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I 感染対策における滅菌・消毒の役割

4 消毒薬の適正使用にむけて14、15、24~27)

消毒は、すべての微生物を殺滅する滅菌とは異なり、微生物の不完全な伝播の遮断法である。グルタラールによる高水準消毒でも、通常、実務的に適用が可能な時間内ですべての芽胞を殺滅できるわけではなく、また一部の抗酸菌において低感受性が報告されている28~33)。芽胞を考慮しない中水準消毒薬においても、結核菌や真菌に対する十分な効果を発揮するためには、適切な濃度、温度、消毒対象物の清浄度、接触時間などを確保することが必要である。結核菌を考慮しない低水準消毒薬においても、ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌やセラチアが強い抵抗性を示す場合があり、消毒薬中で長期間生存し医療関連感染を発生させる場合もある25)

また、どのような方法を用いても、医療従事者の手指など生体を無菌にすることはできない。したがって、手術的操作を行う場合には滅菌手袋を着用することが必要であり、また汚染が予想される手技を行う場合にはあらかじめ手袋を着用することが必要である。

概して、強力な消毒薬ほど生体毒性が強い傾向があり、人体に適用できないのみならず、それを取り扱う医療従事者の中枢神経系、呼吸器系、皮膚などへの影響を考慮しなければならないものもある。また、多くの消毒薬が、排水処理における活性汚泥に悪影響を与えるなどエコロジーな意味での有害物質であることも忘れてはならない。さらに、消毒薬の臭気や引火性、被消毒物に対する腐食性や着色など、実務的な意味においても問題が存在する。他の多くの医薬品と同様、消毒薬が生体毒性をもつ化学物質であることは本質的な事柄であり、これらの欠点をすべて克服した消毒薬の誕生を待望することは、あまり現実的でない。

このような観点から考察すると、例えば80℃以上の熱水による消毒は、芽胞を除くほとんどの微生物を短時間で感染可能な水準以下に死滅または不活性化するので、有効の面において信頼性が高い。また、同時に熱水による消毒は物理的な洗浄も兼ね、化学物質としての有害性がないという意味でも理想的な器具消毒法である。食器の洗浄やリネンの洗濯においても適度な熱水と洗剤を使用することにより、ほとんどの場合、必要なレベルでの消毒を兼ねることができる。

感染対策全般において、その効果に疑問が生じ、経済的に考慮しても不必要な対策であると判断される対策があるように、消毒薬による消毒が不必要である場合には、消毒薬を用いることが過剰使用となり、適正とはいえない場合もある。消毒薬の感染防止効果について臨床的な感染率評価を行った科学的な知見は未だ少ないが、収集しうる限りの医学的知見をもとに、科学的で実務的な選択を行うことが望ましい。

例えば、日常的な環境微生物検査や床消毒の必要性は否定されている。床のように広範な面積を占める環境表面は無菌化することは困難であり、あえて無菌化しようとすれば、医療従事者や患者にとって潜在的に有毒物であるような強力な消毒薬を大量に拡散させることとなり危険を伴う。また、床に存在する微生物が医療関連感染の原因となったという積極的な証拠はなく、床から検出される微生物は感染の原因ではなく結果として捉えるべきであると考えられる。もちろん室内に塵埃がたまっているような不衛生な環境においては、飛散する塵埃とともに感染起因菌が患者に降りかかる恐れがあり、日常的な環境清掃が肝要であることは当然である。

しかしながら、消毒薬は、消毒対象物の種類と清浄化の目的に応じて、滅菌や加熱消毒など他の手段を用いることができない場合において選択されるものであり、感染起因菌の絶対数を減少させて伝播リスクを減少させるという意味で、感染制御に不可欠なツールである。各消毒薬の特性と欠点を理解しながら、使用の目的に応じて、適正に選択することが肝要であり、そのためには、消毒薬に関する正しい基礎的な知識を習得することが必要である。

以上、消毒薬による消毒は、もっぱら不完全で欠点を伴う方法であること、また不必要な場合もあること、しかしながら感染対策上不可欠な手段であることを述べた。そもそも、感染対策は、消毒のみならず、様々な諸対策が組み合わされて初めて有効に機能するものであり、その他の諸対策がどのように組み立てられ、実施されているかを考察しなければ、消毒薬の適正な使用について具体的な結論を導くことはできない24)。例えば、どのような場合に手袋が着用されるのか、または、されないのかを考慮しなければ、どの手指消毒薬をどのような場合に使用するべきであるか判断することは難しい。

オールマイティとはなり得ない消毒薬を、いかに有効に、安全に用いて、感染制御を成功させるか、すなわち種々の感染率の低下を実現するかについて、今後さらに、研究されるべきテーマや実務的に試行されるべき課題は山積している。

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