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Y's Letter
感染対策情報レター
2008/01/24

病院環境表面の清掃・消毒


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Y’s Letter Vol.2 No.32
Published online 2008.01.24

はじめに

医療施設における標準予防策の一部として環境に対する管理があります。環境中には多くの微生物が存在しますが、床や壁などの微生物が医療関連感染の原因となることはほとんどないと考えられています1)。そのため日常的に環境を広範囲に消毒する必要はありませんが、必要と判断される場合には適切な消毒を行う必要があります。(【注】消毒の分類参照)
今回は一般的な病棟における環境表面の清掃・消毒について述べます。

病院内の環境表面の分類

病院内の清掃・消毒を行うにあたり、病院内の環境を分類して対応を考えていきます(表1)2)3)
まず、ノンクリティカルな表面を「医療機器表面」と「ハウスキーピング表面」(環境表面)に分け、「ハウスキーピング表面」は接触の頻度により、「ほとんど接触しない環境表面」と「頻繁に接触する環境表面」に分けます。「ほとんど接触しない環境表面」はさらに「水平面」と「垂直面」に分けて対応を考慮します。

表1.ノンクリティカル表面の分類2)3)
分類 場所 処理方法
医療機器表面 医療機器のモニター類など あらかじめドレープなどでカバー清拭清掃
ハウスキーピング表面
(環境表面)
ほとんど接触しない環境表面 水平面 病室の床など 定期的な清掃
汚染時の清掃
退院時の清掃
垂直面 壁、カーテンなど 汚染時の清掃・洗浄
頻繁に接触する環境表面 ドアノブ、ベッド柵、床頭台、テーブル面など 1日1回以上の定期的な清掃または消毒

「医療機器表面」への対応

「環境表面としての医療機器」は通常清拭にて対応しますが、「頻繁に接触する環境表面」として消毒薬を適用することもあります。またあらかじめ汚染されることが予想される場合などは、あらかじめドレープなどで覆うなどの対応が推奨されています2)3)

「ハウスキーピング表面」への対応

  1. 「ほとんど接触しない環境表面」
    1. 「水平面」
      病室の床などが対象となります。床などには多数の微生物が存在しており、たとえ消毒薬を使用して消毒を行っても、一定時間過ぎると元の状態に戻ってしまいます。そのため、日常的な対応としては埃などを巻き上げないように湿式清掃を行い、汚れがない状態にしておくことが基本となります。一般病棟においては日常の清掃で床などに消毒薬を使用する必要はありません。
    2. 「垂直面」
      壁やカーテンなどが対象となります。垂直面は水平面よりも埃などが付着しにくいため、汚染が認められた際などに清掃・洗浄を行います。カーテンは汚染した際などにきちんと洗濯を行い、清潔を保つよう配慮します。
  2. 「頻繁に接触する環境表面」
    環境管理においては高頻度に接触する環境表面をきちんと管理することが、感染対策上特に重要と考えられています。
    一般病棟で頻繁に接触する環境表面は、日常的に最低1日1回湿式清掃を行い埃や汚れを取り除きます。その際、国内においては清掃がまず基本となり常時消毒薬を用いる必要はない1)4)と考えられていますが、後述する環境表面への消毒薬適用が発生した場合などは、消毒薬を適用する範囲を区別することが実務的に煩雑となる場合があることから、洗浄作用のあるベンザルコニウム塩化物やアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩などの低水準消毒薬を日常的に洗浄剤として使用することも、実務的な選択肢のひとつとして挙げられることもあります5)。また、CDCの医療保健施設における環境感染制御のためのガイドライン3)や隔離予防策のガイドライン6)においては、高頻度に接触する環境表面は、あまり接触しない環境表面より頻繁に清掃し消毒(環境消毒disinfection)することが推奨されています。
    環境表面への消毒が推奨される場合は以下の通り(表2)で、MRSAやVREなどの抗菌薬耐性菌排菌患者やノロウイルス患者などの接触感染対策が必要な患者を収容している病室などは、患者周辺環境が病原微生物により高度に汚染されている可能性があるため、日本及び米国共に、頻繁に接触する患者周辺環境などに対して1日1回以上の消毒(disinfection)が推奨されています1)3)4)6)7)8)

