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II 滅菌法・消毒法概説

3 消毒の分類

2)方法による分類-物理的消毒法と化学的消毒法

(1)物理的消毒法1、3、4、18、19)

①熱水消毒27、28)

熱水や蒸気を用いて65~100℃の温度で処理する方法は、有効で安全かつ経済的な消毒法である。例えば80℃10分間の処理により、芽胞を除くほとんどの栄養型細菌、結核菌、真菌、ウイルスを感染可能な水準以下に死滅または不活性化することができる。この方法で清浄化されるものとしてはリネンの他、ベッドパン、吸引ビン、診察用器具、人工呼吸器関連器具などの器具が挙げられる。近年、洗浄、消毒、乾燥が一つの工程として組み込まれたウォッシャーディスインフェクター(washer disinfector)が普及しており、滅菌の必要な手術器具の一次処理にも利用されるようになった。

一般に処理温度が高ければ高いほど処理時間は短いが、その温度、時間条件は国によって規定が異なっている23、24)表Ⅱ-4)。日本においては80℃10分間が基本条件となっており、「消毒と滅菌のガイドライン」25)では表Ⅱ-5のような処理条件が規定された。

表Ⅱ-4 各国の熱水消毒の条件

国名 リネン類 器具類
温度 時間 温度 時間
日本 80℃ 10分間 80℃ 10分間
米国 71℃ 25分間 定義なし
ドイツ 90℃ 15分間 93℃ 10分間
英国 65℃ 10分間 71℃ 3分間23)
80℃ 1分間
71℃ 3分間
90℃ 12秒間23)

(文献23より転載改変)

表Ⅱ-5 日本における熱水消毒の条件

対象物 処理条件
器具類一般 80℃10分間の熱水
鋼製小物 93℃10分間の熱水(ウォッシャーディスインフェクター)
ベッドパン 90℃1分間の蒸気(フラッシャーディスインフェクター)
リネン 80℃10分間の熱水(熱水洗濯機)
食器 80℃10秒間(食器洗浄器)、場合により10分間

②流通蒸気法

100℃の流通蒸気中に30~60分間放置する方法である。栄養型細菌、結核菌、真菌、ウイルスを殺滅するが、芽胞は殺滅できない。

③煮沸法

沸騰水中に沈めて15分間以上煮沸する方法である。栄養型細菌、結核菌、真菌、ウイルスを殺滅するが、芽胞は殺滅できない。炭酸ナトリウムを1~2%の割合で沸騰水中に加えることにより効力の増強と金属の防錆効果を期待できる。

④間歇法

80~100℃の熱水または流通蒸気中(あるいは60~80℃の熱水中)で1日1回30~60分間ずつ3~5回加熱を繰り返す方法であり、細菌や真菌だけでなく芽胞形成菌も殺滅しようとする方法である。加熱操作が終了するたびに約20℃の常温まで温度を下げ1日放置することで芽胞を発芽させる点がポイントであるが、高圧蒸気滅菌法が普及した現在ではほとんど実施されていない。

⑤紫外線法25)

254nm付近の波長を持つ紫外線を照射することによって微生物を殺滅する方法である。栄養型細菌に対しては短時間で効果があるが、真菌や芽胞に対しては長時間の照射が必要である。紫外線はガンマ線などの放射線に比して浸透力がなく、その照射表面だけしか効力を発揮しないため照射の死角となる影の部分への効果も期待できない。また、紫外線は人体の眼や皮膚に障害を起こすため、直接眼などに照射を受けないよう注意する必要がある。

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(2)化学的消毒法1、18、19、21、22、27~29)

①主な消毒薬

化学的消毒法に用いる主な消毒薬には表Ⅱ-6のものがある。
これらの他にも、過酸化水素(日本においてはオキシドールとして主に生体向けに使用、欧米においては高濃度で高水準消毒薬としても使用)、トリクロサン(薬用石けんとして生体に使用)、アクリノール水和物(生体に使用)などがある。

表Ⅱ-6 化学的消毒法に用いる消毒薬

高水準消毒薬 グルタラール、フタラール、過酢酸
中水準消毒薬 次亜塩素酸系(次亜塩素酸ナトリウムなど)
ヨードホール・ヨード系(ポビドンヨード、ヨウ素など)
アルコール系(エタノール、イソプロパノールなど)
フェノール系(フェノール、クレゾールなど)
低水準消毒薬 第四級アンモニウム塩(ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物など)
クロルヘキシジン(クロルヘキシジングルコン酸塩)
両性界面活性剤(アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩など)

