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IV 対象微生物による消毒薬の選択

7 プリオン194)

プリオン病(prion disease)または伝播性海綿状脳症(transmissible spongiform encephalopathy:TSE)は、ヒトや動物の脳など中枢神経において致死性で亜急性の海綿状変性をもたらす。

ヒトにおけるプリオン病には、弧発性のクロイツフェルト・ヤコブ病(sporadic creutzfeldt-jakob disease:sCJD)、医原性CJD、新変異型CJD(variant CJD、またはnew variant CJD)、遺伝性の家族性CJDなどがある。このうち医原性CJDとして、不活性化処理の不十分な乾燥脳硬膜や角膜の移植、下垂体より抽出した成長ホルモンの投与、脳組織に接触する器具などを介する伝播が報告され、医療関連感染上の問題となった。動物におけるプリオン病にはヒツジにおけるスクレイピー、ウシにおけるウシ海綿状脳症(狂牛病、bovine spongiform encephalopathy:BSE)などがある。

ヒトや動物は神経細胞にプリオン蛋白(prion protein;PrP)、つまり正常型PrPを有するが、プリオン病においては、正常型と立体構造が異なる異常型PrPが見られる。外来性感染因子としての異常型PrP、遺伝性の異常型PrP、その他未解明の要因が関与して、正常型PrPが異常型PrPに変化し、異常型PrPが増加して病変をもたらすと推測されている。

弧発性CJDやスクレイピーは古くから観察されていたが、1985年以降の英国でウシにBSEが発生し1992年まで急増した。その後1994年以降の英国においてヒトの若年層に新変異型CJDが出現し、BSEのウシを摂取したことによりウシからヒトへ伝播した可能性が大きな社会問題となった195)。現在、日本を含む世界各国においてBSE発生の原因と思われる反芻動物由来飼料の反芻動物への使用などが厳しく制限され、また日本では食肉牛について屠殺時のBSE検査が行われている。

プリオンの感染性や伝播経路については、いまだ不明な部分が多く存在するが、BSEの流行国に生活した人々の献血は日本において不適とされており、また医薬品・化粧品などにおいてはウシなどに由来する原料の使用に厳しい制限が課されている。

CJDは移植や脳手術などによってしかヒトからヒトへ伝播しないため、CJD症例には標準予防策を行う。ただし、CJD症例に用いた後、ホルマリンと70%アルコールで消毒した深部脳波電極によるCJDの伝播なども報告されており196、197)、またプリオンの感染性は酸化エチレンガス、グルタラールなどによる処理でも不活性化できないと報告されているため198)、CJD症例であるかその疑いのあるハイリスク者の脳、脊髄、眼組織などには特別な注意を払い、それらの付着したクリティカル器具・セミクリティカル器具には特別な処理方法を用いる。

最近、日本においては表Ⅳ-17の処理法が示され199)、WHOによる勧告は表Ⅳ-18の処理法を示している200)。なお、疫学的な観点から考察して判断された実際的な処理法とその対象範囲として表Ⅳ-19も提唱されている197)。ノンクリティカル表面を介した接触伝播は特に報告されていない。手洗いは流水と石けんにより念入りに行う。

表Ⅳ-17 CJDか否か不明の患者のハイリスク手技に用いられた手術器械等に対する処理方法

適切な洗剤による十分な洗浄+3%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)煮沸処理3~5分間
アルカリ洗剤ウォッシャーディスインフェクタ洗浄(90~93℃)+ プリバキューム式高圧蒸気滅菌134℃、8~10分間
適切な洗剤による十分な洗浄+ プリバキューム式高圧蒸気滅菌134℃、18分間
アルカリ洗剤洗浄+ 過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌2サイクル

(注) SDSによる処理法は、臨床においては一般的な方法ではない。

表Ⅳ-18 WHOの伝播性海綿状脳症に関する汚染除去法

1. 焼却
(1)全ての使い捨て器具、用具、廃棄物
(2)高感染性の組織に曝露された器具
2. 高圧蒸気滅菌、化学的除去法(耐熱性器具等)
(1)1N水酸化ナトリウム液に浸したまま、重力置換式高圧蒸気滅菌121℃、30分間。その後、洗浄し通常の滅菌
(2)1N水酸化ナトリウム液あるいは20,000ppmの次亜塩素酸ナトリウム液に1時間浸漬後、水浴に移し、重力置換式高圧蒸気滅菌121℃、1時間。その後、洗浄し通常の滅菌
(3)1N水酸化ナトリウム液あるいは20,000ppmの次亜塩素酸ナトリウム液に1時間浸漬後水洗し、重力置換式高圧蒸気滅菌121℃、1時間かプリバキューム式高圧蒸気滅菌134℃、1時間。その後、洗浄し通常の滅菌
(4)1N水酸化ナトリウム液あるいは20,000ppmの次亜塩素酸ナトリウム液に浸漬し10分間煮沸後水洗し、通常の滅菌
(5)20,000ppmの次亜塩素酸ナトリウム液あるいは1N水酸化ナトリウム液に室温で1時間浸漬後水洗し、通常の滅菌
(6)プリバキューム式高圧蒸気滅菌134℃、18分間(表面で乾燥した脳組織などに関する効果は完全ではない)
3. 化学的汚染除去(熱不耐性の器具・表面)
(1)2N水酸化ナトリウム液あるいは52,500ppmの次亜塩素酸ナトリウム液に1時間浸漬する。その後ふき取るか水洗する
(2)表面が水酸化ナトリウムや次亜塩素酸ナトリウムに耐えられない場合、徹底的な洗浄の希釈効果によりほぼ完全に除去が期待できる。また、完全な効果を示さない消毒法(グルタラールなど)を用いることで付加的汚染除去効果は得られる
4. 乾燥した物品
(1)1N水酸化ナトリウム液や次亜塩素酸ナトリウム液に耐えられる小型物品の場合、1N水酸化ナトリウム液あるいは20,000ppmの次亜塩素酸ナトリウム液に1時間浸漬し、その後プリバキューム式高圧蒸気滅菌121℃以上、1時間
(2)大型の乾燥した物品や1N水酸化ナトリウム液や次亜塩素酸ナトリウム液に耐えられない物品の場合、プリバキューム式高圧蒸気滅菌134℃、1時間

表Ⅳ-19 クロイツフェルト・ヤコブ病 プリオンに関するクリティカル、セミクリティカル器具の処置方法

1. ハイリスク患者の高感染性組織(脳、脊髄、眼、下垂体組織)に触れたクリティカル、セミクリティカル器具
(1)洗浄後、プリバキューム式高圧蒸気滅菌機で134℃、18分間以上
(2)洗浄後、重力置換式高圧蒸気滅菌機で132℃、1 時間
(3)1N水酸化ナトリウム液に1 時間浸漬後、水洗し、重力置換式高圧蒸気滅菌機で121℃またはプリバキューム式高圧蒸気滅菌機で134℃、1 時間
(4)1N水酸化ナトリウム液に1 時間浸漬後、重力置換式高圧蒸気滅菌機で121℃、30分間。その後洗浄し、決められた通常の方法で滅菌
2. ハイリスク患者の低感染性組織(脳脊髄液、肝臓、リンパ節、腎臓、肺、脾臓、胎盤、嗅上皮)で汚染されたクリティカル、セミクリティカル器具
(1)推奨処理方法は作成されていない。ヒトにおいて低感染性組織で汚染された器具は標準的な洗浄・滅菌した後であれば感染の伝播は生じないようであるので、中枢神経系に使用しなければよい。
(2)環境表面の清浄化は標準的な(血液汚染された場合と同様の)消毒法
3. ハイリスク患者の非感染性組織のクリティカル、セミクリティカル器具
低感染性組織と同様の方法。内視鏡(中枢神経系に接触する脳神経外科の内視鏡を除く)は非感染性の物質との接触のみであるので標準的な洗浄と高水準消毒で十分である

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