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III 消毒対象物による消毒薬の選択

2 器具および環境48、60、85~94)

器具および環境の滅菌・消毒においては、基本的にそれぞれの対象物に求められる清浄度に応じて滅菌・消毒方法を選択しなければならない88、89)。血液や体液の付着した器具に関して患者の感染症ごとに消毒方法を変更することは、スタンダードプリコーションの原則に反することとなる。また、滅菌・消毒の手順を明確に定め、常に必要な清浄度の水準が達成されるよう滅菌・消毒業務を確立することも重要である。個々の医療従事者により消毒の手順が異なる場合には、感染対策の質が保証されているとは思われない。一方、必要とされる以上のレベルで滅菌・消毒を行っても、それは労力や経費の無駄であり、かえって有害な対策となる場合もある。例えば病室の環境清掃において高水準消毒薬を使用することは無駄であり有害であるので、行うべきでない90、91)

2)物品60、85、86、90、91、118)

本テキストにおいては、リネン、食器、浴槽、洗面台などを物品として分類し、その消毒法について述べる。一般にリネンや食器を経由した感染伝播が発生したとする報告は少ない。リネンや食器は通常でも洗剤と温水によって洗濯または洗浄され、十分な清浄化がなされた上で再利用されるからであると思われる。リネンや食器を経由した感染伝播の可能性が問題となる場合でも、耐熱性のものであるかぎり、熱水を用いて洗浄を行うことにより消毒を兼ねることが基本となる。日本においてはリネンと器具類の熱水消毒の基本条件として80℃10分間が勧告されている60、119、120)。リネンについて、CDCの2003年環境感染管理ガイドライン90、91)では71℃25分間が勧告され、英国においては65℃10分間または71℃3分間が勧告されている121)。英国においては別に器具類の熱水消毒の条件があり、それは71℃3分間、80℃1分間、または90℃12秒間である106)。一般に65~100℃の熱水による処理は感染が問題となるほとんどの微生物を死滅させることができる(表Ⅲ-22)

表Ⅲ-22 各国の熱水消毒の条件60、106、119~121)

国名 リネン類 器具類
温度 時間 温度 時間
日本 80℃ 10分間 80℃ 10分間
米国 71℃ 25分間 基準なし
英国 65℃ 10分間 71℃ 3分間
80℃ 1分間
71℃ 3分間
90℃ 12秒間

熱水消毒を行うことが不可能な食器、リネン、その他の物品で、感染伝播の可能性が問題となる場合には、表Ⅲ-23のような消毒薬に浸漬または清拭して消毒する。

表Ⅲ-23 熱水消毒ができない物品に用いる消毒薬

食器 ● 100~1,000ppm(0.01~0.1%)次亜塩素酸ナトリウム液
● 消毒用エタノール
リネン ● 100~1,000ppm(0.01~0.1%)次亜塩素酸ナトリウム液
● 0.1~0.2%ベンザルコニウム塩化物液
● 0.1~0.2%ベンゼトニウム塩化物液
● 0.1~0.2%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液
その他の物品 ● アルコール系消毒薬(消毒用エタノール、70%イソプロパノール、イソプロパノール添加エタノール液)
● 100~1,000ppm(0.01~0.1%)次亜塩素酸ナトリウム液
● 0.1~0.2%ベンザルコニウム塩化物液
● 0.1~0.2%ベンゼトニウム塩化物液
● 0.1~0.2%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液

食器に用いる場合には消毒薬の残留毒性に鑑み、残留性や毒性の低い次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノールを選択する。

(1)リネン

CDCの1985年ガイドライン66、67)は「使用済みのリネン類には病原性微生物が多数存在することが確認されているが、(通常の洗濯や衛生保管が行われているならば)実際の疾病伝播の危険性はとるに足らない程である。」と述べ、乾燥やアイロンがけによる加熱も微生物減少に効果があると説明した。その改定版である2003年環境感染管理ガイドラインも同様に90、91)、71℃25分間の熱水洗浄をする方法と熱水が使用できない場合には適切な化学洗剤などを用いる方法を勧告している。CDCの1996年隔離予防策ガイドライン85、86)においては「血液、体液、分泌物、排泄物で汚染されたリネンは皮膚や粘膜への曝露や衣服の汚染を防ぎ、ほかの患者や環境への微生物の伝播を避ける方法で処理、運搬する」と勧告されており、その改訂版である2007年改訂隔離予防策ガイドライン68、69)でも「空気や表面、人への汚染を避けるために使用した繊維類、布類はできるだけ振り動かさないよう取り扱う」と勧告されている。

日本の「消毒と滅菌のガイドライン」(2015年)60)も同様に、感染性のあるリネンは水溶性ランドリーバッグもしくはプラスチック袋に入れ感染性を明記して洗濯施設に運搬することとし、感染性のあるリネンの洗濯・消毒方法として表Ⅲ-24のものをあげている。また、洗濯の基本として表Ⅲ-25の事項が挙げられている。

表Ⅲ-24 「消毒と滅菌のガイドライン」(2015年)によるリネン類の消毒法と消毒例60)

80℃の熱水で10分間以上の洗濯処理を行う方法
次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系消毒薬を加えて洗濯を行う方法
例:B型肝炎ウイルスなどの汚染が考えられるリネンは、1,000ppm(0.1%)次亜塩素酸ナトリウム液に30分間浸漬する。その他の場合には200ppm(0.02%)に5分間以上浸漬する。
その他の消毒薬を加える方法
例:塩素系消毒薬の漂白効果により影響を受けるリネンは、0.1%ベンザルコニウム塩化物液、0.1%ベンゼトニウム塩化物液または0.1%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液に30分間浸漬する。
すすぎの段階で次亜塩素酸ナトリウムを使用する方法
例:100~200ppm(0.01~0.02%)次亜塩素酸ナトリウム液のすすぎ水に5分間浸漬する。

表Ⅲ-25 「消毒と滅菌のガイドライン」(2015年)による洗濯の基本60)

感染性の低いと考えられるものから洗濯する
汚れの少ないものから洗濯する
洗濯物の材質や汚れ具合に応じた洗濯時間、洗濯方法、使用洗剤、すすぎの回数などを工夫する
漂白剤、酵素系洗剤など適当なものを選択する

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(2)食器など

CDCの2007年隔離予防策ガイドライン68、69)は「食器洗浄器で使われている熱水と洗剤の組み合わせは食器類や調理用具の汚染除去には十分である。それゆえ、食器類(皿、グラス、カップ)や調理用具について特別な予防策は必要ない。再利用する食器類や調理器具は感染経路別予防策を必要とする患者においても使用できるであろう。」と述べている。

日本の「消毒と滅菌のガイドライン」(2015年)60)と「大量調理施設衛生管理マニュアル」(2013年)122)において記述されている給食における消毒方法の要点は表Ⅲ-26、表Ⅲ-27のとおりである。食器洗浄器による熱水洗浄の通常条件は80℃10秒間である123)。熱水を使用できない場合には、200ppm(0.02%)次亜塩素酸ナトリウムに5分間以上浸漬する124)

表Ⅲ-26 「消毒と滅菌のガイドライン」(2015年)の病院給食における消毒方法60)

A.食器の手による洗浄 a.3槽のシンクを利用する
b.第1槽の温水は50~55℃を確保する
c.中性洗剤の濃度を規定どおりとする
d.第2槽は洗剤を除去するため、40℃以上の温水が継続的に補給され、オーバーフローしていること
e.第3槽は最終消毒用として熱水が77℃以上に保持され、90秒間以上浸漬する
B.食器の機械洗浄 a.洗浄槽内は最低60℃を維持し、最終リンス温度は80~90℃とする
b.コンベア型では洗浄速度を正確に保持する
c.給湯ノズルの汚染に注意する
C.配膳カート、
厨房設備の消毒
配膳カートの洗浄消毒は配膳の直前に行い、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物またはアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を使用して清拭消毒する。鍋、釜、包丁などのうち加熱可能なものは80℃以上10秒間以上の食器洗浄機による熱水洗浄をする。まな板は洗剤で洗浄後、熱水消毒または500ppm(0.05%)次亜塩素酸ナトリウム液で消毒する。ふきんは生乾き状態では細菌が急速に増殖するので、常に乾燥を心がける。消毒が必要な場合は、熱水消毒が効果的である。

