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Y's Letter
感染対策情報レター
2012/08/06

血管アクセスデバイス穿刺部位の皮膚消毒における留意点


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Y’s Letter Vol.3 No.25
Published online 2012.08.06

はじめに

臨床において経皮的穿刺により血管にアクセスするデバイスには、採血あるいは薬剤等を血管内に注入する注射針をはじめ、血管カテーテルや透析カテーテルなど多種多様のデバイスが使用されています。無菌である血管に異物であるデバイスを経皮的に穿刺し、また場合によって留置する医療行為は感染リスクの高い医療行為であり、感染制御の観点からデバイスの無菌性の担保をはじめ、無菌操作ならびに皮膚消毒等を厳密に行うことが求められます。皮膚には常に微生物が存在し、消毒を行っても無菌状態に達しないことから、既存データ・ガイドライン等を参考に、状況に応じて最適と思われる消毒薬を選択・使用する必要があります。
以下、血管アクセスデバイスを経皮的に穿刺する際に使用される消毒薬について、米国のガイドラインならびに関連学会の提言・手引きなどを中心にそれらの勧告内容や注意点を挙げます。

消毒薬の選択

米国のCDCガイドラインや感染制御関連学会の提言・手引き等においては血管アクセスデバイス穿刺部位に使用される消毒薬としてクロルヘキシジン、ヨードホール(ポビドンヨードなど)、アルコール、ヨードチンキ、ならびにクロルへキシジンアルコールなどが挙げられています1)~7)(表)

表.各種ガイドライン・手引き等においてデバイス穿刺前の皮膚消毒に推奨される消毒薬
ガイドライン・手引き等 記述内容
CDCガイドライン(2011)1) 中心静脈カテーテルおよび末梢動脈カテーテル挿入部ならびにドレッシング交換時の皮膚消毒:0.5%を超える(>0.5%)クロルヘキシジンアルコール製剤を使用。
SHEA/IDSA:急性期ケア病院におけるCLA-BSI予防のための戦略(2008)2) 血管カテーテル挿入時:生後2ヶ月以上の患者には0.5%を超える(>0.5%)クロルヘキシジンアルコールを使用。(2ヶ月未満の患者はポビドンヨードを使用)
管理時:クロルヘキシジンベースの消毒薬を使用。
APIC:カテーテル由来血流感染症撲滅のためのガイド(2009)3) カテーテル挿入時およびドレッシング交換時:0.5%を超える (>0.5%)クロルヘキシジン製剤が好まれるが、ヨードチンキ、ヨードホール、70%アルコールを使用することもできる。
APIC:血液透析における感染症撲滅のためのガイド(2010)4) 中心静脈に留置する透析カテーテルの挿入部ならびに出口部、維持透析患者のシャントの皮膚消毒:0.5%を超える(>0.5%)クロルヘキシジン70%アルコールが好まれる。
IDSA:血管カテーテル由来感染の診断および管理のための臨床診療ガイドライン(2009)5) 血液培養時の皮膚消毒:ポビドンヨードよりもアルコールやヨードチンキ、0.5%を超える(>0.5%)クロルヘキシジンアルコールを使用。
カテーテルからの検体採取時:カテーテルハブにアルコール、ヨードチンキ、0.5%を超える(>0.5%)クロルヘキシジンアルコールを使用。
CUMITECH:血液培養検査ガイドライン(2005)6) ヨードチンキおよびクロルヘキシジンはほぼ同等の効果があり、ポビドンヨードよりも汚染率を下げることを示唆。
CLSI:血液培養のための指針と手順(2007)7)

※1 SHEA(The Society for Healthcare Epidemiology of America):米国医療疫学学会
※2 IDSA(Infectious Diseases Society of America):米国感染症学会
※3 APIC(Association for Professionals in Infection Control and Epidemiology):米国感染管理・疫学専門家協会
※4 CUMITECH:Cumulative Techniques and Procedures in Clinical Microbiology(臨床微生物学的検査における技術と手順の蓄積)にちなんで名付けられた米国微生物学会出版部の刊行する技術叢書(そうしょ)のこと
※5 CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute):米国臨床検査標準委員会

血管カテーテル挿入部位の皮膚消毒では、CDC血管カテーテル由来感染予防ガイドライン2011は中心静脈カテーテルおよび末梢動脈カテーテル挿入部、ならびにドレッシング交換時の皮膚消毒に0.5%を超える(>0.5%)クロルヘキシジンアルコール製剤の使用を推奨しており、クロルヘキシジンが使用できない場合としてポビドンヨード、ヨードチンキ、アルコール製剤を挙げています1)。SHEA※1/IDSA※2の提言ではカテーテル挿入前の皮膚消毒として0.5%を超える (>0.5%)クロルヘキシジンアルコール2)、APIC※3の手引きではカテーテル挿入前およびドレッシング交換時の皮膚消毒にヨードチンキやヨードホール(ポビドンヨードなど)、70%アルコールを挙げながらも、クロルヘキシジン濃度が0.5%を超える(>0.5%)濃度のクロルヘキシジン製剤が好まれるとしています3)。また同様に、APICの血液透析における感染予防の手引きにおいても、中心静脈に留置する透析カテーテルの挿入部ならびに出口部、維持透析患者のシャントの皮膚消毒に0.5%を超える(>0.5%)クロルヘキシジンアルコールの適用を推奨しています4)
血液培養時における皮膚消毒については、IDSAガイドラインがポビドンヨードよりもアルコールやヨードチンキ、0.5%を超える(>0.5%)クロルヘキシジンアルコールの使用を推奨しており、血液検体をカテーテルから採取する場合にも同様に、カテーテルのハブの消毒にはアルコール、ヨードチンキ、0.5%を超える(>0.5%)クロルヘキシジンアルコールを推奨しています5)。米国の血液培養に関するガイドラインとしてはこの他に、CUMITECH※4血液培養検査ガイドラインおよびCLSI※5ガイドラインなどがありますが、両ガイドラインともに、既知のデータではヨードチンキ製剤とクロルヘキシジン製剤はほぼ同等の効果があり、どちらもポビドンヨード製剤より効果的に汚染率を下げることが示唆されている、としています6)7)

消毒薬の皮膚接触時間

消毒薬の持つ殺菌効力を十分発揮し、かつ安全に使用するためには適切な塗布量と塗布した消毒薬が完全に乾燥するまで待つことが重要です。乾燥させる意義としては、消毒薬と皮膚との接触時間を十分保ち消毒薬の殺菌効力を発揮させること、消毒薬の体内への流入を防止すること、化学熱傷を予防すること、さらには外科手術の電気メス使用時におけるアルコールへの引火を防ぐこと等が挙げられ、上述した多くのガイドライン・手引き等においても乾燥するまで待つ必要性が明記されています。しかし乾燥するまでの時間は塗布量によって大きく異なり、過少量の塗布では十分な殺菌効力が期待できなくなる恐れがあります。CUMITECH血液培養検査ガイドラインでは、ヨードホール(ポビドンヨードなど)では消毒薬としての効果を最大限に引き出すために1.5~2分の接触時間が必要であるが、ヨードチンキ(アルコールが入ったヨウ素)は使用後30秒でその効果を引き出し、アルコールベースの消毒薬は水溶液の製剤より迅速に乾燥すると記載されています6)。同様に血液培養についての英国版ケアバンドルでは、穿刺前の皮膚消毒に2%クロルヘキシジンアルコールを使用し、乾燥まで30秒間待つことが推奨されています8)。このようにポビドンヨードでは少なくとも1.5~2分間、アルコール配合製剤では30秒間の接触を目安に消毒薬を塗布し、かつ消毒薬が乾燥してから血管を穿刺します。アルコール製剤は迅速に乾燥することから速やかに処置が行えるメリットがあります。ただし乾燥する前に電気メスを使用したことによる引火事例が日本をはじめ米国、フランス等においても発生し、注意喚起されています9)10)11)

クロルヘキシジン製剤の使用上の留意点

クロルヘキシジンアルコールの血管アクセス穿刺部位の皮膚消毒では多くの報告で支持され、上述のようにCDCや各種感染制御関連学会のガイドライン・手引きで推奨されていますが、クロルヘキシジンに過敏症の既往歴がある場合には、ポビドンヨード、ヨードチンキ、アルコール製剤が推奨されます。またクロルヘキシジン製剤は未熟な皮膚に対する刺激性ならびに経皮吸収の可能性から、CDCガイドラインでは2ヶ月未満の小児に対する有効性や安全性は未解決の問題とされています1)。しかし、ある研究では日齢7日以降の新生児のカテーテル挿入時の皮膚消毒薬として0.5%クロルヘキシジン70%イソプロパノールを使用したところ、10%ポビドンヨードよりも安全で効果的であったことが示され12)、また早産児の皮膚に対してクロルヘキシジン製剤を適用した11研究のレビューにおいて7研究では副作用はなかったことが示されています13)
他方、腰椎穿刺時の皮膚消毒についてオーストラリアのクイーンズランドにおけるガイドラインでは、クロルヘキシジン製剤の潜在的な神経毒性のリスクを背景に、0.5%を超える(>0.5%)クロルヘキシジン製剤は使用すべきでないと勧告しており14)、米国のあるクロルヘキシジン製剤のラベルには当該部位には適用しないように明記されています9)。しかし、本適用に関しては脊椎麻酔を実施した1万人を超える18歳以上の患者をレトロスペクティブに解析した研究において、クロルヘキシジンアルコールを穿刺部位の消毒に適用したことによる神経学的合併症の増加は見られなかったと報告されています15)。以上、2ヶ月未満の小児ならびに腰椎穿刺時のクロルヘキシジン製剤の適用についてはコンセンサスの得られた一定の見解が示されておらず、今後、更なるデータの蓄積が待たれます。

まとめ

近年の米国ではCDCをはじめ感染制御関連学会が一貫して、特殊な対象者・部位を除き、血管アクセスデバイス穿刺部位の皮膚消毒にはクロルヘキシジン製剤、中でも0.5%を超える(>0.5%)クロルヘキシジンアルコール製剤を推奨しています。しかし、単一の消毒薬は万能ではなく、過敏症の有無、年齢などの患者特性や消毒部位などを勘案し、使用が推奨される消毒薬の中から最適な消毒薬を選択することが必要です。

<参考文献>

  1. CDC:
    Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2011.
    http://www.cdc.gov/hicpac/pdf/guidelines/bsi-guidelines-2011.pdf
  2. Marschall J, Mermel LA, Classen D, et al.:
    Strategies to prevent central line-associated bloodstream infections in acute care hospitals.
    Infect Control Hosp Epidemiol 2008;29:S22-S30.
    http://www.jstor.org/stable/pdfplus/10.1086/591059.pdf?acceptTC=true
  3. APIC:
    Guide to the Elimination of Catheter-Related Bloodstream Infections. 2009.
    http://www.apic.org/Resource_/EliminationGuideForm/259c0594-17b0-459d-b395-fb143321414a/File/APIC-CRBSI-Elimination-Guide.pdf
  4. APIC:
    Guide to the Elimination of Infections in Hemodialysis. 2010.
    http://www.apic.org/Resource_/EliminationGuideForm/7966d850-0c5a-48ae-9090-a1da00bcf988/File/APIC-Hemodialysis.pdf
  5. Mermel LA, Allon M, Bouza E, et al. :
    Clinical practice guidelines for the diagnosis and management of intravascular catheter-related infection: 2009 Update by the Infectious Diseases Society of America.
    Clin Infect Dis 2009;49:1-45.
    http://cid.oxfordjournals.org/content/49/1/1.full.pdf+html
  6. 松本哲哉、満田年宏訳:
    CUMITECH血液培養検査ガイドライン.
    医歯薬出版株式会社,東京,2007.
  7. CLSI:
    Principles and Procedures for Blood Cultures; Approved Guideline. 2007.
  8. Department of Health:
    Taking Blood Cultures. A summary of Best Practice. 2011.
  9. ChloraPrep.
    Drug Facts.
    CareFusion. 2010
  10. 医薬品医療機器総合機構:
    電気メスの取扱い時の注意について(その2).2010.
  11. Afssaps :
    Alerte de materiovigilance concernant l’utilisation concomitante de bistouris electriques en presence d’antiseptiques alcooliques(電気メスとアルコール含有消毒剤の併用に関する注意喚起).2012.
    http://www.afssaps.fr/content/download/40186/523745/version/1/file/mes-120309-bistourielectrique.pdf
  12. Garland JS, Buck RK, Maloney P, et al.:
    Comparison of 10% povidone-iodine and 0.5% chlorhexidine gluconate for the prevention of peripheral intravenous catheter colonization in neonates: a prospective trial.
    Pediatr Infect Dis J 1995;14:510-516.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedterm=comparison%20of%2010%25%20povidoneiodine%20and%200.5%25%20chlorhexidine%20gluconate%20for%20the%20prevention%201995
  13. Chapman AK, Aucott SW, Milstone AM:
    Safety of chlorhexidine gluconate used for skin antisepsis in the preterm infant.
    J Perinatol 2012;32:4-9.
    http://www.nature.com/jp/journal/v32/n1/pdf/jp2011148a.pdf
  14. Queensland Health:
    Surgical skin antisepsis in operating theatres. 2011.
    http://www.health.qld.gov.au/chrisp/resources/rec_prac_skinprep.pdf

  15. Sviggum HP, Jacob AK, Arendt KW, et al.:
    Neurologic complications after chlorhexidine antisepsis for spinal anesthesia.
    Reg Anesth Pain Med 2012;37:139-144.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22286519
2012.08.06 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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