Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報 > 感染対策学術情報 > 感染対策情報レター(Y’s Letter) > 2010 > 手足口病について
Y's Letter
感染対策情報レター
2010/08/09

手足口病について


Download
(136kb)

Y’s Letter Vol.3 No.12
Published online 2010.08.09

はじめに

手足口病(Hand, foot and mouth disease)は感染症法により五類感染症定点把握疾患に分類される、主に5歳以下の小児や乳幼児を中心に毎年夏季に流行を起こす疾患であり1)2)3)4)、国内においては全国約3,000の小児科定点施設から毎週患者数が報告されています。IDWR第12巻第27号 (Infectious Diseases Weekly Report;感染症発生動向調査感染症週報)は本年27週目までの手足口病患者の定点あたり報告数は過去5年間の同時期と比較してかなり多いと報告し4)、さらに患者からは中枢神経合併症の頻度が高いとされるエンテロウイルス71 (enterovirus71:EV71)が多く検出されています5)。そのため特に市中から医療関連施設への持ち込みによる施設内の感染拡大防止に注意が必要と思われます。
以下、手足口病の特徴および感染対策を中心に述べます。

I.手足口病の症状および特徴

手足口病は口唇粘膜および四肢末端(手背や足底など)に水疱性の発疹が現れる、通常は予後良性の発熱性疾患で、主に小児や乳幼児を中心に夏季に流行が起こりますが4)6)7)、成人の感染も起こります8)9)。初期症状として発熱がみられ、その後、食欲不振、不快感、喉の痛みなどが生じ、水疱性発疹が現れます10)。発疹の発生部位としては手掌、手背、足底、足背や口腔粘膜、臀部などが挙げられますが1)6)7)8)、近年では爪の脱落の報告もなされています11)12)。主な起因微生物はエンテロウイルス属に分類されるコクサッキーウイルスA16(coxsackievirus A16:CA16)およびEV71であり、その他のエンテロウイルスによる場合も報告されています2)6)7)。現在国内で流行している手足口病からはEV71が多く検出されており5)、EV71による流行時においては、CA16による手足口病流行時と比べて中枢神経合併症として脳炎や脳脊髄炎の頻度が高いとされています2)13)。1998年に台湾で生じたEV71による手足口病の流行時には髄膜炎、脳炎、急性弛緩性麻痺などが相次ぎ、78例が死亡したと報告され2)、特にEV71による流行期には中枢神経合併症に注意が必要です。

潜伏期間は通常3~6日で6)7)、CA16による手足口病ではほとんど全例が軽症のため、通常約7~10日間で自然軽快するとされます8)10)。しかし、症状が軽快した後も糞便への排泄は発症から数週間持続され、また不顕性感染の場合にもウイルスが糞便に排泄されることから注意が必要です7)14)

II.感染対策

手足口病の感染拡大は主にヒト同士が直接接触することによると考えられ、感染経路は糞口感染による接触感染と咽頭分泌物にウイルスが含まれるため飛沫感染を起こすと考えられています6)7)14)。感染したウイルスは鼻や咽頭分泌物、唾液、水疱液および糞便から検出され、ウイルスで汚染された手指や環境面を介して伝播します。そのため感染予防対策は標準予防策を基本としますが、ウイルスが糞便中に排泄されることから、おむつをしている小児や失禁のある小児に対して罹患期間中は接触予防策を適用します15)。また施設内においてアウトブレイクが発生した際にも接触予防策を適用します。
なお、CA16やEV71などのエンテロウイルスはアルコールに対する抵抗性が高いため16)17)18)、手指衛生は石けんと流水による手洗いを基本とします。

III.ウイルスと消毒

手足口病の原因となるウイルスは主にCA16とEV71であり、これらウイルスはピコルナウイルス科エンテロウイルス属に分類されます。エンテロウイルス属はさらにポリオウイルス群、コクサッキーウイルスA群、コクサッキーウイルスB群、エコーウイルス群、エンテロウイルス群の血清型に分類され、エンベロープを有しないウイルスです。消毒薬に対する抵抗性が高い傾向があり、不活性化に対しアルコールが長時間を要するという報告16)17)18)、また低濃度のポビドンヨードは効力を示したが、繁用される高濃度は比較的長い時間を要したとの報告があります19)。ノンクリティカル表面におけるエンベロープを有しないウイルスを消毒する場合には、熱水(98℃15~20分、多くの場合は80℃での10分洗浄でも可)、500~1,000ppm(特別な場合には5,000ppm)次亜塩素酸ナトリウム液、場合によりアルコール製剤を選択します20)

