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Y's Letter
感染対策情報レター
2009/06/18

新型インフルエンザA(H1N1)の最新情報と感染対策


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Y’s Letter Vol.3 No.2
Published online 2009.06.18

はじめに

2009年4月にメキシコから初めて新型インフルエンザの発生が報告され、世界各国に感染が拡大しています。発生した新型インフルエンザは当初、発現の可能性が危惧されていた強毒型の鳥インフルエンザA/H5N1ではなく、弱毒型と考えられるブタ由来のA/H1N1であったことから、策定されていた強毒性の鳥インフルエンザを想定した厳重な行動計画から地域の実情に応じた柔軟な対応を行う方向に転換してきております1)。しかし世界的には南半球を中心にインフルエンザの流行の季節を向かえ、新型インフルエンザの確定症例も増え続けています。WHOのパンデミックフェーズは世界的大流行を示すフェーズ6に引き上げられており、今後も予断を許さない状況が続いています。
そこで本稿ではブタ由来の新型インフルエンザについて報告されている情報と医療施設における感染対策を中心に述べます。

現在の状況

新型インフルエンザの感染者数および死亡症例数は世界各国から報告されており、6月15日現在、WHOの報告によると感染確定例発生国は76ヶ国で感染者は35,928名(死亡例163例)、国内においては6月15日現在、厚生労働省の報告で感染者605名(死亡例0例)となっており、全世界の致死率は約0.5%と算出されています2)3)。一方、新型インフルエンザとしての発生が危惧されていた鳥インフルエンザA/H5N1の致死率は6月2日現在の報告では60%程度あり4)、強毒性の鳥インフルエンザA/H5N1を想定して作成された現行の新型インフルエンザ対策行動計画や新型インフルエンザ対策ガイドラインなどでは、その致死率の高さからかなり厳密な対策が求められています5)6)。しかし現状の新型インフルエンザの致死率や重症例などの頻度を鑑みた場合、現状の行動計画やガイドラインをそのまま当てはめることによる国民生活への影響や経済損失は計り知れず、地域の実情に応じた柔軟な対応が求められることとなりました1)

臨床症状

米国において新型インフルエンザの感染が確定し、入院した患者35名の年齢は生後6ヶ月から53歳で中央値は15歳と若年者が多く報告されています7)。臨床症状について罹患した患者の症状を検討した報告では発熱(90%、262/292)、咳(84%、249/296)、咽頭痛(61%、176/290)、下痢(26%、65/249)、嘔吐(24%、54/221)が挙げられています7)。また日本国内では神戸、大阪から報告されており、神戸からは5月19日現在までに入院あるいは外来でフォローされた43例について報告しています。罹患者は5~44歳(年齢中央値は17歳)でほとんどが10代後半であり、入院時の臨床症状は約90%に38℃以上の発熱があり、60~80%の頻度で倦怠感、熱感、咳、咽頭痛、約半数で鼻汁・鼻閉、頭痛、約10%弱に嘔吐や下痢の消化器症状が認められたと報告されています8)。また大阪からは中学・高等学校の症例と小学校からの報告が挙げられておりますが、米国及び神戸の報告とほぼ同様の臨床症状が挙げられています9)。なお、神戸および大阪の報告において神戸の1例を除き、臨床的に入院を要する症例はなかったとされています8)9)。新型インフルエンザのハイリスク群は十分なデータがなく明確になっていないため、現時点では季節性インフルエンザのハイリスク群と同様と考えられています10)。米国における入院患者を検討した報告から重篤化しやすい基礎疾患として慢性肺疾患や免疫不全状態、慢性心疾患(先天性心疾患)や喘息、妊娠などが挙げられています11)

季節性インフルエンザワクチンの新型インフルエンザに対する免疫効果

インフルエンザに対する感染予防対策としてワクチン接種は最も重要な方策として挙げられていますが12)、新型インフルエンザに対するワクチン開発までには数ヶ月かかるとされるため、季節性インフルエンザ用ワクチンが新型インフルエンザA(H1N1)に対して効果があるかどうかが子供および大人のグループで検討されています13)14)。2005年から2009年までの4シーズンのワクチンを用いて交差反応性抗体のレベルを検討の結果、防御的抗体反応を誘発する見込みはないと結論付けられており、新型インフルエンザ用ワクチンの早急な開発が待たれています。

医療施設における感染対策15)~20)

すべての医療機関で求められる対策として外来患者に対して入り口付近で発熱や咳などのインフルエンザ様症状を指標としたスクリーニングを行うことが挙げられています。この際、新型インフルエンザが疑われる患者は別の領域に誘導する必要がありますが、対応するスタッフは標準予防策として呼吸器衛生/咳エチケットを実施すべきであり、常時サージカルマスクを着用することが望まれます。入院が必要な患者に用いる病室は個室が理想ですが、用意できない場合には他の患者と十分な距離を置くことのできる状況では、インフルエンザ様疾患の患者を同室に収容することも考慮します。

感染が確定しているか疑われる患者の部屋に入室するすべての医療従事者は標準予防策と飛沫予防策を実施し、さらに患者に処置を行う際にはゴーグルやフェイスシールドなどを装着します。気管支鏡や気管内挿管などエアロゾルが発生するリスクのある手技は個室で行い、スタッフはサージカルマスクに代えてN95マスクまたはそれと同等以上の性能の呼吸器防護具、ゴーグルやフェイスシールド、手袋を着用します。手袋を外した後には石けんと流水による手洗い、あるいはアルコールベースの速乾性手指消毒薬を使用した手指衛生を実施します。
一方、感染が確定したか疑われる患者が病室から外に出る場合には呼吸器分泌物の飛散を抑えるためにサージカルマスクを着用させ、呼吸器衛生/咳エチケットおよび頻繁に手指衛生を実施するように指導します。

消毒

インフルエンザウイルスはエンベロープのあるウイルスであることから消毒薬感受性は高いと考えられます。
新型インフルエンザが確定するか疑われる患者の気道分泌物で汚染された可能性があるノンクリティカル器具は80℃、10分間の熱水消毒を行うか、アルコールまたは500~5000ppm(1000ppm以上の濃度はごく限られた場合に使用)次亜塩素酸ナトリウム液を用いて消毒します21)。環境表面を消毒する場合にはアルコールもしくは500~5000ppm(1000ppm以上の濃度はごく限られた場合に使用)次亜塩素酸ナトリウム液を用いて清拭消毒しますが21)、インフルエンザウイルスの環境中における生存期間は2~8時間程度とされるため、新型インフルエンザの感染が疑われる者がいた場所であっても、その場所を離れてから半日以上経過した後には特別な環境整備を行う必要はないとされます22)
クリティカル器具・セミクリティカル器具に適用する高水準消毒または滅菌は、通常通り患者毎に行います。

おわりに

新型インフルエンザの発生報告から1ヶ月以上が経過し、特徴として感染力は強いものの、多くの感染者が軽症のまま回復していること、および抗インフルエンザ薬の治療が有効であることなど季節性インフルエンザと類似する点が多いことが分かってきました。しかし季節性インフルエンザとは異なる点である若年者での感染者が多いことなども分かってきました。
現在まで今回のブタ由来の新型インフルエンザは専門家により弱毒性であろうと考えられておりますが、流行の進行に伴い、弱毒性から強毒性へとウイルスが変異する危険性もあります。各医療施設において流行状況など各種情報を収集し、医療体制をはじめとした様々な事前準備を進めることが重要と思われます。

