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Y's Letter
感染対策情報レター
2010/03/24

英国における臨床器材の清浄化を改善するためのケア・バンドル


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Y’s Letter Vol.3 No.8
Published online 2010.03.24

はじめに

医療関連感染の発生は患者への不要な苦しみ・痛み等を与えるだけでなく、医療機関にとってもコストの増大や生産性の減少など、様々な悪影響が生じることはすでによく知られています。そのため感染対策として国内外を問わず多種多様なガイドライン・ガイダンスが公表され、エビデンスに基づいた対策が広く実施されてきています。
エビデンスが明らかな感染対策をいくつかまとめて実施するというアイデアはケア・バンドル(Care bundle)と呼ばれ、導入により感染率が低下した報告が挙げられてきており注目されています1)2)
英国保健省(Department of health;DH)は米国ヘルスケア改善協会(Institute for healthcare improvement;IHI)が公開した資料をベースに作成した英国版のケア・バンドルを2007年から公開しています3)
英国版のケア・バンドルではエビデンスの明らかな感染対策をいくつかまとめて実施し、定められた感染対策が遵守されているかどうかの測定ツールならびに実施を遵守するための改善戦略と位置づけられます4)。つまり、実際に定められた手順で実施されたかどうかのチェックリストおよび感染対策の最重要な遵守マニュアルまたは最低限の遵守マニュアルとも考えられます。英国版のケア・バンドルは2007年にNo.1~No.7までが公開されましたが、2009年11月にNo.8が追加公開され、2010年2月に一部修正されております3)。今回は英国版ケア・バンドルのうち、2010年2月に一部修正された臨床器材の清浄化を改善するためのケア・バンドルである「Care bundle to improve the cleaning and decontamination of clinical equipment」5)を中心に、ケア・バンドルの項目、さらに議論の余地があるポイントを挙げ、現在までのエビデンス・報告を基に見解を述べます。

臨床器材の清浄化を改善するためのケア・バンドルの概要

本ケア・バンドルでは「感染の疑いあるいは感染が確定した患者周辺で使用後またはこれらの患者に使用後、もしくは汚染エリアで使用後の器材の清浄化」と「非感染患者に使用した、または非汚染エリアで使用した器材の清浄化」の2種類のケア・バンドルが示されており、患者の状況などにより適切なバンドルを選択する必要があります。それぞれのケア・バンドルの構成項目は同様で、器材の清浄化を行う場所、手指衛生の方法、個人防護具(Personal Protective Equipment;PPE)の取り扱い、器材(手が触れる環境面を含む)の洗浄・消毒、器材の保管法、記録の実施についての計6項目について定められています。以下にそれぞれのケア・バンドルの詳細を示します。

感染の疑いあるいは感染が確定した患者周辺で使用後またはこれらの患者に使用後、もしくは汚染エリアで使用後の器材を清浄化するためのケア・バンドル
洗浄場所

  • 隔離エリアにある患者用器材をその場所から移動させる前に洗浄する。
手指衛生

  • 器材洗浄の前後に石けんと流水で手指衛生を行う。
個人防護具

  • グローブやエプロンなどのPPEを正しく装着する。
  • 使用後は定められた場所に廃棄する。
洗浄と消毒

  • 患者またはスタッフが使用した器材および手が触れた物品は使用後すぐに洗浄・消毒を実施する。
  • 洗浄には中性洗浄剤を用い洗浄後はディスポの布を用いて1,000ppm塩素含有消毒薬か殺芽胞製剤(日本における高水準消毒薬)で消毒する。
  • 体系的な洗浄方法の決定には利用できれば地域方針に従い、できなければ製造業者の指導に従う。
保管

  • 洗浄・消毒した器材は再汚染リスクを減少させるため、使用した器材および洗浄が行われる場所から離れた場所で保管する。
記録

  • 清浄化した物品は洗浄した人が記録を作成し、清潔であることをラベル表示する。
非感染患者に使用した、または非汚染エリアで使用した後の器材を清浄化するためのケア・バンドル
洗浄場所

  • 器材洗浄は洗浄のためにデザインされたエリアまたは清浄化した器材から離れた場所で行う。
手指衛生

  • 洗浄の前後には石けんと流水により手指衛生を行う。
個人防護具

  • 正しくPPEを装着する。
  • 用後は定められた場所に廃棄する。
洗浄と消毒

  • 患者への使用後はすぐに洗浄を行う。
  • 一般的な洗浄には中性洗剤を用いる。
  • 体系的な洗浄方法の決定には利用できれば地域方針に従い、できなければ製造業者の指導に従う。
保管

