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IV 対象微生物による消毒薬の選択

5 ウイルス156、157)

ウイルスは宿主生体内または細胞培地においてのみ自己複製することが可能であり、DNAかRNAのどちらかの核酸しかもたない。大きさは20~250nmと微生物のなかでも最も小さい部類であり、電子顕微鏡でしか見ることができない。

エンベロープと呼ばれる脂溶性の外膜を持つものと持たないものがあり、エンベロープの有無が消毒薬抵抗性に大きく関与する。エンベロープを有するウイルスはおおむね消毒薬感受性が良好であり、エンベロープを有しないウイルスは消毒薬抵抗性が強い。ただし、エンベロープを有しないウイルスの中でも、親油性のアデノウイルス、ロタウイルスなどは比較的消毒薬抵抗性が弱い9)。大部分のウイルスに有効な消毒薬を表Ⅳ-9に示す48、158、159)

表Ⅳ-9 大部分のウイルスに有効な消毒薬(消毒法)

  • 煮沸(98℃以上)15~20分間
  • 2w/v%グルタラール
  • 500~5,000ppm(0.05~0.5%)次亜塩素酸ナトリウム液
  • 76.9~81.4vol%消毒用エタノール
  • 70vol%イソプロパノール
  • 2.5%w/vポビドンヨード
  • 0.55w/v%フタラール
  • 0.3w/v%過酢酸

文献158)より引用

この他、3%過酸化水素水が単純ヘルペスウイルス、ライノウイルス、ポリオウイルスを不活性化したという報告がある30、31、48)。ウイルスは種類、有機物の有無、ウイルス量などにより消毒薬に対する感受性に大きく差が生じるため、消毒薬の使用には注意が必要である。

ウイルスは高分子の粒子で完全抗原であるため、感染すると生体内に免疫が成立する。ただし、おおむね生涯免疫が成立するウイルス(例:麻しんウイルス、ムンプスウイルス、風しんウイルス、ポリオウイルス、日本脳炎ウイルス)と、免疫力が低下することや多様な抗原型が存在することによりしばしば再感染するウイルス(例:インフルエンザウイルス、RSウイルス、ライノウイルス、コロナウイルスなどのかぜ症候群ウイルス)がある。また、初感染後体内に潜伏し宿主の抵抗力が低下すると再活性化し回帰感染するウイルス(例:水痘・帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルスなどのヘルペスウイルス)もある。血中ウイルス感染の場合においても、一過性感染であることが多いウイルス(B型肝炎ウイルスなど)と持続感染となることが多いウイルス(C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスなど)がある。

ウイルスの感染対策にはその感染経路を考慮して対策を立てることが重要であるが、ウイルスの主な感染経路は表Ⅳ-10に示すとおりである。

表Ⅳ-10 ウイルスの主な感染経路

接触感 直接接触、手指・器具・環境経由の間接接触
飛沫感染 咳やくしゃみの飛沫(1m以内に落下)、エアロゾル
空気感染 長時間空気中に浮遊する飛沫核の吸入
経口感染 食物、飲料水、手指・器具・環境経由の間接的経口摂取
経皮感染 針刺しなど刺創、外傷、昆虫の刺創、動物の咬創
母子感染 経胎盤、産道、母乳
輸血感染 輸血、血液製剤、移植医療

* 人工物により機械的に発生したエアロゾルは遠くまで浮遊することがあるため、空気感染に含められる場合もある。

以下、ウイルスの科、属、種を英語で表記する場合、国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses:ICTV)の「Virus Taxonomy:2014 Release」(http://www.ictvonline.org/virusTaxonomy.asp)に従い学名はイタリックで表記する。その他の名称やセロタイプ名はノンイタリックで表記する。ただし文献書誌は原著の表記法にしたがう。

2)その他のウイルス154、175、176)

この節では医療関連感染起因ウイルスとして代表的なものを簡略に列記し、必要な感染対策の概要と消毒法の選択について説明する。これらのウイルスは市井感染においても重要であり、感染症法で指定されたウイルス感染症としてⅣ-8感染症法の類別における微生物で個々に述べる。

(1)消化器関連ウイルス

消化器に関連する主なウイルスには、ノロウイルス(以前はノーウォーク様ウイルス、または小型球形ウイルス)、ロタウイルス、アストロウイルス、ないしアデノウイルスの一部など 経口感染により急性胃腸炎をもたらすものがあり、またエンテロウイルスであるポリオウイルスのように経口感染により咽頭や消化管に感染したのち脳や脊髄などで発症するものもある。

また、A型肝炎ウイルスとE型肝炎ウイルスも経口感染するが、肝臓が主な感染部位である。これらのウイルスは糞便中に排泄され、ヒトからヒトへ糞便-経口感染するため、飲食物、手指、器具などの衛生管理が重要である。乳幼児の間では汚染された玩具を口にすることにより感染することもある。

感染対策は基本的に標準予防策であるが、小児や失禁がある場合などにおいては必要に応じて接触予防策を行う。

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(2)呼吸器感染ウイルス

呼吸器に感染する主なウイルスとして、インフルエンザウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、ないしアデノウイルスの一部がある。

インフルエンザウイルスでは咳嗽やくしゃみによる飛沫感染が主であり、飛沫予防策を行う。その他のRSウイルスなどではウイルスで汚染された手指による鼻粘膜や眼粘膜への接触感染が多く、接触予防策を行う。

2007年CDC隔離予防策ガイドラインでは、呼吸器感染症を予防する対策として、咳や鼻づまり、鼻水、呼吸器分泌物の増加など症状がある全ての人(職員、患者、同伴の家族など)に対し医療施設に入るとき表Ⅳ-14に示す「呼吸器衛生/咳エチケット」を勧告している。

表Ⅳ-14 2007年CDC隔離予防策ガイドライン 「呼吸器衛生/咳エチケット」

市中においてウイルス性呼吸器感染症(例えば、インフルエンザ、RSウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス)の季節流行中に、呼吸器感染症病原体の飛沫や接触媒介物を封じ込めるための発生源対策の重要性に関して、医療従事者を教育する。
呼吸器感染症の徴候および症状を呈する患者および付き添いの人の呼吸器分泌物を封じ込めるために、医療現場(例えば、トリアージ部門、救急部の受付及び待合室、外来、診察室)で最初の受診の時点から開始し、次の処置を実施する。
外来や病室の入り口および重要な場所(例えば、エレベーター、カフェテリア)に、呼吸器感染症のある患者および他の人に対して、咳またはくしゃみの出るときに自分の口や鼻を覆うこと、ティッシュペーパーの使用と廃棄、手が呼吸器分泌物と接触した後で手指衛生をすることを指示した掲示をする。
ティッシュペーパーおよび非接触型廃棄容器(例えば、足踏み式の蓋付き容器、プラスチック製紙くずかご)を備える。
院内の待合室内またはその近くに、手指衛生の実施のための資材および案内を備える。擦式消毒用アルコール製剤のディスペンサーを便利な場所に備え、洗面所が利用できる場合には手指洗浄剤を備える。
市中において呼吸器感染症の罹患率が上昇している期間中(例えば、呼吸器感染症のための休校の増加および治療を求める患者数の増加など)には、施設または医療機関に入る際に、咳をしている患者および他の有症者(例えば、患者付添い人)にマスクを提供し、共通待合いにいる他の人達から、理想的には少なくとも3フィート(約1m)の距離を置くよう勧告する。

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(3)皮膚科領域関連ウイルス

皮膚科領域に関連するウイルス感染症には、水痘・帯状疱疹、麻しん、風しん、単純ヘルペス感染症などがある。これらは皮膚症状を伴うが、神経系、リンパ組織、呼吸器などの臓器においても発症することが多い。これらのウイルスは感染力が強く、特に小児病棟などで医療関連感染上の問題となる。水痘-帯状疱疹ウイルスや麻しんウイルスは特に感染力が強く空気感染する。風しんウイルスは飛沫感染し、単純ヘルペスウイルスは接触感染する。

水痘-帯状疱疹ウイルスと単純ヘルペスウイルスは、回帰感染するヘルペスウイルスであり、多くのヒトが潜在感染している。感染対策はウイルスの種類に応じて、接触予防策、飛沫予防策、空気予防策を行う。

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(4)眼感染ウイルス

ウイルスが原因の眼感染症にはアデノウイルスによる流行性角結膜炎(EKC)やエンテロウイルスによる出血性結膜炎などがある。両者とも感染力が強く、学校や病院での集団発生を起こすことがある。手指を介しての接触感染が主であるが、患者が使用したタオルによる感染もある。したがって、手指衛生の徹底および患者が触れたリネン・器具の消毒などが重要となる。
感染対策として接触予防策を行う。

〈感染対策および消毒〉

上述のようにウイルスに対する感染対策はウイルスの種類により異なるが、接触感染するウイルスの感染予防においては、手指衛生やノンクリティカル表面の消毒が重要である。ほとんど接触感染しないウイルスの場合は、気道分泌物などで汚染されたセミクリティカル器具の高水準消毒が通常どおり行われていればよい。ただしノンクリティカル器具がそれらのウイルスで特別に汚染されたと思われる場合に消毒薬を適用することもある。

インフルエンザウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、コロナウイルス、単純ヘルペスウイルス、水痘-帯状疱疹ウイルス、麻しんウイルス、風しんウイルスなどはエンベロープを有するウイルスであり、消毒薬抵抗性はおおむね弱い。高水準消毒薬はもちろん、アルコール、次亜塩素酸ナトリウムによる確実な不活性化が期待できる9、24、25、177)。ベンザルコニウム塩化物など低水準消毒薬がこれらのウイルスに不活性化効果を示したとの報告もあるが、効果が不十分と思われる場合もある9、35、178)

一般にエンベロープを有するウイルスに対しては、2%グルタラールなどによる高水準消毒はもちろん、熱水消毒、次亜塩素酸ナトリウム、アルコール、ポビドンヨードが有効である。ノンクリティカル表面の消毒において、これらのウイルスを対象とする場合には、熱水消毒(80℃10分間)、200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノール、70vol%イソプロパノールを用いる。

ライノウイルス、ノロウイルス、アストロウイルス、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、およびポリオウイルス・エコーウイルス・コクサッキーウイルスなどのエンテロウイルスなどはエンベロープを有しないウイルスであるため消毒薬抵抗性はおおむね強いと推定される。ロタウイルス、アデノウイルスもエンベロープを有しないウイルスであるが、親油性であるため、それほど消毒薬抵抗性は強くないことが判明している。

ポリオウイルス・コクサッキーウイルス・エコーウイルスなどのエンテロウイルスの不活性化について、アルコールが長時間を要するという報告があるが、おおむねイソプロパノールより消毒用エタノールの方が効力は強い24、25、43、177)。またこれらエンテロウイルスについて、低濃度のポビドンヨードが効力を示したが、繁用される高濃度は比較的長い時間を要したとの報告もあるため注意が必要である35)。A型肝炎ウイルスの高い不活性化率を達成するには5,000ppm(0.5%)という高濃度の次亜塩素酸ナトリウムが必要であったとも報告されているが179)、この濃度には強い腐食性があり広く環境に用いることは避けるべきである。ノロウイルス、E型肝炎ウイルスは細胞培養ができないため消毒薬抵抗性に関する研究はあまり進んでいないが、ノロウイルスについては70℃の熱や1,000ppm次亜塩素酸ナトリウムによる消毒を示唆する報告がある180、181)。また近年ではヒトノロウイルスの近縁ウイルスであるマウスノロウイルスを用いた消毒薬感受性が報告されており、アルコールによる不活性化効果も示されている182~184)

一方、アデノウイルス、ロタウイルスについては、アルコール、200~1,250ppm次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨードなどの比較的良好な不活性化作用が報告されている9、24、25、35、43、177、185、186)

水道水、アルコール製剤、クロルヘキシジン・トリクロサンなど抗菌成分含有石けんを用いた手洗いのA型肝炎ウイルスに関する研究では、減少率が80%(0.5ppm有効塩素水道水)、87%(70vol%エタノール)、90%(4%クロルヘキシジンスクラブ)、92%(0.3%トリクロサン石けん)の範囲にあり、手洗い方法や抗菌成分による大きな差は認められていない187)

一般にエンベロープの無いウイルスの消毒は、高水準消毒薬または熱水(98℃15~20分間、多くの場合は80℃での10分間洗浄でも可)によるか、念入りな洗浄、清拭により物理的にウイルスを除去した上で、仕上げとして500~1,000ppm(特別な場合には5,000ppm)次亜塩素酸ナトリウム、場合によりアルコールを用いる。洋式トイレの便座、フラッシュバルブ、水道ノブ、ドアノブなどはアルコールにより清拭する。ベッドパンはフラッシャーディスインフェクター(90℃1分間の蒸気)で処理する。エンベロープの無いウイルスを念頭に置いた手洗いは、流水による手洗いでウイルスを物理的に除去することが基本であり、手洗い後に補完として速乾性消毒薬を適用するかポビドンヨードスクラブで手洗いをすることもある。

ウイルス(血中ウイルスを除く)を対象とするノンクリティカル表面の消毒法を表Ⅳ-15に示す。

表Ⅳ-15 ノンクリティカル表面でのウイルスの消毒法

エンベロープを
有するウイルス
熱水(80℃10分間)
アルコール
200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液
エンベロープを
有しないウイルス
熱水(98℃15~20分間、多くの場合は80℃での10分間洗浄でも可)
500~1,000ppm(特別な場合には5,000ppm)次亜塩素酸ナトリウム液
場合によりアルコール

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