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感染対策情報レター
2010/04/14

プリオン病感染予防ガイドライン(2008年版)について


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Y’s Letter Vol.3 No.9
Published online 2010.04.14

はじめに

プリオン病は感染性を有する異常プリオンによって中枢神経障害を及ぼす疾患であり、ヒトではクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)として知られています。プリオン対策のガイドラインは2002年に「クロイツフェルト・ヤコブ病診療マニュアル(改訂版)」が、2003年には「クロイツフェルト・ヤコブ病感染予防ガイドライン」が公表されています。しかし、プリオン病についての新しい知見などが見出されたことから最新のガイドラインの必要性が高まり、2008 年に「プリオン病感染予防ガイドライン(2008年版)」の要約が公表され、その後完全版が公表されました。以下本ガイドラインの中から手術器具の処理方法について述べます。

CJDと診断された患者あるいは疑い患者に使用した脳神経外科手術器具の処理方法(表1)1)

CJD患者に使用する手術器具は可能な限りディスポーザブル製品を用い、使用後は焼却破棄します。焼却処理できない器具は3%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)溶液を用い100℃で3~5分間煮沸後、高圧蒸気滅菌(プレバキューム式高圧蒸気滅菌器134℃8~10分)を行います。高圧蒸気滅菌の条件として2003年のガイドラインでは132℃1時間と明記されていました。しかしこの条件は現在ほとんど使用されていない重力置換式の高圧蒸気滅菌器を使用する場合を想定していました。2008年のガイドラインでは現在医療現場で一般的に使用されているプレバキューム式高圧蒸気滅菌器での条件が示されました。プレバキューム式高圧蒸気滅菌器による134℃18分間の処理でプリオンの感染力価の低下が認められています2)3)。またガラス器具は90%以上の濃度の蟻酸を用い室温で1時間浸漬処理を行います。手術用顕微鏡の対物レンズ、手術台、麻酔器、床の一部などに汚染の可能性がある場合には1N水酸化ナトリウムで清拭します。90%以上の蟻酸や1~5w/v%次亜塩素酸ナトリウムでの清拭も可能ですが、強い刺激臭を伴うので注意が必要です。

表1.CJDと診断された患者あるいは疑い患者に使用した脳神経外科手術器具の処理方法
可能な限りディスポーザブルの器具を使用し焼却破棄。
廃棄不可能な器具 3%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)溶液を用い100℃で3~5分間煮沸後、高圧蒸気滅菌(プレバキューム式高圧蒸気滅菌134℃ 8~10分)
ガラス器具 90%以上の濃度の蟻酸を用い室温で1時間浸漬処理。
手術用顕微鏡の対物レンズ、手術台、麻酔器、床 汚染の可能性がある場合には1N水酸化ナトリウムで清拭。
90%以上の蟻酸や1~5w/v%次亜塩素酸ナトリウムでの清拭も可能だが、強い刺激臭を伴うので注意が必要。

CJDか否か不明の患者にハイリスク手技を行う場合の手術器具の処理方法(表2)1)

CJDを発症する前に診断することは不可能なため、CJDか否か不明の患者に脳神経外科手術、眼科手術および整形外科手術などにおけるハイリスク手技を行う場合には使用した手術器具などはプリオンを不活性化する条件で処理を行う必要があります。
プリオンの消毒方法として高濃度の次亜塩素酸ナトリウムや水酸化ナトリウムによる処理方法が2003年に公表されたガイドラインに記載されていました。しかしながら、この方法では器具に与える影響が大きいために実用的な方法ではありません。2008年のガイドラインではプリオンの消毒方法として、より実用的な方法が明記されました。プリオンに対するアルカリ洗剤の有効性が報告され2)4)5)、アルカリ洗剤を用いたウォッシャーディスインフェクター洗浄とプレバキューム式高圧蒸気滅菌134℃8~10分間の処理方法が記載されています。アルカリ洗剤を用いたウォッシャーディスインフェクター洗浄ができない場合には適切な洗浄剤による十分な洗浄とプレバキューム式高圧蒸気滅菌134℃18分間の処理が現実的な方法として挙げられています。洗浄によっても10-4程度感染力価を減少できるため6)、洗浄とプレバキューム式高圧蒸気滅菌を組み合わせことによって感染のリスクを大きく低下することができます。
また過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌の有効性が確認され2)、本ガイドラインでは新しい処理方法として追加記載されています。過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌法は非耐熱性の器具、例えば脳神経外科手術に使用する軟性内視鏡などに対して有効な処理方法として推奨されています。