  • 洗浄・消毒した器材は再汚染リスクを減少させるため使用した器材および洗浄が行われる場所から離れた場所で保管する。
記録

  • 清浄化した物品は洗浄した人が記録を作成し、清潔であることをラベル表示する。

議論のポイント

本ケア・バンドルの大きな特徴として「感染の疑いあるいは感染が確定した患者周辺で使用後またはこれらの患者に使用後、もしくは汚染エリアで使用後の器材」と「非感染患者に使用した、または非汚染エリアで使用した器材」に分けて示している点が挙げられます。
「器材(equipment)」は主に患者の健常皮膚が接触するノンクリティカル器具を前提にしていると思われますが、医療施設内の一部の環境面(オーバーテーブルやベッド柵、床頭台など患者周辺の手が触れる表面)も含めて、芽胞を含む接触感染する微生物の交差感染を強力に予防するためのものと思われます。しかし感染患者(感染の疑いを含む)と非感染患者を明確に分けることは難しく、血液汚染があるなど特別な場合を除いて器材(環境面を含む)の清浄化手順を分けるべきではないと思われます6)。また環境消毒の観点から考慮しても、すべての感染症患者周辺の環境面に1,000ppm塩素含有消毒薬または殺芽胞製剤(日本における高水準消毒薬)を統一的に適用することのエビデンスはありません。さらに日本では高水準消毒薬を適応のない環境消毒に使用すべきでないとされています。手が頻繁に触れる部分の清浄化に関して国内の勧告では、多剤耐性菌を排菌している患者を収容している領域はベンザルコニウム塩化物液やアルコールによる清拭を勧告しており、次亜塩素酸ナトリウムなどの作用の強力な消毒薬を日常的に使用することの勧告はなされておりません7)。このような過剰な洗浄・消毒とも取れる環境清浄対策には英国の政治的背景があるようであり、英国内からも過剰な清掃プログラムに懐疑的な意見が報告されています8)9)

おわりに

ケア・バンドル的アプローチは効果の明らかな感染対策を同時に行うことによって最大限の効果を得ようとする試みで、エビデンスのある適切な感染対策を組み合わせることにより、その臨床的効果についても有用性が報告されています。しかし本英国版ケア・バンドルでは、エビデンスが確立していない感染対策も含まれていると思われます。そのまま自施設の感染対策に準用する前にエビデンスの明らかな対策であるのか、また費用対効果のコンセンサスが得られる対策なのか等、批判的な観点を保ちながら本ケア・バンドルを精読することによって自施設における有用なケア・バンドル的感染対策を考慮するための一助になると思われます。

<参考文献>

  1. Muto CA, Blank MK, Marsh JW, et al:
    Control of an outbreak of infection with the hypervirulent Clostridium difficile BI strain in a university hospital using a comprehensive “bundle” approach.
    Clin Infect Dis 2007;45:1266-1273.
    http://www.journals.uchicago.edu/doi/pdf/10.1086/522654
  2. Rodriguez-Bano J, Garcia L, Ramirez E, et al:
    Long-term control of hospital-wide, endemic multidrug-resistant Acinetobacter baumannii through a comprehensive “bundle” approach.
    Am J Infect Control 2009;37:715-722.
    http://www.ncbi.nlm.nih.govpubmed19457584?tool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.>Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=1
  3. Department of Health:
    Saving Lives-High impact interventions(HIIs).
    http://www.clean-safe-care.nhs.uk/index.php?pid=4
  4. Department of Health:
    Using high impact interventions. Using care bundles to reduce healthcare associated infection by increasing reliability and safety.
    J Hosp Infect 2004;56:236-238.
    http://www.clean-safe-care.nhs.uk/toolfiles/112_SL_usingHIIs.pdf
  5. Department of Health:
    High Impact Intervention No8. Care bundle to improve the cleaning and decontamination of clinical equipment.2009
    http://www.clean-safe-care.nhs.uk/Documents/High_Impact_Intervention_No_8.pdf
  6. CDC:
    Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings 2007.
    http://hica.jp/cdcguideline/Isolation2007.pdf
  7. 一山智:
    患者環境の清潔管理(リネン類を含む).小林寛伊,吉倉廣,荒川宜親編集.エビデンスに基づいた感染制御(改訂2版)‐第1集‐基礎編.メヂカルフレンド社,東京,2003;71-80.
    http://hica.jp/cdcguideline/Isolation2007.pdf
  8. Brown CA, Lilford RJ:
    Should the UK government’s deep cleaning of hospitals programme have been evaluated?
    Journal of infect prevention 2009;10:143-147.
  9. Lancet:
    The traditional white coat: goodbye, or au revoir?
    Lancet 2007;370:1102.
2010.03.24 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト