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Y's Letter
感染対策情報レター
2010/09/28

手指衛生遵守率向上のためのポイント


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Y’s Letter Vol.3 No.14
Published online 2010.09.28

はじめに

医療関連感染対策として手指衛生は最も重要な手段のひとつと考えられており、各医療施設においては、さまざまな手指衛生遵守率の向上・維持のための取り組みが行われています。手指衛生の遵守率は、各医療施設におけるさまざまな要因が関連しています。以下、医療施設における手指衛生の実態および遵守率向上のポイントについていくつか述べます。

部署、職種の違いによる手指衛生遵守率

これまでの手指衛生遵守に関する報告のシステマティックレビューでは、遵守率の中央値は約40%と報告されています1)。手指衛生の遵守率について、医療施設全体としてだけではなく、部署や職種の違いにより遵守率の差を調査した報告がいくつかあります。
ある医療施設で医療従事者の手指消毒を観察したところ、医療施設全体としての手指衛生遵守率の平均は約20%となり、病棟別では内科:17.8%、外科:4.3%、ICU:68.9%と遵守率に差があったと報告されています2)。一方、同様に部署別の遵守率を調べた報告では、他の部署(内科、小児科等)と比べICUの遵守率が低かったとする報告3)もあります。医療施設により各部署における業務の内容、煩雑さ等が異なるため、このように手指衛生遵守率にも差が出てしまうことが考えられます。また、手指衛生遵守率の職種間の差については、看護師や看護助手の方が医師の遵守率よりも高かったとする報告3)~5)や、部署により医師、看護師等の職種による遵守率に差があったとする報告2)など、医療施設内において遵守率に違いがあることが報告されています。
各医療施設における設備面、人員配置等の状況が異なるため、手指衛生の遵守状況に差はありますが、医療施設全体としての遵守率だけではなく、部署、職種を分けた遵守率について確認することで、各医療施設の状況に応じたより効果的な遵守率改善の対策を検討しやすくなると考えられます。

医療従事者の認識と行動の実際

手指衛生の実態について直接観察法とアンケートにより実施した調査によると、1日に実施している手洗い回数は直接観察とアンケート結果による差異はみられませんでしたが、手指衛生時間はアンケート結果と比べ直接観察時に測定した時間の方が短かった(アンケート:17.7秒、観察:9.0秒)と報告されています6)。本報告では看護師が自分の手洗い時間を正確に認識していなかったことから、主観的な時間感覚の不正確さを自覚することが大切であると指摘されており、改善策として手洗い場所への時計設置が行われています。
看護行為の前後における遵守率の調査では、注射薬の準備や実施などの清潔行為前の遵守率が低く、排泄ケアなどの不潔行為後は高い遵守率となり、看護行為の内容により遵守率の差が認められています6)。また、全体的に看護行為前よりも看護行為後の手指衛生遵守率が高い傾向が示されています6)7)。同様に、患者接触前後の手指衛生遵守の調査においても、患者接触前:12.8%、接触後:25.6%と約2倍の差があったとの報告や2)、別の調査では患者接触前後に2回とも手指衛生実施:12%、接触前だけ:20%、接触後だけ:61%との報告があり8)、患者への接触前の遵守率の低さが指摘されています1)
排泄ケアなどの不潔行為後は、手指衛生を意識しやすいため遵守率が比較的よいと考えられますが、医療従事者自身が看護行為時の手指衛生の重要性は理解していても、実際の業務における手指衛生遵守が伴っていない場合もあります6)。遵守率が低いタイミングはどのようなタイミングなのかを確認し、医療従事者自身が現状を認識することも遵守率を改善するために必要と考えられます。また、同一患者における看護行為では、清潔度の低い看護行為から高い看護行為を行う際に手指衛生が必要となるため、日常の看護行為の流れを清潔度の高い行為から低い行為となるように考慮して行動することも重要とされています6)

手袋の使用

看護行為時は必要に応じて手袋を着用しますが、手袋の着用自体が手指衛生の代わりとなってしまい、手袋着用前後の手指衛生がきちんと行われない可能性があることも指摘されています6)。きちんと手袋をしても、手袋を脱ぐ際あるいは手袋のリークにより手指が汚染されている可能性があることから手袋着用前後の手指衛生は必要ですが、遵守率は低いと考えられています9)
粘膜処置後の手袋および医療従事者の手指の汚染と手袋のリークの有無について調べた報告では、使用後の手袋135例のうち86例からグラム陰性桿菌や腸球菌が検出され、その手袋を使用していた医療従事者の13%(11/86)の手指から同じ細菌が検出され、11例中6例には手袋のリークが認められています10)。バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)保菌患者のケアを実施した医療従事者の手指の汚染についての調査においても、手袋を着用して患者をケアした医療従事者の手袋を脱いだ後の手指のVRE汚染が確認されています11)12)。手袋にリークがあった場合に、使用時にそのリークに気付く割合は低いとされています10)
手袋着用に関する調査として、多剤耐性菌の伝播予防のため、内科ICUにおいて患者との接触時に手袋を一律に着用する対策を行った結果、通常の接触予防策を行っていたときよりも手袋着用率は向上したものの、手指衛生遵守率が低下し、医療関連感染率が上昇した報告13)や、日常のケアで手袋を着用していたにもかかわらず、看護師が患者と同じ遺伝子の単純ヘルペスに感染した報告14)があることからも、手袋着用前後の手指衛生の遵守は感染対策上重要となります。手袋の着用は微生物による手指の汚染を完全に防ぐわけではなく、手指衛生の代替にはならないことを、医療従事者自身が認識することが必要と考えられています7)

手指衛生への介入

手指衛生の遵守率向上の対策として、医療施設において、教育(講習会など)や手指衛生のポスター展示、手指衛生の観察などの取り組みが行われており、それによる遵守率の改善が数多く報告されています。しかし、手指衛生に対する介入は遵守率改善には有効ですが、介入の効果は永久的ではなく、数ヶ月後には手指衛生遵守率が低下してしまうことが報告されています15)16)。手指衛生の監視効果の遵守率への影響については、手指衛生の観察を行っていることを医療従事者へ公表する前とくらべ、公表後の遵守率が向上したことが示されています。介入の効果を持続するためには感染制御チームが病棟をできるだけ頻繁に訪問することが必要であると述べられています17)

おわりに

手指衛生遵守率に影響を与える要因は多岐にわたり、さまざまな面から対策に取り組む必要があります。各医療施設で手指衛生の状況が異なるため、施設に応じて医療従事者への教育や手指衛生環境を整え、併せて医療従事者へ手指衛生の遵守状況についての情報を提供することも、手指衛生遵守率の向上に有効と思われます。

監修者※註

手指衛生は感染制御策の基本でありながら、世界的に、その遵守率が高まらないことが問題となっており、決定的な解決方法は見出されていない。いくつかの効果的介入を組み合わせて遵守率向上を目指し、併せて、手荒れ防止効果の高い手指衛生剤の開発が望まれる。

※ 東京医療保健大学/大学院 学長
小林寬伊 先生

<参考文献>

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2010.09.28 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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