Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報 > 感染対策学術情報 > 感染対策情報レター(Y’s Letter) > 2008 > 英国における医療関連感染防止ガイドライン
Y's Letter
感染対策情報レター
2008/04/01

英国における医療関連感染防止ガイドライン


Download
(139kb)

Y’s Letter Vol.2 No.34
Published online 2008.04.01

はじめに

2007年、英国における医療関連感染防止のためのガイドラインが公表されました1)。本ガイドラインは2001年に公表されたガイドラインの改訂版で構成はほぼ同様です2)。まず冒頭に病院環境衛生、手指衛生、個人防護具の使用、鋭利器材の安全使用および廃棄に関する標準的指針が示され、さらに短期型尿道留置カテーテル関連感染防止ガイドランおよび中心静脈デバイス関連感染防止ガイドラインが示されており、総合的なガイドラインとなっております。本ガイドラインは英国のNHS(National Health Service)病院に向けたガイドラインですが、最新の文献をレビューし勧告しているという点でCDCガイドライン同様、日本国内においても大変参考になるガイドラインと思われます。
以下、本ガイドラインの勧告部分を中心に述べます。

病院または急性期施設における医療関連感染防止についての標準的指針

医療関連感染防止における標準的指針として本項目では1)病院環境衛生2)手指衛生3)個人防護具の使用4)鋭利器材の安全使用および廃棄が示されており、CDC隔離予防策ガイドラインに相当する内容を冒頭で示しています3)。病院環境としてはゴミや汚れをなくし、見た目にきれいにするべきことを挙げ、環境への消毒薬適用は環境の微生物汚染が施設のアウトブレイクに起因していると思われる場合に使用を考慮します。またすべての医療従事者が環境からの微生物汚染の機会を最小限にするために、病院環境を衛生的に保つことの重要性について教育を実施すべきと勧告しています。
手指衛生ではCDCガイドライン同様、手が見た目にきれいな場合には速乾性手指消毒薬の適用を推奨し、手が有機物などで見た目に汚れている場合には、液体石けんと流水で最低10~15秒間手をこすり洗うことを勧告しています4)。手が見た目に汚れていない場合には利便性および効果の点から速乾性手指消毒薬の適用が流水手洗いよりも望まれるとし、この点においてもCDCと同様の立場をとっています。さらに本ガイドラインでは速乾性手指消毒薬の数回連続使用後は消毒効果減弱の可能性があるため流水と石けんで洗い流すことが必要であることも勧告しています。
個人防護具の使用においてもCDCガイドラインとほぼ同様の勧告を行っています3)。侵襲的処置を行う場合や健常でない皮膚および粘膜に接触する場合、湿性生体物質(汗を除く血液や体液など)に接触することが予測される場合などには手袋を着用し、湿性生体物質との接触や飛散により衣服が汚染される場合などにはプラスチック製エプロンを着用します。また湿性生体物質が顔や眼に飛び散る可能性がある場合にはフェイスマスクなどの着用により防御します。
鋭利器材の安全使用および廃棄に関わる勧告では、特に針刺し防止器材の使用が推奨され、鋭利器材使用後はリキャップや分解などの行為をすべきでないとしています。また施設すべてのスタッフに対して鋭利器材の使用および廃棄に関する教育を実施するべきと勧告しています。

短期型尿道留置カテーテル関連感染防止ガイドライン

尿道留置カテーテル関連感染のリスクはカテーテル留置の方法や留置期間、カテーテルケアの質および宿主の感受性が関係していますが、留置期間は感染リスクに強く影響しているため留置期間の延長とともに感染リスクも増加します。そのため留置に代わる代替法がないかよく検討すべきであり、さらに留置しているカテーテルはその必要性を定期的に検討し出来る限り速やかに抜去することが感染対策上重要です。カテーテル留置が必要な場合には無菌テクニックを遵守し、カテーテルを扱う前にまず手指衛生を実施してから手袋を装着します。カテーテルを挿入する前の尿道の清浄化には消毒薬を適用する必要はなく、滅菌生理食塩液による洗浄を適用することが示されており、また尿道口の衛生管理においても日々の入浴やシャワーによる清浄化のみが必要とされています。これら留置に関する行為を行う医療従事者はカテーテルの挿入や維持管理について適切な手技が行えるように十分な研修を受けることが必要です。なお、これらの勧告の大要は CDCガイドラインおよび日本国内の勧告でもほぼ同様です5)6)

