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III 消毒対象物による消毒薬の選択

1 生体

2)医療従事者

(1)手洗い概説54、55)

感染対策における最も基本的な要件として、医療従事者による手洗いの励行がある。医療従事者の手指は病原性微生物の伝播媒体となるため、正しい手洗いをマスターし、目的にあったレベルの手洗いが常にできるようにしておかなければならない。1997年英国の暫定ガイドラインは「ほとんどの場合において石けんによる手洗いこそが、交差感染を防ぎ、患者と従事者を感染から防御するために必要なすべてである」と述べている16、17)

手指に存在する微生物は皮膚常在菌(定住フローラ、resident skin flora)と皮膚通過菌(一過性フローラ、transient skin flora)に分けることができる(表12)。常在菌は、皮脂腺、皮膚のひだなどの深部に常在しており、表皮ブドウ球菌などのCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、coagulase-negative staphylococci)が含まれ、消毒薬による手洗いによっても除去しきれない。通過菌は皮膚表面、爪などに周囲の環境より付着したもので、大腸菌等のグラム陰性菌や黄色ブドウ球菌等のグラム陽性菌など様々な微生物が含まれるが、抗菌成分を含まない石けんと流水でほとんど除去することができる。

表12 手指に存在する微生物

皮膚常在菌 表皮ブドウ球菌などのCNS 消毒薬でも除去しきれない
皮膚通過菌 大腸菌等のグラム陰性菌
黄色ブドウ球菌等のグラム陽性菌など様々
石けんと流水でほとんど除去

病院における手洗いには日常的手洗い(social handwashing)、衛生的手洗い(hygienic handwashing)、手術時手洗い(surgical handwashing)の3種類がある(表13)。

表13 手洗いの種類

日常的手洗い 配膳、トイレなど日常的行為の前後の手洗い
衛生的手洗い 注射、ガーゼ交換など医療行為の前後の手洗い
手術時手洗い 手術に際しての手洗い

このうち日常的手洗いは、日常生活における手洗いと同様に、配膳の前やトイレの後などに行う簡易な手洗いである。流水のみの場合、石けんを用いる場合があるが、抗菌成分を含む石けんが用いられることもある。この手洗いによっても通過菌の一部を除去できるが、この手洗いの本質はあくまでも物理的な汚れの除去にすぎず、患者の処置前後などには、より念入りな衛生的手洗いを行う必要がある。

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(2)衛生的手洗い(hygienic handwashing)54~61)

①衛生的手洗いの目的

主に医療において医療関連感染の予防策として行う手洗いであり、皮膚通過菌のほとんどを除去することを目的とする。必要な場面でこれを行うことにより手指を介した接触感染を防止することが最終的な目的である。

②衛生的手洗いの方法

正しい手洗い手順を守り十分な時間をかければ、抗菌成分を含まない石けんと流水による手洗いでほとんどの通過菌を除去することが可能であるが、抗菌成分入りの石けん、いわゆる薬用石けんを使用する場合もある。微生物により高度汚染されていると思われる場合などには、速効的な殺菌力のある消毒薬を用いて行う。乾燥にはペーパータオルなどを用い、タオルからの再汚染を受けないようにする。速乾性手指消毒薬によるラビング法は、簡便に確実な除菌を達成できる方法であり、日本において最も普及した手洗い法である。後述の2002年米国CDCガイドライン57、58)や2007年の改訂隔離予防策のガイドライン62、63)も日常的な手洗い法の基本として推奨しているが、目に見えるような汚れがある場合や芽胞形成菌などアルコールに抵抗性を示す微生物に接触した可能性がある場合には、まず石けんと流水による手洗いで汚れを除去しなければならない。緊急時などにおいては、アルコールを含ませた脱脂綿などで手指を清拭するスワブ法を行い、汚れを除去すると同時に消毒を行う場合もある。