②消毒薬の効力

消毒薬の作用機序は抗菌薬ほどには解明されていないが、その主な機序は微生物の細胞壁、細胞質膜、細胞質、核酸などに対するもっぱら化学的な反応(酸化、凝固、重合、吸着、溶解など)に起因すると考えられ、その使用濃度、作用温度、作用時間などにより効力は変化する。通常、濃度が高いほど、温度が高いほど、時間が長いほど効力が増大するが、消毒薬の種類によってはあまりに濃度が高いとかえって効力が減弱する場合がある。

また、それぞれの消毒薬には有効な微生物と無効な微生物、つまり抗微生物スペクトルがあり、消毒の対象となる微生物に対する有効性が確認されている消毒薬を選択することが必要である。しかしながら、消毒薬の有効性を判定する統一された試験室内実験法が確立されていないこともあって、一部の消毒薬については有効菌種や有効濃度に関して議論が存在する。

また、同じ菌種であっても、菌株によって一部の消毒薬に対する感受性が異なる場合があり、注意が必要である。このような同菌種内の消毒薬感受性のばらつきについて調べる場合、消毒薬の効力試験法とその判定基準が統一されていない現状においては、「消毒薬耐性」という断定的な区分を行うことは困難であり、「消毒薬抵抗性」と表現するのが適切と思われる。ただし、低水準消毒薬にはその薬液中でも長期間生存、または増殖が可能なほど強い抵抗性をもつグラム陰性菌が存在することもある。

濃度、温度、時間の他にも消毒薬の効力を左右する因子として、薬液との接触の状態、血液など有機物による汚れの存在、薬液のpH、希釈水中に存在する無機イオンの影響、脱脂綿など担体に対する消毒成分の吸着などがある。

③消毒薬を使用する上での注意

消毒薬を有効かつ安全に使用する上では、以下のような注意が必要である。

〈消毒薬の効力を理解して消毒薬と消毒法を選択する〉
消毒の目的に応じて必要な消毒水準を判断するとともに、抗微生物スペクトルや消毒薬抵抗性の存在などを考慮して消毒薬を選択する。

〈消毒対象物の材質、構造などに適した消毒薬と消毒法を選択する〉
消毒薬のなかには、金属、樹脂などを腐食、変質、変色させるものがあるので、対象物に悪影響を及ぼしにくい消毒薬を選択する。また、対象物の構造によっては、例えば管腔など気泡がはさまって薬液が接触しにくい部分があるので、消毒薬への浸漬法を工夫することが必要である。

〈消毒薬を正しく調製し使用する〉
定められた希釈を行って正しい濃度に調製し、十分な接触時間が確保できるような方法で使用する。希釈水の温度や室温が20℃を下回る場合には作用温度が低すぎる場合があるので留意する。また希釈水が水道水などで硬水の場合、消毒薬によっては成分が沈殿して効力が減弱するので、このような場合には精製水を用いて希釈する。医療事故防止のため希釈を行う場合には、注射筒を用いて消毒薬の容量を量らない。低水準消毒薬は開封後抵抗を示す菌が混入して細菌汚染を受ける場合があるので、粘膜や創傷部位に使用する場合は、希釈後高圧蒸気滅菌するか滅菌精製水を用いて無菌的に希釈し、頻繁に交換する。薬液のpHによって効力が大きく変化する消毒薬に緩衝化剤が添付されている場合があるので、これを定められた方法で溶解する。消毒薬によっては脱脂綿などの担体に吸着して濃度が低下するものがあるので、この場合には担体に対して十分な量の消毒薬を用いる。

近年では、希釈滅菌済みの消毒薬、単包の消毒含浸綿や綿棒が販売されている。滅菌にかかる費用や時間、微生物汚染、吸着による消毒濃度低下の点から、これらの使用が推奨される。

〈血液など有機物で汚染されているものを消毒する場合には前洗浄を十分に行う〉
消毒薬は器具や環境が血液などで汚染されていると効力が減弱するので、十分な前洗浄が必要である。さらに、消毒薬の蛋白凝固力により血液などが凝固してしまうと消毒薬が浸透しないため、薬液が消毒対象物の表面と接触しない場合があり、また、細菌が対象物表面でバイオフィルムを形成している場合にも同様の不都合が起きるので、ブラッシングを伴う前洗浄が必要な場合もある。

2015年2月、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)は、十二指腸内視鏡を介してカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)による感染症が多数発生していることを注意喚起した30)。十二指腸内視鏡の先端部の複雑な構造に起因して十分な洗浄・消毒等がされなかったことが原因であると示唆している。これに伴い日本では、厚生労働省医政局地域医療計画課長・医薬食品安全対策課長連盟通知で「十二指腸内視鏡の洗浄および滅菌又は消毒に関しては関連学会の策定するガイド及び添付文書・取扱説明書等に製造販売業者が定める方法を遵守するよう」など注意喚起がされた31)。日本国内で発売されている十二指腸内視鏡は、海外製品よりも構造上、洗浄に有利であるとのことではあるが、洗浄・消毒等を十分に行うよう留意が必要である。