IV.おわりに

エンテロウイルス属のウイルスは乾燥表面において比較的長時間感染性を有している可能性があり21)、ウイルスで汚染された環境表面から手指を介しての伝播の可能性もあります。感染症例は軽快後も糞便にウイルスを排泄させるため、手袋を装着した排泄物の適正処理および手指衛生の徹底が重要と思われます。

<参考文献>

  1. Shah VA, Chong CY, Chan KP, et al:
    Clinical Characteristics of an Outbreak of Hand, Foot and Mouth Disease in Singapore.
    Ann Acad Med Singapore 2003;32:381-387.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12854382
  2. Chan KP, Goh KT, Chong CY, et al:
    Epidemic hand, foot and mouth disease caused by human enterovirus 71, Singapore.
    Emerg Infect Dis 2003;9:78-85.
    http://www.cdc.gov/NCIDOD/EID/vol9no1/pdfs/02-0112.pdf
  3. IDWR:
    感染症発生動向調査感染症週報.12巻27号.2010.
    http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2010/idwr2010-27.pdf
  4. 清水博之:
    手足口病.
    日本臨床 2007;65:339-342.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17491403
  5. IASR:
    病原微生物検出情報.
    手足口病ウイルス.週別.
    https://hasseidoko.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data24j.pdf
  6. IDWR:
    感染症の話.手足口病.2001年
    http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k01_g2/k01_27/k01_27.html
  7. 細矢光亮:
    手足口病、ヘルパンギーナ.
    小児内科 2008;40:1178-1183.
  8. CDC:
    Hand, Foot, & Mouth Disease(HFMD). Fast Facts.
    http://www.cdc.gov/ncidod/dvrd/revb/enterovirus/hfhf.htm
  9. Hamaguchi T, Fujisawa H, Sakai K, et all:
    Acute encephalitis caused by intrafamilial transmission of enterovirus 71 in adult.
    Emerg Infect Dis 2008;14:828-830.
    http://www.cdc.gov/eid/content/14/5/pdfs/828.pdf
  10. CDC:Hand, Foot, & Mouth Disease(HFMD). Questions and Answers.
    http://www.cdc.gov/ncidod/dvrd/revb/enterovirus/hfmd-qa.htm
  11. 難波千佳,藤山幹子,橋本公二,他:
    手足口病後に生じた爪変形、爪脱落の集団発生.
    日本皮膚科学会 2010;120:754.
  12. 宮本麻子,石本和久,平田留美子,他:
    水痘様発疹分布とonychomadesisを生じたコクサッキーA6による手足口病のoutbreak.
    日本皮膚科学会 2010;120:755.
  13. Ho M, Chen ER, Hsu KH, et al:An epidemic of enterovirus 71 infection in Taiwan. Taiwan Enterovirus Epidemic Working Group. N Engl J Med 1999;341:929-935.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10498487
  14. American Academy of Pediatrics:
    enterovirus(Non-poliovirus)infection. In Pickering LK, et al:
    Red book:2006 Report of the Committee on Infectious Diseases,27th ed, ELK Grove Village, IL,pp284-285, 2003.
  15. CDC:
    Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agent in Healthcare Setting 2007.
    http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/guidelines/Isolation2007.pdf
  16. 佐藤隆一,和田英己,滝沢真紀,他:
    各種アルコール系消毒薬の評価.
    医学と薬学 2003;49:713-724.
  17. Ali Y, Dolan MJ, Fendler EJ, et al:
    Alcohols. In: Block SS, ed.
    Disinfection, Sterilization, and Preservation.
    5th ed. Philadelphia:Lippin-cott Williams & Wilkins 2001;229-253.
  18. 野田伸司,渡辺実,山田不二造,他:
    アルコール類のウイルス不活化作用に関する研究-ウイルスに対する各種アルコールの不活化効果について.
    感染症学雑誌 1981;55:355-366.
  19. 川名林冶,北村敬,千葉峻三,他:
    ポビドンヨード(PVP-I)によるウイルスの不活化に関する研究.
    臨床とウイルス 1998;26:371-386.
  20. 吉田製薬文献調査チーム執筆,大久保憲監修,小林寬伊指導:
    消毒薬テキスト第3版.
    協和企画,東京,2008.
    http://www.yoshida-pharm.com/text/index.html
  21. Kramer A, Schwebke I, Kampf G:
    How long do nosocomial pathogens persist on inanimate surfaces? A systematic review.
    BMC Infect Dis 2006;16:130.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1564025/pdf/1471-2334-6-130.pdf
2010.08.02 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

関連サイト