基本的な知識として、通過菌は抗菌成分を含まない石けんによる手洗いでほとんど除去できることの理解が必要である60、61)。通過菌の除去の報告としてLowburyらは、事前に70w/w%エタノールで消毒した手指に、S. aureusを付着させ、石けんと流水による洗浄(30秒)、0.5%クロルヘキシジン液での洗浄、ポビドンヨードと流水による洗浄において、減菌率はそれぞれ99.62%、99.86%、99.97%であったと報告している64)。手洗いに関する多くの研究は、通過菌と同時に常在菌もカウントする実験手法を採用し、低い減菌率を報告している。

トリクロサン、トリクロカルバンなどの抗菌成分を含む石けん、いわゆる薬用石けんが、通過菌や常在菌の一部に殺菌力を発揮するのみならず、持続効果を発揮し、また連用による累積効果を持つ場合がある65~68)。これらの付帯的な効果が病棟における接触感染の防止においてどれほどの成果を上げるかは不明であるが、使い捨てのボトル容器の形で市販されている液体石けんは、固形石けんよりも清潔に使用することが容易であるため、薬用液体石けんを採用する医療機関が増えている。英国の1997年暫定ガイドラインでも使い捨て容器の形で市販されているものを採用するよう推奨している16、17)

高度の微生物汚染があった場合の消毒薬としては、手術時手洗いに用いる4%クロルヘキシジンスクラブ、7.5%ポビドンヨードスクラブ、1%クロルヘキシジンエタノールローション、0.5%クロルヘキシジンエタノールローションと0.2%クロルヘキシジンエタノールローション、0.2%ベンザルコニウム塩化物エタノールローションなどの速乾性手指消毒薬がある。これらの消毒薬は、通過菌や常在菌の一部に速効的な殺菌力を発揮するのみならず、クロルヘキシジンなどの成分が皮膚常在菌に対して持続効果を発揮することも期待されているが、この持続効果が衛生的手洗いの目的、つまり病棟における接触感染の防止においてどれほどの成果を上げるかは不明である。

脱脂綿などによるスワブ法に用いるアルコール系消毒薬としては消毒用エタノール、70%イソプロパノール、イソプロパノール添加エタノール液などがある。

なお、衛生的手洗いの方法を考慮するときに重要な事項として手荒れの問題がある。手荒れを起こした手指は皮膚表面に無数の小膿瘍を形成し、手指上の細菌数が増加していることがある。また、冷水や消毒薬の適用時に刺激を感じるため、手洗いの励行に支障をきたす場合もある。消毒薬は手荒れを誘発する場合があり、頻繁に使用する消毒薬は、手荒れに配慮した製剤であるかを重視して選択するべきである。そもそも衛生的手洗いは抗菌成分を含まない石けんでも可能なものであり、殺菌力の強さのみを考慮して消毒薬を選択するべきではない。

③衛生的手洗いが必要な場面

衛生的手洗いのための適切な消毒薬や設備が採用、設置されても、必要な場面で手洗いが行われなければ感染対策がなされたことにはならない。頻繁に手洗いが行われているとしても、例えば処置後の手洗いが励行されているだけで、処置前の手洗いがあまり行われていない場合には、適切な感染対策がなされたことにはならない。米国CDCの2002年手指衛生ガイドライン57、58)では、手洗いは表14に示す場面で行われるべきとしている。またCDCの2007年隔離予防策ガイドライン62、63)では、表15のように勧告している。

表14 CDC「医療現場における手指衛生のためのガイドライン(2002年)」の勧告

非抗菌性石けん(普通の固形石けんなど) 手指が目に見えて汚れている場合血液、体液などで汚染されている場合 抗菌性石けん(消毒薬配合スクラブ)と流水でも可
炭疽菌が疑われる場合など
速乾性手指消毒薬を日常的に用い手指消毒する 患者に直接接触する前
中心静脈カテーテル挿入時に滅菌手袋を着用する前
導尿カテーテル、末梢静脈カテーテルなど外科的処置を要しない侵襲的医療器具を挿入する前
患者の健常皮膚に接触した後
体液、排泄物、粘膜、非健常皮膚、創処置の後で目に見える汚染のない場合
同一患者の汚染部位から清潔部位に移る場合
患者の近傍物品に接触した後
手袋をはずした後