表Ⅲ-27 「大量調理施設衛生管理マニュアル」(2013年)における器具等の洗浄・消毒方法122)

A.調理機械 ①.機械本体・部品を分解する。なお、分解した部品は床にじか置きしないようにする。
②.飲用適の水(40℃程度の微温水が望ましい。)で3回水洗いする。
③.スポンジタワシに中性洗剤又は弱アルカリ性洗剤をつけてよく洗浄する。
④.飲用適の水(40℃程度の微温水が望ましい。)でよく洗剤を洗い流す。
⑤.部品は80℃で5分間以上又はこれと同等の効果を有する方法で消毒を行う。
⑥.よく乾燥させる。
⑦.機械本体・部品を組み立てる。
⑧.作業開始前に70%アルコールで消毒またはこれと同等の効果を有する方法で消毒を行う。
B.調理台 ①.調理台周辺の片づけを行う。
②.飲用適の水(40℃程度の微温水が望ましい。)で3回水洗いする。
③.スポンジタワシに中性洗剤又は弱アルカリ性洗剤をつけてよく洗浄する。
④.飲用適の水(40℃程度の微温水が望ましい。)でよく洗剤を洗い流す。
⑤.よく乾燥させる。
⑥.70%アルコールで消毒またはこれと同等の効果を有する方法で消毒を行う。
⑦.作業開始前に⑥と同様の方法で消毒を行う。
C.まな板、包丁、へら等 ①.飲用適の水(40℃程度の微温水が望ましい)で3回水洗いする。
②.スポンジタワシに中性洗剤又は弱アルカリ性洗剤をつけてよく洗浄する。
③.飲用適の水(40℃程度の微温水が望ましい。)でよく洗剤を洗い流す。
④.80℃で5分間以上又はこれと同等の効果を有する方法で殺菌を行う。
⑤.よく乾燥させる。
⑥.清潔な保管庫にて保管する。
D.ふきん、タオル等 ①.飲用適の水(40℃程度の微温水が望ましい。)で3回水洗いする。
②.中性洗剤又は弱アルカリ性洗剤をつけてよく洗浄する。
③.飲用適の水(40℃程度の微温水が望ましい。)でよく洗剤を洗い流す。
④.100℃で5分間以上煮沸消毒を行う。
⑤.清潔な場所で乾燥、保管する。

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(3)その他の物品

その他の物品も感染伝播の経路として問題となる場合は限られている。浴槽や洗面台などを経由した感染伝播が問題となる場合には、0.2%ベンザルコニウム塩化物液、0.2%ベンゼトニウム塩化物液または0.2%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液で清拭して消毒し、熱水ですすぐ。洋式トイレの便座、フラッシュバルブ、水道ノブなどの消毒が必要な場合にはアルコール系消毒薬で清拭する。一般に常に湿潤している物品・環境においては緑膿菌やセラチアなどグラム陰性桿菌が増殖している場合があり、これらの細菌は低水準消毒薬に抵抗性を持つことがあるので、消毒が必要な場合には熱水、500ppm(0.05%)次亜塩素酸ナトリウム液、またはアルコール系消毒薬で中水準消毒を行うことが望ましい。血液などで汚染された場合には、汚染を拭き取った上、1,000ppm(0.1%)の次亜塩素酸ナトリウム液、場合によりアルコールで清拭する。

Ⅲ-2-1)-(3)ノンクリティカル器具およびⅢ-2-3)-(2)ベッド周辺など を参照】

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