環境表面への消毒薬の使用

環境表面の消毒方法は、汚れや微生物の物理的除去を兼ねた清拭法での対応が基本となります。十分な消毒効果を得るために、汚れをまず拭き取ってから消毒を行うのが原則です。噴霧法や燻蒸法などは消毒効果の不確実性や作業者の吸入毒性などの問題から推奨されておりません1)2)3)4)9)。また、毒性の面から高水準消毒薬(グルタラールなど)を環境消毒に使用することも推奨されておりません1)3)4)
環境消毒を行う場合には、微生物により消毒薬抵抗性が異なるため、対象とする微生物によって使用する消毒薬を考慮します。環境表面に使用する消毒薬の基本的な選択例を表2に示します7)8)10)

表2.環境表面へ用いる消毒薬の選択例7)8)10)
対象微生物 消毒薬
一般細菌 0.2%ベンザルコニウム塩化物液

0.2%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液アルコール

200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム
ウイルス エンベロープ有 アルコール
200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム
エンベロープ無 500~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム(特別な場合は5,000ppm)
場合によりアルコール
芽胞 徹底的な清拭
特別な場合は5,000ppm次亜塩素酸ナトリウムなど
血中ウイルス
(血液・体液の汚染箇所)
血液などを拭き取ったあとに、1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム

場合によりアルコール

(血液自体の消毒の場合は5,000~10,000ppm次亜塩素酸ナトリウム)

一般細菌に対しては低水準消毒薬(ベンザルコニウム塩化物、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩など)やアルコールを用います。
ウイルスに対してはアルコールや次亜塩素酸ナトリウムを用いて消毒を行います。エンベロープの無いウイルスの場合は、アルコールでは十分な効果が得られない可能性がありますが、物理的な除去を兼ねた清拭を行えばアルコールを用いても実務的に有効と考えられています。
芽胞に対しては、徹底的な清掃により物理的に除去することが基本となります。消毒薬を用いるのであれば、次亜塩素酸ナトリウムを選択します。
いずれの場合においても、アルコールによる材質の劣化や次亜塩素酸ナトリウムによる金属腐食性や漂白作用など、材質に対する消毒薬の影響を考慮する必要があります。また、ウイルス感染流行時などは次亜塩素酸ナトリウムまたはアルコールを用いて高頻度に接触する環境表面の消毒を行う必要がありますが、それ以外においてアルコールや次亜塩素酸ナトリウムを用いて広範囲の環境消毒を行った場合は、環境中への蒸気の発生や、アルコールの引火性などの問題があるため、これらの消毒薬を日常的に広範囲の環境へ使用することは推奨されていません。

血液などの付着箇所の消毒

血液などの有機物が付着している場合は、接触頻度などの分類に関わらず、直ちにその部分の消毒を行います。使用する消毒薬は次亜塩素酸ナトリウムが最も推奨されており1)2)3)、場合によってはアルコールで対応します7)8)。消毒を行う際は、まず付着した血液などを取り除いてから局所的に消毒薬を適用することが推奨されます4)。。 付着した血液・体液をぬぐいながら同時に汚染箇所の消毒を行う場合は、血液・体液などによる消毒薬の不活性化や、血液・体液内の微生物に対する消毒効果を考慮して、高濃度(5,000~10,000ppm)の次亜塩素酸ナトリウムを用います。

終わりに

医療施設における一般病棟での環境表面の管理としては、まず日常的な清掃が基本となり、必要に応じて環境消毒の対応をとります。環境を消毒する必要がある場合には、頻繁に接触する環境表面などを中心に限定して行い、床・壁などの広範囲の環境消毒といった過度な消毒は必要ありません。血液や体液などの汚染箇所に対しては局所的な清拭消毒での対応が必要です。また、日常的に環境表面の清掃・消毒を行っていても、環境表面が無菌となるわけではないため、患者環境は常に汚染されているものと考えて、適切な手指衛生などの標準予防策がきちんと行われていなければ有効な感染制御策とはなりません。環境の清掃・消毒だけでなく、その他の標準予防策の日常的な徹底も併せて行うことが感染制御策の基本となります。