表15 CDC「隔離予防策のためのガイドライン(2007年)」の勧告

標準予防策 手指が目に見えて汚れている場合またはタンパク性物質に汚染されているとき、血液・体液によって見た目に汚れているとき 非抗菌性石けんと流水または抗菌性石けんと流水による手洗い
芽胞(クロストリジウム・ディフィシルや炭疽菌など)に接触したおそれのある場合
手指が目に見えて汚れていない場合、または非抗菌性石けんと流水で目に見える汚れを取り除いた後 患者に直接接触する前 速乾性手指消毒薬による手指衛生が好まれる代わりに抗菌性石けんと流水で手を洗っても良い
血液、体液、排泄物、粘膜、健常でない皮膚、創部ドレッシング部位に触れた後
患者の健常皮膚に触れた後(脈や血圧の測定や患者の持ち上げなど)
患者のすぐ近くにある無生物(医療器具を含む)に触れた後
手指が目に見えて汚れている場合またはタンパク性物質に汚染されているとき、血液・体液によって見た目に汚れているとき
手袋を外した後

*感染経路別予防策下においても基本的な手洗い方法は変わりない。

なお易感染患者である造血幹細胞移植患者に関しては、入退室時に消毒薬入りの石けんまたは速乾性手指消毒薬を用いることが勧告されている69、70)

英国の1997年暫定ガイドライン16、17)では、主に石けんと流水による手洗いが表16のような場合に勧告されていたが、英国の2007年ガイドラインは「患者との直接接触ないしケアの直前に毎回、かつ手が汚染された恐れのある行動や接触を行った後に手を清浄化しなければならない」と表現した71)

表16 英国「病院感染防止-臨床的ガイドライン-(1997年)」の石けんと流水による手洗いの勧告

● 感染しやすい部位、例えば創傷、熱傷、血管内留置カテーテル挿入部位に接触する前
● 侵襲的処置、例えば感染に対する自然防御能が破綻される処置を行う前
● 特に感染しやすい患者、例えば免疫不全患者や新生児に接触する前
● 食物や薬剤を扱う前
● 手指が汚染した後、例えば生体物質、汚染したリネンや器具に接触した場合
● 手袋をはずした後-使用中に穴が発生することは頻繁であり、または、はずすときに手指が汚染されることもあるので-
● 隔離患者、または、例えば多剤耐性菌のように臨床上特別な重要性を持つ微生物が定着した患者に接触した後
● トイレを使用した後、またはトイレの使用を介護した後

以上のように手洗いの必要な場面を列記することは比較的煩雑であり、またあまりにも簡素で硬直的なマニュアルは医療現場の実際には不都合な場合もある。おそらく最も大切なことは、すべての医療従事者が交差感染に関する基本的な知識を修得し、前述のような例示の意味を理解した上で、常に接触伝播のリスクを意識して手洗いの必要性を的確に判断し、励行することにあると思われる。

④手洗いの手技

手洗いは、個々による自由な手順では手の甲や指先などを洗い損ねる場合が多いので、衛生的手洗いにおいては、常に全員が同じレベルでの除菌を行うことができるよう手洗い手順をマニュアル化することが望ましい。手洗い手順例を図2、3に示す。

図2 衛生的手洗い手順例(速乾性手指消毒薬を用いる場合)
衛生的手洗い手順例(速乾性手指消毒薬を用いる場合)

図3 衛生的手洗い手順例(流水を用いる場合)
衛生的手洗い手順例(流水を用いる場合)

⑤衛生的手洗いの実践

以上、衛生的手洗いの目的、方法、場面、手技について基本的な事項を解説したが、さらに最近の考え方について述べる。従来より多くのガイドラインにおいて、衛生的手洗いの基本は石けんと流水による30秒以上の手洗いであることが力説されていたが、多忙な医療現場においてこれを頻繁に実行することには困難を伴う。また手洗いのための流水設備が不足し繰り返し洗えない現状も存在する。近年、手洗いのコンプライアンス、すなわち手洗いの必要な場面でどれだけ有効な手洗いが実行されているかを観察し、どのような方法でその向上を図ることができるかを客観的に検討する研究が進んでおり、このような観点から衛生的手洗いについて以下のような実践的見直しが行われている64)

