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I 感染対策における滅菌・消毒の役割

1 医療関連感染とは

感染症が発症するには、原因微生物の存在、生体の感染しやすい部位の存在、感染症を発症させるのに十分な微生物量、感染経路の成立のすべての条件が満たされることが必要である。感染制御とはこれらの諸条件の少なくともひとつを満たさないようにして、感染症の発生を事前に防止すること(prevention)および発生した感染症をさらに広げないこと(control)を意味する1)

 これまでは、病院内で体内に接種された(植え付けられた)微生物によって引き起こされる感染症を病院感染(院内感染)とされ、退院後に発症しても、入院中に接種された微生物による感染症であれば、病院感染(院内感染)とされていた。逆に、入院中に発症した感染症であっても、病院外で接種された微生物による感染症であれば、市井感染とされていた。

しかし、急性期病院、長期療養施設、外来クリニック、透析センター、サージセンター(日帰り全身麻酔手術施設)や在宅など医療サービスが多様化したこと、また病原体への曝露・感染場所の特定が難しいことが考慮され、2007年米国疾病対策センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)から公表されたガイドラインにおいては「nosocomial infection(院内感染)」という用語から「healthcare-associated infection(医療関連感染)」へと変更された。また外来および在宅については、内科的または外科的介入が関連した感染症も医療関連感染としている2、3)。この変更以降、日本においても「病院感染(院内感染)」にかわり「医療関連感染」という用語が広く使用されるようになった。患者への医療関連感染のみならず、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)や結核菌などが病院内で医療従事者に感染した職業感染も医療関連感染である4)。なお、本テキストにおいても「医療関連感染」を用いることとする。

患者への医療関連感染においては、平素無害な菌による易感染患者への感染、つまり日和見感染(opportunistic infection)が近年特に重大な問題となっている。なかでも緑膿菌やアシネトバクターなどのグラム陰性菌は広範囲の抗菌薬に耐性を示す場合があり、治療が困難となるため深刻である。2010年には、海外において感染が拡大しつつあるニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ1(NDM-1)産生大腸菌/肺炎桿菌やKPC型(KPC:Klebsiella pneumoniae carbapenemase)カルバペネマーゼ産生肺炎桿菌の感染/保菌例が国内で初めて報告され5、6)、拡大が危惧された。なお日和見感染について論議する場合、特にグラム陰性菌における日和見感染が問題視されるが、グラム陽性菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染も、健常人や比較的抵抗力のある患者においては、伝播したMRSAが感染を発生させない場合がほとんどであるという意味で、日和見感染のひとつとしてとらえるべきである7、8)

また、感染はその起因菌の由来により、患者自身に由来する内因性感染と環境由来の菌による外因性感染に区別することができる。抗菌薬の投与による菌交代現象により易感染患者などにおいて発生する感染症(例えばクロストリジウム・ディフィシル等による感染症)は現代の典型的な内因性感染であり、このような場合、抗菌薬の投与法が感染対策のポイントとなる。MRSA感染は、典型的には医療従事者の手指などを介して細菌が伝播した結果引き起こされる外因性感染であり、このような場合には消毒を含めた感染経路の遮断が感染対策のポイントとなる。

一方、2003年前半の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行では、病院におけるウイルス感染の拡散が重大な位置を占め、市井における集団感染の契機ともなった。インフルエンザにおいても施設内、病院内の集団感染が多数の死亡と関連している9)。市井においても2009年にインフルエンザ(H1N1)2009が新型インフルエンザとして拡がり脅威であった10)。さらに昨今はグローバル化のため、新興感染症の輸入感染・拡大が危惧されている。2015年5月、韓国では中東から帰国した男性を機に複数の医療機関において中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome:MERS)が拡大したが、日本国内へもMERSの拡大が懸念されたものであった11)

以上から、医療関連感染対策は、細菌のみならずウイルスなどを含めた広範な微生物を対象とする。なお、グローバル化に伴い日本国内において感染拡大のない新興感染症の感染対策も含めて述べることはいうまでもない。

本テキストは、主に感染経路の遮断による外因性感染の制御の観点から、消毒薬について述べる。

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