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II 滅菌法・消毒法概説

1 滅菌・消毒とは

「消毒と滅菌のガイドライン(2015年)」1、2)によれば、無菌とは、すべての微生物が存在しないことであり、滅菌は無菌性を達成するためのプロセス、すなわち、すべての微生物を殺滅または除去するプロセスである。一方、消毒は生存する微生物の数を減らすために用いられる処置法で、必ずしも微生物をすべて殺滅、除去するものではない。

実際には、滅菌は確率的な概念として運用される(図Ⅱ-1)。あらかじめ無菌性保証水準(sterility assurance level:SAL)を設定し、単位あたりの被滅菌物に生存する微生物の数と種類(バイオバーデン)およびその致死速度(菌数を10分の1とするために必要な時間をD値という)からSALの達成される滅菌条件を計算して実施する。現在ではSALとして10-6(100万分の1)が国際的に採用されており、日本薬局方3)においても同じ概念が「最終滅菌法」として採用されている。これは、滅菌操作後、被滅菌物に微生物の生存する確率が100万分の1であることを意味する。

図Ⅱ-1 D値を利用した滅菌様式(D=1分の微生物の場合)
D値を利用した滅菌様式

想定すべきバイオバーデンを知るには事前に適切な微生物モニタリングを行わなければならないが、多くの場合、単位あたり106個(100万個)の菌数を想定し、かつ致死速度の測定に、その滅菌法に対して最も抵抗性の強い菌、すなわち指標菌を用いることで運用されている。したがって図1のようにD値×12の時間をかけて滅菌処理すること、つまり1012分の1(1兆分の1)への菌数減少を確保することにより滅菌を達成したと考えることが典型的である。

現在、上記の水準を達成できる滅菌法としては、加熱法(高圧蒸気法、乾熱法)、照射法(放射線法)、ガス法(酸化エチレンガス法、過酸化水素ガスプラズマ法)などがある。また、火炎法(加熱法の一種)、ろ過法なども滅菌法に分類される。これらの滅菌法の中から、被滅菌物の材質、性状、バイオバーデンなどを考慮して、最も適切な滅菌法を選択することが必要である。

これらの方法のうち、医療機関において通常実施できるのは加熱法とガス法であるが、酸化エチレンガス法は毒性の面で好ましい方法であるとはいえない。これに対し加熱法は浸透力が強く確実な効果が得られると同時に、化学物質を利用しない点で安全であるので、熱に耐える対象物を滅菌する場合には、高圧蒸気法などの加熱法を選択することが望ましい。医療機関における滅菌保証については、日本医療機器学会の「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2015」が指針となる4)

一方、消毒はあまり明確な概念ではない。被消毒物の用途や消毒の対象となる微生物の種類など、消毒の目的により必要とされる消毒が異なる。

日本薬局方3)では、消毒とは「生存する微生物の数を減らすために用いられる処置法で、必ずしも微生物をすべて殺滅したり除去するものではない」としている。

欧米においては消毒薬の薬効評価法及び判定基準法を策定し公定標準試験法方法として、消毒薬としての承認の基準としている5~9)

欧州標準における非生体消毒薬の判定基準はステンレスディスクを用いた試験管内試験法において、細菌に対して作用5分後で1004分の1(1万分の1)以下への菌数減少と規定されており5)、また速乾性手指消毒薬の評価においてもヒトの手指を用いた擬似汚染試験でほぼ104分の1に相当する判定基準を採用している6)。しかしながら、これらの判定基準は必ずしも臨床的な根拠から算出されたものではなく、国際的な議論が行われている7)

米国FDAの消毒薬承認基準においては、非生体消毒について欧州よりもおおむね厳しい判定基準が運用されているが、その基礎となる試験管内試験法のいくつかはかなり古いものであり再現性の乏しいことが米国内で長年問題となっている8)。手指消毒については欧州よりもおおむね緩やかな判定基準が運用されている9)

一方、日本においては、生体消毒薬について日本環境感染学会(消毒薬評価委員会)から「生体消毒薬の有効性評価指針:手指衛生2011」「生体消毒薬の有効性評価指針:手術野消毒 2013」が消毒薬の評価の標準化として示されている10、11)。両指針ともに、欧州標準による判定、米国FDA消毒薬承認基準による判定のいずれかの判定を採用し評価としている。

器具消毒は、後述のように抗菌スペクトルの広さにより高水準消毒、中水準消毒、低水準消毒に分類される。手指消毒は、後述のように皮膚常在菌を主な対象に含めるか否かにより衛生的手洗いと手術時手洗いに分類される。消毒薬の環境適用や患者適用においては、その目的により様々な消毒水準が存在し、あまり高い減菌率を期待しない場合も多い。

消毒法には消毒薬を用いる化学的消毒法と、湿熱や紫外線を用いる物理的消毒法がある。化学的消毒法は前洗浄などの諸条件が整わなければ、必ずしも期待する効力を発揮することができない。また化学物質としての消毒薬は、患者・医療従事者・環境に及ぼす影響について安全性の面から注意が必要であるのに対し、湿熱を用いた消毒法は浸透力が強く、確実な効果が得られると同時に、化学物質を用いない点で安全でもある。したがって、熱に耐える器具・物品を消毒するには、熱水消毒などの物理的消毒法を選択することが望ましい。

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