または高水準消毒が必要ですが、人工呼吸器関連器具やネブライザーなどの呼吸器療法に使用する器具の多くは耐熱性でないこと、また安全に高水準消毒することが困難な場合が多いため残留毒性の少ない次亜塩素酸ナトリウム液(100ppm、1時間浸漬)が適用される場合が多くあります9)10)
手指衛生の方法は、呼吸器分泌物などが手指に付着した場合にはまず流水と石けん(またはスクラブ剤)で分泌物を除去します。普通石けんで手指衛生を行った場合に、ペーパータオルで十分乾燥後、速乾性手指消毒薬を適用することもあります。手指に目に見える呼吸器分泌物や汚れが付着していない場合には速乾性手指消毒薬を日常的に用いて手指衛生を行います1)11)

終わりに

インフルエンザの大流行が懸念されており、流行の動向が注目されています。感染者が集まる医療施設では感染予防を特に厳密に行う必要があります。
まず医療従事者はできる限りワクチンを接種します。感染経路は接触および空気(エアロゾル)による感染の可能性も指摘されておりますが1)2)8)、主な感染経路は飛沫によるため、飛沫に対する予防策をまず徹底することが肝要です。呼吸器分泌物に触れた後に手指衛生を遵守することは標準予防策の原則ならびに呼吸器衛生/咳エチケットで求められる通りです。

<参考文献>

  1. CDC:
    Guideline for Isolation Precautions:Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings 2007.
    http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/guidelines/Isolation2007.pdf
  2. 厚生労働省:
    平成19年度 今冬のインフルエンザ総合対策について.
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/index.html
  3. CDC:
    Prevention and Control of influenza. Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP), 2007.
    MMWR 2007;56(PR-6):1-54
    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5606.pdf
  4. 平潟洋一:呼吸器感染対策.小林寬伊,吉倉廣,荒川宜親他編集.
    エビデンスに基づいた感染制御‐第2集‐実践編.
    メヂカルフレンド社,東京,2003:40-57.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_japan/guideline/evidence.html
  5. Gross PA, Hermogenes AW, Sacks HS,et al:
    The efficacy of influenza vaccine in elder person – a meta-analysis and review of the literature- .Ann Intern Med 1995;123:518-527.
    http://www.annals.org/cgi/content/full/123/7/518
  6. 厚生労働省 インフルエンザ予防接種ガイドライン等検討委員会:
    インフルエンザ予防接種ガイドライン.平成15年9月改編
    http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1e.html
  7. 生労働省健康局結核感染症課,日本医師会感染症危機管理対策室.
    インフルエンザ施設内感染予防の手引き.平成18年2月改訂.
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/pdf/01d.pdf
  8. 小林寬伊編集:
    改訂消毒と滅菌のガイドライン.
    へるす出版.2004
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_japan/guideline/syoguide.html
  9. 小林寬伊,大久保憲,吉田俊介:
    病院感染対策のポイント.
    協和企画,東京,2005
    http://www.yoshida-pharm.com/point/index.html
  10. 尾家重治:在宅医療の感染対策.小林寬伊,吉倉廣,荒川宜親他編集.
    エビデンスに基づいた感染制御‐第2集‐実践編.
    メヂカルフレンド社,東京,2003;97-114
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_japan/guideline/evidence.html
  11. CDC:
    Guideline for Hand Hygiene in Health-Care Settings.
    MMWR 2002;51(RR-16):1-44.
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5116a1.htm
2007.11.30 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト