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IV 対象微生物による消毒薬の選択

8 感染症法の類別における微生物

2)一類感染症

一類感染症には、エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱およびラッサ熱のウイルス性出血熱、ペスト、マールブルグ病が指定されている。感染症例には第1種(ないし特定)感染症指定医療機関への入院が知事より勧告されうるが、緊急時などやむを得ない場合にはその他の医療機関への入院が勧告される場合もある。

(1)ウイルス性出血熱215)

ウイルス性出血熱は多くの場合、野生動物由来の動物由来感染症である。典型的には突発的な発熱と頭痛で発症し、重症なインフルエンザ様症状を呈し、さらに悪化すると出血症状を起こす死亡率の高い疾病である。

ウイルス性出血熱は注射針の誤刺、血液、体液、尿、糞便、吐物、分泌物などへの接触、感染症例との濃厚接触などにより伝播すると言われ、感染症例には厳密に標準予防策と接触予防策を行い、また咳嗽などに備えて飛沫予防策も行う。

消毒の対象物は患者の血液、体液、分泌物、排泄物などで汚染された箇所、患者に使用した器具・物品や病室等である。血液、体液、分泌物、排泄物、シングルユースの汚染物などは消毒または焼却した上で廃棄する。原因ウイルスはどれもエンベロープを有し、消毒薬に対してあまり強い抵抗性を示すとは推測されないが、それぞれのウイルスの消毒薬感受性について多くの知見が存在するわけでなく、また致死率の高い感染症であるため、ノンクリティカル表面についても、HBVなど血中ウイルスの場合と同等ないしそれ以上に厳重な消毒法を選択する。消毒薬は500~1,000ppm(0.05~0.1%)次亜塩素酸ナトリウム(血液には5,000ppm、排泄物には最終濃度で2,000~5,000ppm)を用いる。アルコールや熱水(80℃10分間)も選択できる。2~3.5%グルタラール、0.55%フタラール、0.3%過酢酸による高水準消毒も十分に有効と思われる。消毒例を表Ⅳ-22に示す。

①エボラ出血熱(一類)

病原体: エボラウイルス(Genus Ebolavirus)-フィロウイルス科エボラウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、接触予防策および飛沫予防策
消毒法: 前述の方法(基本的には血中ウイルスを対象とする方法と同様)
1976年スーダンとザイールで発生し、以降サハラ以南のアフリカで集団発生が報告されている。インフルエンザ様症状、発熱、頭痛、筋肉痛、腹痛、下痢を伴い、吐血、消化器出血に至り、死亡率は50~90%に及ぶ。感染したヒトまたはチンパンジーの血液・体液などに接触することによりヒトへ伝播するが、飛沫感染の可能性もある。ただし空気感染の可能性は否定されている。アフリカで医療関連感染が発生しており、急性期症例の血液、体液、尿、糞便、吐物、分泌物との接触、注射器の共用、直接濃厚接触、手袋、マスク、ガウン、ゴーグルの無着用などが原因と考えられている。またエボラウイルスの自然宿主はオオコウモリ科のオオコウモリであると考えられている)216、217)

②クリミア・コンゴ出血熱(一類)

病原体: クリミア・コンゴ出血熱ウイルス(Crimian-Congo hemorrhagic fever virus)-ブニヤウイルス科ナイロウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、接触予防策および飛沫予防策
消毒法: 前述の方法(基本的には血中ウイルスを対象とする方法と同様)
1944~45年旧ソ連のクリミア地方で集団発生があり、1956年コンゴで同じウイルスが検出されたが、現在までにアフリカ、東欧、中近東、中央アジア、インド、中国北西部に分布することが判明している。野生動物(鳥、野ウサギ)や家畜(仔牛、ヒツジ、ヤギなど)を自然宿主とし、ベクターとしてのマダニの咬創などによりヒトへ伝播する。症状はエボラ出血熱とほぼ同様で発熱、出血傾向を伴い、また黄疸を呈し、死亡率は10~40%に及ぶ218)。ヒトからヒトへの感染は血液によると言われている。

③南米出血熱(一類)219~221)

1)アルゼンチン出血熱219、222)
病原体: フニンウイルス(Junin mammarenavirus)-アレナウイルス科Mammarenavirus属
RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、接触予防策および飛沫予防策
消毒法: 前述の方法(基本的には血中ウイルスを対象とする方法と同様)
1958年にアルゼンチンのフニンにて感染患者の血液および臓器から初めて分離された。自然界でげっ歯類であるアルゼンチンヨルマウス(Calomys musculinus)などが主なリザーバーであり、ヒトへの感染はウイルスが創部や眼・口・鼻などの粘膜から侵入することで生じる。げっ歯類の排泄物によって農地などが汚染を受けた場合、農作業中にウイルスが創から侵入することやウイルスを含んだ粉塵を吸入することでヒトへ伝播する。ヒト-ヒト感染の報告は限定的だが、夫婦間で伝播した報告がある。