<参考文献>

  1. 厚生労働省:
    新型インフルエンザ対策本部:
    基本的対処方針.2009年5月22日公開.
    http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/dl/090522-03a.pdf
  2. WHO:Influenza A(H1N1)-update 49.
    WHO internet publication on June 15, 2009 at
    http://www.who.int/csr/don/2009_06_15/en/index.html
  3. 国立感染症研究所感染症情報センター:
    新型インフルエンザ(ブタ由来インフルエンザA/H1N1) WHO発表の確定例(累計)(2009年6月1日午後3時現在報告数).
    http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/case2009/090602case.html
  4. WHO:
    Cumulative Number of Confirmed Human Cases of Avian Influenza A/(H5N1) Reported to WHO.
    WHO internet publication on June 2, 2009 athttp://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/country/cases_table_2009_06_02/en/index.html
  5. 厚生労働省:
    新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議.新型インフルエンザ対策行動計画.平成21年2月改訂.
    http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/kettei/090217keikaku.pdf
  6. 厚生労働省:
    新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議.新型インフルエンザ対策ガイドライン.平成21年2月17日.
    http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/guide/090217keikaku.pdf
  7. CDC:
    Update:Novel Influenza A(H1N1) Virus Infection—Worldwide. May 6, 2009.
    MMWR 2009;58:453-458.
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5817a1.htm
  8. 国立感染症研究所感染症情報センター,神戸市保健所:
    2009年5月19日現在の神戸市における新型インフルエンザの臨床像(暫定報告).平成21年5月19日.
    http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/090520-01.html
  9. IDSC新型インフルエンザ積極的疫学調査大阪チーム:
    新型インフルエンザの大阪における臨床像.平成21年5月21日.

    http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/090522-04.html
  10. CDC:
    Interim Guidance for Clinicians on Identifying and Caring for Patients with Swine-origin Influenza A(H1N1) Virus Infection.
    CDC internet publication on May 4, 2009 at
    http://www.cdc.gov/h1n1flu/identifyingpatients.htm
  11. 厚生労働省新型インフルエンザ対策本部事務局:
    重篤化しやすい基礎疾患を有する者等について.
    事務連絡.平成21年5月22日.
    http://www-bm.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/dl/infu090523-04.pdf
  12. 平潟洋一:
    呼吸器感染対策.小林寬伊,吉倉廣,荒川宜親ほか編集:
    エビデンスに基づいた感染制御 第2集-実践編.
    メヂカルフレンド社,東京,2003;40-57.
    http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_japan/guideline/evidence.html
  13. CDC:
    Serum Cross-Reactive Antibody Response to a Novel Influenza A (H1N1) Virus After Vaccination with Seasonal Influenza Vaccine.
    MMWR 2009;58;521-524.
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5819a1.htm
  14. 国立感染症研究所感染症情報センター:
    季節性インフルエンザワクチン接種後の新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスに対する血清交差抗体の反応.
    平成21年5月29日公開.
    http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009cdc/MMWR09_May22.html
  15. 国立感染症研究所感染症情報センター:
    新型インフルエンザA(H1N1)の患者に対する医療機関における感染対策.
    平成21年5月8修正版公開.
    http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009idsc/09idsc1.html
  16. WHO:
    Infection prevention and control in health care in providing care for confirmed or suspected A(H1N1) swine influenza patients.
    WHO internet publication on April 29, 2009 at
    http://www.who.int/csr/resources/publications/20090429_infection_control_en.pdf
  17. 国立感染症研究所感染症情報センター:
    A(H1N1)ブタインフルエンザと確定されたもしくは疑いのある患者にケアを提供するための医療における感染防止と制御の暫定的手引き.
    平成21年5月12日公開.
    http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009who/09who41.html
  18. CDC:
    Interim Guidance for Infection Control for Care of Patients with Confirmed or Suspected Novel Influenza A(H1N1) Virus Infection in a Healthcare Setting.
    CDC internet publication on May 13, 2009 at
    http://www.cdc.gov/h1n1flu/guidelines_infection_control.htm
  19. 国立感染症研究所感染症情報センター:
    医療機関における新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認されたか疑われている患者のケアにおける感染対策の暫定的な指針.
    平成21年5月14日公開.
    http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009cdc/CDC_infection_control.html
  20. 国立感染症研究所感染症情報センター:
    医療機関における新型インフルエンザ感染対策.
    平成21年6月1日公開.
    http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009idsc/infection_control_3.html
  21. 厚生労働省:
    新型インフルエンザ専門家会議.新型インフルエンザ対策ガイドライン(フェーズ4以降).医療施設等における感染対策ガイドライン.
    平成19年3月26日.
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/09-07.pdf
  22. 国立感染症研究所感染症情報センター:
    新型インフルエンザ患者発生後の施設における環境整備について.
    平成21年6月1日公開.
    http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009idsc/environment_disinfection.html
2009.06.18 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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