流水による手洗いを有効とする研究の多くは30~60秒間かけた場合の評価に基づくものであるが、現実を観察すると医療従事者の手洗いの平均時間は7~10秒間程度であり、このような短時間手洗いの効果は疑わしく科学的根拠に乏しいといえる。一方、アルコールは手に付着している細菌を効果的に確実に減少させることができ、特別な設備も不要であり、ベッドサイドにて容易に使用することができる。さらに近年市販されている速乾性手指消毒薬には、手荒れ防止用のエモリエント剤が含まれており、手荒れの問題も改善されている。したがって実践的には、速乾性手指消毒薬の普及を図ることが最善の対策であるといえる。

このような観点から、簡便に使用でき確実に手の付着菌を減少させる速乾性手指消毒薬を用いて衛生的手洗いを実践することが感染対策のスタンダードとなりつつあり、石けんと流水による手洗いは目に見える汚染がある場合やアルコールに抵抗性を示す微生物に汚染された可能性のある場合に限定されつつある。米国CDCの2002年手指衛生ガイドライン57、58)や2007年隔離予防策ガイドライン62、63)は、このような方針のもとに作成されたものである。

ただし、この点については補足が必要と思われる56、58)。目に見える手指の汚れがある場合に高度な微生物汚染を伴うことがあるので、前述のように必要に応じて消毒薬で手指消毒をすることが望ましい。消毒薬の速効性が期待できない微生物を対象とする場合には、流水による手洗いで物理的に除去することが基本であり、消毒薬には補完的な役割が期待されるにすぎない。以上のことから病棟での手指衛生における消毒薬の選択肢をまとめると表17のようになる。

表17 病棟での手指衛生における消毒薬の選択肢

通常の手指衛生 ・速乾性手指消毒薬の適用を基本とする
(消毒薬配合スクラブ剤と流水による手洗いでも可)
目に見える汚れのある場合 ・石けんと流水による手洗いの後、必要に応じて速乾性手指消毒薬を適用
・消毒薬配合スクラブ剤と流水による手洗い
消毒薬抵抗性の強い微生物を対象とする場合 エンベロープを有しないウイルス:
・石けんと流水による手洗いの後、速乾性手指消毒薬を適用
・ポビドンヨード配合スクラブ剤と流水による手洗い
芽胞:
・石けんと流水による念入りな手洗い

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(3)手術時手洗い(surgical handwashing)32、33、54~59)

①手術時手洗いの目的

手術など侵襲的な手技の前に行われる手洗いであり、最も衛生水準の高い手洗いである。通過菌をほとんど除去し、かつ、常在菌も可能な限り減少させることを目的としている。平素無害な皮膚常在菌であっても、侵襲的操作などを介して通常無菌の体内組織などに入った場合には、感染を発生させることがあり、特に易感染患者においては、それが重篤な感染症を招く危険性が高い。したがって、手術などの侵襲的操作を行う場合には消毒薬を使って常在菌も可能な限り減少させ、かつ持続効果のある消毒薬を適用することが望ましい。

②手術時手洗いの方法

手術前の手洗いは常在菌の減少までを目的としているため、洗浄成分を配合する消毒薬(4%クロルヘキシジンスクラブまたは7.5%ポビドンヨードスクラブ)とブラシを用いて行うことが伝統的であるが、ブラッシングによる手指皮膚表面の損傷が手荒れなどを招きかえって微生物数を増やし得るという観点から、それらの消毒薬で十分揉み洗いしたあと速乾性手指消毒薬を用いるなどの改良法も採用されるようになった。

CDCの1999年手術部位感染防止ガイドラインの概説は手術時手洗いに用いる消毒薬に関して次のように述べている32、33)

