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Y's Letter
感染対策情報レター
2010/08/23

浴室の環境整備について


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Y’s Letter Vol.3 No.13
Published online 2010.08.23

はじめに

医療施設、老人保健施設等における医療施設関連感染の防止対策の一つとして、施設内環境の適切な管理があります。施設内の環境としては、病室、廊下等の通常は乾燥している環境のほか、浴室や洗面台など湿潤状態であることが多い環境もあります。今回は湿潤環境の一つとして浴室の環境整備について述べます。

浴槽水等からの感染について

浴室や洗面台などの湿潤した環境においては、湿潤環境を好む微生物が繁殖しやすいことが知られています。湿潤環境を好む微生物としては、グラム陰性菌のレジオネラ、緑膿菌などが挙げられ、中でもレジオネラ属菌については、冷却塔や給湯システム、浴槽水などの汚染の原因となることが指摘されています1)~4)。温泉水や浴槽水の汚染が原因とされたレジオネラ感染事例が、公衆浴場、温泉施設、家庭の循環式風呂などにおいて報告されており5)~15)、医療機関、介護施設においても、施設内の循環式風呂の浴槽水汚染による感染事例が報告されています16)17)。感染事例における原因としては、温泉水・浴槽水の日常的な水質管理、環境管理が不十分であったことなどが挙げられています。医療機関においては高齢者や免疫力の低下した患者などが浴室を使用する場合もあると考えられることから、浴槽水に対するレジオネラ汚染防止対策や、日常的な浴室環境の管理について配慮することが大切です。

浴槽のお湯の管理

浴槽水を介したレジオネラ属菌の感染を防止するために、厚生労働省からレジオネラ感染予防に関する通知が出されています18)~21)。レジオネラ症の発生防止対策の基本としては、レジオネラ属菌が繁殖しやすい状況をできるだけなくし、これを含むエアロゾルの飛散を抑制する措置を講ずることとされており、入浴設備の構造設備上の措置と、浴槽水の交換頻度などの維持管理上の措置とを併せて考慮していきます18)

これら通知においては、レジオネラ汚染への対策として、浴槽水は毎日交換することが原則とされており、毎日交換できない場合は浴槽水の汚染状況を勘案して最低でも1週間に1回以上交換することとされています。レジオネラ属菌は生物膜(バイオフィルム)中のアメーバに寄生して増殖することから22)、レジオネラ属菌を除去するためには生物膜を物理的に除去する必要があります。そのため、浴槽水を交換する際は、ただ水を換えるだけではなく、ろ過器や配管内等に付着した生物膜等を除去するための清掃・消毒が必要であることが述べられています。
ろ過器を設置している浴槽においては、1週間に1回以上ろ過器内に付着する生物膜等を物理的に十分排出し、周囲の配管内についても適切な消毒方法で付着した生物膜等を除去することとしています。ろ過器前に設置する集毛器は毎日清掃します。
浴槽水の消毒には、塩素系薬剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)を用いることが一般的とされています。薬剤の投入口は浴槽水がろ過器に入る直前に設置し、ろ過器内の生物膜の生成を抑制するよう配慮します。浴槽水中の遊離塩素濃度は入浴者数、薬剤の注入時間・注入速度等により大きく変動し、常に一定ではないため、遊離塩素濃度を頻繁に測定し、記録することが推奨されています。医療機関における調査では、日常的に浴槽水を塩素消毒していたが、遊離塩素濃度が低い場合(0.05ppm)ではレジオネラ属菌が検出されたが、濃度を0.1ppm以上となるよう改善したところ浴槽からの検出がなくなったとの報告があります23)。公衆浴場における衛生管理についての通知では、遊離残留塩素濃度は、0.2~0.4mg/L(ppm)を1日2時間以上保つことが望ましいとされています19)20)
浴槽水は少なくとも1年に1回以上、水質検査を行い、レジオネラ属菌に汚染されていないかを確認します。ろ過器を設置し、浴槽水を毎日交換せずに使用している場合などは検査の頻度を高めることとされています。検査頻度については、レジオネラ属菌の感染因子について点数化し、その合計点を目安として細菌検査の頻度を検討する方法も示されています20)
また、貯湯槽については、湯温を60℃以上に保つなど貯湯槽内でレジオネラ属菌が繁殖しないように管理し、定期的に清掃、消毒を行います18)

通知内容等を確認し、各施設の現状に合わせて適切な対応をすることが求められています。

浴室内の清掃

浴室内の床・壁や浴槽はノンクリティカルに分類されるため、十分な洗浄または低水準消毒での対応となります。浴室内の環境表面の清掃は、ブラッシングなどにより汚れを物理的に除去することが基本となり、通常は浴室用洗浄剤を用いて十分な洗浄を行います。しかし、十分な洗浄が行われず汚れが残った場合は、微生物により汚染される可能性があります。また浴室内で使用する器具でシャワー用椅子などのスポンジ様の材質が使用された器具においては、材質が多孔性構造のため洗浄・消毒が行いにくく微生物の汚染を受けやすいことから、洗浄・消毒を行いやすい材質の器具を選択するなど、器具の材質への配慮も必要です24)。入浴介護用品の汚染について調べた報告では、器具洗浄後の乾燥が不十分であったため微生物が検出された事例もあり25)、洗浄後はきちんと乾燥させることも重要とされています。
浴槽等へ消毒薬を用いる場合は、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液、ベンザルコニウム塩化物液などを用います。ただし、これら消毒薬は他の洗剤や石ケン成分が残留している状態では殺菌効果が減弱してしまうため、それらを十分洗い流してから使用します。
浴室の清掃にはスポンジ等が使用されていますが、前述のように使用後にスポンジ自体の洗浄を十分に行うことは構造上難しいのが現状です。清掃用のスポンジの汚染について調べた報告では、緑膿菌等に高度に汚染されていたとの事例があります26)。そのため、清掃に用いるスポンジ等は洗浄後に水気をよく切り乾燥して保管を行い、定期的に交換するなどできるだけ清潔なものを使用するよう配慮します。

終わりに

医療施設においては医療関連感染防止のために様々な取り組みが行われており、施設内の環境管理もその一つです。環境への過剰な消毒は必要なく、日常的な清掃、洗浄が環境に対する対応の基本となります。湿潤環境には多くの微生物が繁殖する可能性があることを念頭に置き、それら微生物が原因となる感染症が起きないように日常の清掃等を行うことが肝要です。

<参考文献>

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    建築物等におけるレジオネラ症防止対策について.
    平成11年11月26日、生衛発第1679号.
    http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1111/h1126-2_13.html#no1-1
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    平成15年2月14日、健発第0214004号.
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2010.08.23 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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