【注】消毒の分類2)9)11)12)
米国では生体消毒(antiseptic)に使用する消毒薬と非生体消毒(disinfection)に使用する消毒薬が区別されています。これは、米国においては、人体に適用する生体消毒薬はFDA(食品医薬品局)による認可、ノンクリティカル器具や環境へ適用する非生体消毒薬(中水準・低水準消毒薬)はEPA(環境保護局)による認可となり、それぞれ認可する機関が異なるためです(ただし、化学的滅菌剤/高水準消毒薬はFDAが認可)。しかし、日本においては同じ消毒薬に生体、非生体ともに適用を承認されていることが多く、同一消毒薬をどちらにも使用する場合があるのが現状です。
消毒薬の選択においては、特性や開発の経緯、海外での使用状況などを勘案すると、主な生体消毒薬としてはクロルヘキシジン、ポビドンヨードが挙げられ、非生体消毒薬としてはグルタラール、次亜塩素酸ナトリウム、ベンザルコニウム塩化物などの第四級アンモニウム塩、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩などが挙げられます。生体・非生体の両方において使用するものとしては消毒用エタノールやイソプロパノールなどのアルコール製剤が挙げられます。
CDCガイドラインや米国の文献等においては「disinfection」と記述されている場合は非生体消毒(器具や環境の消毒)を表しています。しかし、これを日本語訳にすると「antiseptic(生体消毒)」も「disinfection(非生体消毒)」も同じ「消毒」と訳されてしまうことが多いため、環境表面へ使用する消毒薬を選択する際は、上述の背景を踏まえて消毒薬を区別し選択を行うことが合理的と考えられます。

<参考文献>

  1. 一山 智:患者環境の清潔管理(リネン類含む).小林寬伊,吉倉廣,荒川宜親他編集.
    エビデンスに基づいた感染制御‐第1集‐基礎編.
    メヂカルフレンド社,東京,2003:71-80.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_japan/guideline/evidence.html
  2. 小林寬伊編集:
    改訂消毒と滅菌のガイドライン.
    へるす出版.2004
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_japan/guideline/syoguide.html
  3. CDC:
    Guidelines for Environmental Infection Control in Health-Care Facilities. MMWR 2003;52(RR-10).
    MMWR 2003;52(RR-10).
    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5210.pdf
  4. 分担研究者 大久保 憲 :
    平成15年度 厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)分担報告書.
    国、自治体を含めた院内感染対策全体の制度設計に関する緊急特別研究「医療施設における院内感染(病院感染)の防止について」.
  5. Rutala WA, Weber DJ:
    The benefit of surface disinfection.
    Am J Infect Control, 2004;27(2):226-231.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15175619?ordinalpos=4&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum
  6. CDC:
    Guideline for Isolation Precautions:Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings 2007.
    http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/guidelines/Isolation2007.pdf
  7. 吉田俊介:
    病院環境表面に用いる消毒薬.
    感染制御.2004;1(1):35-39.
  8. 吉田俊介:
    病院環境表面としての医療機器に用いる消毒薬.
    医科器械学.2007;77(5):316-320.
  9. 尾家重治:消毒法の選択と実際.小林寬伊,吉倉廣,荒川宜親他編集.
    エビデンスに基づいた感染制御‐第1集‐基礎編.メヂカルフレンド社,東京,2003:60-70.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_japan/guideline/evidence.html
  10. 小林寬伊,大久保憲,吉田俊介.
    病院感染対策のポイント.協和企画,東京,2005.
    http://www.yoshida-pharm.com/point/index.html
  11. 石塚紀元、小林寬伊、尾家重治:
    消毒薬.小林寬伊編集.
    感染制御学.へるす出版.1996:125-156.
  12. CDC:
    Guidelines for Infection Control in Dental Health-Care Settings.2003
    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5217.pdf
2008.01.24 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト