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IV 対象微生物による消毒薬の選択

8 感染症法の類別における微生物

3)二類感染症

二類感染症には、急性灰白髄炎(ポリオ)、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、鳥インフルエンザ(H5N1)および鳥インフルエンザ(H7N9)が指定されている。感染症例には第2種(ないし第1種、特定)感染症指定医療機関への入院が知事より勧告されうるが、緊急時などやむを得ない場合にはその他の医療機関への入院が勧告される場合もある。

(1)急性灰白髄炎(二類)

病原体: ポリオウイルス(Enterovirus C、あるいはHuman poliovirus 1、2、3)-ピコルナウイルス科エンテロウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
感染対策: 標準予防策、接触予防策および飛沫予防策
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法

急性灰白髄炎(麻痺性ポリオまたは小児麻痺)の原因であるポリオウイルスには1~3型がある。ポリオウイルスは全世界に分布しているが、主に発展途上国などワクチン未使用地域において乳幼児が感染する。ワクチンが有効であるので、日本においては野生株がほぼ消滅したと推測され、2013年以降の報告は年に0~ 1例程度である。おおむね不顕性感染となるが、ときに主に小児において弛緩性麻痺を症状とする急性灰白髄炎を起こす。2010年、コンゴ共和国で発生したポリオの流行において、ワクチンの効果が期待できない可能性が高いポリオウイルス1型が報告されており、今後の動向に注意が必要である232)

ウイルスは感染症例の便から排出され、感染経路は主として糞便-経口感染である。ウイルスは咽頭分泌物にも含まれるので飛沫感染を起こす場合もある。感染症例に対しては糞便を念頭に置いた接触予防策および飛沫予防策を行う。

消毒の対象物は患者の糞便、咽頭分泌物、血液、体液などで汚染された箇所、患者に使用した器具・物品や病室等である。消毒はエンベロープを有しないウイルスを対象とする方法により行う(Ⅳ-5-2)その他のウイルスを参照)。消毒例は表Ⅳ-22を参照。

ポリオウイルス1型については消毒用エタノールが効果を示したが、イソプロパノールは効果を示さなかった177)、また0.03~0.5%ポビドンヨードが効果を示したが、5%ポビドンヨードの効果はあまり良好でなかったとする報告がある35)

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(2)結核(二類)

病原体: 結核菌(Mycobacterium tuberculosis)-抗酸菌、グラム陽性桿菌
感染対策: 標準予防策および空気予防策
消毒法: 結核菌を対象とする方法

結核予防法が廃止され、感染症法の二類感染症に位置付けられて総合的な対策が実施されるようになった。結核症例、無症状病原体所有者または擬似症例と判断した医師は直ちに保健所に届け出る必要がある。

厚生労働省の平成26年結核登録者情報調査年報集計結果(概況)によると国内の新規結核患者数は初めて2万人を下回ったが、未だ年間1万9千人以上と報告されており233)、一次抗結核薬であるイソニコチン酸ヒドラジドとリファンピシンに耐性をもつ多剤耐性結核菌(Multi-drug resistant tuberculosis:MDR-TB)も問題となっている。WHOは平成18年にこの多剤耐性結核菌よりも広範囲な薬剤(二次抗結核薬)に耐性を持つ結核を広範囲薬剤耐性結核菌(Extensively drugresistant tuberculosis:XDR-TB)と定義し、各国に対策を求めている234)。多剤耐性結核菌は三種病原体等に指定されていることから保管や運搬等に厳格な規制が設けられており、調査や研究が行いにくい状況にあったが、2014年11月21日に感染症予防法の一部を改正する法律が公布され、三種病原体等として取り扱う多剤耐性結核菌の定義についてはWHOのXDR-TBの基準に準じた変更が行われた(施行日は2015年5月21日)。

IV-4-1)結核菌を参照】

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(3)ジフテリア(二類)

病原体: ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)-グラム陽性桿菌
感染対策: 標準予防策および飛沫予防策、皮膚ジフテリアの場合は接触予防策
消毒法: 一般細菌を対象とする方法

ジフテリア菌はもっぱら飛沫により上気道粘膜に感染し、鼻咽頭または喉頭で増殖する。また皮膚にも感染する。毒素を産生する株である場合には、偽膜性炎症と毒素による中毒症状を特徴とするジフテリアを起こして、死亡や後遺症としての麻痺をもたらす。予防接種の行われている日本での報告はまれで年に0~1例程度であるが、健常人に保菌者が存在する。

主な感染経路は感染症例あるいは保菌者の飛沫を吸入することによる飛沫感染であるが、皮膚ジフテリアの場合は感染皮膚への接触により伝播する。感染症例に対しては飛沫予防策を行うが、皮膚感染の場合には接触予防策を行う。

消毒の対象物は患者の気道分泌物、血液、体液などで汚染された箇所、患者に使用した器具・物品や病室等である。喀痰は焼却処分する。消毒は一般細菌を対象とする方法により行う(Ⅳ-2-1)グラム陽性菌を参照)。消毒例を表Ⅳ-22に示す。

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(4)重症急性呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限る。)(二類)235~239)

病原体: SARSコロナウイルス(Severe acute respiratory syndrome-related coronavirus)-コロナウイルス科コロナウイルス亜科ベータコロナウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、飛沫予防策および接触予防策を基本とし、念のため空気予防策を追加
消毒法: 後述の方法(基本的にはエンベロープを有するウイルスを対象とする方法と同様)

重症急性呼吸器症候群(Severe acute respiratory syndrome:SARS)は2002年11月から2003年6月にかけて中国を中心に世界各地で集団感染と死者の発生した非定型肺炎を特徴とする呼吸器感染症である。臨床症状は38℃を超える発熱、疲労感、悪寒、頭痛、筋肉痛、めまい、硬直、乾性咳、息切れ、咽喉痛、鼻水などであり、下痢を伴う場合も多く、呼吸補助や集中治療を要する重症例もしばしば発生する。典型的な胸部X線所見は進行性気腔疾患を示し、呼吸不全から死亡に至る場合もある。致死率は14~15%といわれ、老人に重症例が多く、小児はあまり罹患しない。集団感染事例の多くが医療関連感染であり、病院における対策が重要である。

潜伏期間は最大10日間で、発症から10日後頃に感染伝播の危険が最大となるが、解熱後10日以上経過した症例からの感染伝播報告はない。主な伝播経路は気道分泌物による飛沫感染であるが、糞便-経口経路の接触感染の場合もある。空気感染の可能性は低いが、完全には否定されていない。感染症例には飛沫予防策、接触予防策を行い、念のため空気予防策を追加する。エアロゾルを発生する呼吸器系装置などに注意が必要である。近代的でない不備な下水配管による糞便飛沫感染と思われる集団感染もある。

消毒の対象物は患者の気道分泌物、糞便、吐物、血液、体液などで汚染された箇所、患者に使用した器具・物品や病室等である。シングルユースの汚染物は焼却処分する。一般にコロナウイルスの消毒薬感受性は良好であるが240、241)、SARSコロナウイルスに対するノンクリティカル表面の消毒は、表Ⅳ-22に記載されている消毒法に従い、アルコールないし500~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウムによる清拭または30分間浸漬、あるいは80℃10分間の熱水消毒などにより行う158、242、243)

SARS流行時などで事前予防的な環境対策を行わざるをえない場合には、200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム、アルコール、0.1~0.2%ベンザルコニウム塩化物242、243)、あるいは通常の洗剤による湿式清掃のいずれかを、流行の程度、環境表面の材質と面積などを勘案して選択する。消毒薬を広範に使用する場合には、腐食性、引火性、毒性などに留意して慎重に適否を判断する。通常の洗剤には物理的な清浄化作用が期待されるが、その抗ウイルス作用についてはまだ結論的なエビデンスがない。

*コロナウイルス属からベータコロナウイルス属に変更

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(5)中東呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属MERSコロナウイルスであるものに限る。)(二類)244~247)

病原体: MERSコロナウイルス(Middle east respiratory syndrome coronavirus)-コロナウイルス科コロナウイルス亜科ベータコロナウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、飛沫予防策および接触予防策を基本とする。(疫学的研究からは空気感染は否定的であるが、エアロゾル発生の可能性がある場合には空気予防策を追加)
消毒法: 後述の方法(基本的にはエンベロープを有するウイルスを対象とする方法と同様)

中東呼吸器症候群は、新種のコロナウイルスによる感染症として2012年6月にサウジアラビアの症例で初めて確認(後に2012年3月のヨルダンでの症例検体からも確認されて以来、主にアラビア半島での感染例が継続的に報告された。)、2015年5月には韓国において中東から帰国した韓国人男性が帰国後に発症し、複数の医療施設を受診したことによって医療関連感染が発生し、国内に拡大した。感染しても無症状で経過する場合もあるが、有症者では発熱、悪寒、頭痛、咳、咽頭痛、筋肉痛、呼吸困難などの症状があり、肺炎や腎障害が進行して死亡に至る場合がある248、249)

MERS疑似症患者および患者(確定例)に対する感染対策として、外来では咳エチケットを含む標準予防策を徹底し、飛沫予防策を実施することが重要と考えられている。入院患者では湿性生体物質への暴露があるため接触予防策を追加し、さらにエアロゾル発生の可能性がある場合には空気予防策を追加する。ヒトへの感染源となる動物はヒトコブラクダの可能性が高いとされており250)、自然宿主はヒナコウモリ科のヒナコウモリであると推測されている251、252)

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(6)鳥インフルエンザ(H5N1)(二類)253、254)

病原体: 鳥インフルエンザウイルス(avian influenza virus、Genus Influenzavirus A H5N1)-オルトミクソウイルス科A型インフルエンザウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、接触予防策、飛沫予防策、空気予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

鳥インフルエンザ(H5N1)は一般に鳥の感染症であるが、稀に鳥インフルエンザがヒトに感染することが知られている。感染した場合の一般的な初期症状は季節性インフルエンザと同様に、突然の高熱、咳などの呼吸器症状や全身倦怠感、筋肉痛などが挙げられるほか、重症肺炎や時に多臓器不全等をきたすとされる。

鳥インフルエンザ(H5N1)は2006年6月から指定感染症に指定されていたが、2008年5月に公布された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部を改正する法律」により二類感染症に指定されている。

鳥インフルエンザウイルス(H5N1)による感染症例に直接接する医療従事者は、標準予防策に加え、接触予防策・飛沫予防策・空気予防策のすべての感染経路別予防策を実施することが望ましいとされている。また咳・発熱等の呼吸器感染症状を有する患者の診療においては、すべての医療機関において咳エチケットを指導することが推奨されている。

IV-5-2)-(2) 呼吸器感染ウイルスを参照】

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(7)鳥インフルエンザ(H7N9)(二類)

病原体: 鳥インフルエンザウイルス(avian influenza virus、Genus Influenzavirus A H7N9)-オルトミクソウイルス科A型インフルエンザウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、接触予防策、飛沫予防策、空気予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

H7N9型の鳥インフルエンザによるヒトの感染例は2013年2月に中国で初めて確認され255)、同年4月にかけて相次いで症例が報告されたものの、以降は散発的な発生に落ち着いついていたが、2013年から2014年にかけた冬季をピークに再び継続的な症例が報告された。これまでの発生地域は中国本土がほとんどであり、台湾、香港、マレーシア、カナダなどの症例も中国本土に滞在中に感染したものと考えられている256~259)

確定例である入院患者111例の臨床所見をまとめた文献によると、症状としては発熱、咳が最もよく観察され、97.3%の症例には肺炎が見られ、その他リンパ球減少や血小板減少も高い頻度であったとされる260)。感染には生きた家禽類を扱う市場が主に関わっていると考えられているが、感染した家禽類は無症状であるため、速やかな感染源の特定は困難である。

鳥インフルエンザ(H7N9)の擬似症患者に対する感染対策は鳥インフルエンザ(H7N9)患者(確定例)と同様に、外来では咳エチケットを含む標準予防策を徹底し、飛沫予防策を実施することが重要と考えられている261)。入院患者では湿性生体物質への曝露があるため接触予防策を追加し、さらにエアロゾル発生の可能性がある場合には空気予防策を追加する246、261)

本感染症は2013年4月より政令によって指定感染症に指定され、二類感染症相当の扱いがなされ、翌2014年の政令改正により、その指定がさらに1年間延長されていたが、平成27年1月の政令改正により二類感染症に規定された。

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