2)ボリビア出血熱219、223)
病原体: マチュポウイルス(Machupo mammarenavirus)-アレナウイルス科Mammarenavirus属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、接触予防策および飛沫予防策
消毒法: 前述の方法(基本的には血中ウイルスを対象とする方法と同様)
1959年から1960年代にボリビア東部で初めて確認された。自然界ではげっ歯類であるブラジルヨルマウス(Calomys callosus)やベスパーマウス(Calomys laucha)などがウイルスを保有しており、ヒトへはその排泄物を介して伝播する。空気や経皮的な経路によりヒト-ヒト感染が生じたとされる医療関連感染の報告もある。

3)ベネズエラ出血熱219、224、225)
病原体: グアナリトウイルス(Guanarito mammarenavirus)-アレナウイルス科Mammarenavirus属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、接触予防策および飛沫予防策
消毒法: 前述の方法(基本的には血中ウイルスを対象とする方法と同様)
1989年にベネズエラのポルトゥゲサ州のグアナリト市にて流行が初めて観察された。自然界ではげっ歯類であるミゾバコトンラット(Sigmodon alstoni)やトウマウス(Zygodontomys brevicauda)が自然宿主として知られている。ヒトへの感染経路の詳細は不明だが、他のアレナウイルスによる出血熱と同様にげっ歯類の排泄物などと接触することにより伝播すると推測される。医療関連感染の報告はないが、夫婦間で生じたヒト-ヒト感染が疑われる報告がある。

4)ブラジル出血熱219、226)
病原体: サビアウイルス(Sabia mammarenavirus)-アレナウイルス科Mammarenavirus属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、接触予防策および飛沫予防策
消毒方法: 前述の方法(基本的には血中ウイルスを対象とする方法と同様)
1990年にブラジルのサンパウロにて出血熱症状を呈した患者から新たなタイプのアレナウイルス科として分離された。自然宿主はまだ同定されていないが、他のアレナウイルスと同様にげっ歯類であると考えられている。ヒトへの感染についても他のアレナウイルスと同様にげっ歯類の排泄物や感染患者の血液・体液などを介して伝播すると考えられる。

④マールブルグ病(一類)

病原体: マールブルグウイルス(Genus Genus Marburgvirus)-フィロウイルス科マールブルグウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、接触予防策および飛沫予防策
消毒法: 前述の方法(基本的には血中ウイルスを対象とする方法と同様)
1967年ウガンダからのアフリカミドリザルを用いた腎培養を通じて西ドイツとユーゴスラビアで31名の集団発生が起こった。これは主に感染ミドリザルの組織や血液との接触による感染であったが、その後ジンバブエ、ケニアでサルとの接触がない散発例があった。症状はエボラ出血熱とほぼ同様で、死亡率は23~50%以上に及ぶ。ヒトからヒトへの感染は血液、涙、精液によると言われている。Genus Marburgvirusの自然宿主はオオコウモリ科のオオコウモリであると考えられている227)

⑤ラッサ熱(一類)220、221)

病原体: ラッサウイルス(Lassa mammarenavirus)-アレナウイルス科Mammarenavirus属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、接触予防策および飛沫予防策
消毒法: 前述の方法(基本的には血中ウイルスを対象とする方法と同様)
1969年にナイジェリアで発生し、その後、西アフリカ一帯に広がるマストミス(Mastomys natalensis)が自然宿主であるLassa mammarenavirusによる風土病と判明した228、229)Lassa mammarenavirusは感染ネズミの尿・唾液に含まれ、創傷への接触や塵埃の吸入によりヒトに伝播する。アルゼンチン、ボリビア、ベネズエラ、ブラジルなど南米では同じアレナウイルス科に属するウイルスによる出血熱が発生している。Lassa mammarenavirus感染は不顕性感染の場合も多く、発症すると発熱、咳、嘔吐、下痢などの症状をもたらし、浮腫もみられ、重症化すると呼吸困難、脳症、粘膜出血にいたる。死亡率は15%前後とも言われている。ヒトからヒトへの感染は血液、体液、尿、分泌物、感染組織に直接濃厚に接触することや母乳によると言われている。

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(2)痘そう(一類)230、231)

病原体: 痘そうウイルス(Variola virus、あるいはSmallpox virus)-ポックスウイルス科コードポックスウイルス亜科オルトポックスウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、空気予防策および接触予防策
消毒法: 後述の方法(基本的にはエンベロープを有するウイルスを対象とする方法と同様)

痘そうは過去において、世界中で多数の死者をもたらしたが、1979年10月に世界的な根絶宣言が発表された。痘そうウイルスに感染すると7~17日の潜伏期間を経て、倦怠感、発熱、麻痺、嘔吐、頭痛と背痛などを生じ、また丘疹が生じて顔から手足に広がり、全身に水膿疱を形成する。インドにおける調査では通常型の痘そうにおいて致死率は30%と報告されている。バイオテロリズムへの利用が懸念されている。