〈消毒薬の副作用、毒性に留意する〉
消毒薬は基本的に生体に対して毒性を持つ化学物質である。患者や医療従事者に適用する場合にはアナフィラキシー、接触皮膚炎、手荒れ、中枢神経障害などの副作用を伴うことがあるので、過敏症の方への適用、過度の適用、禁忌部位への適用などを避けるよう留意が必要である。また、器具に使用する消毒薬の中には、接触した皮膚を損傷したり、蒸散ガスが臭気を伴うだけでなく毒性を発揮するものもあるので、手袋、マスクなどを着用するとともに適切な浸漬容器を用い十分な環境の換気を必要とする。とくに高水準消毒薬は作用が強く、蒸気ガスや液体に接触すると人体に影響を及ぼすので取扱いに留意する。グルタラールについては、厚生労働省労働基準局長通知にて、作業環境中の濃度測定の実施、健康管理、換気設備設定等の環境整備、保護マスク・保護メガネ・保護手袋の着用が義務づけられており、遵守することが求められる32)

〈器具を浸漬消毒した場合にはすすぎを十分に行う〉
器具を浸漬した場合にはすすぎを十分に行い、消毒薬が残留しないようにする。グルタラールにおいては、内視鏡消毒を行った後、十分なすすぎが行われなかったために薬液が内視鏡に残存し、大腸炎等の消化管の炎症が認められた報告がある33、34)。またフタラールで消毒を行った術中経食道心エコー(TEE)プローブ等の医療器具を使用した患者に、口唇・口腔・食道・胃等に着色、粘膜損傷、化学熱傷等の症状があらわれたとの報告がある35、36)。

〈医療事故が起こらないように留意する〉
 消毒薬の取違え、濃度間違え(希釈ミス含む)、エタノール濃度の誤認識、引火、背部への流れ込みによる接触性皮膚炎等が起きないよう細心の注意を払う。引火の事故では、アルコール含有消毒薬の塗布直後に電気メスを使用したことが原因とされている37、38)。よって、電気メスを使用する場合は、アルコール含有消毒薬を完全に乾燥させ、アルコール蒸気の拡散を確認する38、39)。ドレープ下では気化したエタノール蒸気が充満することで引火しやすくなるのでとくに留意する38、39)。また、手術時、消毒薬が背面に流れ込んだ状態が続き、接触性皮膚炎(重度のものは化学熱傷と呼ばれることがある。)や色素沈着が発生したことが報告されている40~42)。よって、背面部に流れ込んだ消毒薬は吸水シートに吸着させたり、拭き取るなどする。

〈消毒薬の保管、廃棄に留意する〉
消毒薬は化学的に不安定なものがあり、熱や直射日光を避けて保管する。次亜塩素酸ナトリウム(6%以上)など冷所保存(15℃以下など)の必要な消毒薬もあり、指定された保管方法を守る。使用期限を過ぎた消毒薬は使用しない。消毒用エタノールなどアルコール濃度が60w/w%以上の消毒薬は消防法による第四類危険物であるので、これに関する指定数量(400L)などの法規則を守り、火気に注意して保管する。消毒薬の廃棄にあたっては、廃水処理設備の活性汚泥に対する影響や環境全般に与える影響に配慮する必要がある。病床数300床以上の医療機関は「水質汚濁防止法」の規制を受けるが、病床数にかかわらずフェノール類は水質汚濁防止法や下水道法の排水基準によって5ppm以下とする必要がある。

④消毒方法

消毒の主な方法には、以下のものがある。

〈浸漬法〉
適当な容器に消毒薬を入れ、器具などを完全に浸漬して薬液と接触させる方法である。器具が完全に浸漬できていない場合や気泡などによる不完全な消毒に留意する。

〈清拭法〉
ガーゼ、布、モップなどに消毒薬を染み込ませて、環境などの表面を拭き取る方法である。十分な量の消毒薬が染み込んでいないことによる不完全な消毒に留意する。

〈散布法〉
スプレー式の道具を用いて消毒薬を撒く方法であり、清拭法では消毒不可能な隙間などに用いる。この方法は消毒薬を霧状にして室内などに充満させる噴霧法とは異なる。なお、噴霧法は消毒法として推奨されていない。

〈灌流法〉
チューブ、カテーテル、内視鏡、透析装置など細い内腔構造を有している器具に消毒薬を灌流する方法である。内腔に気泡が残ったり盲端を発生させたりしないように留意する。

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