「理想的には、このスクラブに使用する最適な消毒薬は、広い抗微生物スペクトルを持ち、速効性で、持続効果があるべきである。……アルコールは欧州諸国で手術時手洗いの“定番(gold standard)”だと考えられている。アルコール含有剤は欧州よりも米国で使用頻度が低い。多分それは可燃性と皮膚刺激に対する配慮によるものである。ポビドンヨードとクロルヘキシジンが米国のほとんどの手術チームで現在選択されている。しかしながら、7.5%ポビドンヨードまたは4%クロルヘキシジンをクロルヘキシジンアルコール液(0.5%クロルヘキシジン70%イソプロパノール液)と比べると、クロルヘキシジンアルコール液の方が残留する殺菌活性が大きいことが知られている。すべての状況において理想的な消毒薬はない。殺菌効果以外の面において、繰り返し使った後に手術室のメンバーに受け入れられるものであるかどうかということも大切な要素である。」

ポビドンヨードとクロルヘキシジンとの比較では、一般にクロルヘキシジンの方が持続効果において優れていると判断されるが59)、どの消毒薬が抗菌力の面で優れているかという判断に基づく薬剤の選択は、おそらく決定的な事柄ではなく、むしろ手荒れなどの個体差に応じてこれら2剤の中から個々に選択できるように設置することや、仕上げとしてのクロルへキシジン配合アルコール製剤などの速乾性手指消毒薬と組み合わせて用いるようにすることなどの配慮や工夫が重要である。

また、手洗いの時間とブラシの使用について前述の手術部位感染防止ガイドライン(1999年)の概説は、次のように述べている。

「最近の研究では少なくとも2分間の手洗いで従前の10分間の手洗いと同程度、手の細菌コロニー数を減らす効果があることが示唆されたが、最適なスクラブ時間は判明していない。1日の最初のスクラブは(通常ブラシを用いた)爪の下までの徹底的な洗浄を伴わなければならない。このような洗浄がその後のスクラブにおいても必要であるかどうかは明白でない。」

なお、米国外科学会(ACS)では1985年には最低5分間の手洗いを推奨していたが、1995年には指先部分のみのブラッシングを併用した最低120秒間の手洗いを推奨した59)

このように近年は、微生物学的な観点から皮膚の損傷を最小限とすることの必要性が重視され、手洗いの時間やブラシの使用は削減される方向にある。しかし、何分間手洗いをする必要があるか、どの程度ブラシを用いる必要があるかなどは、その日の最初の手術時手洗いであるか、どの消毒薬を用いるかなどによっても左右されうる。

さらに最近の研究では、速乾性手指消毒薬を用いた手術時手洗いと従来からの消毒薬配合スクラブを用いた手術時手洗いを比較して、手術部位感染の発生率に差のないことが報告されている72)

このようなことから速乾性手指消毒薬による擦り込む方法が普及しつつあり、その有用性について多くの報告がある。この方法は消毒薬配合スクラブ剤を用いた方法よりも持続活性に優れ、手荒れを起こしにくく、手洗いに要する時間の短縮、コスト削減などのメリットがある57、58、73~76)。また、国内においては平成17年2月厚生労働省の通知77)にて、手術時手指消毒法として持続効果のある速乾性手指消毒薬による消毒が従来の消毒薬配合スクラブ剤を使用した方法と共に推奨されており、従来の消毒薬配合スクラブ剤を用いた場合であっても後に速乾性手指消毒薬を併用することが望ましいと述べられている。

米国CDCの2002年手指衛生ガイドラインは57、58)、手術時手洗いについて表18のように勧告している。

表18 CDC「医療現場における手指衛生のためのガイドライン(2002年)」における手術時手洗いの勧告

指輪、時計、腕輪などをはずし、流水と爪クリーナーで爪の下の汚れをとる。
滅菌手袋を着用する前に、持続効果のある抗菌性石けんまたは速乾性手指消毒薬で手指消毒を行う。
抗菌性石けんを用いる場合には、通常2~6分間、手と前腕をスクラブする。長時間スクラブする必要はない。
速乾性手指消毒薬を用いる場合には、事前に非抗菌性石けんにより手と前腕を洗い完全に乾燥させる。

③手術時手洗いの手技

具体的な方法としては以下のような手洗いが考案されている54)

  • ディスポーザブルブラシを使用した6分間1ブラシ法(表19)
  • ディスポーザブルブラシを使用した3分間1ブラシ法(表20)
  • 指先のみにブラシを使用した3分間法
  • ブラシを使用しない3分間揉み洗い法
  • 持続殺菌効果のある速乾性手指消毒薬による擦りこみ法(表21、22)

