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I 感染対策における滅菌・消毒の役割

3 滅菌と消毒の役割

前項の「2.感染経路別の対策」を滅菌、消毒の観点から整理すると、滅菌と消毒は、標準予防策と接触予防策において重要な役割を果たすことがわかる。

2)感染経路別予防策において

標準予防策に加えて接触予防策が必要な場合、つまりMRSA症例が大量に排菌している場合やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)症例の場合などには、消毒の果たす役割が増大する。ノンクリティカル器具は、他の患者、もしくは次の患者と共用する場合には、通常の清拭、洗浄および清掃に加えて消毒を行う。ベッド周辺や医療従事者や患者の手が頻繁に接触する環境表面(ベッド枠、床頭台テーブル、ドアノブ、病室のトイレの中および周囲)は一日一回以上の清拭、消毒を行う2、3)。しかし、床面など、直接接触にも間接接触にも通常関与しない環境表面については、接触予防策においても通常の清拭、洗浄および清掃で十分であり、消毒を行う必要はない2、3、12、13、19)

空気予防策や飛沫予防策が必要な場合、つまり結核患者やインフルエンザ患者などの場合にはノンクリティカル器具や環境について特別な消毒が必要となることは少なく、標準予防策の対策で十分である。このように、結核患者の個室について日常的に特別な環境消毒を行うとは勧告されていないため20、21)、主に結核菌に対する有効性で区別される中水準消毒と低水準消毒の区分の現実的な意味合いが、環境消毒の側面では薄れている。

なお、標準予防策的な原則が徹底している場合には、MRSA患者、結核患者、インフルエンザ患者などに使用したセミクリティカル器具について特別な消毒が必要な場合は少ない。現実的には、例えばこれらの感染症患者に使用した器具を他の患者に使用する場合に、特に結核菌やインフルエンザウイルスなどを対象とした消毒法を選択することがある。しかしながら、基本的には吸引カテーテルなど粘膜に接触する器具、つまりセミクリティカル器具は感染症の有無にかかわらずすべての患者について高水準消毒または滅菌を行うべきである。十分な高水準消毒または滅菌を行えば結核菌やインフルエンザウイルスを含む多くの微生物に有効であるので、患者の感染症により消毒法を区別する必要はあまりないことになる。クリティカル器具についても同様で、すべての器具について滅菌を行うべきである。

以上のことを総合的に勘案すると、標準予防策に追加して行われる感染経路別予防策において消毒薬が重要な役割を果たすのは、もっぱら、接触予防策のために、聴診器などのノンクリティカル器具や、頻繁に接触する患者周辺の物品・環境を消毒する場面である(表Ⅰ-1)

表I-1 予防策の種類と消毒の有無(「+」は「加えて」、「・」は「または」を示す)

清浄化の対象 標準予防策 感染経路別予防策
空気 飛沫 接触
クリティカル器具 洗浄+滅菌 洗浄+滅菌 洗浄+滅菌 洗浄+滅菌
セミクリティカル器具 洗浄+滅菌・消毒 洗浄+滅菌・消毒 洗浄+滅菌・消毒 洗浄+滅菌・消毒
ノンクリティカル器具 洗浄・清拭 洗浄・清拭 洗浄・清拭 洗浄・清拭+消毒
頻繁に手が触れる表面
(例:ベッド枠、床頭台テーブル、ドアノブなど)
清拭・清掃 清拭・清掃 清拭・清掃 清拭・清掃+消毒
(1日1回以上)
ほとんど手が触れない表面
(例:床面など)
清掃 清掃 清掃 清掃
手指衛生 速乾性
手指消毒薬 *
速乾性
手指消毒薬 *
速乾性
手指消毒薬 *
速乾性
手指消毒薬 *

* 抗菌性石けんと水による手洗いでもよい。目に見える汚れのある場合、血液、体液、たんぱく性物質で汚染されている場合、クロストリジウム・ディフィシルやエンベロープのないウイルス(ノロウイルスなど)などの病原微生物が関与している場合には、非抗菌性石けんまたは抗菌性石けんと水による手洗いを行う。

なお最近は、手指衛生のコンプライアンス(遵守率)を高める目的で、手指の洗浄の代わりに速乾性手指消毒薬を繁用することが推奨されている2、3、22、23)

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