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Y's Letter
感染対策情報レター
2011/09/12

多剤耐性Acinetobacter baumanniiによるアウトブレイク


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Y’s Letter Vol.3 No.20
Published online 2011.9.12

はじめに

多剤耐性Acinetobacter baumannii(MDR-AB;multidurg-resistant Acinetobacter baumannii)※は選択可能な抗菌薬が限られるため易感染患者に伝播し感染すると、治療が困難になり臨床上深刻な問題となります。従ってアウトブレイクの制御においては抗菌薬の適正使用と同時に迅速に感染源を特定し伝播防止対策を実施することが重要です。
以下アウトブレイクの事例とその感染源について述べます。

※MDR-ABによる感染症は「薬剤耐性アシネトバクター感染症」として5類感染症(定点把握)に指定されています。

1.アウトブレイク事例

事例1

ギリシャの整形外科病院の外傷 ICU(7床)で3名が死亡した事例では交差感染が指摘されています。
この事例では、異なる遺伝子タイプ(Ⅰa、Ⅰb、Ⅱ、Ⅲ)のイミペネム耐性A. baumanniiが患者14名(死亡3名含む)の血液・尿・喀痰やベッドの足、ベッドのヘッドボード、床頭台、気管内チューブ、三方活栓、医療従事者の手指から検出されました。検査結果から、死亡者2名及び生存者4名は異なる遺伝子タイプのイミペネム耐性A. baumanniiに時期を違えて感染したことが判明し、結論として、アウトブレイクは環境表面や器具・物品、医療従事者の手指を介して広がったと述べています。感染対策としてはまず、中性洗剤による環境清掃、人工呼吸器の消毒、閉鎖式の吸引チューブの使用や手指衛生啓発ポスターの掲示を実施し、手指衛生についても、患者に接する前後に使い捨ての容器に入った手指消毒薬にて手指衛生を十分に行うよう指導しています。さらに追加対策としてICUを10日間閉鎖し、勤務シフトごとの1000ppm(0.1%)次亜塩素酸ナトリウムによる環境消毒を実施したところ、再開後1ヶ月間の臨床及び環境検体からはイミペネム耐性A. baumanniiは検出されなかったと報告されています。

事例2

国内におけるカルバペネム耐性A. baumanniiのアウトブレイクでは、消毒済みのバイトブロックから検出されています。感染対策としてバイトブロックをディスポーザブルへ変更したこと、また人工呼吸器の回路からは不検出でしたが、同じ人工呼吸器を使用していた患者から同菌が検出されたため、すべての人工呼吸器をメーカーで分解清掃し、回路はディスポーザブル化したことなどが報告されています。
その他の対策として環境培養、水周りの環境の清掃・消毒、手指衛生の徹底、職員の教育、患者の隔離、行政主導による病棟の閉鎖等を早期に実施し、アウトブレイクを終息させています2)3)

2.アウトブレイクにおける感染源

MDR-ABによる感染症のアウトブレイクでは環境、手指、呼吸器関連器具、その他の医療器具等からMDR-ABが検出されておりこれらが感染源になる可能性があります。

環境

Acinetobacter属は乾燥状況下においても6週間以上生存することが報告されています4)。したがって、MDR-ABは湿潤環境のみならず乾燥した環境表面においても長期間生存している可能性があり、手指を介して他の患者へ伝播させる原因となり得ます。MDR-ABのアウトブレイク事例においては患者の周辺環境であるベッドリネン(まくら、シーツ)、カーテン、ベッド柵、ベッドサイドテーブル、床頭台、人工呼吸器表面、モニタリング機器表面等からMDR-ABが検出されています1)5)6)7)8)9)10)11)。その他として多数の人が触れるドアノブ、コンピューター、コンピューターのキーボード、処置台、流し、水道配水管、モップ、バケツ、水治療室等が感染源である事例が報告されており5)6)9)10)12)13)、MDR-ABは環境中に拡散していることが示されています。

手指

MDR-ABが付着している環境表面に触れた後や患者のケア前後に十分に手指衛生を行わなかった場合には、手指からMDR-ABを伝播させる原因となります。患者のケア後におけるMDR-ABの伝播についての報告では、MDR-ABによる感染症の患者のケアの後には、医療従事者の手袋とガウンまたはいずれから約39%、手袋をはずした手指からは4.5%と高頻度に検出されています。とくに創傷部位のドレッシングの際や気管内吸引チューブを取り扱う際に汚染されやすいと報告されています14)

呼吸器関連器具

MDR-ABにより感染症を引き起こしている患者は人工呼吸器を使用している率が高く、喀痰、吸引チューブ、ネブライザー、バイトブロック、アンビューバッグ、人工呼吸器回路、喉頭鏡ブレードからMDR-ABが検出されていることが報告されています2)3)8)15)。従って、呼吸器関連器具の管理が適切でない場合にはMDR-ABの伝播の原因となります。
人工呼吸器については表面のみならず、内部(呼吸器回路接続部)のほこりやフィルターからMDR-ABが検出され、清掃によってアウトブレイクを阻止した事例がありますので16)17)、内部の清掃やフィルターの交換も考慮が必要です。また、環境中のMDR-ABの拡散が開放式の気管内吸引チューブの使用によるエアロゾル化が一因であると示唆している報告もあり、その事例においては気管内吸引チューブを閉鎖式へ変更することにより対応しています8)

その他の医療器具

インフュージョンポンプ、連続的静脈血液濾過 (CVVH : cotinuous venous -venous hemofiltration)装置内部の汚れ、血圧計のカフ、パルスオキシメーターからMDR-ABが検出されています7)8)10)17)。また、創傷部位にMDR-ABが定着している場合もあり、パルス洗浄治療デブリーメントによるMDR-ABのアウトブレイクが報告されています18)19)。報告では拡散した理由として創面のパルス洗浄治療デブリードメントを介してMDR-ABがエアロゾル化し, 環境表面に拡散したと結論づけています19)

終わりに

MDR-ABによる感染症のアウトブレイク時においては、環境、手指、呼吸器関連器具、その他の医療器具が感染源になり得ますので、これらによる伝播を遮断することが重要です。感染対策としては標準予防策に接触予防策を追加した対策を実施します。とくに環境からの伝播が重要な要因であるため、環境の清掃・消毒を入念に行うことは効果的です。MDR-ABは基本的に低水準消毒薬でも有効ですが、抵抗性を示す場合がありますので、ノンクリティカル器具・環境の消毒が必要な場合には通常、熱水(80℃10分)、アルコール、200-1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液などの中水準消毒薬を用います。場合によっては環境を整備するために、病棟を閉鎖することも考慮します。

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2011.9.12 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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