表19の6分間1ブラシ法では、比較的柔らかい使い捨てブラシ(1個)が採用されているが、細菌数において再使用ブラシ(2個)による7分間手洗いとの有意差はなかった55)。また、表20の3分間ブラッシング法で、ブラッシングに各手順に倍の時間をかけた6分間法と比較して、手洗い後の細菌数に有意差はなかったという報告もある78)表21および表22に速乾性手指消毒薬法の実例を示す。

表19 手術時手洗い実例(6分間1ブラシ法)55)

服装を整え、爪が短く切ってあるかを確認する。
消毒薬をよく泡立てながら上腕1/2まで素洗いする。腕は水平にして手洗いをする。
滅菌済みブラシに消毒薬をとり、ブラッシングを行う。手指、前腕の末梢1/2、前腕から上腕1/3と3部分に分けて、末梢から行う。上腕1/3までのブラッシングを両側で4分間かける。前腕から上腕1/3までの両腕4部分を2分間かけて洗う。
流しなど周囲に触れないように、指先を高くして流水で洗い流す。
指先から滅菌した不織布で手を拭く(指先を下げない。最も高い清潔度を要求されるのは、指先である)。
速乾性手指消毒薬による擦り込みを行う。これは、常在菌の死滅または増殖の静止のためである。

表20 手術時手洗い実例(3分間1ブラシ法)78)

素洗い2分間:衛生的手洗いであり、適量の4%クロルヘキシジンスクラブあるいは7.5%ポビドンヨードスクラブにより、指先から上腕1/2まで30秒間洗い、流水で洗い流した後再び同様に1分30秒間の揉み洗いを行う。
ブラッシング3分間:滅菌したディスポーザブルブラシを素手で取り出し、同一の消毒薬を約5mL滴下し、指先から上腕1/3までをブラッシングする。まず左手の爪部を15秒間、続いて指の間を15秒間、手背を15秒間、手掌を15秒間洗い、同様に右手を洗い、左右あわせて合計2分間行う。さらに左右前腕1/2を15秒間、残りの1/2を15秒間の合計1分間ブラッシングする。その後流水にて肘を低く保ちながら洗い流す。
手拭き:ディスポーザブル滅菌不織布製手拭きタオルを2枚取り出し、手関節より末梢部分をまとめ拭きした後、左右1枚ずつ使用して肘関節に向けてしごき拭きあげる。

表21 手術時手洗い実例(速乾性手指消毒薬法)

非抗菌性石けんによる手洗い:非抗菌性石けんによる手洗いを30秒間行い、さらにもう一度90秒間行う。その際、爪ピックは用いるがブラシは用いない。手洗い後、非滅菌ペーパータオルで拭く。
速乾性手指消毒薬の適用:0.2%クロルヘキシジン配合の速乾性手指消毒薬を1~1.5分間かけて擦り込み、さらにもう一度1~1.5分間かけて擦り込む。指先には特に丁寧に揉みこむ。

Okubo T, Kobayashi T, Yamazaki K, et. al.:Traditional surgical hand-scrubbing vs hand-rubbing with an aqueousalcohol solution and comparizon of surgical site infection rates clinically. Programme & Abstracts of 2nd International Congress of the Asia Pacific Society of Infection Control, March, 2004:103.より引用。

表22 手術時手洗い実例(速乾性手指消毒薬法)75)

抗菌性石けんで手、前腕を揉み洗いした後、非滅菌ペーパータオルで拭き取る。(指先にはブラシを使用してもよい)60~90秒間
0.2%クロルヘキシジンエタノール擦式製剤を1回3~5mL使用し、1)前腕への擦り込みを左右2回ずつ、2)指先に消毒薬を十分塗布した後に両手指への擦り込みを左右2回ずつ行う。180秒間程度

この他にも具体的な方法が提案されているが、どれが最善であると判断することはむずかしい。どの方法を採用するかということよりも、どの方法であれマニュアルに沿った手術時手洗いがそれを必要とする全員によって的確になされることのほうが重要であろう。

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