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IV 対象微生物による消毒薬の選択

1 抗微生物スペクトル概説1~9)

各種消毒薬はそれぞれ固有の抗微生物スペクトルを持つ。このことは、消毒薬を選択する上で留意する基本的な事項である。Spauldingは殺滅可能な微生物によって、消毒を高水準消毒、中水準消毒、低水準消毒の3つに分類した。これらの消毒水準を達成できる消毒薬を本テキストでは、それぞれ高水準消毒薬、中水準消毒薬、低水準消毒薬という。

微生物の消毒薬に対する抵抗性は細菌芽胞が一番強く、なかでもバチルスの芽胞が最も強い。次いで結核菌やウイルスが続くが、ウイルスの消毒薬抵抗性は様々であり、一般にエンベロープの有無が消毒薬抵抗性を左右する。エンベロープを有しないポリオウイルスなどは消毒薬抵抗性が強いが、エンベロープを有するインフルエンザウイルスなどは抵抗性が弱い。従来、エンベロープを有するB型肝炎ウイルスの抵抗性は強いと認識されていたが、アルコール10)、ポビドンヨード11)、その他一部の低~中水準消毒薬の有効性が証明されており12)、近年ではさほど抵抗性の強いウイルスではないと認識されるようになった。
 結核菌に次いで抵抗性の強いものとして、真菌の糸状菌があり、低水準消毒薬では十分な効果が得られないことがあり、なかには中水準消毒薬でも長時間の接触が必要なものがある。一般細菌や真菌の酵母菌は低水準消毒薬でも効果が得られるが、ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌やセラチアが抵抗性を示す場合もある。消毒薬の抗微生物スペクトルを表Ⅳ-1に示す。

表Ⅳ-1 抗微生物スペクトル早見表1~52)


消毒薬 グラム陽性菌 グラム陰性菌 真菌 結核菌など抗酸菌 ウイルス
黄色ブドウ球菌※1CNS※2 腸球菌・レンサ球菌などその他のグラム陽性菌 NF-GUN※3 腸内細菌群などその他のグラム陰性菌※4 酵母 糸状菌 エンベロープ有 エンベロープ無 HIVエンベロープ有 HBVエンベロープ有
過酢酸
グルタラール 5) 6)
フタラール 6)
次亜塩素酸ナトリウム 7) 8)
ポビドンヨード
ヨードチンキ
エタノール 6) 6) ×
イソプロパノール 6) 6) ×
イソプロパノール添加エタノール液 6) 6) ×
1w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール液 6) 6) ×
0.5w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール液 6) 6) ×
1w/v%・0.5w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール擦式製剤 6) 6) ×
0.2w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール擦式製剤 6) 6) ×
0.2w/v%ベンザルコニウム塩化物エタノール擦式製剤 6) 6) ×
76.9~81.4vol%エタノール擦式製剤 6) 6) ×
フェノール 6) × ×
クレゾール 6) × ×
クロルヘキシジングルコン酸塩 6) 6) 9) 10) × × ×
ベンザルコニウム塩化物 9) 10) × × ×
ベンゼトニウム塩化物 9) 10) × × ×
アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩 6) 9) 10) 11) × ×


アクリノール水和物 6) 6) 9) 6) × ×
オキシドール 6) 12) 6)
ホルマリン

○:有効 △:十分な効果が得られない場合がある ×:無効 -:効果を確認した報告がない注)
1)MRSAを含む
2)コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(表皮ブドウ球菌など)
3)ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌(緑膿菌、バークホルデリア・セパシアなど)
4)大腸菌O-157を含む
5)グルタラールに抵抗性を示す非定型抗酸菌の報告あり
6)長時間の接触が必要な場合がある
7)1,000ppm以上の高濃度で有効
8)1,000ppm以上の濃度が維持できれば有効
9)バークホルデリア・セパシア、シュードモナス属、フラボバクテリウム属、アルカリゲネス属などが抵抗性を示す場合がある
10)セラチア・マルセッセンスが抵抗性を示す場合がある
11)0.2~0.5%の濃度で有効、抵抗性を示す非定型抗酸菌の報告あり
12)高濃度の過酸化水素で有効

注)
これら○△×-などによる区分は便宜的なものであり、必ずしも厳密なものではない。そもそも消毒薬の判定基準が明確でないため、有効・無効の断定が困難な場合がある。HBVについてはチンパンジー感染実験で確認された成分のみを有効とした。報告が少ない場合で区分の難しいものを「-:効果を確認した報告がない」に含めた場合もある。したがって厳密には消毒薬ごと、微生物ごとに詳しく述べる必要がある。また、高水準・中水準・低水準消毒薬の分類も便宜的なものであり、個々の消毒薬の抗微生物スペクトルがSpauldingの分類を部分的に超える、あるいは満たさない場合もある。

米国ではエンベロープを有するウイルスの消毒薬抵抗性は一般細菌よりも弱いと考えるのが一般的である。ただし、ウイルスの消毒効果判定には細胞培養が必要であり、また細胞培養が不可能なため動物感染実験が必要なウイルスもある。細胞培養においては消毒薬の細胞毒性が試験結果に偽陰性を生まないようにする必要がある。ウイルスの遺伝子学的・血清学的な測定系を応用して消毒薬感受性を測定しようとする試みも行われているが53、54)、特定の測定系が陽性であることを無効の判定に結びつけることは誤った結論を生み出す場合がある。以上のことから、ウイルスの消毒薬感受性に関するエビデンスは限られている。日本ではエンベロープを有するウイルスに対する消毒薬の効果について米国よりも慎重にとらえるのが一般的であり、アルコールや次亜塩素酸ナトリウムの選択を基本とするのが妥当である。ただし、消毒の目的、対象物、ウイルスの種類によっては低水準消毒薬を選択することが適切な場合もある。

各種消毒薬の抗微生物スペクトルはそれぞれ固有のものであるが、消毒薬の効果はその使用条件により大きく影響される。殺菌効果に影響する因子として作用時間、菌量、濃度、温度、有機物の存在等が挙げられる。

殺菌に必要な作用時間は微生物の消毒薬抵抗性によって違い、作用時間が長ければ長いほど殺菌効果が上がる。また作用時間は微生物量によっても影響され、微生物量が多いほど作用時間を要する。作用時間が長いと被消毒物に与える影響も大きくなるので、適切な作用時間を選ぶ必要があり、したがって消毒前に洗浄を行い微生物量を減らすことが重要である。

消毒薬の濃度は微生物の抵抗性によって適切な濃度を選択する必要がある。一般に濃度が高いほど殺菌効果は上がるが、被消毒物に与える影響も大きく、逆に適正濃度より低いと十分な殺菌効果が得られない。また消毒薬によっては濃度が高いとかえって殺菌効果が下がることもある。低水準消毒薬や、ポビドンヨード、次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒薬は有機物が混入すると濃度低下を起こす。低水準消毒薬のなかには繊維に吸着され、濃度低下を起こすものがあるので、消毒綿やモップでの清拭時には注意が必要である。このほか経時的な変化により濃度低下がみられるものとして、グルタラール、次亜塩素酸ナトリウムなどがある。アルコール製剤は揮発による濃度低下がある。

消毒薬のなかには蛋白凝固を起こすものがあり、被消毒物に有機物が付着していると、その部分に消毒薬が浸透せず、消毒が不完全になることがある。

一般に殺菌効果は温度が高くなるほど上がる。病院内の環境は室温が保たれているので、それほど問題は生じないが、冬期に水道水で希釈する場合には温度が低すぎることがある。消毒薬は希釈水の硬度にも影響され、硬度が高いと濁りや沈殿を起こし、濃度低下の原因となることがあるので、なるべく精製水を使用することが望ましい。

このように消毒薬は種々の要因により殺菌効果に影響が出てくるため、消毒薬の性質をよく理解した上で、適正な使用をして初めて、その消毒薬が持つ効果を発揮することができる。

以下、医療関連感染において特に問題となる微生物を中心に述べ、次いで市井感染と医療関連感染の双方において問題となる病原微生物について感染症法の範囲で述べる。

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