表2.CJDか否か不明の患者にハイリスク手技を行う場合の手術器具の処理方法1)
処理方法 注意点
適切な洗剤による十分な洗浄 + 3%SDS煮沸処理3~5分
  • 血液などの汚染を除去しないと、後で固まって落ちなくなるので事前洗浄が必要。
  • 煮沸処理した際には沸騰による周辺汚染を防止することが必要。
  • SDS煮沸用の特別な容器、SDSの準備、日常業務と異なる操作時間等が必要
アルカリ洗剤ウォッシャー・ディスインフェクター洗浄(90~93℃) + プレバキューム式高圧蒸気滅菌134℃、8~10分
  • アルカリ洗剤と器材との適応性に留意が必要。
  • 日常の滅菌工程とほぼ同様な方法である。
  • 重力置換式高圧蒸気滅菌器でも、空気除去が十分適切に行われ滅菌時間を延長すれば、プレバキューム式高圧蒸気滅菌器とほぼ同等の効果が得られる。
  • 滅菌時間はメーカーの指示に従って滅菌器の特性に基づき適宜延長する。
  • なお、卓上型フラッシュ滅菌器については、精度的にみて日常的使用は避ける
適切な洗浄による十分な洗浄 + プレバキューム式高圧蒸気滅菌134℃、18分
  • ウォッシャー・ディスインフェクターを用いることができない場合にはこのような処理方法もあり得る。
アルカリ洗剤による洗浄 + 過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌2サイクル
  • 低温処理が必要な手術用軟性/硬性内視鏡、一部の貸出し器械、マイクロサージェリー関連器械など非耐熱性であるものが対象となる。
  • 過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌器(NXタイプ)では1サイクルで不活性化できる。
  • アルカリ洗剤洗浄における洗剤濃度及び洗浄温度等はメーカーの指示に従う。アルカリ洗浄剤と器材との適応性に留意が必要。

過酸化水素ガスプラズマ滅菌のプリオン不活性化の評価7)

過酸化水素ガスプラズマ滅菌のプリオン不活性化効果については本ガイドライン公表後にも再評価した研究結果が報告されています。この報告は器具表面をプリオンで汚染させ、各種滅菌条件で処理したあとに動物での感染性の有無を長期間に渡り観察しています。またIn vitroの試験では抗原抗体反応を利用して各種条件におけるプリオン不活性化を評価しています。
この報告より本ガイドラインで推奨している条件であるアルカリ洗剤による洗浄+過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌2サイクル(NXタイプでは1サイクル)の有効性が再確認されました。また、脂肪などの汚れが付着していると過酸化水素の効果が減弱することが示されていますので、洗浄の重要性についても述べられています。

おわりに

CJDは日本において人口100万人に年間1人前後の割合で発症すると言われています。これは滅菌の無菌性保証水準である10-6に相当する値であるために、すべての脳神経外科手術に対して特別な対策は求められないと考えられています。しかしながらCJD症例もしくは疑わしい症例に使用した手術器具に対してはプリオンを不活性化する条件で処理することが必要です。また、脳神経外科手術、眼科手術、整形外科手術におけるハイリスク手技に使用した器具においてはガイドラインに示されている特別な処理方法が必要となります。

<参考文献>

  1. プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班:
    プリオン病感染予防ガイドライン(2008年版) 2008
    http://prion.umin.jp/guideline/cjd_2008all.pdf
  2. Fichet G, Comoy E, Duval C, et al:
    Novel methods for disinfection of prion-contaminated medical devices.
    Lancet 2004;364:521-526.

    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15302195?ordinalpos=3&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum
  3. Vadrot C, Darbord JC.:
    Quantitative evaluation of prion inactivation comparing steam sterilization and chemical sterilants: proposed method for test standardization.
    J Hosp Infect 2006;64:143-148.

    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16895739?ordinalpos=8&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum
  4. Yan ZX, Stitz L, Heeg P, et al:
    Infectivity of prion protein bound to stainless steel wires: a model for testing decontamination procedures for transmissible spongiform encephalopathies.
    Infect Control Hosp Epidemiol 2004;25:280-283.

    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15108723?ordinalpos=2&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum
  5. Baier M, Schwarz A, Mielke M:
    Activity of an alkaline ‘cleaner’ in the inactivation of the scrapie agent.
    J Hosp Infect 2004;57:80-84.

    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15142720?ordinalpos=8&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum
  6. Rutala WA, Weber DJ.:
    Creutzfeldt-Jakob disease: recommendations for disinfection and sterilization.
    Clin Infect Dis 2001;32:1348-1356.
    http://www.journals.uchicago.edu/doi/pdf/10.1086/319997
  7. Rogez-Kreuz C, Yousfi R, Soufflet C, et al:
    Inactivation of animal and human prions by hydrogen peroxide gas plasma sterilization.
    Infect Control Hosp Epidemiol 2009;30:769-777.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19563265
2010.04.14 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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