もっぱら急性期症例から他のヒトへ、空気感染、飛沫感染、接触感染により広く伝播する。感染症例には空気予防策と接触予防策を行う。

消毒の対象物は患者の唾液、気道分泌物、痘疱内容、落屑、血液、体液などで汚染された箇所、患者に使用した器具・物品や病室等である。シングルユースの汚染物は焼却処分する。痘そうウイルスはエンベロープを有するウイルスであり、消毒薬抵抗性は比較的小さいと推測される。痘そうワクチン(種痘)の製造に用いられるオルトポックスウイルス属に属するVaccinia virus(ワクチニアウイルス)は他のエンベロープを有するウイルスと同様、次亜塩素酸ナトリウム、アルコール、ポビドンヨードなどに良好な感受性を示すと報告されている9、177)

痘そうウイルスに対するノンクリティカル表面の消毒は、文献158)に記載されている消毒法に従い、500ppm次亜塩素酸ナトリウム(汚れがあれば5,000ppm)、アルコール、80℃10分間の熱水消毒、93℃10分間のウォッシャーディスインフェクターなどを適用する。

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(3)ペスト(一類)230)

病原体: ペスト菌(Yersinia pestis)-腸内細菌科、グラム陰性桿菌
感染対策: 標準予防策および接触予防策、肺ペストには飛沫予防策を追加
消毒法: 後述の方法(基本的には一般細菌を対象とする方法と同様)
ペストは古くは全世界的に流行していたが、20世紀に入ってからは急激に減少し、近年発生が報告されているのはベトナム、ミャンマー、米国、アフリカ、南米などである。日本においては1926年以降発生報告がない。ペスト菌の保有動物はネズミやリスなどのげっ歯動物で、主としてノミによってヒトに媒介される。バイオテロリズムへの利用が懸念されている。

ペストには腺ペストと肺ペストの2種類がある。腺ペストではリンパ節腫脹、疼痛を伴う出血性化膿性炎症、高熱などの症状が現れる。肺ペストは同様な症状に咳、血痰を伴い、出血性気管支肺炎をもたらすため致命率が高い。腺ペストは症例の膿により伝播し、肺ペストは症例の飛沫により伝播する。また血液に対する注意も必要である。感染対策としては厳密に標準予防策と接触予防策を行い、肺ペストの場合はさらに飛沫予防策を追加する。

消毒の対象物は患者の膿、気道分泌物、血液、体液などで汚染された箇所、患者に使用した器具・物品や病室等である。喀痰、シングルユースの汚染物などは焼却処分する。ペスト菌には低水準消毒薬でも十分に効果があるが、血液、体液などで汚染されたものには通常どおり次亜塩素酸ナトリウムやアルコールを用いる。その他の場合は、0.1~0.2%ベンザルコニウム塩化物、0.1~0.2%両性界面活性剤などの低水準消毒薬、アルコール、100~1,000ppm(0.01~0.1%)次亜塩素酸ナトリウムを用いる。また、熱水消毒(80℃10分間)も有効である。消毒例を表Ⅳ-22に示す。

表Ⅳ-22 糞便を念頭に置いた消毒例

消毒対象 コレラ菌、赤痢菌、腸チフス菌、
パラチフスA菌、大腸菌O-157などの細菌
ポリオウイルスなどのエンベロープを有しないウイルス
手指衛生 目に見える汚染のない場合、速乾性手指消毒薬を適用。または消毒薬配合スクラブ剤と流水で手洗い目に見える汚染のある場合、石けんと流水による手洗いの後、速乾性手指消毒薬を適用。または消毒薬配合スクラブ剤と流水で手洗い 石けんと流水による手洗いの後、速乾性手指消毒薬を適用。またはポビドンヨードスクラブ剤と流水で手洗い
糞便処理 糞便は通常水洗トイレに流す。失禁のある場合は紙おむつを適用し焼却処理。消毒が必要な場合は、排便後水洗トイレ槽に次のように消毒薬を注ぎ、5分間以上放置してから流す
ベンザルコニウム塩化物液、ベンゼトニウム塩化物液、またはアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液を0.2~0.5%の濃度になるように注ぐ 次亜塩素酸ナトリウム液を2,000~5,000ppmの濃度になるように注ぐ
ベッドパン フラッシャーディスインフェクターで90℃1分間の蒸気による消毒。または洗浄後、次の消毒薬に30分間浸漬
0.1%ベンザルコニウム塩化物液
0.1%ベンゼトニウム塩化物液
0.1%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液
500ppm次亜塩素酸ナトリウム液
500~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液
洋式トイレの便座、フラッシュバルブ、水道ノブ、ドアノブ アルコールで清拭
リネン 熱水洗濯(80℃10分間)、または下記の消毒薬に30分間浸漬
200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液
0.1%ベンザルコニウム塩化物液
0.1%ベンゼトニウム塩化物液
0.1%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液
500~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液
床頭台、オーバーテーブル、洗面台 次の消毒薬で清拭
0.2%ベンザルコニウム塩化物液
0.2%ベンゼトニウム塩化物液
0.2%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液
アルコール
500ppm次亜塩素酸ナトリウム液
アルコール
消毒が必要な場合、次の消毒薬で清拭
0.2%ベンザルコニウム塩化物液
0.2%ベンゼトニウム塩化物液
0.2%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液
500ppm次亜塩素酸ナトリウム液

※薬事上承認された適用ではない

文献158)より引用、一部追加

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