中心静脈デバイス関連感染防止ガイドライン

中心静脈にアクセスする医療行為は感染リスクが高く、その管理は厳密に行う必要があります。中心静脈カテーテルの留置はその一つであり、挿入部位のケアおよびドレッシング交換などを行う場合には無菌操作が求められています。カテーテルケアを行う前には手指衛生を実施してから滅菌手袋を装着するかまたは清潔な手袋を装着の上、非接触での無菌操作を実施します。カテーテルは出来るだけシングルルーメンのカテーテルを採用し、マルチルーメンのものを使用する場合には一つのポートを中心静脈栄養専用とすることが推奨されています。カテーテル挿入部位は医学的禁忌がなければ鎖骨下静脈が第一選択とされ、挿入部位の皮膚消毒にはクロルヘキシジンアルコール液、特に2%クロルヘキシジン70%イソプロパノール液の使用が推奨されています。またクロルヘキシジンに対し過敏症の既往歴がある患者の第一選択薬としてポビドンヨードアルコール液が示されており、これはCDCガイドラインおよび国内にはない勧告です7)8)。クロルヘキシジンアルコール液はこの他、注入ポートやカテーテルハブへのアクセスの前後に使用することが推奨されています。カテーテルを挿入する場合は滅菌ガウン、滅菌手袋、マスクおよび帽子を着用し、大きなドレープで挿入部位を覆うマキシマルバリアプリコーションを適用します。カテーテル挿入後の挿入部位は皮膚の湿性物質(汗や血液の滲出)の多少に合わせ、フィルムドレッシングまたはガーゼドレッシングを選択します。フィルムドレッシングは最長で7日ごと、ガーゼドレッシングは毎日の交換が推奨され、ドレッシング交換時の挿入部ケアにも前述したクロルヘキシジンアルコール液の使用が推奨されています。

おわりに

本ガイドラインでは各所に医療施設職員を対象にした教育実施の必要性についての勧告が示されており、適切な医療行為の習得はもちろんのこと、医療従事者をはじめ全職員で施設内の感染対策に取り組むことの必要性を示しているものと思われます。最近の文献レビューによりCDCガイドラインなどにはない新しい知見もいくつか見受けられますが、それら勧告を実際に国内医療機関において採用することについては施設ごとによく検討することが重要であると思われます。

<参考文献>

  1. Pratt RJ, Pellowe CM, Wilson JA, et al:
    epic2:National Evidence-Based Guidelines for Preventing Healthcare-Associated Infections in NHS hospitals in England.
    J Hosp Infect 2007; 65:S1-S59.
    http://www.epic.tvu.ac.uk/PDF%20Files/epic2/epic2-final.pdf
  2. Pratt RJ, Loveday HP, Robinson N, et al:
    The epic project :Developing National Evidence-based Guidelines for Preventing Healthcare associated infections. Phase1 :Guidelines for Preventing Hospital-acquired Infections.
    J Hosp Infect 2001;47:S1-S82. at
    http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_4005481
  3. CDC:
    Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agent in Healthcare Settings. 2007.
    http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/guidelines/Isolation2007.pdf
  4. CDC:
    Guideline for Hand Hygiene in Healthcare Settings. MMWR 2002;51(RR-16):1-45.
    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5116.pdf
  5. 岡田敬司:
    尿路感染対策.小林寬伊,吉倉廣,荒川宜親ほか編集:エビデンスに基づいた感染制御‐第2集‐実践編.
    メヂカルフレンド社,東京,2003;58-70.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_japan/guideline/evidence.html
  6. LeBaron CW, Beeler J, Sullivan BJ, et al:
    Persistence of measles antibodies after 2 doses of measles vaccine in a postelimination environment.
    Arch Pediatr Adolesc Med 2007;161:294-301.
    http://archpedi.ama-assn.org/cgi/reprint/161/3/294
  7. CDC:
    Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related infections.
    MMWR 2002;51(RR-10):1-29
    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5110.pdf
  8. 武澤純,井上善文:
    カテーテル血流感染対策.小林寬伊,吉倉廣,荒川宜親編集:エビデンスに
    基づいた感染制御‐第1集‐基礎編.
    メヂカルフレンド社,東京,2003:28-59.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_japan/guideline/evidence.html
2008.04.01 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト